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第4話 母とともに

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 ぼくは小学五年生になっていました。
 父がすいぞうガンでなくなり、母は一人でぼくを育てなければならなくなりました。
 でも、母は子供の頃、小児麻痺にかかっていましたので、足をひきずるように歩るき、力仕事は不向きでした。それに、働くための特別な技術も経験もなかったのです。
 こまりはてた母は、街の一角にある占いの館に行きました。
 そこには、いろいろな占いをする部屋があって、悩み事を持っている人たちはそこで占いをしてもらいに行く所だったのです。
 たまたま、母はタロッド占いの部屋に入りました。そこにいた占い師は、白髪に顎髭をはやした老人でした。この老人が占いの館を作ったオーナーでもありました。
 彼が何度占っても、母の働く先は占いの館という結果がでたのでした。たしかに、母が幼い頃、祖母からタロッドカードの扱い方を教えてもらっていたので、タロッドならば、占うことができました。そこで、老人の助手として占いの仕事を始めたのでした。
「よかったね。仕事を見つけることができて」とぼくが言うと、母は笑ってくれました。ぼくは母の嬉しそうに笑う顔が好きだったのです。
 やがて、水晶占いの部屋の人がやめてしまい、その部屋の占いを老人がすることになると、タロッド占いは母だけでするようになりました。
 もちろん、老人から仕事をもらったので、母は占い料収入の九割を老人にあげていたのでした。

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 まじめな母は、真剣に占いましたので、よく当たるようになり、たくさんの人がタロッド占いの部屋を訪れるようになりました。
 でも、難しい占いをして当てた時の母は、体のどこかが裂けて血を出すようになったのです。
 始めは、手の甲にひび割れができて血がにじみ出すだけでした。ぼくは薬局から塗り薬を買ってきて、母の手に薬を塗ってあげました。そのことを、お客さんに気づかれないように母は白い手袋をしていました。

 やがて、母は寝ていても苦しそうに唸り声をあげるようになりました。ぼくは母を起こして体中に広がる傷口に薬をぬり、包帯をまいてあげたのでした。
 病院に行くようにぼくは母に言いました。でも、老人から占い師の体の具合が悪いと思われることはしないでくれと母は言われましたので、病院には行かなかったのです。

 そのうちに、母の傷口から毛が生えだしました。始めは細い毛でしたが、やがてそれは太い毛に変わっていきました。母は体が見えないように、黒いマントをはおるようになりました。
 やがて母の顔からも毛が生え出したのです。毎朝、顔の毛をそるのですが、昼近くになると、顔一面に伸びた毛で人の顔に見えなくなってしまいます。それで、母は仮面をつけて占いの仕事を続けたのでした。

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 今度は、母の体からくさい臭いがし始めました。それも、顔をしかめたくなるような臭いです。老人は、母を別室にいさせて、お客から占って欲しいことを別の人に聞かせ、それを母に伝えて占いをさせることにしたのです。もちろん、母が占った結果をお客に伝えるのも別の人の役割になりました。

 やがて、占って欲しい内容を母に伝える者がやめていき、それもできなくなりました。
 それは、お客が占って欲しいことを伝えるためには、毛むくじゃらの獣のようになった母にあって説明しなければならなかったからです。
 老人から、ぼくにその役をするように言われました。しかたなく、ぼくは学校を休んで、占いの館で伝達役をするようになったのです。

 母から、相談にきたお客に必ず「早く、高い山の上に逃げなさい」と告げるようにぼくは言われたのです。でも、老人は、そんなことを伝える必要はないよと言って、ぼくにその占いを伝えないように黙らせたのでした。

 確かに占いにきた人たちは、好きな人の愛を得る方法だったり、どうやったらお金を儲けることができるかを聞きたがっていたのですから。 
                
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 やがて、占いの館にも母はいられなくなりました。
 母の体から出てくる臭いは強くなり、占いの館にある他の部屋まで広がり出したからです。
 老人は、占いの館ではない別の家に母に隠れて住むように言いました。母に占いの内容を知らせるのは、スマホを使えばいいと考え出したからです。
 それに、今住んでいるアパートでも母が強い臭いを出していることを知って、家主から出て行ってくれと言われ出していました。

 母にもうここに住むことができないよと話をすると、母はぼくの運を占ってくれました。
 他のお客にも言っていた占いと同じ言葉。
「まずは高い山の上に逃げなければならない」と、ぼくは母に言われたのです。
 ぼくは、母の望むように、母が決めた北アルプス近くの高台に住みたいと老人に言いました。

 老人は、母の占いのおかげで、ものすごいお金持ちになっていましたので、北アルプスにある山地をぼくたちに買ってくれました。

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 ぼくは、もう学校に行ってはいません。
 北アルプスにある平原に山小屋を建て、山地を耕して野菜を作り、自給自足の生活をしています。
 次に周りに生えた草を刈り集めて、ぼくは母の部屋に運んで積みました。母は、その草をおいしそうに食べていました。母はもう人ではなく、毛の生えた野牛になっていたのです。
 
 一度だけ、老人がぼくたちの様子を見に来たことがありました。
 母を見た老人は「未来を占える者は人ではなくなるそうだ。牛の姿になったとすれば、お母さんはくだんになったのだろう。お母さんの予言は当たるかもしれんな」と言って帰って行きましした。

 老人がここから帰って一年後。
 その日、強い光が空で生まれ、小屋の中まで光が入ってきました。ぼくはすぐに小屋から外に出てみると、大きな流れ星が空を走っていたのです。
 大きな音をさせて、流れ星は、どこかの海に落ちていきまいした。
 すぐに大きな雲柱が立ち昇り、キノコのような雲を空に作っていたのでした。
   その日から、空は灰色の雲におおわれ出しました。

 しばらくして、ぼくたちは高い山近くにいるのに海が見え出したのです。海は怒ったように波立っていました。波は、ぼくたちがいる山のふもとまでおしよせて、すべてを海にしていました。
「お母さん、ぼくと二人だけでやって行くしかなくなりましたね」
 ぼくがそう言うと、野牛になった母は、首を何度もふっていました。
                  終
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