滅んだ国の元軍人兄妹冒険譚〜魔王レベルの魔力保有者は自由に異世界冒険を満喫する〜

ネリムZ

文字の大きさ
34 / 37

死の覚悟

しおりを挟む
 ユウキ達が魔物のハントの帰りでとある光景を目にした。
 それは直視し難い光景。認めたくない現実。
 殺人鬼と思われる男が黒い剣を女性の腹に突き刺さしているのだ。
 その女性は先日分かれた女性、ヨツキであった。
 考えるより先に体が動いた二人。

 ユウキがヨツキの元へと向かい、サナは殺人鬼に刀を振るい上げる。
 衝突する刀と剣。夜の町に響き渡る金属音。
 力任せに蹴り、殺人鬼を吹き飛ばす。くるりと回転して着地する。

「お前は、誰だ?」

「お前に名乗る名前など持ち合わせて無い!」

 一瞬で肉薄し振るわれる刀。しかし、殺人鬼はそれを易々と避ける。
 反撃の攻撃を受け流し、それを利用した反撃の攻撃が殺人鬼の腹を浅く裂く。
 この一撃で殺人鬼は理解した。相手の得意分野を。

 それを理解した殺人鬼は次の攻撃を遠距離からの魔法に変える。

「魔力弾」

 純粋な魔力の塊を放つ。サナは刀に魔力を流して風の奔流を生み出して、魔力を切り裂く。
 魔力の塊には魔力でしか対抗出来ない。

 その戦いにユウキが参戦しようとしたところで殺人鬼は懐からとあるアイテムを取り出す。

「メデューサの魔眼石、発動」

『メデューサの魔眼石』メデューサと呼ばれる魔物の魔石から作製された特殊な魔道具。
 一度きり使えるのだが、相手を石化して捕らえる事が可能である。
 魔力量が多く、濃い上で魔力操作が上達した者ならばすぐにレジスト出来る。
 だが、ユウキはそれが出来ない為に石化する。
 すぐにヒビは入るが、すぐに動ける訳では無い様だ。

「もって十分か」

「そう。なら、問題ない」

 サナは煮えたぎる怒りを力に代える。今すぐにでも殺人鬼を殺したいと思うその思いを力にする。
 サナの振るう斬撃はあまりにも速く、そして重い。
 殺人鬼も避ける事に徹するくらいには驚異と成っていた。

「影の刃」

 殺人鬼の影から刃が鞭の様に撓り、サナに襲い掛かる。
 冷静に数と動きを観察し、刀を一度鞘に納刀する。

「抜刀術、剣舞『連』」

 相手の刃と同じ数の斬撃を一瞬で繰り出し、影を切断した。
 サナの得意な戦い方は相手の攻撃を受け流して、その力を利用しての反撃、或いは相手の体勢を崩してからの反撃である。
 それを見抜かれてしまった今、それは使えない。
 ならば、自分の持つる技術で相手するしかない。

「火炎弾!」

「遅い!」

 魔法が放たれるのにも関わらず直線的に殺人鬼に向かって突き進む。
 魔法を切断し消滅させ、上段から殺人鬼を切り裂く。
 だが、それを皮一枚で後ろにステップして避けた。
 サナは間を空けず、腕輪からクナイを虚空より取り出し、三本のクナイを投擲する。
 急な飛び道具に一瞬遅れを取るが、すぐに剣で弾く。

 弾いた後の体勢の時に懐に入り、下段から上段へと斜めに振り上げる。
 直線のダッシュも相まってその速度は先程の比では無い。
 しかし、相手も歴戦の猛者と言わざる追えない程の力があった。

 サナの斬撃と正面から打ち合った。轟音と共に散る火花。
 優勢なのは上から押している殺人鬼では無く、サナの方だった。
 それは鍛え方や魔力量に寄って変化した体の構造の違いであった。
 技術面でもサナの方が上だ。

「身体強化!」

「ッ!」

 嫌な感じを感覚的に感じ取ったサナは相手を蹴飛ばす。
 当然、腹を蹴るのではなく相手の急所である金的を狙っている。
 相手も想定通りだったのか、後ろに跳び退いた。

「身体強化極。殺人鬼の覇気、悪鬼滅殺、殺戮衝動、冷静精神統一、殲滅兵器」

 様々な強化を己に施す殺人鬼。その纏う気配はサナを圧倒する程である。
 怖気付くサナ。それを表す様に左足が少し後ろに下がる。
 だが、歯を食いしばって相手を睨む。

(逃げるな戦え。逃げるくらいなら戦って死ね!)

 構えを取る。
 低姿勢になり、手首でクロスして、刀の先端を相手に向けながら自分の横に引く。

 一泊、静まる空間。

 風が起こる。その刹那、音を置き去りにしたかと錯覚する程の圧倒的な人外の速度でサナに肉薄する。
 そのスピードはサナの想定範囲外。
 目覚める記憶は国が滅んだ当日。圧倒的な絶望を前にしたその瞬間である。
 反応出来ない速度。その速度で突き刺される剣は避ける事は不可能。

「がは」

 腹に突き刺される剣。寧ろ、腹で済んでいる事を褒めるべき力。
 圧倒的な力の差を前に、サナは恐怖⋯⋯しなかった。
 既にそれ以上の絶望を味わっているから。経験しているから。
 それだけじゃない。相手は最低限、人間である。
 兵器ならまだしも、人間に負けたくないと言う思いがサナを動かした。
 既に致命傷と思われる深手を負いながらも、左手で剣を掴む。
 刃を強く掴んでいるので、掌から血が流れる。

「捕ま、えたぞ、ごほ」

「な、ん」

 芯を外したサナはまだ命がある。そして、致命傷近くても、それでも動けるなら問題ない。
 刀を振り上げ、逆手持ちに切り替える。
 そのまま相手の剣を持っている手に繋がっている肩に向けて、刃を上に向けて突き刺す。
 相手の方が傷が小さい。だが、サナは諦めない。

「肩を、外してやるっ」

 持てる力を振り絞り刀を上げようとする。
 ジリジリと骨を削る音が聞こえる。殺人鬼の頭に危険信号が響く。
 だが、剣が抜けない。人間の出せる力では無い。

 サナはこの時、明確な成長を果たした。
 死が目の前に迫った瞬間に直感的に、感覚的に成長した。
 それは、魔力制御であった。
 内側に流れる魔力を精密に操る事により、反応出来無かった攻撃を反応して芯を外した。
 それだけでは無い、その後は手や腹に魔力を集中させ、剣を離さない様にしている。

 殺人鬼が電撃系の魔法が使えたら、話は変わって来るだろう。
 だが、無い物は無い。正確には、相手に直接攻撃出来る魔法が無い。
 肩を外されたら剣まで失う。そう判断する殺人鬼。
 だが、彼の思考は徐々にぐちゃぐちゃになる。
 それは何故か。簡単だ。痛いからだ。

 サナやユウキの様に訓練されたのなら、多少の痛みで悶える事は無い。
 だが、ただ殺す事だけをしていた男に痛覚の耐性は無い。
 いくら力を使って冷静さを保っても、肉体を強化しても、意味が無かった。
 刀に流せる魔力は無い。正確にはそこまでの制御が出来ない。
 サナが先に死ぬか、殺人鬼の肩が外れるか。

「さぁ、どうする殺人鬼! 私とお前とでは覚悟が違う様だぞ!」

 サナは死が近いにも関わらず、衰えない、寧ろ増している覇気に殺人鬼は死を実感する。
 精神的に勝てないと直感する。

「ファ、幻影ファントム

 サナの視界にとある女性が映る。

『死なないでサナ。生きて、サナ!』

「ライハ、兵長」

 力が緩んだ瞬間に剣を引き抜き後ろに跳ぶ。
 殺人鬼は一瞬死を実感した。
 逃げる⋯⋯そう判断した。でも、サナは逃がす気は無かった。
 腕輪から回復薬が詰まった瓶が虚空から現れ、サナに向かって落ちる。
 サナの頭でパリンと割れて弾けたガラス、中身はサナに降りかかり傷を癒して行く。それでも血は回復しない。

 刀を地面へと突き立て、一つだけ増えた初期魔法を発動させる。

「魔力回廊解放──世界廻廊接続──、光の世界、光世界領域ヴァナヘイム!」

 街灯寄りもより輝く光の空間がサナを中心に広がる。
 神々しく輝く空間。
 その魔法は魔法と言う枠からは逸脱していた。それだけの力を備え秘めている。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...