そこは夢の詰め合わせ

らい

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創作

73.決して届かない手

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走る。走る。走る。肺が破けそうでも、足がつりそうでも、走るのを俺は止めない。止めては行けない。止めてしまえばもうきっとには会えないだろうから。

「ちくしょお・・・」

彼が人間である事が枷となり、その場に倒れてしまう。しかし彼は這いずってでも前へ、前へと進む。力が入らない。足が痛い、筋肉が痙攣している。それでも彼は前へと進む。

「なんでそうまでして会いたいの?」

そう声がした気がする。彼女の声ではない。もっと低い、されど高い矛盾のような声。それがいきなり頭の中に響く。彼は無意識のうちに立ち上がり悲鳴をあげる足を動かし、走っていた。先程までとは違い、身体は軽く、重力さえ感じなかった。

朝姫あさひ・・・!」

彼は彼女の名前を呼んでいた。もう一度、彼女に会うために、彼女の姿をこの目にもう一度写すまでは、走り続ける。ここで立ち止まってしまえば一生後悔し続けるだろうから。

「間に合ってくれ・・・!」

暗闇を抜け、光の届かない暗闇へとまた入る。くぐり抜けた先で、彼は彼女を見つけた。消えかけている彼女を。

「朝姫・・・!良かった・・・」

「なんで・・きたの・・紅夜こうや・・・」

彼女の身体は白い光に包まれ、消えかけていた。もう、彼女の下半身はこの世にはなかった。それを見て彼は泣きそうになるが、涙を流さない。今はその涙は必要ないから。

「これを渡しに来たよ」

彼の首にかけられていたペンダントを彼女の首にかける。黄色の光が月明かりに当たって輝く。彼女の身体はもう上半身も光に包まれていた。

「ッ・・・」

彼は涙をこらえる。彼女は右手の平の上にそのペンダントを置いて、その目から溢れた涙を拭くこと無く、見つめていた。

「ありがとう・・・紅夜。」

その言葉を最後に、彼女はこの世から消えた。白い白い光が空へと登っていく。それを彼は見つめることしか出来なかった。暗い暗い暗闇の中に、誰かの悲痛な泣き声が虚空に消えた。
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