滅んだ国の元軍人兄妹冒険譚〜魔王レベルの魔力保有者は自由に異世界冒険を満喫する〜

ネリムZ

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エルフ

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「流石にこれは聞いてねぇぇぇ!」

 体長四メートルと言ったところだろうか?
 そのぐらいの巨体の魔物が襲って来ている。
 二足歩行で手があまり発達していない、本とかでも良く出て来る魔物、地龍だ。
 必死に逃げているが、追い付かれるのも時間の問題か?

「お!」

 幸か不幸か、目の前に崖があった。
 俺はその崖に向かって高く跳び、落下する。
 ギリギリまで近くに来ていた地龍は大きさ故か、止まる事が出来ず落ち着く。その際に俺と目が合う。

「ばいばーい」

 俺は崖のでっぱりに剣を支えにして落ちない様にしていた。
 後は崖を蹴って、上へと跳躍して着地したら終わりだ。

 一時期はどうなるかと思ったが、一件落着だ。
 さて、水を探しいに行こうかな。

「凄い凄い」

 パチパチパチ、と拍手する音が聞こえる。
 その方向を探り見渡すと、木の上に腰掛ける緑髪の女性が居た。
 その顔は面白い物を発見した時の昔のサナに似ている感じがした。
 つまり、子供っぽい。

「よいしょ」

 スタッと綺麗に地面に着地する。
 奇妙な事にその女性は靴を履いておらず、裸足だった。
 顔の方を見ると、滅多に見かけない様な綺麗な顔立ちで、その瞳は太陽に照らされた草原の様な色合い。
 だが、綺麗な顔や目よりも一番目を引くのは顔の横に付いている、耳だった。
 先端に行く程尖っていて長い。
 伝承にあるエルフそっくりの特徴をしていた。

 そしてこの森にはエルフが住んでいる。
 成らば、確実にこの子はエルフだろう。

 剣をすぐにでも抜ける様に構えを取り警戒する。
 エルフは人を嫌っている。すぐに襲われても反撃出来る体勢はキープして行く。

「あーそんなに警戒しなくて良いよ。私は人にすぐに攻撃する野蛮なエルフじゃないから」

「⋯⋯」

「本当に攻撃しないってば! ほら、武器無いでしょ!」

 確かに、暗器を隠している感じも無い。そして、エルフの目線は俺の目を見ており、敵意も殺気も感じない。
 だが、俺よりも彼女の方が圧倒的な強者で、殺気等を隠している可能性がある。

「ねぇ、聞いてる? 何時まで警戒しているの?」

「俺の憧れた人の一人から教わった言葉がある。夜を共にしてない相手は信ずるな。ちなみに意味は、近くで寝れる様な相手じゃないのは信じるなって意味だ」

「びっくりした。急にエッチなセリフを言ったかと思った」

「んな訳あるか」

「ん~じゃあ、どうしたら無害で可憐で美しいエルフさんだって認めてくれる?」

「⋯⋯近くに水源はあるか?」

「こっち」

 離れて行くエルフを見ながら、思考する。
 相手の歩き方等から見て、俺を警戒している素振りはありながらも、素人だ。
 まだ俺の事を完全に問題無い人だとは思って無いらしい。
 なのにわざわざ案内してくれると言うのか?
 信頼関係を築いて何の意味があるのやら。

 構えを解いて、俺はエルフに付いて行く。
 向かった先には半透明の流れる川があった。
 旅の最中では見る事も無かった程にとても綺麗だ。

「すげぇ」

 見惚れて唖然とするレベルには綺麗な川だった。
 流れる音、揺れる水、それでいて透き通り中が良く見える。

「ふふん。エルフは自然を愛するんだよ! だから、こんな風に綺麗なの! 魔物に荒らされても、しっかりと治す。森も川も、全部全部、自然だから。それを管理し守るのが私達の役目」

「貰って良いのか?」

「困った時はお互い様。また会って、困ってたら助けてね。あ、他の人達にはバレない様にね」

 人差し指を自分の口に持って行き、ウィンクするエルフ。多分ウィンク。両目閉じてるけど。

「ありがとう。まじで助かる」

 俺は言われた通りに収納の新型がバレない様にしている。
 なので、カバンから水筒を取り出す。
 革で作られた水筒だ。本当はガラス製が良かったのだが、既に無かった。
 一つ一つ一本の紐で繋げて、それを川に流す。
 一度で複数個溜まるので、この方が効率が良い。

「よし。本当にありがとう。助かった」

「いえいえ。一人で来たの?」

「いや。今はとある貴族の護衛をしながら、妹と旅をしている」

「目的とかはあるの?」

「まぁあ、一応は国を放棄した陛下を探しにだね」

「一応?」

 俺は荷物を纏め、来た方向や太陽の位置を確認して、帰り道を想定する。
 道が定まったら、後は進むだけだ。

「本当にありがとう。ここに近寄れるか分かんないし、また会えるかは分からないけど、いずれ会ったらなんでも言ってくれ。それじゃ」

「うん。じゃあねぇ」

 手を振りながら俺は皆の元へ向かった。

 帰ると、サナとミリアが仲良く談笑していた。
 その光景を見た俺は当然立ち止まる。と言うかびっくりし過ぎて体が動かない。
 これが金縛りってやつだろうか。

「あ、お兄ちゃんおかえり。大丈夫だった?」

「あぁ、問題無い」

 頭を撫でながら大丈夫だと宣言する。
 そして、皆にそれぞれ水を配り、再び移動を再開する。
 エルフとの会話的に、やはり本来は敵対関係にあるのだろう。
 今回はたまたま良いエルフに会えたようだ。
 この出会いには感謝だな。すぐに水も見つかったし。

 それから数日後、ボロボロのメイド達と、同じようにみすぼらしく成った貴族を連れた、古き軍服を着た元軍人兄妹が水の都【アクア】を訪れた。
 海と連結したその都市は水を通した文明、魔道具が発展していた。
 盛んな他の大陸や島国との貿易、そして漁業。
 海が近くに無い国出身だととても珍しい光景。
 ガラス細工が進んでおり、色んな所でガラスが見れ、それは窓等の、一般家庭の家からお店まで、幅広く利用されていた。
 そんな中で、みすぼらしい集団が行く場所とは──。
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