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神が捨てると言うのなら
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「輝夜様っ!」
「へぇ?」
「ッ! なに、してんのよ」
ギリギリで光の槍を自分の手に刺して防ぐ事ができた。
1秒でも遅れていたら天野さんは胸を自分の魔法で貫いていただろう。
「どうして自ら命を絶つマネをする?」
「わたくしは外法に触れ、外道に堕ちました。わたくしはアマテラス様を信仰する者として天罰を与えなくてはなりません。これはわたくしの意思でございます」
聖女ではなく、アマテラスを信仰する人としての行い、か。
だと言うのに、世界に失望したような顔をする。望んでいる事じゃないんだろう。
この顔は家族を失った現実を受け入れられなかった⋯⋯過去の俺そっくりだ。
「なんでだよ。これこら自分の幸せも考えようって時に、どうして⋯⋯」
「それがわたくしの生き方でございます。これがわたくしなのです。⋯⋯だからどうか、お止めになさらないでください」
俺は天野さんの頭に手を置いて、額と額を強くぶつけた。
ゴツン、と鈍い音が響くと同士に頭に広がる痛み。
いきなりの行動に唯華は混乱し、天野さんはキョトンしている。
「それが、神の教えなら⋯⋯そんな教え捨ててしまえ!」
「それは⋯⋯」
「できないか? そうやって生きて来たから⋯⋯そんなの関係ないだろ。どうして誰かに死ねと言われ死なないとならない。その命は自分のだ。他人の教えも理念も関係無い。アンタは、死にたいのか?」
「わたくしは⋯⋯」
死にたいと思う人間はこの世に誰一人としていない。
自害を選ぶ人もどうしようもなくて、世界から逃げたくて選んぶに過ぎない。死にたいと思っているはずが無い。
誰もが死ぬのは怖いし、無意識に嫌うモノだ。
「死ぬのは未来を失う事だ。これから先の楽しい事や嬉しい事全部無くすんだ!」
「それが外法に染まった者には相応しい末路です」
「それは違う! そんなのはただ罪から逃げているだけだろ」
「罪から、逃げる?」
「そうだ。よく聞け。禁具は貴女を選んだ。今現在貴女は正常な思考ができてる。ソイツは単なる大きな力だ。アマテラスの使者として誰かを守る事のできる力だ」
「守る⋯⋯力」
禁具が禁止されている理由はペナルティの暴走による街の破壊や人的被害が起こるからだ。
ペナルティが無く禁具を扱えるならそれは単なる強い武具となる。
「これも運命だ。それを受け入れてどう扱うかが大切な事だと思う」
「運命⋯⋯ですか」
「ああ。それは神が貴女に授けた力だ。だと言うのに、それを拒絶するのか?」
「それは⋯⋯」
「神は慈悲深いんだろ。なのに、悪意も無く触れただけで処罰しないといけないなんて⋯⋯ふざけてるだろ。どうしてそんな理由で命を奪われないといけない」
この言葉は天野さんに言っている様に見えるが単なる嘆きである。
こんな考えがあるから、騙され俺の家は潰された。家族を失った。
唯華も理解しているのだろう。下唇を噛み締めて自分の感情を殺している。
それが伝わるはずもなく、天野さんは俺の小さな身体を抱き締めた。
その腕はとても震えていた。
「わたくしは⋯⋯死にたくない。これがもしもアマテラス様が授けてくださった力なら、誰かのために使いたい。⋯⋯でもそれもきっと思い込みに過ぎません。自分を守るための詭弁でございます」
天野さんの意思は堅い。
死ぬのは嫌だが、それでも神の教えには逆らえないらしい。
だが俺はそれを止めなくてはならない。
きっとそう思うのは打算的な考えがあるからだろう。
聖女の力は強い。いずれ貴族に返り咲く時に心強い手札となる。
それだけでは無い。
聖女を通じてアマテラスの考え方を変えられるかもしれない。
禁具を絶対的な悪では無く、共存し人類の大いなる力と見させる事ができるかもしれない。
ここで自分達と親しくなり始めた、立場も高位の天野さんを失う訳にはいかないのだ。
⋯⋯何よりも、家族を奪った理由で自ら命を絶つのが許せない。
家族を奪ったんだ。そう簡単に死んで欲しくない。
生きて、償って欲しい。
無実の人達を滅ぼしたその罪を全員で受けて欲しい。
⋯⋯でも、それを口にはできない。今はまだ言う訳にはいかない。
「まだ約束は果たしてないわよ」
「⋯⋯ゼラ、様?」
俺はゼラとなり、天野さんの瞳の奥を睨みつける。
「こっちはね、約束は果たすの。勝手にいなくなるのは許さないわ!」
「⋯⋯申し訳ございません。それでも、わたくしは⋯⋯」
「そう。そんなに死を望むなら、そんなに外道の道から外れたいなら⋯⋯その命をゼラに寄越しなさい!」
「ん?」
捨てる神ありば拾う神ありだ。
天野さんが自分の命を神の下捨てるなら、俺がそれを拾う。
「アンタはこのゼラの所有物。勝手に死ぬなんてのは許可しないわ」
「⋯⋯申し訳、ございません。わたくしは神に生かされた身。故に、神のために生きるのです。神に逆らう真似など」
「アンタの崇拝する神は薄情なのね」
「そんな事ありません!」
珍しく、天野さんは怒りを表して怒鳴った。
神を貶される事は許さないのか。
「その神は死を望むのか。自分を信仰している人間が死ぬ事を望むのか。それを薄情と言わずなんと言うか」
「神は慈悲深いです。ですが外法に⋯⋯」
「それを決めたのはその組織だ。神じゃない。アンタは神の声を聞いたのか。直接、禁具に触れた者は死ねと聞いたか」
「⋯⋯」
「目を逸らすな!」
叫ぶと、ハッと驚いたように目を合わせる。
「死にたくないなら生きろ。理由が無いならゼラが与えてあげるわ。神のために生きるなら生き続けてその信仰を示しなさいよ。その力があるのに、どうして現世から離れようとする! 外法なんて関係ない。アンタは外道じゃない」
「わたくしは」
「神のために生きろ。このゼラ様のために生きろ。人々を守るために生きろ。それが聖女に与えられた宿命よ!」
俺は自分の心を落ち着け、静華に戻って天野さんを抱く力を上げる。
離さないように、がっしりと。
「僕は⋯⋯貴女に生きていて欲しい。友達を失うのは⋯⋯嫌だ。大切な人はもう、誰一人として、失いたくないんだ」
「ッ!」
天野さんも込める力を上げた。
「わたくしは⋯⋯生きても良いのでしょうか。様々な方に外法に触れるなと教えを広めておきながら、いざ自らが外法に触れたら考えを変えるなんて⋯⋯」
「何も変わってないさ。禁具が危険なのも変わってない。その教えは間違ってない。⋯⋯ただ、調和できる存在もいるってだけだ」
「わたくしは教えに背きます。神を信仰する者として、有るまじき最低な行為をします。⋯⋯それでも、生きていて良いのでしょうか」
「当たり前じゃないか。もしも教皇が死ねと言うなら、あるいは神だろうと⋯⋯僕がそれを否定する、僕は君が生きる事を肯定する。君は⋯⋯生きなくてはならない。それがきっと、世界のため、神のためになるのだから」
その後はもう、地上全域に広がるんじゃないかと思わせる程の声が響いた。
これから先に待ち受ける茨の道は想像を絶するだろう。
だけど、彼女の存在が認められる様に俺は手を貸すつもりだ。
情けは人の為ならず。
彼女を助けて立場を確立させる事こそが今後重要になるだろう。
禁具の考え方を変えられる。俺の家族のような被害を出さずに済むようになる。
だからこそ、彼女は生きなくてはならない。
外法がなんだ。神がなんだ。
直接姿を表さず手も貸さないそんなヤツらになんの価値がある? 従う意味がある?
無い。あって良いはず無い。
生きたいと願うなら、生きるべきだ。
「わたくしは⋯⋯生きます。それがどれだけ周りの期待を裏切り失望されたとしても。人々を護る力となる。きっとそれがわたくしの運命ですから」
「良いじゃん」
迷いの晴れた、良い笑顔を見てくれた。
心に呼応してか、禁具の翼は光の粒子となって空に舞って行く。
俺達の知る、純白の聖女が戻って来た。
彼女はもう、自ら死を選ぶ事は無いだろう。
彼女は否定されても自分を曲げないだろう。
周りは受け入れてくれないかもしれない。アマテラスから追い出されるかもしれない。
それでも、味方はいる。
◆
クイーンドリアード討伐作戦も終わり、報酬は後日貰える事となった。
今は家で唯華とゴロゴロし、少し汚れて腐敗した天井を見上げている。
「色々とあったな」
「そうですね。輝夜様、かっこ良かったです」
「打算的な所もあった。凄くダサい行為だよ」
「それを理解している上で、私はそう思います」
唯華から顔を逸らすように身体を横に転がす。
しかし、彼女は俺の上に跨り顔を合わさせる。
唯華が密着して来る。下部に感じる重さと形は⋯⋯。
血の巡りが加速して熱く硬くなる心を落ち着かせようと努力する。
「輝夜様、私の目を見てください」
「どいてくれ⋯⋯」
「嫌です」
自称メイドさんは私利私欲のために良く行動する。それは今回も変わらないのかもしれない。
手を重ね、指を絡めらて逃げられないようにされる。
「輝夜様」
「な、なに?」
唯華とて平常心ではいられないのか、顔をトマトのように赤らめている。
2人の心臓の音がとても大きく聞こえる。
「⋯⋯私、輝夜様にお伝えしたい事がございます」
「な、何かな?」
長い髪が垂れて、俺の頬を撫でる。
無意識だろうか。唯華の手に少し力が込められた。
「輝夜様」
「⋯⋯う、うん」
緊張で喉が急速に乾く。言葉が上手く出せない程に。
「⋯⋯あの聖女にした事、私にもしてください。身内サービスとして、もっと過激なのをご所望します。私、頑張りました。ご褒美をください」
「⋯⋯全く」
俺はゼラに変身して唯華の拘束から脱出。その過程で顔で胸を擦ったが、考えないでおく。
そうしないと思考が柔らかいメロンで支配されるから。
「⋯⋯輝夜様、逃がしまっ」
すぐに捕まえようとする唯華の頬に、俺は自身の唇を押し当てた。
「こ、今回はこれで許しなさい⋯⋯どこまで価値があるか分からない、けど」
唇を与えた頬に優しく手を重ね、普段は見せない嬉しさと優しさに溢れた天使の様な笑みを浮かべる。
「仕方ありませんね。今回は、コレと脱ぎたてパンツで許します」
「後半は無しよ!」
「ゼラ様モードに逃げたのでその減点分の補填です」
「うぐっ」
勇気が無かったからゼラモードになったの見抜かれてる。
冗談のように聞こえるのは、きっとその表情と声音からだろう。
まぁ、多分本気だと思うけど。
「それが嫌なら私にも同じ事を⋯⋯」
唯華が俺に襲いかかる瞬間、扉が勢い良くノックされた。
「わたくしでございます。お話⋯⋯」
唯華が包丁を持って壊す勢いでドアを開け、突き出した。
それを防御魔術で防ぐ。
「いきなりですね、メイド様」
「主との愛を深める時間を邪魔した罪、その身体に刻んでやろう聖女」
「そうは行きませんよ!」
「貴様の羽を1枚1枚もいでやろう!」
喧嘩を始める2人。
俺はゆっくりと、ドアを閉めたのだった。
「へぇ?」
「ッ! なに、してんのよ」
ギリギリで光の槍を自分の手に刺して防ぐ事ができた。
1秒でも遅れていたら天野さんは胸を自分の魔法で貫いていただろう。
「どうして自ら命を絶つマネをする?」
「わたくしは外法に触れ、外道に堕ちました。わたくしはアマテラス様を信仰する者として天罰を与えなくてはなりません。これはわたくしの意思でございます」
聖女ではなく、アマテラスを信仰する人としての行い、か。
だと言うのに、世界に失望したような顔をする。望んでいる事じゃないんだろう。
この顔は家族を失った現実を受け入れられなかった⋯⋯過去の俺そっくりだ。
「なんでだよ。これこら自分の幸せも考えようって時に、どうして⋯⋯」
「それがわたくしの生き方でございます。これがわたくしなのです。⋯⋯だからどうか、お止めになさらないでください」
俺は天野さんの頭に手を置いて、額と額を強くぶつけた。
ゴツン、と鈍い音が響くと同士に頭に広がる痛み。
いきなりの行動に唯華は混乱し、天野さんはキョトンしている。
「それが、神の教えなら⋯⋯そんな教え捨ててしまえ!」
「それは⋯⋯」
「できないか? そうやって生きて来たから⋯⋯そんなの関係ないだろ。どうして誰かに死ねと言われ死なないとならない。その命は自分のだ。他人の教えも理念も関係無い。アンタは、死にたいのか?」
「わたくしは⋯⋯」
死にたいと思う人間はこの世に誰一人としていない。
自害を選ぶ人もどうしようもなくて、世界から逃げたくて選んぶに過ぎない。死にたいと思っているはずが無い。
誰もが死ぬのは怖いし、無意識に嫌うモノだ。
「死ぬのは未来を失う事だ。これから先の楽しい事や嬉しい事全部無くすんだ!」
「それが外法に染まった者には相応しい末路です」
「それは違う! そんなのはただ罪から逃げているだけだろ」
「罪から、逃げる?」
「そうだ。よく聞け。禁具は貴女を選んだ。今現在貴女は正常な思考ができてる。ソイツは単なる大きな力だ。アマテラスの使者として誰かを守る事のできる力だ」
「守る⋯⋯力」
禁具が禁止されている理由はペナルティの暴走による街の破壊や人的被害が起こるからだ。
ペナルティが無く禁具を扱えるならそれは単なる強い武具となる。
「これも運命だ。それを受け入れてどう扱うかが大切な事だと思う」
「運命⋯⋯ですか」
「ああ。それは神が貴女に授けた力だ。だと言うのに、それを拒絶するのか?」
「それは⋯⋯」
「神は慈悲深いんだろ。なのに、悪意も無く触れただけで処罰しないといけないなんて⋯⋯ふざけてるだろ。どうしてそんな理由で命を奪われないといけない」
この言葉は天野さんに言っている様に見えるが単なる嘆きである。
こんな考えがあるから、騙され俺の家は潰された。家族を失った。
唯華も理解しているのだろう。下唇を噛み締めて自分の感情を殺している。
それが伝わるはずもなく、天野さんは俺の小さな身体を抱き締めた。
その腕はとても震えていた。
「わたくしは⋯⋯死にたくない。これがもしもアマテラス様が授けてくださった力なら、誰かのために使いたい。⋯⋯でもそれもきっと思い込みに過ぎません。自分を守るための詭弁でございます」
天野さんの意思は堅い。
死ぬのは嫌だが、それでも神の教えには逆らえないらしい。
だが俺はそれを止めなくてはならない。
きっとそう思うのは打算的な考えがあるからだろう。
聖女の力は強い。いずれ貴族に返り咲く時に心強い手札となる。
それだけでは無い。
聖女を通じてアマテラスの考え方を変えられるかもしれない。
禁具を絶対的な悪では無く、共存し人類の大いなる力と見させる事ができるかもしれない。
ここで自分達と親しくなり始めた、立場も高位の天野さんを失う訳にはいかないのだ。
⋯⋯何よりも、家族を奪った理由で自ら命を絶つのが許せない。
家族を奪ったんだ。そう簡単に死んで欲しくない。
生きて、償って欲しい。
無実の人達を滅ぼしたその罪を全員で受けて欲しい。
⋯⋯でも、それを口にはできない。今はまだ言う訳にはいかない。
「まだ約束は果たしてないわよ」
「⋯⋯ゼラ、様?」
俺はゼラとなり、天野さんの瞳の奥を睨みつける。
「こっちはね、約束は果たすの。勝手にいなくなるのは許さないわ!」
「⋯⋯申し訳ございません。それでも、わたくしは⋯⋯」
「そう。そんなに死を望むなら、そんなに外道の道から外れたいなら⋯⋯その命をゼラに寄越しなさい!」
「ん?」
捨てる神ありば拾う神ありだ。
天野さんが自分の命を神の下捨てるなら、俺がそれを拾う。
「アンタはこのゼラの所有物。勝手に死ぬなんてのは許可しないわ」
「⋯⋯申し訳、ございません。わたくしは神に生かされた身。故に、神のために生きるのです。神に逆らう真似など」
「アンタの崇拝する神は薄情なのね」
「そんな事ありません!」
珍しく、天野さんは怒りを表して怒鳴った。
神を貶される事は許さないのか。
「その神は死を望むのか。自分を信仰している人間が死ぬ事を望むのか。それを薄情と言わずなんと言うか」
「神は慈悲深いです。ですが外法に⋯⋯」
「それを決めたのはその組織だ。神じゃない。アンタは神の声を聞いたのか。直接、禁具に触れた者は死ねと聞いたか」
「⋯⋯」
「目を逸らすな!」
叫ぶと、ハッと驚いたように目を合わせる。
「死にたくないなら生きろ。理由が無いならゼラが与えてあげるわ。神のために生きるなら生き続けてその信仰を示しなさいよ。その力があるのに、どうして現世から離れようとする! 外法なんて関係ない。アンタは外道じゃない」
「わたくしは」
「神のために生きろ。このゼラ様のために生きろ。人々を守るために生きろ。それが聖女に与えられた宿命よ!」
俺は自分の心を落ち着け、静華に戻って天野さんを抱く力を上げる。
離さないように、がっしりと。
「僕は⋯⋯貴女に生きていて欲しい。友達を失うのは⋯⋯嫌だ。大切な人はもう、誰一人として、失いたくないんだ」
「ッ!」
天野さんも込める力を上げた。
「わたくしは⋯⋯生きても良いのでしょうか。様々な方に外法に触れるなと教えを広めておきながら、いざ自らが外法に触れたら考えを変えるなんて⋯⋯」
「何も変わってないさ。禁具が危険なのも変わってない。その教えは間違ってない。⋯⋯ただ、調和できる存在もいるってだけだ」
「わたくしは教えに背きます。神を信仰する者として、有るまじき最低な行為をします。⋯⋯それでも、生きていて良いのでしょうか」
「当たり前じゃないか。もしも教皇が死ねと言うなら、あるいは神だろうと⋯⋯僕がそれを否定する、僕は君が生きる事を肯定する。君は⋯⋯生きなくてはならない。それがきっと、世界のため、神のためになるのだから」
その後はもう、地上全域に広がるんじゃないかと思わせる程の声が響いた。
これから先に待ち受ける茨の道は想像を絶するだろう。
だけど、彼女の存在が認められる様に俺は手を貸すつもりだ。
情けは人の為ならず。
彼女を助けて立場を確立させる事こそが今後重要になるだろう。
禁具の考え方を変えられる。俺の家族のような被害を出さずに済むようになる。
だからこそ、彼女は生きなくてはならない。
外法がなんだ。神がなんだ。
直接姿を表さず手も貸さないそんなヤツらになんの価値がある? 従う意味がある?
無い。あって良いはず無い。
生きたいと願うなら、生きるべきだ。
「わたくしは⋯⋯生きます。それがどれだけ周りの期待を裏切り失望されたとしても。人々を護る力となる。きっとそれがわたくしの運命ですから」
「良いじゃん」
迷いの晴れた、良い笑顔を見てくれた。
心に呼応してか、禁具の翼は光の粒子となって空に舞って行く。
俺達の知る、純白の聖女が戻って来た。
彼女はもう、自ら死を選ぶ事は無いだろう。
彼女は否定されても自分を曲げないだろう。
周りは受け入れてくれないかもしれない。アマテラスから追い出されるかもしれない。
それでも、味方はいる。
◆
クイーンドリアード討伐作戦も終わり、報酬は後日貰える事となった。
今は家で唯華とゴロゴロし、少し汚れて腐敗した天井を見上げている。
「色々とあったな」
「そうですね。輝夜様、かっこ良かったです」
「打算的な所もあった。凄くダサい行為だよ」
「それを理解している上で、私はそう思います」
唯華から顔を逸らすように身体を横に転がす。
しかし、彼女は俺の上に跨り顔を合わさせる。
唯華が密着して来る。下部に感じる重さと形は⋯⋯。
血の巡りが加速して熱く硬くなる心を落ち着かせようと努力する。
「輝夜様、私の目を見てください」
「どいてくれ⋯⋯」
「嫌です」
自称メイドさんは私利私欲のために良く行動する。それは今回も変わらないのかもしれない。
手を重ね、指を絡めらて逃げられないようにされる。
「輝夜様」
「な、なに?」
唯華とて平常心ではいられないのか、顔をトマトのように赤らめている。
2人の心臓の音がとても大きく聞こえる。
「⋯⋯私、輝夜様にお伝えしたい事がございます」
「な、何かな?」
長い髪が垂れて、俺の頬を撫でる。
無意識だろうか。唯華の手に少し力が込められた。
「輝夜様」
「⋯⋯う、うん」
緊張で喉が急速に乾く。言葉が上手く出せない程に。
「⋯⋯あの聖女にした事、私にもしてください。身内サービスとして、もっと過激なのをご所望します。私、頑張りました。ご褒美をください」
「⋯⋯全く」
俺はゼラに変身して唯華の拘束から脱出。その過程で顔で胸を擦ったが、考えないでおく。
そうしないと思考が柔らかいメロンで支配されるから。
「⋯⋯輝夜様、逃がしまっ」
すぐに捕まえようとする唯華の頬に、俺は自身の唇を押し当てた。
「こ、今回はこれで許しなさい⋯⋯どこまで価値があるか分からない、けど」
唇を与えた頬に優しく手を重ね、普段は見せない嬉しさと優しさに溢れた天使の様な笑みを浮かべる。
「仕方ありませんね。今回は、コレと脱ぎたてパンツで許します」
「後半は無しよ!」
「ゼラ様モードに逃げたのでその減点分の補填です」
「うぐっ」
勇気が無かったからゼラモードになったの見抜かれてる。
冗談のように聞こえるのは、きっとその表情と声音からだろう。
まぁ、多分本気だと思うけど。
「それが嫌なら私にも同じ事を⋯⋯」
唯華が俺に襲いかかる瞬間、扉が勢い良くノックされた。
「わたくしでございます。お話⋯⋯」
唯華が包丁を持って壊す勢いでドアを開け、突き出した。
それを防御魔術で防ぐ。
「いきなりですね、メイド様」
「主との愛を深める時間を邪魔した罪、その身体に刻んでやろう聖女」
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(この世界での成長速度不明)