愛の転生令嬢、奮戦記

矢野 零時

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21フリム国入場

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 次の日がやってきた。
 城門の前でフリム国に向かう勇者パーティーの盛大な見送りが行われた。ジョン王夫妻、リチャード王子とマーガレット、ユリアの父母もいた。さらに見送りの中にイワクラ公爵もいたのだった。
 オマラ国では、フリム国への道案内ができる先導役をつけてくれた。パーティーの者たちがのる馬車の御者はいつものようにダイルが買ってでてくれていた。

 ゆれる馬車の中で四人はフリム国につくまでの間、話をすることになった。
「ユリアさま、驚きましたぞ。あなたの魔法は、なんなのですか? 私の知識にはないものだ。まるでわからない」とボブが聞いていた。
「サマンサさまに魔法をお教えて貰っていて、その時に身につけたものですよ。サマンサさまによれば、私の身についた魔法は奇跡というものだそうです。でも、小石がないとだめみたい。だから、袋に小石を詰めて腰に下げておりますの」
 そう言ったユリアの腰の左右に小石を入れて膨らんだ袋が二つ下げられていた。
「奇跡ですか。それは伝説の魔法ですぞ。それを使える人がいるなんて、信じられないことです」
「ボブさまこそ、前とは信じられないほど、魔法力が上がっておられましたわ」
「そうでしょうな。私の日々の仕事は、ダンジョン屋敷の案内人です。お客さまの前で、魔法を使って見せなければならない。その数は、一日三十回はしたまわらない。それは、まるで魔法の訓練をしているようなものですよ」
「マイク、あなたのバッグに入っている球はなんなのですか?」
「ユリアさまからいただいた薬草で作った薬のおかげで、母の病気がなおりました。まずはお礼を申し上げます。少し、長い話になりますが、よろしいですか?」
 マイクにそう言われたのでユリアはうなずいていた。
「その薬草を畑に植えているのですが、薬草が速く育ち効能があがるように、薬草にむかって強化魔法をかけたのです。すると、薬草はすぐに育つようになり、薬草から生まれる薬の効能はどんどん上がっていった。その薬は人の生命力を急激に高めることが分かりました。粉にして、体にあびるだけで、刀傷などはすぐに消すことができるのです」
「それはすごいわ。でも、その薬を丸めて球にする必要があるのかしら?」
「実はダンジョン屋敷からリックさまが切り落としたゴブリンの片腕を持ってきていたのです。理由は、弱気な性格を直そうと思ったからですが。それは偶然でした。ゴブリンの腕の上に作った薬をふりかけてしまった。すると、ゴブリンの腕が溶け出していた。その薬はゴブリン退治に使えると思ったのです。そこで、その薬を小麦粉とねって作ったのが薬球なのですよ。これを投げて粉にもどせば、味方には身体強化薬、敵には攻撃薬になるわけです」
「そういうことだったのですか!」
 リックもきっと疑問に思っていたのだろうが、マイクの説明で納得ができたのか、うなずいていた。
「ともかく、リックさまの剣技はすごい。誰が相手であろうとあなたに勝てる者はいない」と言ったボブは腕を組んでいた。すると、リックは首を傾げた。
「私も日頃から、剣の訓練に手を抜いてはいない。しかし、突然、そのレベルが数段あがり出したきがするのですよ」
 ユリアには、その理由がなんとなくわかっていたが説明できる話ではない。だから静かに微笑んでいた。

 やがて、車窓からフリム国の街並みが見えてきた。緑木の多い街の中に立っている建物は白い家が多い。それは石灰岩のしっくいが塗られているからに違いなかった。先導役がのる馬が森の中に入っていた。

 森の中に湖が見え出し、その真ん中にフリム国の城が作られていたのだ。城に向かって長い橋がかけられていた。橋を渡らないと、湖の上にある城の中に入ることはできない。
 つまり、敵に攻められづらい城だったのだ。先導役は自国の旗と友好を示す鳩が向かい合った絵が描かれた旗を一本の棒に結んで掲げていた。
 旗を右手に持ちながら、先導兵は橋を渡り、城門に近づいていった。その後ろについて、馬車をダイルは走らす。城門に近づくと先導役は城門の上にある見張り台にいる兵士の方の顔を向けた。
「われらはオマラ国の者。ご要望の勇者パーティーの方々をお連れ致しましたぞ」

 しばらくして、城門が開き、トマド領にもやってきた外交官レッグがでてきて笑顔を見せたのだった。
「お待ち申し上げておりましたぞ。まずは、わが王と面談をしてくだされ」
 そう言ったレッグは、ユリアたちを城の中に入れ、拝謁の間に連れていってくれた。
 すでにハルタク王とナタリー王妃は並んで玉座と妃の座にすわっていた。すぐに、リックたちは、名乗り挨拶を行った。
 王は頭に王冠、背に赤いマントをたらし、小太りの体形であったが、ゴブリンにロザリー王女を連れ去られているせいか、顎のあたりが少し痩せたように見えるのだ。それに対して王妃は細身の体をしているからか、泰然としているように見えてしまう。
「待ちかねて、おりましたぞ。もはや、あなた方を頼りにするしかない」と、王は早口で話し出した。
「こちらの方にも、もとはギルドでパーティーに所属していた勇者たちを抱えているとお聞きしておりますが」
「たしかに、ここでも勇者だった騎士団を持っていましたよ。まず彼らにロザリーの救出を願いしてダンジョン洞窟に行ってもらったのですが、数人しか生き残ることができなかった」
 そう言った王は、左の方を見た。すると、そこに頭髪を白くした男が立っていて、申し訳なさそうに頭を下げていた。
「ダンジョン洞窟からロザリーが手紙を送ってくる。その手紙はロザリーが書いているかどうかは,書かれた字を見ればわかりますよ。だから、間違いなくロザリーは生きているのです。送ってくる方法は手紙を矢につけて、王の間のベランダに打ち込んでくる。一刻も早く助けてくださいと手紙に書かれているのですよ」
 王は、そこにロザリーが見えるように顔をあげていた。
「だから、これまでも、ギルドに人をやって、Aクラスの勇者パーティーをやとい、ロザリー救出のために送りこんできたのだが、誰も戻ってこない。その代わりに、ロザリーから、また早く助けてくださいという手紙が届くのですよ」
「それは、ロザリー王女さまは、まだ生きているということですね」
「そうじゃ、いってくれるか?」
 リックは「はい」と言って、うなずいた。すると、王妃が「ハルタク、もうやめにしましょう」と言い出したのだ。「ゴブリンたちは、勇者としてやってくる男たちを食いたいのです。鍛えられた肉体を食べ、知性で高められた脳をすすりたいのですよ。一体、何人の勇者たちを生贄にしてしまったことか。ほっておけば、ゴブリンたちはロザリーを生かしてくれる。それだけでいいではありませんか」
「なんということを言うのじゃ。娘を持つ母親の言葉とは信じられないことだ」
 当惑しきったリックは、改めて王の顔をみつめた。
「頼むリチャード。幼い頃、ロザリーとあんなに仲良く遊んでおったではないか」
 王にはリチャード王子とリックの違いは分かっていない。いや、王がオマラ国に親善訪問をした時の記憶が残っているのだろう。その切ない気持ちに応えるように、リックは「いってまいります」と言っていた。その後、すぐに、ダンジョン洞窟に入って生き残ってきた白髪の男に顔を向けた。
「ダンジョン洞窟には、ゴブリンは何体いるのですかな?」
「私が入った時には、二十体はおりました。ですが、その後、増えていなければの話ですが」
「そうですか。ダンジョン洞窟まで、私らを連れていってもらえるでしょうか?」
「お許しください。私には、もう無理です。洞窟のことを思っただけで、足が動かくなってしまうのです」
「それでは、私らは、どうやって行くことができるのですか?」
 リックは、王の方に顔を向けた。
「実は、これまでもギルドの人たちを案内させて、洞窟にいってくれた若者がいるのですよ」
「そうですか、それならば、その若者にお願いできるのですね?」
「もちろん、ですとも。よかった。引き受けていただけた」
 王は泣き出していた。手で涙をぬぐった後、「まずは勇者の方々に力の付く料理を腹いっぱい食べていただくことにいたそう。侍従の者たちよ。すぐに食事の用意をいたせ。強い酒も口にしたいぞ」
 リックたちは、大きく頭を王に向かってさげていた。

 宴席でご馳走を前にしたリックだったが、アルコールの入った酒類には、手を出すことはしなかった。酔ってなどいられないと思っていたからだ。リックの中に人を率いていく王の血が働き出していたからかもしれない。
 その場にも王妃がきてくれ、パーティーの人たちに慇懃に挨拶をしてくれていた。そんな姿を見ると王妃が言うように、たくさんの勇者たちがダンジョン洞窟に入って戻ってこられなかった話を思い出してしまう。
 
 そこで、宴会の最中に、リックは、ダイルに頼んで、これまでギルドの勇者たちをダンジョン洞窟に案内をした若者を探して連れてきてもらったのだ。若者は剣士見習いで荷物運びを仕事としている者だった。ダンジョン洞窟への案内は、誰もやりたがらないことなので、廻りまわって若者の仕事にされてしまっていたのだ。
「あそこは山の中ですから、馬車ではいけませんよ。歩いていくしかない」と若者は言っていた。
「そうですか。パーティーで入った人たちが戻ってこられなかった時、あなたは、様子を見に洞窟へいかなったのですか?」
「いつまでも誰も戻ってこない時に、私はいかされました。でも、洞窟の中には入りませんでしたよ」
「もしかしたら遺体などを洞窟前に捨てられていたのではありませんか?」
「遺体を見ることは、ありませんでした。腐った臭いはしていましたが。でも、武器だと思われる刀剣や鎧、それに着物などは捨てられていました」
「身ぐるみはがされた感じですね」
「そうですね。ある時から、剣や鎧に傷がつくことがなくなっていた」
「それは、どういうことですか?」
「剣での戦いなどは行われていないとしか思えないのです。その代り、鎧がつぶれているみたいでしたよ」
「すると、強烈な魔法力で一気に倒されたということでしょうか?」
「焼かれた後もないので、どういうことか、わかりません」
 若者は、身震いをしていた。
「ともかく、洞窟までの案内は、お願いいたしますね?」と、ユリアは念を押していた。
「はい、させていただきます。ですが…」
「ですが、なんですか?」
「洞窟に案内をした後、すぐに戻らせていただいてもよろしいでしょうか?」
 思わず、ユリアは、リックの方に顔を向けた。リックはため息をついていた。
「残っていても、私は何の役にもたちませんよ」
「わかりました。すぐにお帰りになって、けっこうですよ」とリックは言っていた。

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