魔法王女に転生した私は必ず勝ちますわ!

矢野 零時

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2覚醒(かくせい)

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 果歩は、朝の明るい光に目を覚ました。天幕のついた大きなベッドに寝ていたのだ。着ている服も刺繍のついたネグリジェ。いつも着ていた縦縞のパジャマではなかった。上体を起こして、自分の手をみつめた。白い。透き通るように白かった。
「シルビアさま、お早うございます。お目覚めになられましたか」
 声がした方を見ると、そこにはメイド服を着た侍女が顔をのぞかせていた。彼女の顔は東洋系ではない。明らかに鼻筋がとおっていて、目も青い。
「シルビア?」
 果歩は、呼ばれた名前を口に出してみた。この名前が私の新しい名前らしいのだ?
 すると、侍女の隣に、二人の者が現れた。一人はサンタクロースのような髭を生やした老人、その隣に中学生のように見える男の子。だが、大人の年齢のようにも見える不思議な顔をしていた。本当はまったく若くないのかもしれない。
「ダランガ国王女、シルビアさま、これが必要なのではありませんかな」と言って老人が果歩に手鏡を差し出した。受け取った鏡に自分の顔をうつして見た。
 果歩は、いやシルビアは微笑んでいた。自分でも驚くほど美しい顔に変わっていたからだ。髪は金髪で顔立ちは王女らしくどこか気品もあり、笑顔がよくにあう顔だった。
「私はロダン。こちらにいるのがトム。魔神ゾロさまの要請により、おそばにつかせていただくことになりました。どうぞ、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしく」
 思わず、シルビアは頭をさげていた。見た目は王女らしくなったのだが、頭の中にある記憶はまだ会社勤めをしていた果歩のままだ。
 二人はシルビアに挨拶をした後、寝室からでて、出入口そばに立っていた。その間に、侍女たちがやってきて、シルビアの着替えを行いドレス姿にしていた。それが終ると、食事室にシルビアを案内してくれた。
 そこには、シルビアがのぞんでいるような豪華な食事がすでに用意されていたのだ。シルビアが食事をしている間、下僕の二人はいつの間にかやってきて食事室の片隅に立っていた。食事はおいしすぎて、思わずパンを追加してしまった。いつもこんなに食べたら、すぐに太ってしまうと思っていた。
 ナフキンで口を吹いたあと、シルビアは食卓テーブルの前から立ちあがり、ロダンたちの方に顔を向けた。
「まずは、お城の中を知らないといけないでしょう。まるで分っていないわ」
「たしかに、その通り。それでは、ご案内をいたします」
 ロダンはトムとともにシルビアを先導して歩き出した。しばらくの間、通路を右に左に曲がって歩いた。突然、歩みを止めると、ロダンはシルビアの方に顔をむけた。
「まずは、この部屋を最初にお連れしないといけないと思っております」
 二本の大理石の柱に挟まれるように作られた出入口が見えてきた。
「ここは何の部屋かしら?」
「王女さま専用の魔法用具室でございます」
 シルビアが部屋の中に入っていくと、そこにはシルビアが思ってもいなかった物で満ち溢れていた。たくさんの剣がつりさげられ、槍がたてられていた。さらに盾もあり、弓や矢も並んでいた。まるで武器庫のようだった。
「ここが魔法用具室なの?」
「さようでございます。棚の方には、腕輪や指輪も並んでおります。さらにホウキや杖も置かれておりますぞ。これらは、シルビアさまでなければ取り出すことができないようになっております」
「えっ、ほんとう?」
「違いが分かるように私が剣をとってみます」
 そう言ったトムが剣の一つに近づき、それをとろうとすると、彼の体は電流が走ったように震え出し、床に倒れてしまった。
「いてて」
 トムは腰をさすりながら、立ちあがった。
「これじゃ、私だってとれないわ」
「そんなことはございません。手にとってみてくだされ」
 ロダンに言われるままに、シルビアは恐る恐るさがっている剣の一つに手をのばし触ってみた。トムと違って、シルビアには電流みたいな物が流れはしなかった。シルビアは剣を手にとってみる。その剣の柄には火の玉の絵がかかれていて、シルビアが思っていたよりは剣は重たかった。
「へえ、これが剣ですか。兵士のみなさんは、これをふって戦うのね。でも、この剣のどこが魔法とかかわっているのかしら?」
「それぞれの武具にのせることが出来る魔法が決まっております。その剣は念をこめれば、剣の先から火を飛ばすことができる剣ですぞ」
「念を込めるですって?」
 魔法使いに成りたいと思ってきたけれど、いままで魔法を使ったことはない。子供の頃、魔法使いの真似をして、木の枝をふったことはある。そう思うだけで、なにも起きたことはなかった。
「念とは、そうなって欲しいと心に描くことでございますよ」
 ロダンにそう言われたので、シルビアは剣を水平に構えて、念を入れてみた。やはり何も起こらない。
「続けてくだされ」
 繰り返し思い続けると剣の先に線香花火のような小さな火球ができ、すぐに下に落ちていった。
「できたみたい」
 シルビアは満足げに言ったのだが、ロダンたちは驚いた顔をしていた。
「こんなはずではない」と、トムが呟く。
「ロダン、もしかしたら、シルビアさまの魔法エネルギーが足りないのでは」
「そうかもしれませんな」
 ロダンはサイドテーブルの上に置かれていた透明のカードを手に取ってくると、シルビアの前にかざして見せた。
 そのカードは魔法力表示カード。魔法力を示すことができる装置だった。シルビアの前にかざしたので、シルビアの魔法力がカードに表示されていた。

   生命力     600ポイント
   魔法エネルギー 193ポイント
   使える魔法  攻撃魔法
          火力  レベル1
          水力  レベル1
          風力  レベル1
          雷力  レベル1
          防御魔法
          遮断  レベル100

「やはり魔法エネルギーポイントが低すぎますな。魔法をかける時に1ポイントを消費することになります。ですから、持っているエネルギーが少ないと、なるべく魔法を使わせないようにする節約機能が働いているかもしれませんぞ」
「でも、魔法は使えたわ。私は満足よ。他のも試してみるわね」
 柄に水玉模様のついた槍を手にすると、天井にむかってシルビアは水を頭に浮かべながら突きあげてみた。すると槍の先から、糸のような水が噴き出たのだ。どうやら水力を使うことができたようだ。だがすぐに槍の先から水がでなくなっていた。次に渦巻の絵がかかれた杖をもち、風力を念じた。すると、笛のような音をたてて、杖の先から空気が飛びでていた。
「いろいろな魔法を使えるようになったわ」
「シルビアさま、これでは魔法王女という名声のレベルには届いておりませんぞ」
「ともかく私は王女にもなれたし、魔法も使えるようになった。思ったとおりじゃないかしら」
 シルビアは思わず微笑んでいた。
 そんな時に、侍女たちがやってきた。
「午前のお茶の用意ができましたので、お呼びにまいりました」
 侍女は、杖を持っているシルビアを見ると「王女さま、秋月祭の準備でございますね」と言って、微笑んでくれたのだ。
 侍女の後について王女の部屋に戻りながら、シルビアはロダンに聞いた。
「秋月祭は、どんなお祭りなの?」
「毎年九月二十九日、夜の星々に向かって、秋の収穫を喜び来年の穀物の豊作を願うお祭りでございますよ。それは国民みんなで祝うことになる。その時に王女さまが大きな火薬玉を風の力で空に飛ばし、それに魔法の火力で点火して空に花火をあげることになっております」
「えっ、そんなこと私はできるのかしら。できないと思うわ」
「でも、これを毎年王女さまが行ってきておりますので、やってもらわないとなりません。これができないと王女は偽物だと言い出す者がでてくるかもしれませんぞ」
「それは困ったわ」
 前の王女には、そんなことは容易なことだったのだろう。だが果歩がその王女と同じ立場になりたがったので、魔神ゾロは、それができる王女を別の世界に送り込み、果歩をその後にはめ込んだのに違いなかった。ともかく普通の人間でしかなかった果歩は王女と同等の力を持ってはいない。つまり新しく王女になった果歩にとって困難な問題があることがわかったのだ。おかげで、お茶と一緒にアップルパイを食べてもあまり甘くは感じられなかった。

 その後、ロダンに連れられて、シルビアにとって母である女王ジョセフインに会うことになった。
「これから、ご一緒に暮らしていかれるのですから、お顔を覚えていただかなければなりませんぞ」
「最初には、父である王さまに会わなければならないと思うけど?」
 すると、ロダンは笑った。
「王さまは、三年前の戦で負った怪我が悪化して、すでにお亡くなりになっております。王さまの死んだことが、女王さまの心をむしばませて、いつも床にふせっている状況なのです」
 ロダンはシルビアを母であるジョセフインの寝室に連れていったのだ。ロダンの言ったとおり女王は心労のためか、青い顔をしていた。だが、シルビアを見ると微笑んでくれた。
「よく来てくれましたね。できることなら、私の方から、あなたの部屋に訪ねていきたいのですが、思うように体を動かせない」
 ジョセフインの顔を見ていると果歩の記憶が、シルビアの幼かった頃の記憶に変わり出していくのを覚えた。母であるジョセフインはやさしくシルビアを育ててくれ、シルビアは、弱り出した母を思い、この国を背負っていかなければならないと決意をしていたのだ。
 だが、それは同時に果歩だった時に、自分の両親から仕送りをして欲しいと言われたことや、結婚しないでいることを馬鹿にされたことを思い出させていた。そんな両親との面倒は嫌だと魔神ゾロに願ったので、ゾロはそれを受けてシルビアが愛したくなる王家の女王を母に選んでくれていたのだった。



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