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一章 転生と心

お仕事始めます

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 ヒスイの交渉の元、この豪華な客室には貴族の娘とその両親、ヒスイと俺しか居ない。
 ゆっくりとマントを外すと、目の前の三人が驚愕する。

「わ、わたくしです」

「違う。これは俺の娘では無い!」

「落ち着いてください。それは事実です。この人は私の使役獣でございます」

 ヒスイが淡々と説明をする。今度出発する馬車のダミーに俺を入れる事を。

「確かに、その方法なら確実性は上がるだろう」

「どうでしょうか? 今回はこちらからお話を持ちかけましたので、予定していた金額寄りも割引させて頂きます」

「うーん。今回も大丈夫、と言う保証もない。保険はある方が良い、か」

 父親がそうやって考える素振りをする。もう交渉はヒスイに任せて、俺はこの部屋を見渡した。
 凄い豪華だ。大きな鏡まである。

「あの、わたくしの体でうろちょろとしないでくださいませんか?」

「分かりました」

 ちなみに彼女の名前はエリスらしい。
 交渉は淡々と進み、予定日を決めて俺達は解散した。
 報酬はきちんと役目を果たしてから。

「にしても、他国に行く理由が婚約の話だとはな」

「色々あるんですね~」

 なんでも、この国にいる同じ公爵家から婚約の話は持ちかけられていた。
 だが、元々他国の伯爵家と良い感じで、既に婚約の話も進めていたエリス達は断り続けていた。
 しかし、その公爵家は悪名高く、何するのか分からなく、結婚を推し進めようとの事だった。
 その諸々の作業の為に行くらしい。

「国際パーティで知り合って純愛結婚、貴族では珍しいパターンですね。初々しいです」

「あのエリスって子。かなり若そうだったぞ」

「エリス様、ね? 確か11歳だった気がします」

「お、おお」

 わけぇ。

 そして、その日が来たので、俺はエリスの見た目で馬車に乗り込み、揺られている。
 そして、冒頭に繋がるのだ。

 ◆

 ヒスイの姿で出た俺を警戒する盗賊共。
 殺すのは良くないらしい。

「傭兵か!」

 見た目的に傭兵だと思われた俺に向かってクロスボウが放たれる。
 高速で放たれたであろう矢もあのうさぎと比べたら遅い。
 右腕の皮膚を鱗へと変えて矢を弾いた。

「なにっ!」

 驚愕している盗賊の思考を置いて一瞬で肉薄し、顔面に向かって拳を突き出した。
 骨を砕く様な感覚を感じながら、吹き飛ばした。

「脆い」

 別にイキってる訳では無い。本当に脆いのだ。
 日本の成人男性と比べたら硬いのだろうが、あの野生溢れる森と比べたら脆い。
 力加減が難しいな。

「と」

「なんだと!」

「殺気が出過ぎ」

 ノールックで剣を躱した。
 肘で顔面を殴って気絶させた。骨は普通に砕けてるし、鼻血が出ている。地面に倒れた。
 思いの外人間が弱いんだが?

「まずいなぁ。これじゃ修行にも成らない」

「バカにすんなよバケモンが! アタシ達はレッドウルフ盗賊団第三軍! 負ける訳がないよの!」

「ちょい待て!」

 女が叫び、片手斧を持って走って来る。

「レッドウルフ盗賊団⋯⋯だと?」

「大盗賊の名前でビビったか!」

「名前、ダサくね?」

「死ねっ!」

 大きのか。知らんよこの世界の常識なんて。

「なん、だと」

 片手斧が首に向かって振るわれたので、首を鱗に変更させた。
 すると、簡単に弾けた。金属音が鼓膜を震わせた。
 ちょっとうるさいね。

「悪いが、女だからって手加減する常識は備わってないから」

 腹を蹴り飛ばし、吹き飛ばして地面を転がせた。
 盗賊達が一気に迫って来るが、足をうさぎとリザードンマンを配合させた感じのにして、一気に加速する。
 アクション映画顔負けの足技で吹き飛ばし、骨を砕いて気絶させる。

 別に殺してもなんとも思わないが、捕らえた方が良いらしいので手加減する。
 ⋯⋯あれ? 人を殺してもなんとも思わない?
 なんでだ?
 俺は元人間で、人間を殺すのは『普通』躊躇う。

「普通って、なんだろ」

 地面には血の海が出来、赤色の盗賊達が転がっていた。
 無意識にそう呟いていた俺は隙だらけ。普通に油断していた。
 だから、この不意打ちを受けてしまった。

「油断したなクソ野郎!」

 左肩から切断された。左腕が宙を舞う。

「武技、断切スラッシュだ! 痛いだろ! 仲間が受けた痛みはそれ以上だ!」

「すまん痛くは無い」

 舞った左腕を右手で掴み取った。お、感覚的に分かる。
 これもきちんと『使える』ようだ。
 にしても武技、ね。
 相手の目に変えてスキルを確認すると、スキルにはきちんと【断切】が存在した。

 現地人に取って、スキルは武技などの認識らしい。
 これは良い情報だな。

「は、は?」

「今更驚く事か?」

 左腕を刀へと変更させた。きちんと腕を握ってる感覚がする。
 意味が分からない。
 腕を握ってる感覚だが、刀を掴んでいる感覚もするのだ。
 不思議だな。

「良いスキルをありがとな」

 俺はさっき見たスキルの動きを模倣して扱う。
 理解度が低いせいか、大した力は無いが、刀の特徴とドッペルゲンガーの身体能力で相手の右腕を簡単に切断した。

「あああああああああ!」

 血を噴射しながら叫び散らし、地面を転がる。
 のたうち回る盗賊を見下ろしながら、塚の部分を切られた部分に押し付ける。

「お、行ける」

 そのままくっ付けて左腕を作り直す。
 魔力を込めれば完治する。
【自己再生】のスキルの力も利用する。スライムと上級聖水を配合した時に出来た魔物のスキルである。
 使用方法は再生させたい部分に魔力を流すだけだ。
 それで再生する。

「おいおい。随分派手にやってくれたね~」

 大方仕事を終えて一息ついていると、奥からのっそりと歩いて来る男が居た。
 筋肉すげぇー。
 目を変えてスキルを確認する。

「多いな」

「全員生きてるのか。ま、良いや。お前、殺す」

 相手は武術家らしく、武器は素手だ。
 鷹の様な鋭い目を俺に向けながら、ジリジリと距離を縮めて来る。
 俺も警戒態勢に入る。
 地面に転がっている有象無象とは違うただならぬ気配を感じる。
 だが、技術を向上させるチャンスでもある。

「にしても、男でポニーテールって初めて見たな」

「ポニーテール?」

「気にするな。来い」

「言われなくても」

 警戒して相手をしっかり見ていた。だが、奴は気がついたら目の前に迫っていた。
 全く気づかなかった。見ていたのに、接近している事に気づかなかった。

「はっ!」

 薄ら笑いを浮かべている男は俺の目の前でバチンと手を合わせた。
 一瞬で弾かれた手の振動は俺の鼓膜から脳に一瞬で伝わり、ピリッと来た。

「っ!」

「動かないだろ」

 なんと言えばいいのだろうか?
 まぁ、簡単に言えば猫騙しである。
 体が動かない妙な感覚に陥る。そして、突き出される拳。
 その拳には魔力とは違う何かが乗って蒼色のオーラを纏っていた。
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