そこは夢の詰め合わせ

らい

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くもり

158.たった一つ持っていたもの

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いつの日だっただろうか。
そう誰もいない空間に一人語るナニカがいた。
語らなければならないと思ったのだろう。
私は。この話を今ここでしなければならないと。

ドシャっと何かが落ちる音がした。
それが自分の音だった事に気がついたのは次の瞬間だった。意味が分からなかった。
少し前まで私は気持ち良くいつものように進んでいたのに。

私は地に伏せていた。
上手く両腕が動かない。
動かそうとすると激痛が走る。折れたのだろう。自分の大きな何かが崩れる音がした。

もうダメだと、そう思ったけれど。
まだ、まだ私はあの空を見ていたい。
そう、思ってしまったんだ。

あの美しい青空を私はもう一度翔けたいのだ。
そのためだったら折れている両腕を動かそう。

折れた両腕。
私が持って生まれたものはただ一つ。
その両腕が悲鳴をあげようとも。
もう無理だと泣き言を放つ腕を黙らせよう。
私はそれしかできないのだから。

翔けるまで、私は這い蹲ろう。
しかし必ずお前はその悲鳴をあげる腕を。
高く大きく広げて。

その黒き翼を。
あの綺麗な空を翔ける黒き羽を。
たとえその両腕が崩れ落ちようとも。
お前にできる唯一の事なのだから。

「飛べ。彼方の空へ」
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