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一章 転生と心

部分変化 擬態配合

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「シルフ様。ここにあなた様のお力をお貸しください。ここに契約を成立させる。主、我が名はヒスイ・メイ・スカイ。対照、ドッペルゲンガー。この命を持って、彼の者と共に生きると誓います。我が主よ⋯⋯」

 長々と詠唱しているので飽きた。先に魔法の事を教えて貰っている。
 魔法とは魔性なる法則。体内にある魔力を使って行使する超常現象。
 使用方法は脳内イメージを魔力で具現化。魔物は魔力と絡みあっており、とても精密に扱えるらしい。スキルを使い続けると疲れるのは、この魔力が原因だと思われる。

 しかし、先人達はその方法で魔法は使えなかった。
 そこで考えられたのが『詠唱』と呼ばれる法則が決まった方法での魔法の行使。
 契約などの儀式を使う魔法では魔法陣を描いて発動する。

 何故、イメージでの魔法が使えないのか、その原因は未だに解明されてない。
 常識を聞いた。
 この世界では基本的に魔力は切っても切れない関係。
 火も、光も、殆どが魔力を使って行使する。
 例えば、木を擦り合わせて火を付ける地球とは違い、ここでは魔力を込めて火を扱える道具を使って火を付ける。
 これである仮説が建てられる。

 イメージでの魔法に魔力を絡めたら使えない。
 原始的な方法でのイメージが出来ないこの世界の人達は、イメージだけの魔法が扱えない。
 それを俺は証明したい。だが、魔力を操る事が出来ないので、魔法が使えない。
 魔力を操るのはスキルではなく技術。スキルを使って、その感覚を体に身に付けるしかない。

「テイム!」

 お? 頭の中に何か浮かんで来た。

「承認する。我が身を主に捧げると誓う。共に生き、共に育つと魂に刻む」

「へ~魔物側ってそう言うんだね」

 手の甲に紋様が浮かんだ。彼女の方にも浮かんでいる。
 これで契約完了らしい。⋯⋯確かに、少しだけ微細な空気の動きも分かる。

「さて、魔物の多いこの森から抜け出そう! 目的地は亜人差別の無い共和国【ニューラン】よ!」

 しかし、時間的に川場を見つけて、そこでテントを建てて眠る事と成った。
 俺もテントに入る。

「ね、少し確かめたい事があるの。良い?」

「あ、うん。良いが?」

 ヒスイは俺の胸を握って来た。見た目は完全に彼女なのだが、自分の胸を触れば良いのではないだろうか?

「全く同じ感触。同じ見た目だけど、なんか変な気分に成るわね」

「そうなのか? 俺はただ握られているって言う感覚にしか成らないけど」

「中身、見て良いですか?」

「⋯⋯良いんじゃないか? この体は君の物だ。俺がとやかく言える立場では無い」

 服のボタンを外して、開く。
 そして、顔を青白く変色させていくヒスイ。

「どうした?」

「うそ、でしょ」

 何を絶望したのか、落胆しているヒスイ。
 俺は自分の開いた胸元を覗く。

「うげ」

 何も無かった。そう、服の内側には肌が存在しなかった。
 ただの空いた空間。
 まぁ確かに、外部を真似ただけなので、こうなるのは仕方がない。
 ドッペルゲンガーには内蔵が無いのかもしれない。

「え、うそ。感触も、無いの」

 このスカスカな空間は見ての通り、スカスカらしい。
 ただ、俺からの感じだと、体の内部に手がめり込まれている感じがする。
 ちょっと気持ち悪い。

「十分か?」

「うん。ありがとう」

 自分の内側を見てから、安堵してヒスイは眠る。

「おやすみなさい」

「おやすみ」

 トラウマに成らない事を祈っておく。

 俺は眠くならないので、外に出て魔法が使えないか模索する。

「やっぱ使えない」

 目の膜にスキル等を写す方法を試す。これは出来た。
 これでいちいち掌とか体の一部を見なくてもスキル等の確認が出来る。
 ただ、見にくいので、基本は掌とかにしよう。

「あ? バイクには成れるのか。でも、どうやって使うんだよ」

 手で銃の形を作る。それを正面の木に向ける。

「銃に変身出来ても、自分が使えないなら意味がないよな?」

 ちなみにヒスイ、彼女はやばかった。
 弓矢を持っているから遠距離攻撃が得意なのかと問うたら、「五十メートル以内なら運が良ければ当たります」だった。
 ならば短剣は? 腕力不足で意味が無いらしい。

「遠距離攻撃⋯⋯銃が使えたらな」

 そう思っていると、伸ばしていた右手が銃口に変わった。

「⋯⋯は? はああああ!」

 流石に異質過ぎてびっくりする。
 俺は変身した先の感情に流される。長く変身していると、その感情に染まって行く。
 だから、ヒスイの様に簡単に驚いた。彼女は起きない。

「何が起こった? どうして手が変わった? スキル? 違⋯⋯スキル!」

 俺はドッペルゲンガーの【擬態変化】を確認する。
 その中に、【部分変化】と【擬態配合】が増えていた。
 理由は何となく分かった。
 エルフと言う生物と、エルフの服と言う非生物。
 その両方に変身しているからだろう。

「手が無いのに、引き金を引く感覚がある。でも、弾が」

 この時、銃にだけとあるスキルが追加されていた。
 本来、前世の記憶の変身にはスキルが存在しない。
 しかし、この世界の物と配合する事に寄って、スキルが増えるらしい。
 しかも、それで増えたスキルは既に理解度がマックス。

【魔力弾丸装填】と【射出】のスキルが追加されていた。
 魔力が銃口に流れる感覚に苛まれ、魔力が溜まって行く。
 放てば、魔力の銃弾が木を貫通した。

「魔力だからか? 音がしないな。【擬態配合】良いね」

 それから夜の間、ひたすら試した。
 銃は使うと手がヒリヒリするし、扱いは難しい。切り札と考えよう。

 まず、配合にはきちんと相性が存在した。
 例えば、人型のエルフの頭を銃に変える事は出来なかった。
 魔物とエルフを配合すると、一部だけが反映された。
“ツインテールウルフ”とエルフを配合すると、犬耳とエルフ耳、そして二本の尻尾が生える。
 後は、手の部分だけ少し獣寄りに成る。
 仕舞えるようだ。

「何か狙ってるのか?」

 その状態でスキルを使う。【加速】だ。

「お、おお!」

 一部でも変身していれば、フル変身よりも魔力は消費するが、その消費量を抑える事が出来ると分かった。
 例えば、ただのエルフの状態で【加速】を使うと、魔力は100消費される。
 しかし、尻尾と耳を生やした状態だと、魔力は60消費される。
 完全にウルフだったら、魔力は10消費される。
 数値化された訳じゃないので、あくまで例えだ。

 さらに、魔物と動物を組み合わせる事も可能だった。
 とにかく試していたら、ちょっとした疑問が湧いた。
 魔物は魔物の名前で登録されている。銃や動物もそう。
 しかし、エルフだけは、『種族』エルフから『名前』で分岐されている。
 人型の生物は何か特別なのかもしれない。
 彼女の口振りから『亜人』と言うのに分類されるらしいので、その『亜人』が特別なのか。
 人が住まう国に行けば、分かる事だろう。

「もう、朝か」
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