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009.ゲーム脳の変態は、過保護の母に、プチ切れる!
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ウォーーーーーン!
狼の鳴き声が、渓谷に木霊する。狼の群れが、熊を包囲しながら、的確に傷を付け弱らせていく。
統率された狼の群れは五匹。其の内の一匹の背に乗る上半身裸の若い男。
熊は身体中から、赤いエフェクトを撒き散らし、遂に倒された。
<<個体名【カルマ】の個体レベルが上がりました!>>
「良し、殺ったな!」
スノーベアを倒した!
エフェクトが立ち昇る屍と脳裏情報で、スノーベアの生命力が【0】ポイントになったのを確認してから、ゲームシステムの収納で其れを瞬時に回収した。
「アイン!」
其の言葉だけで、五匹は次の獲物を目指すのだった。
狼の背に揺られながら、五匹ながらも群れを統率するカルマ。
白い雪原を疾走する狼の群れは、迷いのない動きで、スノーディアに襲い掛かった。
あの日、母さんと家族となってから十八年が経った。俺も漸く成人だ。此の世界、アルグリア大陸の成人は十八歳。成人したら此処から旅立つ計画に変わりはない。
身体は百七十五センチ位。瞳の色は、母ちゃんと同じように蒼く、髪は父ちゃんと同じく金髪だ。鍛え上げられた上半身には、一切の贅肉もなく鋼の如くしなやかだった。
母親は生粋のエルフで、父親はエルフとヒューマンのハーフ。カルマは見た目はヒューマンだが、エルフとヒューマンのクォーターだった。
只、身体が大きくなって、個体レベルが上がっても、状態表示の能力値は【1】ポイントで固定だ。いつか、封印を解くか、其れとも【1】ポイントの固定を逆手に取る何かを掴むか、と期待の想いで胸が高鳴っていた。
カルマ自身は疾うに気付いる。其の可能性が、圧倒的に低い数値である事を。
そして、其の圧倒的に低い数値がカルマのトキメキを爆上げさせていたのだった。
何が鬼畜仕様だ、此のシナリオは、神シナリオ! 神ゲー(神の如き高評価のゲーム)じゃないか!
現在までの総死亡|(ゲームオーバー)回数は、千五百十九回。
アルグリア大陸の一年は、一ヶ月が三十日で十二ヶ月の三百六十日。プレイヤーネーム【カルマ】の【創造神の試練】での総プレイ時間は、【一万千九百二十八年三百九日七時間三十二分三秒】に及んでいた。
だが、現実時間では【約三時間十九分】しか経っていない。正しく悠久の歴史を刻むゲームであった。
生肉も食べれるようになった。【ダイブアウト】して、ミリィの作る料理が美味過ぎて、涙を流した事も記憶に新しい。
但し、一切の武器が持てなかった。筋力値【1】ポイントは伊達ではなかった。耐久値【1】ポイントは、紙装甲を超える弱さで、日々生命力(HP)を上げ続けていなければ、最悪の状況に追い込まれていただろう。
カルマは、此の神シナリオ【創造神の試練】の楽しさに、面白さに、やり込みに歓喜したのだった。
「良し! ゼイン!」
大きく強靱な身体を持つスノーディアは、氷の枝分かれした角で、狼を薙ぎ払おうとした一瞬の隙を付いて、他の狼が右後ろ脚に噛み付き負傷させた。其の拍子に、身体のバランスが崩れ、地面に右後ろから崩れ落ちる。其の隙を他の狼は逃さず、一気に首元へ牙を立てた。赤いエフェクトが、首元、足元から漏れ出しスノーディアは其の動きを止めたのだった。
簡単に倒せた、予想外の収穫だった。
そうか、足元か、バランスを崩せば大物でも簡単に狩れるな。
お、もう一匹いるな。良し作戦会議だ!
そうして、俺は仲間と意思疎通を図るのだった。念話スキルが遣えれば簡単だが、無いものは仕方がない。俺は身振り手振りで、仲間の狼達に狩りの仕方と合図を教えていく。
最初の群れの始まりは、一匹からだった。
俺が乗っている【アイン】は、最初は親とハグれた雪狼|(スノーウルフ)の子狼だった。
最初は怯えて、震えていたアインを介抱して、育てたのは俺だ。
勿論、アインと名付けたのも俺で、アインがもう一人の家族になるのにそう時間は掛からなかった。
「良し、ゼイン!」
もう一匹のスノーディアも、ゼインが止めを刺し、難なく倒した俺達は、母さんの待つ塒に帰るのだった。
「ハウス!(家へ戻るぞ!)」
俺は群れに号令を掛け、アインにしがみ付く。アイン達は、ゼイン以外は全員【シルバーウルフ】に進化した個体達だった。
今回の狩りは、ホワイトウルフから【ゼイン】を、シルバーウルフへと進化させる為のものだったが、進化には後僅かに経験値が足りない。
だが、無理は禁物。アイン以外は、死んでしまっても再度復活するダンジョンモンスターだが、死んでしまうと俺の部隊編成から外れ、初期配置設定でのリスポーンとなる。
リスポーンされたダンジョンモンスターは、記憶も経験値も全て初期値に戻ってしまう。
死にはしないが、俺と経験した記憶が消えた個体は、再度部隊編成で組み込んで育成しても、前回と同じ個体には育たない。
能力数値や、スキルが同じでも、全く別の個体となる。
其れは想いが、共にした経験が違うからだった。俺の仲間は、替えの利く物じゃない。俺の手腕一つで、アッサリ全滅もあり得る。細心の注意と、大胆な行動のバランスを取りながら、ダンジョン【ハルベルト山脈】を今日も駆け抜ける。
後もう少しで、【華水晶の間】がある洞窟に辿り着くと言う時、脳裏地図でアイスタイガーを発見した。
「アテンション!(警戒!)」
俺の号令で、警戒陣形に瞬時に移行するも、其の走りは止まらない。
何故なら、俺の部隊に編成している仲間とは、言葉は交わせないが、脳裏情報を共有する事は出来る。仲間は文字は読めないが、周辺地図と俺の号令で瞬時に部隊行動に移行出来るのだった。
距離は遠くはなく、意識でクリック確定した俺の脳裏地図からは、獲物は逃れられない。
俺の部隊は、認識共有している脳裏地図と脳裏情報の絵文字で、部隊指令を発する。アイスタイガーは、直ぐ近くに居るので、声が挙げられない。黄色の印は、パッシブモンスターを表す。此方を認識すれば、点滅する。未だ点滅していないのは、風下から近付き認識されていないからだ。
【アルグリア戦記】では、匂いも何もかもが、現実同様に感じられる。唯一違う処は、血が流れないで、エフェクトが流れ溢れる事だけだった。血の鉄臭い臭いも、嗅ぎ慣れればなんて事はない。
人間の慣れって結構凄い。順応しないと生き残れない本能なのだろうか。
兎に角、アイスタイガーは強敵だ。此処のダンジョンにはリポップされないモンスター。つまり、ダンジョンモンスターではないフィールドモンスターだ。
迷い込んだか? 此れが一匹以上なら、母さんが黙っていない。何故なら、此のダンジョンであるハルベルト山脈は、母さんの縄張りだ。母さんのルールでは、複数の進入を許さないからだった。
獲物との距離が、二百メートルを切った。
何とか気付かれずに、布陣を敷く事が出来そうだ!
俺は一息を付き、部隊全員に脳裏情報で、ある絵文字を共有する。
良く見ると最高の形だった。絶好の場所で、絶好のタイミングで、俺は脳裏情報で骨付き肉の絵文字を十から順番に減らしていき、攻撃のタイミングを全部隊に伝える。
五秒! 四秒! 三秒! 二秒! 一秒! ゴー!
アイスタイガーの十時の方向から、シルバーウルフをリーダーとするホワイトウルフのベータ部隊が注意を引き付け、四時の方向から俺のアルファ部隊がソッと忍び寄り潜む。其れに伴い九時の方向からガンマ部隊が陽動を行う。アイスタイガーは、狼の群れに威嚇の雄叫びを揚げた。
もう直ぐだ。一時の方向からデルタ部隊が到着し、再々度の陽動を掛ける。さあ、仕上げだ。
三方向に威嚇の唸りを揚げたアイスタイガーは、漸く自分の不利を悟り逃亡を試みる。だが遅かった。既に盤面ではチェックメイトだった。
アイスタイガーの逃走ルート上で、雪の中に、繁みに気配を隠したアルファ部隊の牙がアイスタイガーの四肢に喰らい付く。一方的な狩りだった。アイスタイガーは反撃すら行えずに、赤いエフェクトを撒き散らしながら絶命した。
<<個体名【ゼノン】の個体レベルが上がりました!>>
<<個体レベル【20】に達したので、【進化】が可能になりました!>>
<<進化先は【シルバーウルフ】・【シャドウウルフ】から選択可能!>>
ゼノンの個体情報を、脳裏情報の画面で確認する。
----------
【情報表示】:▼
氏名:【ゼノン】
個体LV:【20】
備考:▼
年齢:【23歳】
種族:【白狼精霊人】
身分:【カルマ遊撃部隊隊員】
職業:【戦士】
称号:【プレイヤーの眷属】▼
【プレイヤーの眷属】:ゲームシステムの一部を共有可能。
才能:▼
【身体強化LV6】【寒冷耐性LV5】【牙撃LV6】【爪撃LV4】
【疾走LV4】
説明:▼
【ハルベルト山脈を縄張りとするホワイトウルフ。プレイヤーの眷属。】
【状態表示】:▼
生命力:【78/78】
魔力 :【67/81】
精神力:【54/58】
持久力:【73/75】
満腹度:【31/100】
【能力表示】:▼
筋力 :【67】
耐久力 :【48】
知力 :【36】
敏捷 :【93】
器用 :【27】
魅力 :【34】
【部隊編成表示】:▽
----------
ゼノンの種族に意識を集中させると、三角の表示が表れる。其れをポチッと意識で押す。
----------
種族:【銀狼精霊人】▼
【銀狼精霊人】:雪狼精霊人の上位種族。
寒冷地帯では、能力上昇(大)効果発生。
種族:【影狼精霊人】▼
【影狼精霊人】:森狼精霊人の上位亜種族。
スキル【影魔法】が使用可能。
----------
俺は迷いなく、シルバーウルフを選択した。
眩い光のエフェクトにゼノンは包まれ、分解され、再構築されていく。
<<個体名【ゼノン】は【シルバーウルフ】に進化しました!>>
「良し、ハウス!(帰還する!)」
俺の号令を聞いた部隊リーダーが、一吠えをして、群れを統率する。
周囲にはスノーラット一匹いない。次にリポップされる迄の時間は、スノーラット・スノーラビットの下位魔物で三十分! スノーフォックス・スノーバードの中位魔物で六十分! スノーディア・スノーベアの上位魔物で六時間! スノーレオンの特殊魔物が二十四時間だった!
因みに、スノーウルフは中位、ホワイトウルフは上位、シルバーウルフは最上位のモンスターに分類される。
疾走する狼の群れの数は、二十匹。其の内の一匹の背に跨がる若い半裸の男。
彼らが、塒に向かって走っていると、続々と狼の群れが集まって来る。
狼の群れは、雪崩の如く逆さまに雪山を登っていく。其の数は、百数匹に達していたのだった。
ああ、見えた。あ、あれ? 母さんが洞窟の前で、仁王立ちしている。
見るからに機嫌が悪い。あれ、俺何かしたっけ?
全く何も心当たりがない。はて、なんだろうか?
「ストップ!(止まれ!)」
俺の号令と脳裏情報とで、総数百二十匹の群れが行動を停止する。
カルマの強化された感覚が、強く激しく母親の機嫌が最悪だと告げる。
否、変な先入観は善くない。
母さんは、何も言わないが、無言の威圧がハンパない。
俺の仲間(眷属)達も萎縮して、五体投地する者、腹を見せて降参服従の礼をする者もいる始末だ。
勘弁してくれよ、母さん。俺は嘆息を心の中で吐きながら、母さんに挨拶をする。
「母さん、只今! 如何したの珍しく洞窟から出てきて? 何かあったの?」
俺の言葉に、母さんは重い口を開けた。
『カルマ、お前も成人だ! 大人になったお前に、伝えなければいけない事がある! 実は我は【十の災厄】と呼ばれる十の盟約の獣の一柱なのだ!』
「・・・・・・・・・・・・」
『全く驚かないんだな、カルマ?』
母さんは、不満そうに俺を見つめながら、鼻を鳴らす! 驚くも何も、ずっと知っていたから仕方ないと、僕は心の中で毒突いた。
「えっ!否驚いた、・・・・・・よ? 其れが如何かしたの、母さん?」
俺の言葉に、何故か母さんは、一瞬哀しそうな表情を見せた。
『【十の災厄】は我だけではない! 我の他にもアルグリア大陸には九柱存在する! 今のお前では、死ににいくようなものだ! 其処でだ、お前には試練を受けて貰う!』
「試練?(なんだ其れ、クエストかイベントかな?)」
『此処を旅立ちたければ、我を倒して行け! 其れがお前に課せられた試練だ!』
ドォーン!
プチッ!
俺は其れを聞いて、堪忍袋の緒が切れた。
「母さん、怒るよ! 其れは只、母さんが俺と離れたくないだけだよね?」
明らかに俺の言葉に動揺する母さんが、静かに呟く。
『カルマ、母さんを捨てる気なのか? 我はお前をそんな子に、育てた覚えはないぞ?』
そう呟く母さんの瞳には、大粒の涙が溜まりウルウルとしている。
何を隠そう【十の災厄】と畏れられる俺の母さんは、最初に逢ったあの日からデレデレにデレて、【親バカ】にバージョンアップしたのだった。
・
・
・
・
・
・
・
・
【アルグリア戦記】には、セーブ機能は存在しない。全て最初からのスタートと為る。現実の世界で、セーブなどは出来る筈もない。此処は【アルグリア世界】、もう一つの現実の世界。現実の一秒が、三千百十万四千秒に相当する仮想の現実世界。現実の一時間が、百二十九万六千日(三千五百五十年と二百五十日)に相当する【悠久の歴史を|刻(きざ)む世界】。
果たして、【アルグリア世界】は、仮想の現実世界なのだろうか? 其れとも、実はもう一つの現実世界【異世界】なのだろうか? 其の答えは【プレイヤー】だけが知っている。
To be continued! ・・・・・・
狼の鳴き声が、渓谷に木霊する。狼の群れが、熊を包囲しながら、的確に傷を付け弱らせていく。
統率された狼の群れは五匹。其の内の一匹の背に乗る上半身裸の若い男。
熊は身体中から、赤いエフェクトを撒き散らし、遂に倒された。
<<個体名【カルマ】の個体レベルが上がりました!>>
「良し、殺ったな!」
スノーベアを倒した!
エフェクトが立ち昇る屍と脳裏情報で、スノーベアの生命力が【0】ポイントになったのを確認してから、ゲームシステムの収納で其れを瞬時に回収した。
「アイン!」
其の言葉だけで、五匹は次の獲物を目指すのだった。
狼の背に揺られながら、五匹ながらも群れを統率するカルマ。
白い雪原を疾走する狼の群れは、迷いのない動きで、スノーディアに襲い掛かった。
あの日、母さんと家族となってから十八年が経った。俺も漸く成人だ。此の世界、アルグリア大陸の成人は十八歳。成人したら此処から旅立つ計画に変わりはない。
身体は百七十五センチ位。瞳の色は、母ちゃんと同じように蒼く、髪は父ちゃんと同じく金髪だ。鍛え上げられた上半身には、一切の贅肉もなく鋼の如くしなやかだった。
母親は生粋のエルフで、父親はエルフとヒューマンのハーフ。カルマは見た目はヒューマンだが、エルフとヒューマンのクォーターだった。
只、身体が大きくなって、個体レベルが上がっても、状態表示の能力値は【1】ポイントで固定だ。いつか、封印を解くか、其れとも【1】ポイントの固定を逆手に取る何かを掴むか、と期待の想いで胸が高鳴っていた。
カルマ自身は疾うに気付いる。其の可能性が、圧倒的に低い数値である事を。
そして、其の圧倒的に低い数値がカルマのトキメキを爆上げさせていたのだった。
何が鬼畜仕様だ、此のシナリオは、神シナリオ! 神ゲー(神の如き高評価のゲーム)じゃないか!
現在までの総死亡|(ゲームオーバー)回数は、千五百十九回。
アルグリア大陸の一年は、一ヶ月が三十日で十二ヶ月の三百六十日。プレイヤーネーム【カルマ】の【創造神の試練】での総プレイ時間は、【一万千九百二十八年三百九日七時間三十二分三秒】に及んでいた。
だが、現実時間では【約三時間十九分】しか経っていない。正しく悠久の歴史を刻むゲームであった。
生肉も食べれるようになった。【ダイブアウト】して、ミリィの作る料理が美味過ぎて、涙を流した事も記憶に新しい。
但し、一切の武器が持てなかった。筋力値【1】ポイントは伊達ではなかった。耐久値【1】ポイントは、紙装甲を超える弱さで、日々生命力(HP)を上げ続けていなければ、最悪の状況に追い込まれていただろう。
カルマは、此の神シナリオ【創造神の試練】の楽しさに、面白さに、やり込みに歓喜したのだった。
「良し! ゼイン!」
大きく強靱な身体を持つスノーディアは、氷の枝分かれした角で、狼を薙ぎ払おうとした一瞬の隙を付いて、他の狼が右後ろ脚に噛み付き負傷させた。其の拍子に、身体のバランスが崩れ、地面に右後ろから崩れ落ちる。其の隙を他の狼は逃さず、一気に首元へ牙を立てた。赤いエフェクトが、首元、足元から漏れ出しスノーディアは其の動きを止めたのだった。
簡単に倒せた、予想外の収穫だった。
そうか、足元か、バランスを崩せば大物でも簡単に狩れるな。
お、もう一匹いるな。良し作戦会議だ!
そうして、俺は仲間と意思疎通を図るのだった。念話スキルが遣えれば簡単だが、無いものは仕方がない。俺は身振り手振りで、仲間の狼達に狩りの仕方と合図を教えていく。
最初の群れの始まりは、一匹からだった。
俺が乗っている【アイン】は、最初は親とハグれた雪狼|(スノーウルフ)の子狼だった。
最初は怯えて、震えていたアインを介抱して、育てたのは俺だ。
勿論、アインと名付けたのも俺で、アインがもう一人の家族になるのにそう時間は掛からなかった。
「良し、ゼイン!」
もう一匹のスノーディアも、ゼインが止めを刺し、難なく倒した俺達は、母さんの待つ塒に帰るのだった。
「ハウス!(家へ戻るぞ!)」
俺は群れに号令を掛け、アインにしがみ付く。アイン達は、ゼイン以外は全員【シルバーウルフ】に進化した個体達だった。
今回の狩りは、ホワイトウルフから【ゼイン】を、シルバーウルフへと進化させる為のものだったが、進化には後僅かに経験値が足りない。
だが、無理は禁物。アイン以外は、死んでしまっても再度復活するダンジョンモンスターだが、死んでしまうと俺の部隊編成から外れ、初期配置設定でのリスポーンとなる。
リスポーンされたダンジョンモンスターは、記憶も経験値も全て初期値に戻ってしまう。
死にはしないが、俺と経験した記憶が消えた個体は、再度部隊編成で組み込んで育成しても、前回と同じ個体には育たない。
能力数値や、スキルが同じでも、全く別の個体となる。
其れは想いが、共にした経験が違うからだった。俺の仲間は、替えの利く物じゃない。俺の手腕一つで、アッサリ全滅もあり得る。細心の注意と、大胆な行動のバランスを取りながら、ダンジョン【ハルベルト山脈】を今日も駆け抜ける。
後もう少しで、【華水晶の間】がある洞窟に辿り着くと言う時、脳裏地図でアイスタイガーを発見した。
「アテンション!(警戒!)」
俺の号令で、警戒陣形に瞬時に移行するも、其の走りは止まらない。
何故なら、俺の部隊に編成している仲間とは、言葉は交わせないが、脳裏情報を共有する事は出来る。仲間は文字は読めないが、周辺地図と俺の号令で瞬時に部隊行動に移行出来るのだった。
距離は遠くはなく、意識でクリック確定した俺の脳裏地図からは、獲物は逃れられない。
俺の部隊は、認識共有している脳裏地図と脳裏情報の絵文字で、部隊指令を発する。アイスタイガーは、直ぐ近くに居るので、声が挙げられない。黄色の印は、パッシブモンスターを表す。此方を認識すれば、点滅する。未だ点滅していないのは、風下から近付き認識されていないからだ。
【アルグリア戦記】では、匂いも何もかもが、現実同様に感じられる。唯一違う処は、血が流れないで、エフェクトが流れ溢れる事だけだった。血の鉄臭い臭いも、嗅ぎ慣れればなんて事はない。
人間の慣れって結構凄い。順応しないと生き残れない本能なのだろうか。
兎に角、アイスタイガーは強敵だ。此処のダンジョンにはリポップされないモンスター。つまり、ダンジョンモンスターではないフィールドモンスターだ。
迷い込んだか? 此れが一匹以上なら、母さんが黙っていない。何故なら、此のダンジョンであるハルベルト山脈は、母さんの縄張りだ。母さんのルールでは、複数の進入を許さないからだった。
獲物との距離が、二百メートルを切った。
何とか気付かれずに、布陣を敷く事が出来そうだ!
俺は一息を付き、部隊全員に脳裏情報で、ある絵文字を共有する。
良く見ると最高の形だった。絶好の場所で、絶好のタイミングで、俺は脳裏情報で骨付き肉の絵文字を十から順番に減らしていき、攻撃のタイミングを全部隊に伝える。
五秒! 四秒! 三秒! 二秒! 一秒! ゴー!
アイスタイガーの十時の方向から、シルバーウルフをリーダーとするホワイトウルフのベータ部隊が注意を引き付け、四時の方向から俺のアルファ部隊がソッと忍び寄り潜む。其れに伴い九時の方向からガンマ部隊が陽動を行う。アイスタイガーは、狼の群れに威嚇の雄叫びを揚げた。
もう直ぐだ。一時の方向からデルタ部隊が到着し、再々度の陽動を掛ける。さあ、仕上げだ。
三方向に威嚇の唸りを揚げたアイスタイガーは、漸く自分の不利を悟り逃亡を試みる。だが遅かった。既に盤面ではチェックメイトだった。
アイスタイガーの逃走ルート上で、雪の中に、繁みに気配を隠したアルファ部隊の牙がアイスタイガーの四肢に喰らい付く。一方的な狩りだった。アイスタイガーは反撃すら行えずに、赤いエフェクトを撒き散らしながら絶命した。
<<個体名【ゼノン】の個体レベルが上がりました!>>
<<個体レベル【20】に達したので、【進化】が可能になりました!>>
<<進化先は【シルバーウルフ】・【シャドウウルフ】から選択可能!>>
ゼノンの個体情報を、脳裏情報の画面で確認する。
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【情報表示】:▼
氏名:【ゼノン】
個体LV:【20】
備考:▼
年齢:【23歳】
種族:【白狼精霊人】
身分:【カルマ遊撃部隊隊員】
職業:【戦士】
称号:【プレイヤーの眷属】▼
【プレイヤーの眷属】:ゲームシステムの一部を共有可能。
才能:▼
【身体強化LV6】【寒冷耐性LV5】【牙撃LV6】【爪撃LV4】
【疾走LV4】
説明:▼
【ハルベルト山脈を縄張りとするホワイトウルフ。プレイヤーの眷属。】
【状態表示】:▼
生命力:【78/78】
魔力 :【67/81】
精神力:【54/58】
持久力:【73/75】
満腹度:【31/100】
【能力表示】:▼
筋力 :【67】
耐久力 :【48】
知力 :【36】
敏捷 :【93】
器用 :【27】
魅力 :【34】
【部隊編成表示】:▽
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ゼノンの種族に意識を集中させると、三角の表示が表れる。其れをポチッと意識で押す。
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種族:【銀狼精霊人】▼
【銀狼精霊人】:雪狼精霊人の上位種族。
寒冷地帯では、能力上昇(大)効果発生。
種族:【影狼精霊人】▼
【影狼精霊人】:森狼精霊人の上位亜種族。
スキル【影魔法】が使用可能。
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俺は迷いなく、シルバーウルフを選択した。
眩い光のエフェクトにゼノンは包まれ、分解され、再構築されていく。
<<個体名【ゼノン】は【シルバーウルフ】に進化しました!>>
「良し、ハウス!(帰還する!)」
俺の号令を聞いた部隊リーダーが、一吠えをして、群れを統率する。
周囲にはスノーラット一匹いない。次にリポップされる迄の時間は、スノーラット・スノーラビットの下位魔物で三十分! スノーフォックス・スノーバードの中位魔物で六十分! スノーディア・スノーベアの上位魔物で六時間! スノーレオンの特殊魔物が二十四時間だった!
因みに、スノーウルフは中位、ホワイトウルフは上位、シルバーウルフは最上位のモンスターに分類される。
疾走する狼の群れの数は、二十匹。其の内の一匹の背に跨がる若い半裸の男。
彼らが、塒に向かって走っていると、続々と狼の群れが集まって来る。
狼の群れは、雪崩の如く逆さまに雪山を登っていく。其の数は、百数匹に達していたのだった。
ああ、見えた。あ、あれ? 母さんが洞窟の前で、仁王立ちしている。
見るからに機嫌が悪い。あれ、俺何かしたっけ?
全く何も心当たりがない。はて、なんだろうか?
「ストップ!(止まれ!)」
俺の号令と脳裏情報とで、総数百二十匹の群れが行動を停止する。
カルマの強化された感覚が、強く激しく母親の機嫌が最悪だと告げる。
否、変な先入観は善くない。
母さんは、何も言わないが、無言の威圧がハンパない。
俺の仲間(眷属)達も萎縮して、五体投地する者、腹を見せて降参服従の礼をする者もいる始末だ。
勘弁してくれよ、母さん。俺は嘆息を心の中で吐きながら、母さんに挨拶をする。
「母さん、只今! 如何したの珍しく洞窟から出てきて? 何かあったの?」
俺の言葉に、母さんは重い口を開けた。
『カルマ、お前も成人だ! 大人になったお前に、伝えなければいけない事がある! 実は我は【十の災厄】と呼ばれる十の盟約の獣の一柱なのだ!』
「・・・・・・・・・・・・」
『全く驚かないんだな、カルマ?』
母さんは、不満そうに俺を見つめながら、鼻を鳴らす! 驚くも何も、ずっと知っていたから仕方ないと、僕は心の中で毒突いた。
「えっ!否驚いた、・・・・・・よ? 其れが如何かしたの、母さん?」
俺の言葉に、何故か母さんは、一瞬哀しそうな表情を見せた。
『【十の災厄】は我だけではない! 我の他にもアルグリア大陸には九柱存在する! 今のお前では、死ににいくようなものだ! 其処でだ、お前には試練を受けて貰う!』
「試練?(なんだ其れ、クエストかイベントかな?)」
『此処を旅立ちたければ、我を倒して行け! 其れがお前に課せられた試練だ!』
ドォーン!
プチッ!
俺は其れを聞いて、堪忍袋の緒が切れた。
「母さん、怒るよ! 其れは只、母さんが俺と離れたくないだけだよね?」
明らかに俺の言葉に動揺する母さんが、静かに呟く。
『カルマ、母さんを捨てる気なのか? 我はお前をそんな子に、育てた覚えはないぞ?』
そう呟く母さんの瞳には、大粒の涙が溜まりウルウルとしている。
何を隠そう【十の災厄】と畏れられる俺の母さんは、最初に逢ったあの日からデレデレにデレて、【親バカ】にバージョンアップしたのだった。
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【アルグリア戦記】には、セーブ機能は存在しない。全て最初からのスタートと為る。現実の世界で、セーブなどは出来る筈もない。此処は【アルグリア世界】、もう一つの現実の世界。現実の一秒が、三千百十万四千秒に相当する仮想の現実世界。現実の一時間が、百二十九万六千日(三千五百五十年と二百五十日)に相当する【悠久の歴史を|刻(きざ)む世界】。
果たして、【アルグリア世界】は、仮想の現実世界なのだろうか? 其れとも、実はもう一つの現実世界【異世界】なのだろうか? 其の答えは【プレイヤー】だけが知っている。
To be continued! ・・・・・・
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