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らしくない決着

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 少し焦げて柔らかそうに見えるオークの背中。
 ヒノを両手で掴み、今出せる本気のフルスイングを振るう。

「豚の串刺しじゃああ!」

 ヒノから大量の包丁が発射され、背中に数本刺さる。どれも浅いが。
 出来れば血管に刺さってくれると嬉しいが、そう都合良くはいかないだろう。
 包丁の方は金属質で電気を良く通す事を確認済みだ。
 わざわざこれを利用する為に用意した水も使った。

「そうだ、来いよオーク」

 目が見えなくても、鼻が意味なくとも、攻撃を受け、声が聞こえた方向に進む。
 私に迫って来るオークを見上げる。
 大きい。
 感じる威圧感もあり、学校の塀を前にしている様だ。

「お前は強いよ。まともに戦ったら絶対に私達は負ける。だから、私はまともに戦わないんだよ。田中さん、行っけぇぇえええ!」

「雷属性魔法、電撃雨ライトニングシャワー!!」

 青い稲妻がオークの背中を強襲する。
 包丁と水で流れ易く成った電流は内部と外部からオークを焼いて行く。
 体が動けなくなり、大ダメージを受ける。
 ここがゲームなら、一定のダメージしか喰らわないだろう。
 そう言うプログラムがあるから。
 だが、ここは現実だ。
 一つの魔法を工夫次第でいくらでもダメージを上げて行く。

 これでも倒れないなら、もう一つの手だ。
 流石に水をぶっかけた体で裸なので、とても寒い。
 出来ればさっさと終わらせたい。

「魔法は使えなくても、ヒノが居る」

 ヒノなら電気も受けない。
 再びドリルの様に形を変え、【硬質化】を利用して鋭さを上げる。
 回転させ、痺れているオークに向かって放つ。

『おおおおおおおおおおおおおおお!!』

 点滅し、焼け焦げて行くオークの腹はヒノに徐々に削られて行く。
 電撃が終わり、ピチピチと静電気を弾かせながら、オークは地面に体を倒した。
 それでも体は消えない。ヒノは私の隣に来ている。

「ヒノ、飛べ!」

 左手で鷲掴みにし、空を飛ぶ。
 高速で飛来する中、ゆっくりと立ち上がろうとするオーク。
 もう良いだろう。
 魔法をその身で受け、両目を潰されて、臭いで誑かされ、沢山ダメージを受けた。
 それでもまだ立ち上がろうとするオーク。
 挫けても、めげないオーク。
 目の前の私と言う敵を殺す為に、その身がどうなろうとも立ち上がろうとする。

「もう立たなくて良いだろ。お前は私達に勝てない。だから、もう。寝てろよ! 立ち上がるなよ! もう、これ以上戦うなよ! 戦わせないでくれよ!」

 魔剣を強く握り、オークを切り裂く。
 ヒノが飛ぶので、私の体は勝手に動く。でも、ヒノの動きが分かるので、動きに合わせて魔剣を振るう。
 黒い閃光を放ちながら、沢山の刃をオークに浴びせる。
 こいつは、私に与えた以上の痛みを受けた。
 だからもう、私は十分だ。だけど、オークはそれでも、戦おうとする。

「訳が分からない。でも、分かる」

 オークが強く力を振り絞り、鉈を振るって私と距離を離す。
 よろよろとし、バランスを必死に保ちながらも、鉈の先端を向けて来る。
 その目はまだ、死んでない。

 なんでここまで戦うのか。なんでそこまで私を憎むのか。
 分からない。だけど分かる。
 自分の家とも呼べるこの場所を汚され、そして攻撃された。
 それりゃあ憎いだろう。
 だけど、それよりも当然な理由がある。

 それは、私がオークを殺すと言う覚悟と気合いが相手に伝わっている事だ。
 誰だって死にたくない。私も、田中さんも、オークだって。
 誰だって生きたいに決まっている。

 この部屋はどちらかが死ぬまで出る事も出来ない。この戦いが終わる訳でも無い。
 だから、必死に抗うのだ。必死に戦うのだ。
 私は、その気持ちが分かる。だけど、真正面から否定する。

 私だって、オークの立場なら、戦うかもしれない。
 だって死にたくない。
 だけど、私はオークじゃない。オークは今、負けている。私は勝っている。
 だから、オークの気持ちを否定する。

「今の状態じゃ、勝てない。お前はもう、負けている。だからもう諦めて寝てろよ! もう戦う必要なんて無いんだよ!」

 オークがゆっくりだが走って来る。最初の時よりも当然スピードは遅い。
 だけど、その状態の一振だけで、私は死ねそうだ。
 だからね。ここまで言っても、ここまでやっても、私は正々堂々と戦えない。

『おおおおおおおおおおおおおおお!』

 最後の決意と共に迫って来るオーク。きっと、これに受け立つ方がオークの為だろう。
 そうした方が、潔く逝けるだろう。
 だけどね。私はね。結局私なんだよ。
 どんなにレベルが上がろうとも、どれだけ強くなろうとも、本質は『私』と言うクズの塊だ。

「ヒノ、行くよ!」

 ヒノを左手に掴み、盾の様に持つ。足に力を込めて走る。
 だらしない走り方。ど素人の走り方。だけど、今出せる全力で走る。

「田中さん。見ててください! 手を、出さなで!」

 私はクズだ。
 変わろうとしてダンジョンに挑もうが、その本質は全く変わらない。
 だけど、本質以外は変えられる。
 今回だけで良い。少しだけ、本の少しでもいいから、勇気見せろよ、私。

「はああああああああああ!」

『ぐおおおおおおおおおお!』

 鉈と魔剣を同時に突き出し、擦りあって火花を散らす。
 眩しい光と少し熱めの熱を感じる。弾かれる重量感を感じる。
 今すぐに魔剣を手放して空に逃げたい。
 だけど、アイツの最後は、私の覚悟を上げてくれたコイツの為に、必死に握る。
 手首が折れそうだ。手がグイグイと来てとても痛い。
 だけど、あと少しで届くんだ。

 ヒノは盾じゃない。私のスピードと動きをサポートする枕だ。
 徐々に横にズレ、鉈を躱す。

「ぐぎっ!」

 歯を食いしばる。
 頬に鉈の刃が掠った。腹を深く刺された時よりは痛くは無い。
 だけど、焼き付ける様な痛みはこっちの方が強く感じる。
 死が近いと痛みが抑えられるらしい。もう経験したくないが。

「これで、本当に終わりで良いよなぁ!」

 突き刺す魔剣。ヒノが私の体を前へに押し、さらに押し込む。
 両膝を倒すオーク。その顔はどことなく、健やかだった。

「お前の意を汲み取ってやったんだ。少しは報酬、良くしろよ」

 塵と成って消えるオーク。大きな宝箱が現れ、外に出る為のゲートが開く。
 オークの魔石がコロりと転がる。ヒノはすぐに食べずに、私に持って来る。

「取り敢えず入れておいて。あと、タオル」

 タオルを二枚取り出して、寄って来た田中さんに渡す。
 二人で水を拭いて、ヒノで着替えを終わらせる。

「ブカブカ⋯⋯」

「すみません。デブで」

「いや、デブって寄りも、胸が⋯⋯はは」

「ん? と、報酬見ま⋯⋯?」

「だ、大丈夫ですか?」

 疲れからか、膝から崩れ落ちた。
 掠り傷を治そうとするヒノを手で制した。

「この傷は、少しだけ残しておくよ。ヒノの回復なら、跡に成っても治せるしね。それより、背もたれに成って。動けん」

「お疲れ様」

「そっちこそ。だいぶ魔力使ったんじゃない?」

「うん。立っているのがやっとってレベルで魔力使ってるから、もう今日は魔法使えないかな」

「これからどこかに行く程、体力はありませんよ」
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