low love

NaRu

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cheap love 前編 

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俺の上司は離婚してから飲み会の度に他部署の女子を持ち帰るイケオジだ。
50手前には見えない、それでいて年上の余裕を持っているパーフェクトイケオジ。
でも俺は嫌いだ。
数年前の飲み会で彼が

「同性愛者なんて信じられない。どうなれば男とヤれるんだろうな。」

と言った。
同性愛者である俺は腸煮えくり返ったが何とか怒りを抑えた。
それ以来俺は彼が嫌いだ。
部署が違ってよかった。
が、急な移動で俺は彼の部下になってしまった。
初日はマジで気が重かった。
が、仕事はできるし、めちゃくちゃ気遣いの人だった。
何度か助けてもらったし、少しだけだけど俺の中での印象は変わった。
あんな発言をするような人には見えないのに何でなんだろう?と思うようになった。
ある日の帰り、久しぶりに行きつけのゲイバーに向かった。
その途中、俺は彼を見かけた。
彼はマッチョな男と言い合いしてた。
マッチョは彼を抱き締めようとしたが拒否られ渋々帰っていった。
どういう状況なのか。
そうとしか思えない。
だとしたら矛盾してないか?

「戸川さん!」

俺は気が付くと彼を呼び止めていた。
近くのバーでさっき見たことを話した。

「苗代くんに見られてたとは。そうだよ、俺は本当はゲイなんだ。」

「え?でも今まで飲み会の度に女子社員と。」

「お持ち帰りなんかしてないよ。実は営業部の松田が厄介な奴で、ああいう飲みの帰りに女の子たち二次会につれ回しててさ。それを防ぐためにやってたんだよ。」

「そうだったんですか。でも、あの発言は、」

「実は疑われてるんだよね。ゲイばれってやつ?感の鋭い奴は気付くんだよ。だからあんなこと言わざる終えなかった。」

「そうだったんですね。」

「苗代くんは同種?」

「、、ええ。そうです。だからあの発言聞いたときめちゃくちゃ腹立ちました。」

「ごめんね。」

「でも、一緒に働いてみて戸川さんがあんな差別発言するような人に思えなくて。何だか安心しました。」

「安心はしないほうがいいよ。俺は皆が思ってるほどいい人間じゃないから。」

「え?」

「俺がゲイだと言うことを隠してきたせいでたくさんの人を傷つけてしまった。一番は妻だ。償いきれない。」

「嘘をつく側も傷つくんじゃないですか?戸川さんも長い間、傷ついてきたと思います。」

「苗代くんは優しいんだね。」

「俺も親や友人にずっと嘘をついてます。ゲイバーだけが唯一本当の自分でいられる場所だと思ってます。」

「俺も今その一部になれた?」

「、そうですね、確かに。」

「苗代くんはまだ若い。素敵な恋をして幸せになって欲しいよ。」

「戸川さんだってまだ若いじゃないですか。」

「俺はもういいんだ。そんな権利ない。これからはお一人様を満喫するよ。」

そう言った彼の顔がずっと忘れられなかった。
それから時々、彼と飲みに行くようになった。
プライベートでは親戚のおじさんのような、友達のような。
でも時々、寂しげな瞳をする彼を見るとドキッとした。
俺には役不足なんだろうな。
彼の心を癒し、救えるほど俺はまだ足りてないと思う。
こうして一緒に時間を過ごせるだけでいいと思ってた。
しかし、そんな時間は長く続かなかった。
俺は仕事が認められ、本社に出向になった。
もう彼と会うこともないかもしれない。
送別会の帰り、二人だけでいつものバーで飲んだ。

「改めておめでとう。今までちゃんと頑張ってきたことが認められたんだから自信を持っていっておいで。」

「ありがとうございます。戸川さんがフォローしてくださったおかげです。戸川さんの下で働けて幸せでした。」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。ただ飲み仲間がいなくなるのは寂しいけどね。」

「俺もです。こっちに帰ってくることがあったら連絡します。」

「うん。」

本社での勤務はなかなかハードで余裕がなく、連絡をとることもままならなかった。
あっという間に2年が過ぎた。
30になった俺は恋人を作る間もなくただ仕事に追われる毎日だった。
ふとした瞬間に、彼は元気だろうか?と考える。
俺と同じように一人でカップ麺を食べたりしてるんだろうか?
もう50になったはずだから、病気とか気をつけて欲しい。
とまるで恋人のように思う。
そんな中、やっと連休をとれた。
俺は実家に帰る電車の中で彼にメールした。

久しぶりに会えませんか?

返事が帰ってくるまでドキドキした。
そういえば初めて自分からメールした。

いいよ、20時にいつものバーで。

と返ってきた時は嬉しかった。
最初の一言は何て言おう、と考えてたけど顔をみた瞬間全部吹っ飛んでしまった。

「苗代くん、大人の顔つきになったね。」

「戸川さんはお変わりなく。」

「いや、老けたよ確実に。」

俺たちはあの頃に戻った。
すぐにさっきまでの緊張は消し飛んでしまった。

「で、彼氏はできたの?」

「そんな余裕なかったです。」

「そうか、勿体ないね。苗代くん普通に男前なのに。」

「勿体ないですよね。でも仕事は楽しいです。」

「そっか。それはよかった。実は半年ほど前に体調崩して入院してたんだ。それから少し仕事セーブしてるんだよ。」

「え?!言ってくださいよ!お見舞いに行ったのに。」

「いやいや、わざわざ俺のためにそこまでしてもらうのは悪いよ。元妻が身の回りのことしてくれて助かったし。」

元妻。
まだ会ってるんだ。

「仲直りできたんですか?」

「許してはくれないけど、でも困ったときは助けるって言ってくれたよ。女性って強いね。完敗した。」

「そうなんですね。」

「苗代くんも身体に気をつけてね。無理しすぎないように。って説得力ないか。」

バーを出て駅までの道のり、俺は凄くモヤモヤした。
でもそれが何なのか分からなかった。

「苗代くん、月が綺麗だよ。」

そう言って月を見上げる彼を見た。
あぁ、俺この人が好きなんだ。
瞬間的にそう知った。
モヤモヤは嫉妬だ。

「戸川さん、一生に一度しか言わないから聞いてもらえますか?」

「いいよ、何?」

                   つづく
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