i・セ界

たぬきの尻尾

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第一章 異世界降臨

パーティー

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 エリスたちと知り合いになってから翌日。
 僕は今日も依頼を熟すため、森林へ来ていた。

『はあああああっ!』

 と、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてくる。気配を消して近づいていくと、やはりエリスたちのパーティーだった。
 エリスたちは三匹のオークと戦っていた。エリスとレックスが軸となって闘い
、それをルイズとミーシャの魔法使いコンビがサポート。弓矢を持つカリナが狙撃で牽制をしている。
 中々に連携の取れた動きだ。
 何より見るべきはエリスの動き。あれは……僕の動き方か?
 オークの攻撃に見事なタイミングでカウンターを合わせ、淀みのない動きをしている。エリスの剣がオークの胸に刺さった。

「90点だな」

 人に点数を付けるとは何様か! と思うかもしれないが、僕の目で見てもエリスは90点の動きをしている。
 しばらくするとオークは五人に倒され、解体される。

「エリスちゃん。途中凄い動きだったね」
「おお、あれな! お前どこであんな動き身につけたんだよ」
「あれね。凄いでしょ。ハクトの動きを真似したの。まだちょっとぎこちないけどね」

 ミーシャとレックスにそう言うエリス。少し見ただけであそこまでできるのか。
 僕のように種族的に恵まれたわけでも、鍛えられたわけでもない。天才だ。天然ものの天才がいる。末恐ろしいな。
 まだ負けないだろうけど、僕も頑張ろう。



「おめでとうございます。これでハクトさんはDランクにアップしました」

 それから幾日か経って、僕もエリスたちと同じDランクにアップした。そういえば……

「ここ最近、エリスたちを見ないんですけど、どうしてるか知ってますか?」

 ラナさんに聞く。
 まさか……とは考えたくないな。せっかくこの世界で知り合った友人だ。

「エリスさんたちなら、森林でキャンプの練習をしていますよ?」
「キャンプ?」

 どこか別の町に行くつもりなのかな?

「何でも、そろそろ迷宮ダンジョンに挑戦しようという話になっているみたいです」
「なるほど。それでキャンプの練習ですか」

 ここから一番近い迷宮は、北西にあるクレバンという街だったか。迷宮都市クレバン。古代文明の財宝や豊富な資源を求めて、多くの冒険者たちが集まるという。
 その街へ行くにも何度か野営が必要だからな。行く前に事前に練習をするように言ったのはルイズかな?
 明日、ちょっと様子を見に行ってみようか。



 翌日。Dランクの依頼を受理した僕は、獲物を狩るついでにエリスたちの様子を見に行くことにした。
 【サーチ】で場所を探すと、森林の中間区の東側にいるようだった。

『うおおおおおっ!』

 お、いたいた。レックスの雄叫びが聞こえてくる。
 戦闘中か。じゃあ遠慮なく観戦させてもらおう。
 エリスたちが戦っているのは岩石サイ。全身が岩でできたサイ型の魔物だ。
 物理攻撃はほぼ効かないため、魔法での攻撃が勝敗を分ける。
 だが……

「ミーシャ、ルイズ、大丈夫!?」
「あ、ああ、まだいけるよ」
「はい……」

 魔法使いの二人。ルイズとミーシャの調子が良くなさそうだ。魔力が底を尽きかけている。
 だから前衛のエリスとレックスが必要以上に頑張っているのか。

「くっ……」
「エリス!?」

 さらにエリスの様子もおかしい。あれは……左足を挫いているのか。慣れないキャンプで予想以上の災難が降りかかったのだろう。
 さらに追い討ちをかけるように、攻撃をしたレックスの大剣が半ばから折れた。

「……っ!?」

 レックスは折れた大剣で咄嗟に岩石サイの突進をガードした。しかし勢いが強かったのか、後方に転がるように飛ばされる。
 あれは痛いな。ほとんどダメージもカットできなかっただろう。

「こっちよ! こっちを向きなさいよ!」

 仲間の満身創痍にほぼ無傷のカリナは矢を放ち、岩石サイの意識を自分に向けさせようと頑張っていた。
 が、岩石サイは見向きもしない。代わりにターゲットとなっているのは、エリスだった。

「なんでよ。こっちに来てよ……こっちを向け!」

 カリナの放たれた矢が岩石サイに弾かれる。それと同時に岩石サイは今日一番の気迫でエリスに突進した。

「エリス!」
「エリスちゃん!」

 仲間たちにもエリスにも、向かってくる岩石サイの角は恐怖以外の何者でもない。
 エリスは覚悟を決めたのか、首にかけられたネックレスを一度握りしめると、剣を前に構えた。カウンターをする気だろう。
 しかし、恐怖心がだだ漏れだ。さらにあの状態の足では満足に動けない。運良くカウンターができても、肝心の攻撃が通じないから逆に反撃を喰らうだろう。
 そうなれば……

 エリスの腹をあの角が突き破る。

 きっと誰もが、エリス本人もそう思っただろう。
 でも大丈夫。今回に限っては、僕がいる。

 僕は魔力を全身に纏い、白い輝きを放ちながら、突進する岩石サイとエリスの間に割って入った。

「大丈夫?」
「ハ……ハクト……?」

 突如現れ、岩石サイの突進を片手で受け止めている僕を見てエリスは目を見開いていた。

「ちょっとだけ見てたよ。もう少し早く助けにくればよかったかな?」

 岩石サイは止められたにもかかわらず、後ろ足に力を込めて僕を貫こうとしていた。が、足は虚しく地面を削っているだけだ。

「こいつ、僕が貰ってもいいよね」

 エリスはコクンと首を縦に振った。

「じゃあ遠慮なく。ふっ!」

 拳を振った。一回。岩石サイの鼻先に、たったの一撃。
 それだけで岩石サイはドスンと音を立てて横に倒れた。

「……う、うそ……」

 後ろにいるエリスから声が漏れる。

「おっと……」

 そして、エリスは糸が切れたように倒れた。僕は慌てて抱える。エリスはすーすーと寝息を立てていた。相当疲れていたようだ。

「はぁ……助かったぜ」
「ふぅ……」
「エリスちゃん、よかった……」

 レックス、ルイズ、ミーシャも満身創痍だな。もうキャンプ続行は無理だろう。というか、レックスはいびきをかいて寝始めたんだが……。
 
「助かったよ。ありがとう」

 カリナは大丈夫そうだな。精神面はどうかわからないが。

「どういたしまして」

 僕はカリナ以外の四人を念力で浮かせる。意識のあったルイズとミーシャが驚いていたが、町に向かうまでの揺れが心地良かったのか途中で寝てしまった。

「カリナも寝ていく?」
「アタシはいい……。アタシは今回、何も役に立てなかったから」

 元気なくそう返事をするカリナだったが、今回のキャンプが例えば試験だとして、合格するのはカリナだけだと思うけどな。
 まあ、全員無事でよかったよ。
 せっかくこの世界で知り合った友人だ。無くすには惜しい。

「ぅ……ぐすっ……ぅぅ……」
「これからだよ。これから強くなればいい」

 僕の言葉にカリナは黙って頷くだけだった。

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