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⚠︎ここは危険な地上です
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三回の鞭打ちを受けてようやくやる気を見せたところで、トロールは肉薄していた。
振り下ろされる拳は俺の方に向かっている。
「しっ⋯⋯」
一瞬死んだと思ってしまう迫力が目前に迫る。刹那の瞬間、視界がぐらりと揺れた。
「わっ!」
トロールの巨漢の拳は大地を砕いた。
「ゼラ様ご無事ですか?」
「え? あ、うん」
“映像が凄い勢いで動いたんだけど?”
“固定カメラも移動させたのかな? 二人とも映ってたしカメラマンは居ないよね?”
“速くね?”
“てかかなりの距離離れたけど⋯⋯一秒も経ってないよね?”
“一瞬かっこよく見えたメイドさん”
“トロールも少し戸惑っているw”
“一瞬で消えたな”
“何が起こった?”
トロールがキョロキョロと見渡し、俺達を発見する。
カメラを再び地面に固定して、唯華がおもむろに歩み出す。
「愛の喝もお受けしましたし、終わらせましょうか」
だらりと腕を下げて楽な格好のまま進む。戦う気があるのか分からなくなる。
「【換装】」
唯華のアビリティの一つ【総合換装】である。瞬時に装備を切り替える能力だ。
装備はどこにあるのか? 無から作り出している訳では無い。
その秘密が今適当に放置されているスーツケースだ。
これも唯華のアビリティに関係するモノで【亜空間目録】だ。入れ物を亜空間にする事で無限に物を収納できる能力。
ポケットや鞄、入れ物ならなんでも構わない。
この二つのアビリティが噛み合わり沢山の装備を瞬時に切り替える事ができる。
ただし、インベントリには無限に物は入るが重さは蓄積される事になる。
なのでタイヤのあるスーツケースを選んでいる。重くても運びやすいから。
プリセットホルダーは半径百メートル圏内にあるインベントリから装備を交換できる。
「トロールの刺身と致しましょう」
唯華が取り出したのは二丁の刺身包丁だった。
料理道具の一つだが、彼女が握れば素人の握る大剣よりも恐ろしい。
大地を揺るがす強さで踏み込み、トロールの背後を取った。
その時間は一秒にも満たない。
トロールが唯華を次に認識できる事は無く、何が起こったのかも気付かぬ間に死んだ。
刺身にされたトロールの赤き噴水を浴びながら唯華はこちらに向かって来る。
包丁には錆の一つも無いだろう。
優雅に、それでいて凛々しく帰って来る。
“強い”
“一瞬だったな”
“瞬殺したやん”
“どっから武器出した?”
“このガキなんもしてないな”
“メイド叩いただけやん”
“え、ん?”
“つまらん”
初めて見た訳では無いが、やはりこうもモンスターをあっさり倒されると驚かされる。
簡単には見慣れないかもしれない。
唖然としていると、唯華は何を思ってか自分に着いた血を一滴俺の頬に飛ばした。
「んっ?」
ぺちゃっと頬に引っ付く血はベトベトで少し生暖かかった。
「申し訳ありませんゼラ様。出来たてのゆで卵のように艶やかでお美しい顔に、あろう事か下劣なモンスターの血を浴びせてしまいました!」
悲観的で大袈裟な動作で悲しむ唯華。
⋯⋯トロールを倒した所は5メートル程離れており、鮮血を浴びる事は無かった。
そもそも俺はしっかり、唯華が自分で考えて血を飛ばして来たのを見ている。シンプルなヤラセ。
はは。
⋯⋯嫌だからな? 俺はもう一仕事を終えている。これ以上俺に鞭を振るわせないでくれ。
唯華は大切な人だし傷つけたくない。本人の意思はともかく。
何より俺は逆の立場が良かったのだ。
“おしおきだな”
“これは仕方ない。メイドさんが悪い”
“これでおしおきしないなら帰る”
“そう言う趣旨のチャンネルなんだよね?”
“これは全てゼラにかかってるな”
“なんこれ”
“今メイドさんが飛ばさなかった?”
“おいおい”
端末をチラッと見ると、コメント欄では『おしおき』を望んでいる声が多い⋯⋯のかな?
唯華の方を見れば、俺の知ってる冷えた無表情を浮かべていた。
だが、その目は渇望している。野心が溢れ出した瞳をしている。
配信者として成功するためにも、俺の『目的』を成すためにも。
やるしか、無い。⋯⋯やるしかないのか?
「そ、そうね。これはアンタの失態よ。猛省しなさい。⋯⋯今回は軽めで許して、あ、げ、る。さぁ。どこをいじめて欲しいのかしら? その口ではっきりと言いなさい」
「ぜんっ⋯⋯ゼラ様のお望む所全てでご容赦ください」
この女今、全部って言おうとしたよな? 間違いなく全部って言おうとしたよな?
“ゼラ最初噛んだ?”
“噛んだよな?”
“演技臭くなったな”
“さぁどうする?”
“こっちは十分好きかも”
“こんなのも良いかもしれない”
“殺風景な所じゃなくて館のロビーでして欲しい”
“貧民なんだろうな”
“あんまり貧しそうには見えんけどな”
“メイドさんの立ち振る舞いも立派だし”
“まさかの貴族?”
“こんな子知らないんだけどなぁ”
既に打ち合わせには無い展開。俺の演技力と対応力が求められている。
アドリブで成功させるしかない。最初の出だしが失敗するとこの先の成功が難しい。
著名人に認知され拡散して貰うのが最短ルート。
そのためには、己の性癖を封じ込めて本心とは真逆の事をすれば良い。
要するに、俺が喜ぶ事を彼女にしてやるのだ。
どれだけ挑発的で暴力的だろうが。
「そうね。それじゃ」
頬にある血を親指で拭い、それを唯華の柔らかなほっぺに擦り付ける。服はダメだ。
モンスターの血は落ち難い。⋯⋯もうだいぶ汚れてるけど。
唇の方が良いかもしれないが、口内に入れるのは危険なため避ける事にした。
「最初のノロマな亀さんに与えた反対の、こぉこ、にアンタの失態を刻み込んであげるわ」
最初に叩いてない方のヒップを掴んで相手の瞳を覗き込みながら答える。
卑劣で外道な吊り上げた笑みを浮かべながら。
本来ならここは怯えて震えながら許しを乞う場面だが⋯⋯唯華は頬を緩めて目元も柔らかくなる。
うん。悦んでる。
嬉しさのあまり身体が小刻みに震えている。
“ちゃんと百合?”
“これは逸材かな?”
“このメイド喜んでない?”
“やっぱりチャンネル名の由来って⋯⋯”
唯華は必死に表情を固めて、お尻を俺に向けて四つん這いになる。
「この愚かで下等な下民に天罰をっ!」
「なにをいっ⋯⋯」
もちつけ俺! 違う落ち着け俺。
この発言は演技に熱が入った唯華の妄言だ。そんな事思った事が無い。
唯華が下民なら俺はなんなのだ。唯華がいなければこうしていられなかったこの俺が。
これは演技。そう、演技なのだ。
「ええ。その無駄に豚を引き付けるだらしない身体に刻んであげるわ。二度とこんなミスをしないようにね!」
本当にこれで良かったのか。他の道は無かったのか。
自分に嘘をついて、大切な人に手をあげてまで、得る必要があるのか。
俺の中にある複雑な感情。葛藤など気にする時間は無い。
時間をかけすぎるとブラウザバックの対象になる。
ここは怒りを込めたかのような、鞭打ちをするしかない。怒ってないけど。
「ほら鳴きなさい。醜いトロールの様にね!」
「はひっ!」
悦ぶな!
鞭で打たれる度に艶かしい声を出し、身体を揺らした。
メイド服の上からも分かるスタイルの良さ。
容姿だけでも唯華は立派にやって行ける。そう思わせる美しさがある。
⋯⋯だが、こうして自らが望んだ状況を作り出す程には残念味がある。
俺に、望まぬ事をさせて得られる快楽はさぞかしい楽しいだろうよ。
その愉悦に俺も浸りたいモノだ。
一周回って空虚な気持ちになって来た。
この状況を楽しむ性癖は持ち合わせていない。もしもそうだったら唯華と俺の相性は抜群に良かっただろう。
「お、おじょうしゃまの愛をかんじましゅ」
「気のせいよ」
“あらまキッパリ”
“結構好きかも”
“今後も過激になるのかな?”
“楽しだなぁ”
唯華が感じているのは単なる回復効果。この身体だけにあるアビリティ【攻撃変換★】の影響だろう。
ありとあらゆる攻撃が全て様々な回復効果に変わる能力だ。
体力、精神的疲労、特定のアビリティ使用時に消耗されるエネルギー、様々だ。
「ふふっ」
「はぁ。はぁ。も、もっちょぉお」
こんな茶番にもきっと価値がある。それを示すモノが欲しい。
じゃなきゃ俺の精神が持たん。
「む?」
変な事を考えていると、地震でも起こったのか地面が揺れた。
そして、地面を食い破り地中からモンスターが現れる。
アースワーム、ミミズ型の巨大モンスターだ。
全長十メートルはありそう。口は円形で大量の歯が存在する。
脈動する全身を見た俺。
だから一言、自然に漏れてしまった。
「キッモ」
振り下ろされる拳は俺の方に向かっている。
「しっ⋯⋯」
一瞬死んだと思ってしまう迫力が目前に迫る。刹那の瞬間、視界がぐらりと揺れた。
「わっ!」
トロールの巨漢の拳は大地を砕いた。
「ゼラ様ご無事ですか?」
「え? あ、うん」
“映像が凄い勢いで動いたんだけど?”
“固定カメラも移動させたのかな? 二人とも映ってたしカメラマンは居ないよね?”
“速くね?”
“てかかなりの距離離れたけど⋯⋯一秒も経ってないよね?”
“一瞬かっこよく見えたメイドさん”
“トロールも少し戸惑っているw”
“一瞬で消えたな”
“何が起こった?”
トロールがキョロキョロと見渡し、俺達を発見する。
カメラを再び地面に固定して、唯華がおもむろに歩み出す。
「愛の喝もお受けしましたし、終わらせましょうか」
だらりと腕を下げて楽な格好のまま進む。戦う気があるのか分からなくなる。
「【換装】」
唯華のアビリティの一つ【総合換装】である。瞬時に装備を切り替える能力だ。
装備はどこにあるのか? 無から作り出している訳では無い。
その秘密が今適当に放置されているスーツケースだ。
これも唯華のアビリティに関係するモノで【亜空間目録】だ。入れ物を亜空間にする事で無限に物を収納できる能力。
ポケットや鞄、入れ物ならなんでも構わない。
この二つのアビリティが噛み合わり沢山の装備を瞬時に切り替える事ができる。
ただし、インベントリには無限に物は入るが重さは蓄積される事になる。
なのでタイヤのあるスーツケースを選んでいる。重くても運びやすいから。
プリセットホルダーは半径百メートル圏内にあるインベントリから装備を交換できる。
「トロールの刺身と致しましょう」
唯華が取り出したのは二丁の刺身包丁だった。
料理道具の一つだが、彼女が握れば素人の握る大剣よりも恐ろしい。
大地を揺るがす強さで踏み込み、トロールの背後を取った。
その時間は一秒にも満たない。
トロールが唯華を次に認識できる事は無く、何が起こったのかも気付かぬ間に死んだ。
刺身にされたトロールの赤き噴水を浴びながら唯華はこちらに向かって来る。
包丁には錆の一つも無いだろう。
優雅に、それでいて凛々しく帰って来る。
“強い”
“一瞬だったな”
“瞬殺したやん”
“どっから武器出した?”
“このガキなんもしてないな”
“メイド叩いただけやん”
“え、ん?”
“つまらん”
初めて見た訳では無いが、やはりこうもモンスターをあっさり倒されると驚かされる。
簡単には見慣れないかもしれない。
唖然としていると、唯華は何を思ってか自分に着いた血を一滴俺の頬に飛ばした。
「んっ?」
ぺちゃっと頬に引っ付く血はベトベトで少し生暖かかった。
「申し訳ありませんゼラ様。出来たてのゆで卵のように艶やかでお美しい顔に、あろう事か下劣なモンスターの血を浴びせてしまいました!」
悲観的で大袈裟な動作で悲しむ唯華。
⋯⋯トロールを倒した所は5メートル程離れており、鮮血を浴びる事は無かった。
そもそも俺はしっかり、唯華が自分で考えて血を飛ばして来たのを見ている。シンプルなヤラセ。
はは。
⋯⋯嫌だからな? 俺はもう一仕事を終えている。これ以上俺に鞭を振るわせないでくれ。
唯華は大切な人だし傷つけたくない。本人の意思はともかく。
何より俺は逆の立場が良かったのだ。
“おしおきだな”
“これは仕方ない。メイドさんが悪い”
“これでおしおきしないなら帰る”
“そう言う趣旨のチャンネルなんだよね?”
“これは全てゼラにかかってるな”
“なんこれ”
“今メイドさんが飛ばさなかった?”
“おいおい”
端末をチラッと見ると、コメント欄では『おしおき』を望んでいる声が多い⋯⋯のかな?
唯華の方を見れば、俺の知ってる冷えた無表情を浮かべていた。
だが、その目は渇望している。野心が溢れ出した瞳をしている。
配信者として成功するためにも、俺の『目的』を成すためにも。
やるしか、無い。⋯⋯やるしかないのか?
「そ、そうね。これはアンタの失態よ。猛省しなさい。⋯⋯今回は軽めで許して、あ、げ、る。さぁ。どこをいじめて欲しいのかしら? その口ではっきりと言いなさい」
「ぜんっ⋯⋯ゼラ様のお望む所全てでご容赦ください」
この女今、全部って言おうとしたよな? 間違いなく全部って言おうとしたよな?
“ゼラ最初噛んだ?”
“噛んだよな?”
“演技臭くなったな”
“さぁどうする?”
“こっちは十分好きかも”
“こんなのも良いかもしれない”
“殺風景な所じゃなくて館のロビーでして欲しい”
“貧民なんだろうな”
“あんまり貧しそうには見えんけどな”
“メイドさんの立ち振る舞いも立派だし”
“まさかの貴族?”
“こんな子知らないんだけどなぁ”
既に打ち合わせには無い展開。俺の演技力と対応力が求められている。
アドリブで成功させるしかない。最初の出だしが失敗するとこの先の成功が難しい。
著名人に認知され拡散して貰うのが最短ルート。
そのためには、己の性癖を封じ込めて本心とは真逆の事をすれば良い。
要するに、俺が喜ぶ事を彼女にしてやるのだ。
どれだけ挑発的で暴力的だろうが。
「そうね。それじゃ」
頬にある血を親指で拭い、それを唯華の柔らかなほっぺに擦り付ける。服はダメだ。
モンスターの血は落ち難い。⋯⋯もうだいぶ汚れてるけど。
唇の方が良いかもしれないが、口内に入れるのは危険なため避ける事にした。
「最初のノロマな亀さんに与えた反対の、こぉこ、にアンタの失態を刻み込んであげるわ」
最初に叩いてない方のヒップを掴んで相手の瞳を覗き込みながら答える。
卑劣で外道な吊り上げた笑みを浮かべながら。
本来ならここは怯えて震えながら許しを乞う場面だが⋯⋯唯華は頬を緩めて目元も柔らかくなる。
うん。悦んでる。
嬉しさのあまり身体が小刻みに震えている。
“ちゃんと百合?”
“これは逸材かな?”
“このメイド喜んでない?”
“やっぱりチャンネル名の由来って⋯⋯”
唯華は必死に表情を固めて、お尻を俺に向けて四つん這いになる。
「この愚かで下等な下民に天罰をっ!」
「なにをいっ⋯⋯」
もちつけ俺! 違う落ち着け俺。
この発言は演技に熱が入った唯華の妄言だ。そんな事思った事が無い。
唯華が下民なら俺はなんなのだ。唯華がいなければこうしていられなかったこの俺が。
これは演技。そう、演技なのだ。
「ええ。その無駄に豚を引き付けるだらしない身体に刻んであげるわ。二度とこんなミスをしないようにね!」
本当にこれで良かったのか。他の道は無かったのか。
自分に嘘をついて、大切な人に手をあげてまで、得る必要があるのか。
俺の中にある複雑な感情。葛藤など気にする時間は無い。
時間をかけすぎるとブラウザバックの対象になる。
ここは怒りを込めたかのような、鞭打ちをするしかない。怒ってないけど。
「ほら鳴きなさい。醜いトロールの様にね!」
「はひっ!」
悦ぶな!
鞭で打たれる度に艶かしい声を出し、身体を揺らした。
メイド服の上からも分かるスタイルの良さ。
容姿だけでも唯華は立派にやって行ける。そう思わせる美しさがある。
⋯⋯だが、こうして自らが望んだ状況を作り出す程には残念味がある。
俺に、望まぬ事をさせて得られる快楽はさぞかしい楽しいだろうよ。
その愉悦に俺も浸りたいモノだ。
一周回って空虚な気持ちになって来た。
この状況を楽しむ性癖は持ち合わせていない。もしもそうだったら唯華と俺の相性は抜群に良かっただろう。
「お、おじょうしゃまの愛をかんじましゅ」
「気のせいよ」
“あらまキッパリ”
“結構好きかも”
“今後も過激になるのかな?”
“楽しだなぁ”
唯華が感じているのは単なる回復効果。この身体だけにあるアビリティ【攻撃変換★】の影響だろう。
ありとあらゆる攻撃が全て様々な回復効果に変わる能力だ。
体力、精神的疲労、特定のアビリティ使用時に消耗されるエネルギー、様々だ。
「ふふっ」
「はぁ。はぁ。も、もっちょぉお」
こんな茶番にもきっと価値がある。それを示すモノが欲しい。
じゃなきゃ俺の精神が持たん。
「む?」
変な事を考えていると、地震でも起こったのか地面が揺れた。
そして、地面を食い破り地中からモンスターが現れる。
アースワーム、ミミズ型の巨大モンスターだ。
全長十メートルはありそう。口は円形で大量の歯が存在する。
脈動する全身を見た俺。
だから一言、自然に漏れてしまった。
「キッモ」
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