そこは夢の詰め合わせ

狐谷

54.青煙と赤煙と紫煙

ある者にはその煙は青に見えたという。
ある者にはその煙は赤に見えたという。
何者にも染まらないその煙の出処は透明だった。何も無かった。しかし煙が立つということはそこに何かがあるのだ。

『何かが居るのだ』

「ゆらりゆられる煙の出処。今晩どうもお兄さん方。しかしおさらば煙の如く。」

躍起になって煙の出処を探そうとした男たちは次の日から人が変わったようになったとか。

白い月は、月の光は真実を映し出す。
真実という光は時に闇となる。

いつも新月の日だけ外で煙草を吸っていた。帰り道に見るだけだった女性。珍しく月の出ている日に外に出ていた女性、それの影は恐ろしく大きく人の影では無かった。

「あら？君は小生が見えているようだね。珍しい人間様じゃないかぁ・・・」

青の煙、赤の煙、色が変わるその煙は紫煙で落ち着いた。膨らむ煙は彼女の身体を包み込むと煙の匂いを残して消えた。

残ったのは紫煙と煙草の匂いだった。
ぼおっと空を何気なく見たとき、目に入ったのは紫がかった雲が青白い色をした月をかき消さんとしていた。

何かを感じたのかバッと周りを見回した時だった。

「それでは失敬。また今度。」

宙に舞う影と共にそう言い残した何かとはもう会うことは無いだろう。しかし、しかしいつかどこかの森の奥でまた逢う日が来るのかも知れない。