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二章 獣王国

獣王国

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「なんやてえええええ!」

 とある場所で水晶を覗く存在がいた。水晶の中には映像が流れており、それを見て慌てていた。
 大きな空飛ぶトカゲ、ドラゴンが敗れ去る映像だった。
 ドラゴンを倒したのは突然現れたドラゴン。倒されてからは映像は映らなかった。

「なんでだよ! あそこまで頑張ったのに! 死体じゃ操れんから洗脳を頑張ったのに! 誰だよ、なんだよこのキラキラ光るドキュンみたいなドラゴンは!」

 地面をバタバタと踏み付けて騒ぎ立つ。しかし、急に冷静になる。
 後ろに振り返る。そこには人間の見た目ながらに虚ろな目をして、よろよろと立っているゾンビが蔓延っていた。青白い肌に、所々腐れ剥がれた皮膚。

「この中で絶対に強いアンデッドが育つ筈だ。⋯⋯お前の名前は、リーシアだっけか?」

 一人の子供に目無き目を向ける。
 一番生命オーラが強く、より強いアンデッドになると予想される女の子ゾンビに。

(しかし、子供なのにどうしてここまでオーラが強いんだ? 油断したらこちらが呑まれそうだ)

 子供がゾンビに成っても訓練や鍛えてない大人よりも少し強い程度の身体能力。
 当然、大人のゾンビ、それも生前で鍛えたりした人の方が強い。
 しかし、このリーシアと呼ばれた子供のゾンビだけは例外だったのだ。
 大人のゾンビより、訓練して元が強いゾンビよりも、成長性を秘めていた。

「本当に⋯⋯何故だ?」

 日を追う事に強化される身体能力。そしてリーシアを眺める存在が認める程の戦闘技術を持っていた。

「生前暗殺者としてのノウハウでも教えて貰ったのか? ⋯⋯ないか。厨二病が再発しそうだ。それに、リーシアだけが強いオーラを持っている理由にならんしな」

 敗れ去ったドラゴンの事は諦めて、敵に成るだろう、通称ドキュンドラゴンの対策に移る。

「俺はアンデッドロードに成る。魔王に成る。さて、獣王国の戦士や民のゾンビ化には失敗してしまったが、まだ作戦はある。眷属達、動くぞ!」

 ◆

 ゆっくりと目を開いて行く。睡眠を必要としない体なのに、しっかりと眠っていたようだ。
 瞳に突き刺さる日光が眩しい。
 それを遮るかの様に、金髪のエルフが舞い込んで来る。

「おはようございます。ゼラさん」

 ニコリと微笑むヒスイに笑みで挨拶しながら、右手でお腹を摩る。
 穴は無い。目もきちんと開くし、痛みも感じない。
 少しだけ頭部に柔らかい感触がする。分かる。
 これはあれだ。膝枕だ。前世なら、誰にやられても何も思わなかっただろう。
 だけど、今は少しだけ、安心するな。

「起きるぞ?」

「はい」

 立ち上がり、土を払う。ヒスイも服に着いた砂を払っていた。
 周囲を見渡せば、野原だった周囲の景色が変わっていた。
 クレーターが出来上がり、緑が大幅に消えていた。
 その中心にはドラゴンが倒れていた。離れた位置には翼が二枚落ちている。

「さて、ヒスイよ」

「なんですか?」

「これ、どうやって運ぶ?」

「そりゃあ勿論⋯⋯」

 俺は再びドラゴンの姿となり、ドラゴンと翼を背負う。
 かなりの大きさで、このまま飛ぶ事は無理だった。
 陰の巻物の訓練で手に入れたスキルはヒスイの前では使えない。

 ドラゴンとの戦闘で一つだけスキルが増えていた。
隕石落としメテオアタック】であつた。
 高所から物を落とす時に補正とかが乗るらしい。
 変身以外にも訓練などでスキルが手に入る。
 今後の試行錯誤次第ではスキルが大幅に増える事だろう。それよりも重要な事がある。
 後天的にスキルを増やせる事が確定したのだ。
 ヒスイのスキルも増やせる可能性はある。後はどれがスキルでどれが技術なのか判断する事だな。

【風斬り】ならヒスイでも覚える事は可能だろうか?
 頭の上に寝転ぶヒスイに目をやる。俺をずっと介抱していたのか、今はぐっすり寝ている。
 ヒスイが今重要にしている事は、このドラゴンの死体をきちんと運ぶ事だ。
 ドラゴンを狩れるタイミングは基本的に無いし、とても希少なので高額で売る事が出来る。
 金はいくらあっても困らない。
 だからこそ、これ以上傷つけない様に安全性に特化して運んでいる。

 爪や牙などでボロボロだが、一体いくらで売れるのだろうか?

 それからも数日進んで、城壁が視界に入った。
 そう、ようやく獣王国へと到着したのだ。日本の城のような物が見える。和風だなぁ。
 塀を見れば、兵士が集まっていた。
 双眼鏡みたいな、遠くを見る魔法を利用して俺を見て来る。
 皆慌てだしている。そりゃあそうか。基本的に攻めて来ないとされている化け物が歩いて来ているんだから。
 背中に生えている翼は飾りかよ。ま、ドラゴンを背負っているのもあるかもしれないけど。

 俺は頭の位置を少しだけ下げて歩く。
 ヒスイが旗信号で、二枚の旗を動かして信号を送っている。
 ヒスイには城壁の方は見えてないだろうが、俺はドラゴンの目で目視で確認出来る。
 遠くを見れる魔法を使っている奴らが口を動かして、周囲の兵士に伝えている。
 慌ただしく動き出す兵士達を観察しながら歩く俺。

 門まで迫ると、兵士が数十人と槍を持っていた。
 中心には偉そう基、立派な騎士が立っていた。
 ヒスイを下ろして、二人が会話する。
 虎の獣人だろうか? なんかそれっぽい。

「本当に使役している⋯⋯ドラゴン種なんだな」

「あー」

 俺はヒスイのアイコンタクトに頭を動かして返事し、ゆっくりとドラゴンと翼を地面に置いた。
 そして、自分の体が小さくなる感覚に包まれる。
 リーシア大人の姿にドラゴンの金剛の角と翼、尻尾を生やして、黒いマントを羽織っている状態へと成る。
 これらは相談していて事だ。
 さらに、マントや服から露出している部分には鱗が出ている。

 設定は龍化出来る龍人だ。

「ま、まさか! り、龍人種! 龍化出来る程の強者と仲間のエルフだとは、凄まじいですな」

「あーいや。それ程でもないですよ」

 実際俺は龍人ではない。そんな変身先も出なかった。本物の龍人を見ない限り、俺が偽の龍人にも成らないだろう。
 今の俺は仮装した大人の女性だ。

「それにしても、お二人でレッサーレッドドラゴンを討伐したのですね。それだけでも凄い」

「あはは。まぁ」

 ヒスイには言ってないが、それよりも一つ上の魔物である。
 と言うか、どいつもこいつもなんで皆、レッサーなんだよ。
 あれか? それよりも強いドラゴン種なんてこんな場所に来ないって言う絶対的な先入観があるのか?
 それとも居て欲しくないと言う願望からか?

「ギルドに報告して来るので、置いてても良いですか?」

「問題ない。これを中に持っていかれる方が面倒だ。それまでは我々が責任を持って守ると約束しよう」

「ありがとうございます! ゼラさん、行きましょう」

 ドラゴンの場所をズラしてから、俺達はギルドに向かった。
 国に入ろうと並んでいた人達が見物する様に群がり、国の中からも見に行く人が居る。
 服装が時代劇のソレである。⋯⋯洋服の方が動きやすそうだ。
 騎士とかは甲冑だった。前の国と比べると、和風⋯⋯日本に近い感じの文化が広がっていた。理由が知りたいな。
 獣人の割合が当然的に多かった。

 俺には今、少しだけ懸念点がある。
 俺達が倒したのは“レッドフレアドラゴン”だ。
 それよりも一つ下の“レッサーレッドドラゴン”では無い。
 しかし、世間的、常識的にレッサーの方にされる為に、本来手に入る報酬よりも下がるのでは無いかと思う。
 俺がその事を言っても、信じてくれる可能性は限りなく低いだろう。
 寧ろ、影武者サービスをする存在として、成る可く目立たない様に行動する方が良いのかもしれない。
 ドラゴンは仕方ない。高額で売れるのだ。
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