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召喚系配信者、臆病者の覚悟
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23時、ゴリゴリの深夜に騒がしく喋りながら家に近づく若者の集団がいる。
その中には妹である凛の姿も見える。
ガラの悪い連中と一緒に家に帰って来た。
「じゃあな凛」
「ばいばーい!」
見た目で人を判断するのは良くない。
でも、こんな時間まで外にいて家に帰って来るのは常識知らずにも程がある。
「マメはどう思う、あの連中」
俺の隣で外を眺めていたマメに質問する。
こう言うのは動物の本能に頼るのが1番だ。
「わん?」
顔を可愛らしく傾けながら、先端が鋭い影を伸ばして左右に動かした。
なるほどな。
「殺しは良くないからね」
「わん」
俺は部屋を出て凛に会いに行った。
俺の顔を見た瞬間眉を寄せたが、気にせずに言葉を出す。
「こんな時間に帰って来るのはおかしいぞ。それにバカ騒ぎして、近所迷惑だ」
「はぁ? 知らねぇーし。関係無いね。そこ、邪魔だから退いて」
視線だけで命を奪いそうな鋭い眼差しで俺を睨む。
1歩後ろに下がりそうだったが、そこは堪えて前に出す。
「関係ある。俺は兄だから」
「愚兄には関係ないっての。邪魔だから部屋出てくんな臭いんだよ!」
マメが嫌がってなかったから臭くない。
凛は俺を払い除けて浴室へ向かった。
俺の言葉はやはり通じないか。
それでも凛に何かあってからでは遅い。
俺のようなちっぽけな人間が今は大それた力を持っている。
俺の言葉一つで仲間達は何でもやってしまう。
もしも凛に何かあれば⋯⋯俺は自らの力に溺れて望んでもない事を仲間達にさせてしまう。
実際にマメも問題源の始末を真っ先に考えていた。
「調べるか」
もしかしたらガラの悪い連中が良い人の可能性がある。
それさえ分かれば俺は喜んで今の関係を受け入れよう。
ただ、深夜徘徊はやめて欲しい。
翌日の夜、俺は電柱の影でコンビニの前で屯している凛達を発見する。
茜は今頃寝ているだろう。あの子は健康思考だから。
「コンビニの前って⋯⋯不良じゃないか」
そんな道に進むなんて⋯⋯。
きっと、凛の気持ちに寄り添えなかった俺の責任だ。
何とかしないと。
「こんな所にコソコソと隠れてどうしたのさ」
「ッ!」
声をかけられ振り向くと、街灯に照らされた咲夜がそこにいた。
いつもの活気溢れる元気の良い笑みとは違い、見る者を引き寄せる魅惑的な女性の微笑みをしていた。
夜だからかな。そう感じる。
今はそれに構っている暇は無い。
頭を振って意識を切り替える。
「さ、咲夜こそどうして?」
相変わらず最初の会話は上手く言葉が出せないな。
今の俺はかなりキモイ。
「⋯⋯えっとね」
視線を逸らし頬をポリポリと人差し指で掻く。どことなく頬がピンクに染まっている気がする。
照れているのか? 何故?
こんな夜遅くに⋯⋯出歩く⋯⋯。
「小腹が空いたからコンビニで何か買いに来た⋯⋯のか?」
「そ、そうそれ! そうなんだよ!」
これだ! っと言わんばかりの食い付きようだ。
うん。何か隠しているのは確かだろうがそれを探る必要は無い。
今は凛に集中したい。
「だ、だったら。俺に構わず行ってくれば良い」
俺がそう言うと、咲夜はモジモジしながら言葉を出す。
「⋯⋯せっかくだから一緒に行こうよ。奢るよ?」
幼馴染に奢られる程、今の俺は余裕が無さそうに見えるのか?
確かに、両親はいないがそれでも普通に⋯⋯普通、か。
「いや、大丈夫」
「⋯⋯そう」
どことなく寂しそうに呟くと、俺が何をしていたのか気になったのか隣に並ぶ。
そして、俺が見ていた方を見る。
まずい。
咲夜は視力が良い。
「あれって凛だよね。妹ちゃんが心配でストーカーか?」
「い、言い方」
これはストーカーじゃない。そんな犯罪行為では無いのだ。
そう。これは⋯⋯これはそう! 兄として妹を心配しているから影から見守っているだけだ。
決して、通報されるような行為じゃないと断言しよう。
だから咲夜さん。『110』と表示されたスマホを構えないでください。
「⋯⋯ちょっ。手に持ってるのビールじゃん。周りの子は二十歳超えてるの?」
「嘘!」
あいつ、まじで何してんだよ。
確かに、高校生になって好奇心で飲む人は全然いると思うよ。
でも俺はそれを肯定しない。むしろ否定派だ。
「本格的に叱らないと」
意気込んだ俺は足を前に出す。
出す⋯⋯はずだった。
「あれ?」
動かない?
足が鉄で固められたかのように全く動かなくなった。ピクリともしない。
俺は⋯⋯学校に行かなくなって歳の近い人と関わるのに抵抗が生まれたのか?
確かに、ダンジョンに行くようになってから俺が関わった人はギルドの受付の人や挑戦者だけ。⋯⋯わりと多い。
だが、それは『久遠』だったから出来た事だ。
今の俺では⋯⋯他者と関わる勇気が持てない。
「玖音⋯⋯私ちょっと行って来るね」
「え、待って」
前に進む咲夜に手を伸ばすが届かない。
「待たないよ。ヒーローはね、困っている人を見かけたらなりふり構わず助けに行くもんなんだよ」
ふわりの銀色の髪が靡き、フローラルな香りが風に乗って舞った。
振り向いた時に見せてくれた、頼りになる明るい笑顔と言葉。
俺はその後何も言えず、咲夜に甘えた。
凛達の前に出た咲夜は何の躊躇いも無く凛からビール缶を取り上げてゴミ箱に綺麗に投げ入れた。
「あぁん! 何すんだよ!」
「凛、未成年は飲酒禁止なんだよ。そんな常識も知らないの?」
「は? 何様だよあんた」
睨む凛に対して真っ直ぐと視線を送り逸らさない咲夜。肝が座っている。
「お姉様だよ。忘れた? 昔は良く遊んだのにさ」
「⋯⋯もしかして、咲夜さん?」
「そうだよ。咲夜お姉ちゃんだよ」
何故か姉に拘る咲夜。凛は相手が咲夜と分かると明らかに動揺した。
「もう全然家来なくなったじゃん? だから全然分からなかったよ。大きくなったね」
「お互い様でしょ。そーれーにー、分かんないのは全然家に帰って来ないからでしょ。もう夜の10時だよ。何してんのよこんな時間に」
「えっと⋯⋯それは⋯⋯」
凛はあちこちに瞳を泳がせるが、正しい言葉が出て来ない。
凛は咲夜に弱いのか? 何故?
あんなしおらしい凛は初めて見る。
「ビールなんて飲んでさ。もう止めなよこんな事。体が持たないよ」
「ムッ。咲夜さんには関係ないでしょ」
「関係あるよ。私にとって凛は大切な妹だと思ってるの。大切な妹を心配するのは普通じゃないかな?」
ひたすらに凛に寄り添い彼女を心配する咲夜。
咲夜の家族の名前を出さずに刺激しない所は凄く大人に感じる。
「⋯⋯でも」
「でもじゃ」
咲夜が畳み掛けようとしたその瞬間、周りの連中が立ち上がる。
ちなみに凛以外全員男だ。人数は4人
咲夜を囲むようにして立った。
まずくないか? どうすれば⋯⋯。
マメを呼ぶか?
「咲夜さんって言うのか。良い名前だね~」
「あんたらが凛を唆した悪者達ね」
「悪者って酷いな~凛ちゃんが望んで俺達と遊んでるだけなのにさぁ」
「そうそう。凛ちゃんが楽しくて自分の意思でやってるのに、それを血の繋がりも無いただの他人が口を出すのはお門違いじゃないかなぁ」
「それでも心配⋯⋯」
「そんなに心配なら咲夜さんも俺達と遊ぼうぜ。そしたら分かるよ凛ちゃんがどうして俺達と一緒に遊んでるのか。別に俺らは怪しくないって」
怪しさ満点の男が咲夜の肩に手を伸ばす。
ピクっと咲夜の指が動いた気がする。
咲夜⋯⋯彼女の夢はヒーローだ。今も昔も変わらない。
そのための強さを彼女は持っている。心だけじゃない。技もだ。
ギロリと悪に向ける目をすると、凛が即座に反応して男達を引っ張る。
「なんか興醒めしちゃった。次行こ次!」
「え、でもよぉ。こんな良い女を⋯⋯」
「咲夜さんは馬鹿真面目だから誘いに乗る訳無いじゃん。サツ呼ばれてもメンドーだしさっさと行こっ」
男達は咲夜の顔、胸、足の順にいやらしい視線を向けてから、凛を連れて去って行く。
追いかけようとする凛を、何とか歩けた俺が止める。
すると、咲夜は不満そうに唇を尖らせる。
「何で止めんのさぁ。凛ちゃんに何かあったらどうすんのさ」
ジト目を俺に向けるが、すぐにその顔は真顔になる。
俺が冷静だと分かり、落ち着いたらしい。
「何もされないよあの様子じゃ」
「どうしてそう言い切れるの?」
「男の勘ってヤツだよ」
「どーゆー事?」
咲夜は優しい。そして真面目だ。
アイツらの目付き、まるで獲物を狙うライオンだった。
しかも発情期のライオンだ。
⋯⋯とても気持ち悪い。
「アレらにとって凛は利用価値のある存在になった、だからまだ何もしない。少なくともまだ、な」
「妹に対してえぐい評価をするね」
「勘違いしないで欲しいがアレらにとってだ。俺にとって凛は世界で一人しかいない大切な妹だ」
「しないよ。あと茜は?」
「同じだよ。世界に一人しかいない大切な妹」
茜も凛も、この世に一人しかいない。替えの無い唯一無二の存在だ。
「私は?」
妹から一気に話が変わった?
俺は考えてから素直に答える。
「大切な幼馴染?」
「そう。帰ろっか」
「コンビニは?」
「良いの!」
どことなく不貞腐れたように、歩みを早めて家に帰る。
俺は呆然とその場に立ち尽くし、凛達の消えた闇を見詰める。
⋯⋯長くは無い。そうヒシヒシと感じる。
アレらはきっと同じ高校だ。
なら、やる事は決まっている。
「どうしたの?」
動かない俺を不思議に思う咲夜。
「今行く」
俺の顔は見られていない。
咲夜は違う学校だ。
大丈夫。今日の尾行だって気づかれていなかった。
俺は凛を守るために⋯⋯学校に行く。
「⋯⋯私は世界で一人じゃないんだ」
小さな呟きの抗議は、明日に向けて覚悟を決めている俺には届かなかった。
その中には妹である凛の姿も見える。
ガラの悪い連中と一緒に家に帰って来た。
「じゃあな凛」
「ばいばーい!」
見た目で人を判断するのは良くない。
でも、こんな時間まで外にいて家に帰って来るのは常識知らずにも程がある。
「マメはどう思う、あの連中」
俺の隣で外を眺めていたマメに質問する。
こう言うのは動物の本能に頼るのが1番だ。
「わん?」
顔を可愛らしく傾けながら、先端が鋭い影を伸ばして左右に動かした。
なるほどな。
「殺しは良くないからね」
「わん」
俺は部屋を出て凛に会いに行った。
俺の顔を見た瞬間眉を寄せたが、気にせずに言葉を出す。
「こんな時間に帰って来るのはおかしいぞ。それにバカ騒ぎして、近所迷惑だ」
「はぁ? 知らねぇーし。関係無いね。そこ、邪魔だから退いて」
視線だけで命を奪いそうな鋭い眼差しで俺を睨む。
1歩後ろに下がりそうだったが、そこは堪えて前に出す。
「関係ある。俺は兄だから」
「愚兄には関係ないっての。邪魔だから部屋出てくんな臭いんだよ!」
マメが嫌がってなかったから臭くない。
凛は俺を払い除けて浴室へ向かった。
俺の言葉はやはり通じないか。
それでも凛に何かあってからでは遅い。
俺のようなちっぽけな人間が今は大それた力を持っている。
俺の言葉一つで仲間達は何でもやってしまう。
もしも凛に何かあれば⋯⋯俺は自らの力に溺れて望んでもない事を仲間達にさせてしまう。
実際にマメも問題源の始末を真っ先に考えていた。
「調べるか」
もしかしたらガラの悪い連中が良い人の可能性がある。
それさえ分かれば俺は喜んで今の関係を受け入れよう。
ただ、深夜徘徊はやめて欲しい。
翌日の夜、俺は電柱の影でコンビニの前で屯している凛達を発見する。
茜は今頃寝ているだろう。あの子は健康思考だから。
「コンビニの前って⋯⋯不良じゃないか」
そんな道に進むなんて⋯⋯。
きっと、凛の気持ちに寄り添えなかった俺の責任だ。
何とかしないと。
「こんな所にコソコソと隠れてどうしたのさ」
「ッ!」
声をかけられ振り向くと、街灯に照らされた咲夜がそこにいた。
いつもの活気溢れる元気の良い笑みとは違い、見る者を引き寄せる魅惑的な女性の微笑みをしていた。
夜だからかな。そう感じる。
今はそれに構っている暇は無い。
頭を振って意識を切り替える。
「さ、咲夜こそどうして?」
相変わらず最初の会話は上手く言葉が出せないな。
今の俺はかなりキモイ。
「⋯⋯えっとね」
視線を逸らし頬をポリポリと人差し指で掻く。どことなく頬がピンクに染まっている気がする。
照れているのか? 何故?
こんな夜遅くに⋯⋯出歩く⋯⋯。
「小腹が空いたからコンビニで何か買いに来た⋯⋯のか?」
「そ、そうそれ! そうなんだよ!」
これだ! っと言わんばかりの食い付きようだ。
うん。何か隠しているのは確かだろうがそれを探る必要は無い。
今は凛に集中したい。
「だ、だったら。俺に構わず行ってくれば良い」
俺がそう言うと、咲夜はモジモジしながら言葉を出す。
「⋯⋯せっかくだから一緒に行こうよ。奢るよ?」
幼馴染に奢られる程、今の俺は余裕が無さそうに見えるのか?
確かに、両親はいないがそれでも普通に⋯⋯普通、か。
「いや、大丈夫」
「⋯⋯そう」
どことなく寂しそうに呟くと、俺が何をしていたのか気になったのか隣に並ぶ。
そして、俺が見ていた方を見る。
まずい。
咲夜は視力が良い。
「あれって凛だよね。妹ちゃんが心配でストーカーか?」
「い、言い方」
これはストーカーじゃない。そんな犯罪行為では無いのだ。
そう。これは⋯⋯これはそう! 兄として妹を心配しているから影から見守っているだけだ。
決して、通報されるような行為じゃないと断言しよう。
だから咲夜さん。『110』と表示されたスマホを構えないでください。
「⋯⋯ちょっ。手に持ってるのビールじゃん。周りの子は二十歳超えてるの?」
「嘘!」
あいつ、まじで何してんだよ。
確かに、高校生になって好奇心で飲む人は全然いると思うよ。
でも俺はそれを肯定しない。むしろ否定派だ。
「本格的に叱らないと」
意気込んだ俺は足を前に出す。
出す⋯⋯はずだった。
「あれ?」
動かない?
足が鉄で固められたかのように全く動かなくなった。ピクリともしない。
俺は⋯⋯学校に行かなくなって歳の近い人と関わるのに抵抗が生まれたのか?
確かに、ダンジョンに行くようになってから俺が関わった人はギルドの受付の人や挑戦者だけ。⋯⋯わりと多い。
だが、それは『久遠』だったから出来た事だ。
今の俺では⋯⋯他者と関わる勇気が持てない。
「玖音⋯⋯私ちょっと行って来るね」
「え、待って」
前に進む咲夜に手を伸ばすが届かない。
「待たないよ。ヒーローはね、困っている人を見かけたらなりふり構わず助けに行くもんなんだよ」
ふわりの銀色の髪が靡き、フローラルな香りが風に乗って舞った。
振り向いた時に見せてくれた、頼りになる明るい笑顔と言葉。
俺はその後何も言えず、咲夜に甘えた。
凛達の前に出た咲夜は何の躊躇いも無く凛からビール缶を取り上げてゴミ箱に綺麗に投げ入れた。
「あぁん! 何すんだよ!」
「凛、未成年は飲酒禁止なんだよ。そんな常識も知らないの?」
「は? 何様だよあんた」
睨む凛に対して真っ直ぐと視線を送り逸らさない咲夜。肝が座っている。
「お姉様だよ。忘れた? 昔は良く遊んだのにさ」
「⋯⋯もしかして、咲夜さん?」
「そうだよ。咲夜お姉ちゃんだよ」
何故か姉に拘る咲夜。凛は相手が咲夜と分かると明らかに動揺した。
「もう全然家来なくなったじゃん? だから全然分からなかったよ。大きくなったね」
「お互い様でしょ。そーれーにー、分かんないのは全然家に帰って来ないからでしょ。もう夜の10時だよ。何してんのよこんな時間に」
「えっと⋯⋯それは⋯⋯」
凛はあちこちに瞳を泳がせるが、正しい言葉が出て来ない。
凛は咲夜に弱いのか? 何故?
あんなしおらしい凛は初めて見る。
「ビールなんて飲んでさ。もう止めなよこんな事。体が持たないよ」
「ムッ。咲夜さんには関係ないでしょ」
「関係あるよ。私にとって凛は大切な妹だと思ってるの。大切な妹を心配するのは普通じゃないかな?」
ひたすらに凛に寄り添い彼女を心配する咲夜。
咲夜の家族の名前を出さずに刺激しない所は凄く大人に感じる。
「⋯⋯でも」
「でもじゃ」
咲夜が畳み掛けようとしたその瞬間、周りの連中が立ち上がる。
ちなみに凛以外全員男だ。人数は4人
咲夜を囲むようにして立った。
まずくないか? どうすれば⋯⋯。
マメを呼ぶか?
「咲夜さんって言うのか。良い名前だね~」
「あんたらが凛を唆した悪者達ね」
「悪者って酷いな~凛ちゃんが望んで俺達と遊んでるだけなのにさぁ」
「そうそう。凛ちゃんが楽しくて自分の意思でやってるのに、それを血の繋がりも無いただの他人が口を出すのはお門違いじゃないかなぁ」
「それでも心配⋯⋯」
「そんなに心配なら咲夜さんも俺達と遊ぼうぜ。そしたら分かるよ凛ちゃんがどうして俺達と一緒に遊んでるのか。別に俺らは怪しくないって」
怪しさ満点の男が咲夜の肩に手を伸ばす。
ピクっと咲夜の指が動いた気がする。
咲夜⋯⋯彼女の夢はヒーローだ。今も昔も変わらない。
そのための強さを彼女は持っている。心だけじゃない。技もだ。
ギロリと悪に向ける目をすると、凛が即座に反応して男達を引っ張る。
「なんか興醒めしちゃった。次行こ次!」
「え、でもよぉ。こんな良い女を⋯⋯」
「咲夜さんは馬鹿真面目だから誘いに乗る訳無いじゃん。サツ呼ばれてもメンドーだしさっさと行こっ」
男達は咲夜の顔、胸、足の順にいやらしい視線を向けてから、凛を連れて去って行く。
追いかけようとする凛を、何とか歩けた俺が止める。
すると、咲夜は不満そうに唇を尖らせる。
「何で止めんのさぁ。凛ちゃんに何かあったらどうすんのさ」
ジト目を俺に向けるが、すぐにその顔は真顔になる。
俺が冷静だと分かり、落ち着いたらしい。
「何もされないよあの様子じゃ」
「どうしてそう言い切れるの?」
「男の勘ってヤツだよ」
「どーゆー事?」
咲夜は優しい。そして真面目だ。
アイツらの目付き、まるで獲物を狙うライオンだった。
しかも発情期のライオンだ。
⋯⋯とても気持ち悪い。
「アレらにとって凛は利用価値のある存在になった、だからまだ何もしない。少なくともまだ、な」
「妹に対してえぐい評価をするね」
「勘違いしないで欲しいがアレらにとってだ。俺にとって凛は世界で一人しかいない大切な妹だ」
「しないよ。あと茜は?」
「同じだよ。世界に一人しかいない大切な妹」
茜も凛も、この世に一人しかいない。替えの無い唯一無二の存在だ。
「私は?」
妹から一気に話が変わった?
俺は考えてから素直に答える。
「大切な幼馴染?」
「そう。帰ろっか」
「コンビニは?」
「良いの!」
どことなく不貞腐れたように、歩みを早めて家に帰る。
俺は呆然とその場に立ち尽くし、凛達の消えた闇を見詰める。
⋯⋯長くは無い。そうヒシヒシと感じる。
アレらはきっと同じ高校だ。
なら、やる事は決まっている。
「どうしたの?」
動かない俺を不思議に思う咲夜。
「今行く」
俺の顔は見られていない。
咲夜は違う学校だ。
大丈夫。今日の尾行だって気づかれていなかった。
俺は凛を守るために⋯⋯学校に行く。
「⋯⋯私は世界で一人じゃないんだ」
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