愛のライオン・ポポ

矢野 零時

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6 おひる

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 おじいさんとエリの家は森のまん中にある平地にありました。だけど、暮らして行くことに心配はありません。近くを流れている小川から水をくんでキッチンにある大きなカメに水をためていましたし、家のそばに電信柱もあって電気もきていました。
 家の中に入ると、おじいさんは、ポットに水をカメからくんで入れ、それを火のついたコンロの上にのせました。次に、しょくパンを六枚きって、電子レンジに入れ焼きだしました。
 エリは、いつものように、おじいさんの手伝いを始めました。テーブルの真ん中に縫いぐるみのライオンを置くとその周りに皿を三枚とカップを三つ置きました。それから、広口びんに入ったイチゴジャムとバターをだしました。さらに紙パックに入った牛乳を出していました。
「ポポには、別の物を用意するね」
 そう言ったおじいさんは、冷蔵庫の冷凍室から、丸焼き用の鶏肉を出してきました。それをまな板にのせると包丁で半分にきり、半分は元の冷蔵庫に戻しました。まな板に残した半分を包丁の背で何度もたたき、のどにささらないように小骨を砕いてからポポの前にボールに入れておきました。別のボールに冷たい牛乳を入れてならべました。
 つぎに、おじいさんが電子レンジから焼けたパンを出してエリに渡すと、エリはパンにバターをたっぷりに塗って、各皿に二枚ずつおいていました。おじいさんは自分のカップにはコーヒーをいれ、エリともう一つのカップには冷たい牛乳を入れてやりました。
「ポポ、少し待ってね」とエリはポポに声をかけました。
 誰かを待っているようです?
 ポポが思ったとおり、しばらくすると家のげんかんドアがあいて一人の少年が入ってきました。
「ごめん。おそくなって」
 少年は笑顔をうかべて、テーブルに向かって空いている椅子にすわりました。
「ケン、新しい友達、ポポよ」と、エリがポポを紹介しました。
「よう、ポポ。ライオンみたいだな」
 ライオンなんだけど、とポポは胸の中で声をあげました。でも、本当の声をあげたりはしません。少年の名前がケンであることをポポは知りました。
「さあ、食べよう!」と、おじいさんが言ったので、みんなは「いただきます」と言って食べ始めました。ポポも一度だけ尾をふってから、鶏肉を食べだしました。エリたちは、ケンがガラスの入れ物に入れて持ってきたハチミツをぬって食べだしました。テーブルの上から、あまい匂いが漂ってきて、ポポは思わず顔をあげてしまいました。
「ポポも、食べる?」
 そう言って、エリはスプーンにハチミツをのせると、ポポにさしだしました。ポポは口を開けると、スプーンからハチミツが口の中にしたたり落ちてきました。思わず、ポポは身震いをしたほどでした。動物園でいろんな物を食べてきたのですが、こんな甘い食べ物は食べたありません。
 おじいさんも食べ終わると、右手でお腹を叩いていました。でも、苦しそうに見えてしまいます。
「しばらくやってこなかったが、午後は小川の清掃だな。」
「おじいさん、少し休んだ方がいいよ」
 ケンは心配そうにおじいさんの顔を見続けています。ポポもおじいさんの顔を見ました。おじいさんは笑っていて元気そうには見えます。でも、おじいさんの体から、かすかに冷や汗の臭いがしていたのでした。

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