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一章 転生と心

孤児院の子供達

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 ギルドから離れて俺は適当な人間に変身する。
 その際に人間と人間を混ぜる事が可能だったので、混ぜる事にした。
 ヒスイと?ネームの人間を掛け合わせる。
 名前は分からなくても、見た目は頭に浮かんて来るから不思議だ。

「で、これからどうするんだ?」

「ドッペルさんの力を活かしたいと思っているので、少し時間をください。その間は自由にしていいですよ」

「そうか。じゃ、少し街の外に出る事にするよ。色々と実験したい」

「了解しました! では、夕日に成ったら、あの時計台の下で待ち合わせしましょう」

「分かった」

 俺は隼に変身して、城壁を超えて外に飛び出した。
 外を飛びながら、リザードマンの空を探す為に色々と行っている。
 硬そうな生き物を入れながら、飛行生物を混ぜ入れると、完成した。
 次に海。
 これがなかなか難しい。

 なかなか海の配合が出来なかったが、一時間後には成功した。
 陸地に座って休憩していると、遠くから微かな声が聞こえた。
 パシップスキルなので理解度はマックス、故にどんな状態でも使える。
 そんなスキルに強化された聴覚がその微かなは声を拾ったのだ。

 俺は元人間だ。人間として、助けに行かない訳にはいかない。
 でも、その人間が死んだ事を脳裏に思い浮かべても、なんとも思わない。
 なんとなく、感情がさらに薄れている気がする。
 リザードマンに変身しているのが悪いかもしれない。

 その場所に急いで向かうと、虎の様な魔物が数人の子供達に向かって牙を向けようとしていた。
 なんで魔物が蔓延る外に子供だけで居るのか不思議で堪らないが、今はそれどころじゃない。
 不思議だ。不思議でいっぱいだ。
 リザードマンの姿なのに、子供だけは助けないといけないって思える。
 でも、この姿では良くないだろう。見た目の良いヒスイと好青年を掛け合わせて、腕だけをリザードマンに、そして虎の口に向けて伸ばす。

「対して強くない!」

 リザードマンの鱗が虎の牙で砕かれない。
 本当はスキルを見せて貰った後に倒したいが、四の五の言っている場合では無い。
 腕を強く振り絞って、振るう。
 虎を薙ぎ払う。ネコ科の動物らしく、くるりと回転して着地した。
 俺に咆哮し、地面をトッテトッテとかなりの速度で走って来る。

 陸蜥蜴のお陰で陸地を走るスピードが上がっている。他のも同様だ。今更だが、雪蜥蜴とかは無いのだろうか?
 今は関係ない。リザードマンの腕にしていた腕を皮だけではなく陸蜥蜴腕その物に変更する。
 肥大化し強靭に成った拳を固め、相手の動きに合わせて突き出す。

 森の魔物と比べたら、あのうさぎと比べたら、大した力は備わってない。
 頭蓋骨を粉砕し、地面に叩きつける。地面に亀裂が入り、少し凹む。
 即死だ。

「かっこいい!」

「え」

 腕だけリザードマンの人間なぞ気持ち悪いと思われても仕方ない。
 純粋な子供なら、怖がってしまうだろう。
 成る可く抑えたが、速攻で倒すにはこれが一番良いスタイルなのだ。
 だから、多少の罵倒は覚悟していた。
 しかし、子供から発せられた言葉はそんなのでは無かった。
 その事に驚きを隠せないでいると、中心に居た女の子が歩寄って、リザードマンの腕を掴んでくれる。

「私はリーシア。助けてくれてありがとうこざいます」

 他の子供達もそれぞれお礼を述べてくれる。
 ちょっと照れくさかった。

「わぁ」

 俺は人間の腕に戻す。すると、再びはしゃぎ出す子供達。

「どうやってるの!」

「教えて教えて!」

 無邪気な子供達は目を輝かせてそう懇願して来る。
 教えて、と言われても、自分でもどうして出来るのか分からない。
 考えてもみなかった。そう言えば俺、どうやって変身してんだ?
 なんとなくで出来るからとか、生物的にとか、それすらも考えていなかった。
 そう言うモノだと納得する前から意識外にある。

「こら、みんなこの人が困ってるでしょ!」

「ごめんなさい」

「リーシアちゃんだよね? 助かるよ。それよりも、子供達だけでどうしてこんなところに?」

「実は⋯⋯」

 リーシアが話してくれた。
 この子供達は同じ孤児院で育ち、恩人の先生の一人が誕生日だから、プレゼントとして綺麗な花を探しに来たらしい。
 お金がないから、外で手に入れるしかない。

「成程。でも、子供達だけだと危険だから、これ以上は許せないよ?」

「そこをなんとか見逃してくれませんか!」

「見逃せないよ。でも、俺が守ってあげる。必要なんだよね? 怒られた場合は一緒に頭を下げる」

「ほんとですか?」

「ああ」

「なぁなぁ。なんで姉ちゃんは俺って言うの? 男っぽいぞ」

「⋯⋯」

 そう言えば、好青年を混ぜたが大元がヒスイだった。
 多分、イケメン女性に変身している事だろう。

「それは女子差別になるから気をつける様に。気にしてはダメって事だ」

 質問して来た男の子にそう答えて、俺は子供達を引き連れて綺麗な花を探しに行った。
 片目だけをうさぎの真紅眼にして、【威嚇】を使って魔物を寄せ付けない様にしておく。
 魔物が近くにいても、俺の五感がすぐにそれを見抜き、さっさと倒す。

「本当に強いな! 俺もあんたみたいに成れる?!」

「ちょ、リウイ。失礼でしよ!」

「良いよリーシアちゃん。ん~どうだろうね? 日頃の鍛錬と、育ててくれた先生方に感謝すれば、強くなれるよ」

「えー鍛錬は面倒だから無理ー」

「なら強く成れないな」

「それも嫌だー! くーどうしたら良いんだァ」

「リウイ⋯⋯」

 リーシアが呆れて、他の子供達が笑い出す。
 この男の子はムードメーカーなのか、それともマジなのか。
 マジだとしたら、⋯⋯いや、今どきの子供は進んでいるからな。
 鍛錬、か。俺が言って良い言葉だろうか。
 俺は魔物を見て、その力が使える。確かに、森での弱肉強食で魔物を沢山倒した。
 でも、それも前世の知識の利用だったりで技術が伴ったモノではない。

 剣術、体術、槍術、魔法、なんでも良いから、技術を上げて行いと、いずれ死ぬかもしれない。
 それだけは阻止しなくては成らない。

「そう言えば、お姉さんお名前は?」

「名前? ⋯⋯適当で良いよ」

「ダメ!」

「え?」

「お名前はその人を表す称号だって、言ってたもん! だから、お名前を教えてください! ⋯⋯ダメ、ですか?」

「ぐっ」

 子供にここまで心が揺らされる事なんて初めてだ。
 これってもしかして、ヒスイの心か? それとも、適当に混ぜた青年の心か?
 確実に俺の心では無い。
 しかし困ったな。ガチで名前なんて無い。ドッペルゲンガーだからドッペル、なんて伝わらないよな。
 それに、子供にドッペルドッペル言われたくない。
 小学生の頃、そのネタで周りに人気だった双子を思い出した。
 良く遊びに誘われたっけか。記憶が曖昧だ。

「実はね、俺には名前が無いんだ」

「嘘です! お名前がない人は居ません!」

「無いんだよ。嘘じゃない」

 俺が真剣に話すと、不服そうだが納得してくれた。

「だからさ、名前を付けてよ。俺達が出会った記念にさ」

「⋯⋯皆、どうする?」

 リーシアが皆と相談して、『考える』との決断に落ち着いた。
 リーシアがまとめ役のようである。俺は当分、お姉さんかお姉ちゃん呼びだ。
 てか、名前ってヒスイが付けるもんじゃないのか? あいつ、一応主な訳だし。
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