i・セ界

たぬきの尻尾

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第一章 異世界降臨

レフリスの町で

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「【空牙】」

 見えない弾丸の攻撃魔法で、森狼フォレストウルフの眉間を撃ち抜く。
 依頼達成の数は十。ここには五匹いた。
 全てを倒し終えた後は、スーに解体を任せて休憩する。皮や牙、爪などの使える素材は吐き出してもらい、価値のない肉や内臓はスーに譲った。
 そのうちスーはスライムからハイスライムへと進化するだろう。まだ時間はかかるだろうが。

 そして、僕は錬成魔法を使って森狼の皮を素材を入れるための袋にする。
 加工して繋ぎ、そこそこ大きめの袋が完成した。そこに爪や牙を入れていく。

 残りの五匹も【サーチ】で場所を特定し、同じ方法で倒した。
 さてと、スーの解体も終わったし、素材も回収した。町へ帰ろう。

「ん?」

 ふと、地面に光る物が見えた。茂みに隠れていたので分かり難いが、なんだろうと思い、拾ってみる。

「アクセサリー?」

 それは銀で出来たネックレスだった。丸い円の中に星があるネックレスだ。チェーンが切れている。
 魔法の付与は無い。価値もあまり無いだろう。

「いつからここにあるのか」

 落とし主はたぶん……というか十中八九冒険者だろう。まあ、持ち帰って適当に聞いてみるか。あ、ラナさんに渡すのも良いかもしれない。
 僕はネックレスを片手に町へ戻った。



「こちらが今回の報酬です」

 ギルドの受付に回収した素材を渡すと、依頼達成と確認され、ラナさんから報酬と素材分のお金が入った袋を渡された。

「あ、そうだ」

 僕は森林で見つけた落とし物をラナさんに渡す。

「これ、森林で拾ったんですけど、たぶん落とし物で。ラナさん、持ち主を知っていますか?」
「落とし物ですか……ああ…………」

 お、どうやらラナさんはこのネックレスの持ち主に心当たりがあるようだ。

「ラナさんから渡してくれてもいいんですけど……」
「では預かりますよ。たぶん夕方には戻ってくると思いますので」

 ラナさんに落とし物のネックレスを預けながら、やっぱり持ち主は冒険者だったかと納得する。本人もまだ生きているようで、今はまだ森林にいるのだろう。よかった。

 報酬を貰った僕は、ギルドを出て町を散歩した。ついでに宿も取り、道具屋や武器屋にも寄った。
 今日の稼ぎでは買えなかったが、ポーション専用の瓶なども売っていたのでそのうち買いたいと思う。薬草は森林にたくさん生えているのを見たし。

 市場は昼を過ぎていたので、あまり人はいなかった。商品もそれほど多くない。やはり朝から昼までが混むのだろう。
 町の散策をした僕は、少し早めに宿に戻る。カウンターにいた女将さんに頭を下げて部屋に向かった。

「あ~……」

 ベッドに倒れるように寝転ぶと、ため息混じりに声が出た。意外と疲れが溜まっていたようだ。まあ初日だし。こんなものだよな。
 他の、同期の皆は大丈夫だろうか? 連絡くらいできればなぁと思わなくもないけれど、世界を跨いでの通信などできるはずがないのだ。

「僕はなんとかやっていけるよ」

 皆はどうだい?





「……!?」

 僕は慌ててベッドから起きた。今何時だ?
 窓の外を見ると、まだ明るい。いや、明るくなっていた。
 現在時刻、六時十三分。
 やはりそれだけ疲れていたのだろうか。

「おや、おはよう。随分と疲れていたんだねぇ。夕食の時間に起こしに行ったんだが、ぐっすり眠っていたよ」

 一階のカウンターに行くと、女将さんにそんなことを言われた。

「朝食はどうすんだい? こっちで食べていくか? それともギルドの食堂?」
「あー……」

 どうしようか。僕は迷った。こちらの世界、あまり食文化は進んでいないのだ。でもせっかくなので。

「こちらでいただきます」

 朝食代を払い、宿屋の食堂へ向かう。簡単な卵料理とサラダ、パンが朝食だった。

「むぅ……」

 朝食を出されている身であまり文句は言いたくないが、ないのだが……やはりどこか味気ない。
 いや、ただの塩味もいいけどさ。醤油やケチャップ、マヨネーズが恋しくなった。



 朝食を食べ終えて宿を出た僕は、冒険者ギルドに向かった。朝は冒険者が多い。受付、混んでるなぁ。
 人混みをかけ分け、なんとか掲示板の依頼用紙を剥がしてラナさんのいる受付に持っていく。
 少し時間がかかったが、無事に依頼を受理し、ギルドを出た。
 そして町の入り口に向かう。その途中、僕の前に変な奴らが現れた。

「そこの青年よ! 新顔だな? どうだい? 君も私の子分にならないか!?」

 マッチョな肉体。タンクトップに短パン。リーゼント頭。ちょび髭を生やした意味不明な男と、それに付き従う個性的な二人の人間だ。たぶんこの二人は子分だな。
 そしてこの変態は、僕にも子分になれと言ってきた。

「お断りします」

 纏う雰囲気。感じ取れる魔力量。どれも全て三流だ。受付嬢のラナさんの方が手強いだろう。

「こいつ! 兄貴の誘いを拒否したでやんす!」

 ヒョロっとした体型の出っ歯のキツネ顔の子分一号が絡んできた。残念だけど、自分より弱いやつを親分と崇めるのは僕には無理だ。

「兄貴の命令に従えない時点でお前は有罪だべ!」

 今度はちょっと太った狸顔の子分二号が、こちらを指差しながらそう言った。
 そして、いつの間にか見物客もそれなりに増えている。
 完全に悪目立ちだろこれ! 主に向こうのせいだが。

「仕方がない。もう一度言おう! そこの青年よ! 君も私の子分に……」
「だからお断りします」

 変態の言葉を遮って、僕は結論を言う。というか、普通は断られたら「仕方ない。諦めよう」だろう。なんでもう一度になるんだ。

「有罪だべ! 有罪だべ!」
「兄貴、こんな生意気なヤツやっちまうでやんす!」
「むっ! では実力で勝負だな! 私が勝ったら子分になってもらうぞ!」

 三人が一斉に地面を蹴り、僕に殴りかかってくる。
 嫌だよ! ていうか諦めろよ! やれやれ……。

「ぐべっ!」
「うごっ!」
「ごほぉぅっ!」

 僕は三人の攻撃をひょいと躱し、水が流れるがごとく、カウンターを鳩尾みぞおちに打ち込んでやった。これで三人全員気絶するだろう。やっと静かになる。

「くっ……な、なかなかやるな……!」
「え?」

 静かになる。そう思っていたのだが、変態だけはなんとかギリギリ正気を保っていた。
 あれー……加減したとはいえ、まさか正気を保つとは……。おかしい。ちゃんと意識を刈り取る攻撃をしたはずなのに!
 まさか来て一日で勘が鈍ったのか? いや、そんなはずは……。

「だが次はこうはいかん! 覚えていろ子分よぉぉぉぉ!」

 変態は気絶した子分の二人を抱えて風のように去っていく。体力と気力だけは認めざるをえないようだ。
 こちらのやり取りを見ていた見物客たちも、事が終わると散り散りに去っていった。

「勝手に子分にするなよ……」

 僕が勝ったのに……。というか、子分に覚えてろって……。

「ねえ貴方。もしかして、貴方がハクト?」

 事が終わったあと、突然同じ歳くらいの金髪の少女に声をかけられた。

「そうだけど……」

 誰だ?

「やっぱり! あ、私はエリス。貴方が昨日拾ってくれた、これの落とし主よ。ラナさんから教えてもらったの」
「ああ……」

 ぽんっ。と手を叩き、納得する。

「見つけてくれてありがとっ!」
「いや、見つけたのは偶然だよ。だから気にしないでいい」
「そういう訳にはいかないわ。大事な物なのよ、これ。何かお礼をしたいんだけど……あ、あまり高い物は無理だけど、何か欲しい物があれば買うわ!」
「お礼は別にいいよ。次からは落とさないように気をつけて」
「じゃ、じゃあ、夕食くらいは奢らせて! 夕方、ギルドの食堂で待ってるわ!」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」

 エリスは僕の言質を取ると、走り去っていく。元気な子だ。
 さて、僕も頑張って依頼を熟すかな。


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