ダンジョンライブ・RTA〜脳筋系美女配信者を助けたらバズったらしいので、一緒に最速攻略目指します〜

ネリムZ

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家族との時間

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 着々と増えてチャンネル登録者4万人を越え、収益化がかなり前から通り収益を手に入れた。

 金に余裕ができた事や夏の時期が近づいて来たので夏服を買う事を決めた。

 俺のは昔のがあるので問題無い。

 まだ高校生の二人。身長はあまり変わらないだろうが新しい服が欲しい時期だ。

 なので晩御飯の時間に切り出す事にした。

 「莉耶、竜也、夏服新しく買えるくらいの金が入ったから、遠慮無く言ってくれ」

 二人は顔を見合わせてから、俺の方を向く。

 「「昔のあるし要らない」」

 「⋯⋯そっか」

 少しは余裕のある兄らしさを見せたかったが、無理だったようだ。

 「明日母さんの見舞い行く?」

 「ああ。そのつもりだ」

 「じゃ、その帰り外で飯食べたい。最近外食無かったし」

 竜也から切り出すとは珍しい。

 莉耶も同意したので焼肉にでも行こうかな。

 「母さん⋯⋯声聞きたいな」

 俺がそんな事を言ったせいで、空気が悪くなってしまった。

 翌日、三人で母さんに会いに行った。

 今日もいつも通り、寝ていて起きる様子が無かった。

 「⋯⋯うっ」

 莉耶は細くなった母さんの姿を見て、涙を浮かべて俯いた。

 その彼女に優しく肩を寄せる竜也。

 「母さん⋯⋯最近な」

 俺達はそれぞれ最近の出来事を話しかけた。

 反応は返って来ないが、それでも一方的に話しかけた。

 昼から夜までずっといて、話しかけ続けてから帰る事に。

 「母さん、元気になるよね。能力がある世界なんだよ。回復魔法があるんだよ⋯⋯元気になるよね」

 莉耶が俺の服をギュッと掴んで、震える声で呟いた。

 神は万能でも、神の力を借りている俺らは万能では無い。

 魔法が実在する今でも、治せない病気はある。

 ありとあらゆる病を治す薬⋯⋯なんて話も聞いた事はあるが眉唾物である。

 「絶対、元気になるさ」

 疲弊している莉耶に掛ける言葉はこれしか出て来なかった。

 少し休んでから焼肉に出向く。

 いずれは高級焼肉店を家族皆で楽しむのだ。⋯⋯きっと。

 三人で焼肉屋へと向かっている最中、背後から声をかけられる。

 「黒金くん?」

 俺達三人は同時に振り向く。黒金一家だからな。

 俺の記憶に話しかけてくる女性は彩月くらいしかおらず、声が違う。

 他二人の知り合いかとボケーッと考えて相手を見ると、俺の知っている相手だった。

 「波風⋯⋯さん?」

 「うん。そうだよ。奇遇だね」

 「は、はぁ?」

 どうして波風さんに話しかけられるんだ? 接点はほとんど無い。他人と変わらない。

 だからこそ、話しかけられた事に警戒心が上がる。

 前回の報復か?

 そんな俺を他所に凛々しい顔立ちの中、薄らと微笑みながら竜也と莉耶を見る。

 「弟さんと、妹さん?」

 「そ、そうです」

 「竜也です」

 「ま、莉耶です」

 「波風凪です。お姉ちゃんとでも呼んでください」

 黒金一家は思考を停止する。

 「えっと、波風さん」

 「はい。なんですかくろ⋯⋯と、良くないですね。幸時くん」

 混乱している中、なんて言えば良いのか考える。

 相手は有名な人物である。トップギルドの実力者でモデルを兼業している。

 下手な扱いをしてネットで晒されたら⋯⋯終わる。

 「どうしてこの様な場所に有名な波風さんが⋯⋯」

 「有名って。大した事無いよ。ここら辺に住んでいるのと、この子の散歩」

 抱かれている猫を見る。

 何と言うか、哀れみを含んだ目を向けられている気がする。猫に⋯⋯同情されている気がする。

 「幸時くんは今からどちらへ?」

 「ええと。家族水入らずで焼肉に⋯⋯と」

 「まぁ。そうなんですね。私が止めてしまったようで。申し訳ありません」

 「い、いえ。大丈夫です」

 怖い。もうとにかく怖い。

 「それでは私はこれで失礼します。竜也くん、莉耶さん。また今度」

 最後まで微笑みを崩さず、全員に笑いかけてから去って行った。流石はプロ。

 美人の笑みにドキッとしている俺はおらず、ただ気さくに話しかけられ友人のように話された事に恐怖でドキドキしている。

 「に、兄さん」

 「なんだね莉耶」

 「波風さんと知り合いなの? 凄い親しそうだったけど。私、ファッションモデルの中でも凄い好きで⋯⋯リアルの波風さんも凄い綺麗で⋯⋯その」

 饒舌に話す莉耶。こんなハイテンションな莉耶は久しぶりだ。

 誕生日プレゼントは服に決まりだな。

 「⋯⋯いや、知り合いじゃない」

 白熱している妹の考えを否定する。

 「え? 友達?」

 「違う」

 「⋯⋯まさか、彼女?」

 目が黒くなり、殺意の籠った眼差しを向けて来る。

 「それも違う」

 「そう」

 少しほっとしたような、安堵したような表情を浮かべる。

 その次に竜也も含めて顔が青ざめて行く。

 「なんで兄さんの名前知ってるの?」

 「⋯⋯確かにっ」

 俺、彼女に自己紹介した覚えが無い。だって配信中しか会った事ないし。

 なんで俺の名前を知っているんだ? しかもフルネームで。

 「やばい。鳥肌立って来た」

 「怖いね、あの人」

 「波風さん⋯⋯綺麗だったけど怖い」

 俺達の共通の認識ができたところで、再び焼肉に向けて足を動かす。

 その間、波風さんの事について考えてみた。

 しかし、どうしても名前を知っている理由は分からないし、気さくに話しかけられる関係じゃないように思える。

 「うーん。どうしたものか」

 連絡先も知らないし⋯⋯よし、忘れよう。

 きっと彼女は幼馴染の誰かと俺を重ねて人違いをしただけだ。

 その相手が同姓同名なだけである。

 「兄さん、もしかして今無理やり納得させた?」

 寂しい思いになったり、怖い思いをしたり、焼肉を楽しんだりして帰宅。

 寝室に入り、次の対象を探すべくスマホを起動する。

 「ストップ」

 シュッと莉耶が俺の手からスマホを取り上げる。

 「なぜに?」

 「今日だけは⋯⋯仕事も何もかもを忘れて家族だけの時間にしようよ」

 「⋯⋯そうだな」

 俺はスマホの電源を落としてからリビングに向かい、バラエティ番組を家族皆で見た。

 今日は全員で母さんの見舞いをしたのだ。家族の時間を過ごしていた。

 だから今日一日は家族のためだけに時間を使おう。それがきっと後悔しない選択だ。

 「⋯⋯テレビは面白い。しかしやはり⋯⋯波風さんの顔がチラつく」

 「兄さん止めよう。俺も鳥肌が立って来た」

 「住所とか特定されてないよね? 兄さん何したの」

 「何もしてないはず。⋯⋯むしろ妨害して来ているのはあっちだし⋯⋯やはり幼馴染との人違い説を立証するしかないか」

 「「アホやん」」

 「でもこれだと怖くないよね?」

 「「ん~。配信で会ってるのに人違いを貫き通すのは無理がある」」

 2人とも仲良いね。

 翌日、俺は彩月の家に向かうべく靴を履く。

 「兄さん、今日ダンジョンだっけ?」

 「いいや。今日は次のダンジョンに向けての作戦会議だ。昼はそこで食べるけど、夜はうちで食べたい」

 「うん。分かった」

 莉耶はその後、俺が準備するのをジーッと見て出るのを見送ってくれる。

 しかし、荷物が軽すぎたせいか、質問される。

 「どこで作戦会議するの?」

 「ん? 相手の家」

 隠す事でも無いので、素直に言うとガチャっと鍵をかける音がした。

 莉耶がギロッと瞳だけこちらに向けて、低い声で喋る。

 「ダメ。行くの禁止」

 「なぜに」

 「⋯⋯ダメなモノはダメ」

 「じゃあ呼んで良い?」

 「もっとダメ」

 うーん。こんな事になるなら喫茶店とかに行くって言えば良かった。

 竜也を召喚して説得に協力してもらう。

 彼は嫌そうな顔をした後に莉耶を説得してくれる。

 「信じろ、兄さんと俺を。俺達の輪は乱れない。出会って数ヶ月の女に崩せない」

 「⋯⋯でも」

 「大丈夫。これは仕事だ。それに俺達が縛るのは間違っている。そうだろ?」

 「うん」

 俺には分からない次元の話だったけど、何とか許可は降りた。

 賢い二人の会話は低脳な俺には分からん。

 2日連続で理解の及ばない事が起こって少し精神的疲れが蓄積している気がした。
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