上 下
7 / 9

7.第二王女殿下の執事は心を痛める

しおりを挟む
昨日は更新できなくてすみません!
本日2話更新します!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「どうしようか...」

アランは与えられた私室で紙を前に考え込んでいた。

「忘れてたけど私はオズワルト殿下の執事なんだ。ベルフレア殿下の敵、なんだよなぁ」

オズワルト殿下に定期連絡を送らなければいけないのだが、何を報告しようか迷っていた。
今まで調べられたことは兵の数、宮廷魔法師の人数と能力、そして現在の王国の財政状況だ。
兵は帝国の4分の3程度、宮廷魔法師の人数は同じくらいだが、能力は帝国の方が高い。財政状況はかなり良くて、それこそ規模が小さいにも関わらず、帝国に迫るほどであった。
これくらいの戦力差であれば普通は戦争が起きれば拮抗する。しかし魔法師のレベルが帝国の方が圧倒的に高いことでほぼ確実に帝国が勝つだろうと予測できた。最上級魔法を使える魔法師は戦争の結果をたった一人で変えることもありえる。その魔法師が帝国に多くいる以上勝利は確定だろう。

「でも、そうなってほしくはないな」

自分でも驚くほど簡単にそのつぶやきは口から滑り出た。
オズワルト殿下に拾われて8年。殿下には恩を感じていたが、ベルフレア殿下の優しさに触れたことで気持ちは王国側に傾いていた。それに、王国の民は皆幸せそうなのだ。今の国王が善政を敷いているからか、笑顔が溢れ、犯罪も少ない。それに比べて帝国は貧富の差が大きく、犯罪も多い。どんなに考えても帝国にこの平和な国が侵略されてはいけないと思ってしまうのだ。

「でも、スパイは私一人じゃないんだよな、多分」

用意周到な殿下のことだ。この王宮内にも他にスパイがいて私も見張られているのだろう。

「魔法師の能力以外は伝えるべきだな」

他のスパイが調べられることであれば隠してもしょうがない。迷いを振り切って手紙を書き始めた。魔法師の能力は国家機密にあたるから、まだ調べられてなくてもしょうがないと思ってもらえるはずだ。

「あとは...」

一つだけ大きな隠し事をした。帝国を脅かす可能性が最も高い情報を書かなかったのだ。
後にアランはこの時の決断が英断であったことを知る。しかしそれはまた後の話。今はただそのことがオズワルト殿下に知られないことを祈るばかりだった。

書き終わると、手紙を小さな鳥の形に作り変える。

「〈使役ファミリア〉」

小さな声で呟くと鳥がふんわりと浮かび上がった。立ち上がって窓を開ける。

「オズワルト殿下の所に向かってくれ」

鳥は頷くように一度大きく羽ばたくと、開けた窓から出ていく。

「....殿下、申し訳ございません」

鳥の後ろ姿に呟く。それはベルフレアに対してなのか、オズワルトに対してなのか。それとも両方に対してなのか。それはアランにすらわからない心の声だった。
しおりを挟む

処理中です...