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二章 獣王国

二日目の影武者契約

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 俺は静かに座布団に正座するが、ヒスイは上手く座れていなかった。
 俺の真似をしているが、落ち着かない様子で足を動かしている。

「エルフの嬢ちゃん。楽な体勢でええで」

「お言葉に甘えます」

 楽な体勢となる。机の上には酒が並んでいた。
 時代劇で出て来そうな感じだよ本当に。
 中心に座っているのはライオンの獣人。この国の王だろう。筋肉が凄い。
 酒を飲みながら、ゆっくりとこちらに目を向けて来る。

「長い話になるやろから、飲むとええ」

 俺は何も言わずに酒を口に運ぶ。高級な酒かと思うような味が喉を潤わせる。
 ヒスイも緊張した様子で飲んで行く。

「美味しい」

 そんな感想を漏らしていた。元社会人の血が疼いて来る。
 まぁ血はないのだが。⋯⋯ヒスイは酒に強いのだろうか?

 獣王の左側には二本の尻尾を生やした大人の女性。狐の獣人らしい。
 俺の視線に気づいたのか、妖艶な微笑みを向ける。
 俺は会釈でそれに返事をする。
 右側には娘と思われる女の子が丁寧に座って、ジュースを飲んでいた。
 ライオンと狐のハーフで良いのだろうか?

「さて、酒の席に成った事やから、本題に入るで」

「はい」

「まずは自己紹介を。俺はこの国の王、獣王、ライオだ」

 そして王妃のリコオさん、その娘のリオさんらしい。

「私はヒスイ・メイ・スカイです。この度、影武者サービスのご利用ありがとうございます」

「お⋯⋯わたしは、ゼラニウム、です」

「龍人⋯⋯聞いたぞ。そして見て来た。よく二人でレッドフレアドラゴンを倒したモノだ」

 俺は顔をバッと上げる。
 誰もがレッサーだと言っていたのに、獣王はあっさりと正解を口にしたのだ。
 ヒスイは小首を傾げている。

「まぁ、そんなのは良い。今回の依頼内容だが⋯⋯」

 俺的には良くない。上位互換だぞ? 正規の値段で買い取ってくれ。まじで、頼むから。
 そんな事言えないよね。

 閑話休題。北の方にある国、『ブランシュ』と言う国と交渉するらしい。
 内容は同盟。
 この国は酒などを輸出し、相手方からは肉などの生物を輸入するらしい。
 そして、他国から攻められた場合の手助け。種族間の平等化。
 その他諸々の交渉。
 今回は外交官を置きながら、リオさんの勉強の為に同行させるらしい。影武者利用して勉強?

「⋯⋯ヒスイ、大丈夫か?」

「あ、いえ。ブランシュって、私の認識では人間絶対至高主義だったと思うので」

「はっはっは! エルフの嬢ちゃんは博識やなぁ。流石は文化を重んじるエルフと言うべきか。せや。ブランシュは人間種が全てにとって優先されるべきだと考えている。亜人は迫害され、平然と奴隷として連れ回しておる」

 おいおい。そんな相手と同盟を結ぶのか?
 この国は国に仕える人は全員が獣人だ。しかし、それ以外には人間などもいる。
 確かに、獣人が優遇されている感じはあったが、差別している感じはなかった。
 あくまで区別。
 だが、聞く限り相手の国は差別意識が強いと思う。
 前世でも同じだ。差別は大きな問題を生み出す。

「今回の話に寄って、奴隷制度の廃止、奴隷解放を約束してくれるそうだ」

「それは良かったです」

 ヒスイの辛そうな声が聞こえる。

「良かったらこれもどうぞ。美味しいさかい」

「あ、ありがとうございます」

 王妃にツマミを渡されて萎縮する。何かを察した様に時々ヒスイに会話を回している。
 意識を分散させている感じがする。こっちにも妖艶な笑みを浮かべて来る。
 底が見えんな。話し合いではこの王妃様に勝てるビジョンが見えない。

「で、今回影武者して貰うのは、うちの娘だ。何かきな臭いからな。保険だ。別に交渉する必要は無い。あくまで交渉は外交官や。あんたらは見ているだけで良い」

「成程。ですが、それで勉強になるのですか?」

「他の安全安心だと判明したところでやればええ。どうやってやるのか見せてくれへんか?」

「ゼラさん、お願いします」

「うん」

 俺はリオさんに変身する。

「こ、これは確かに、一見分からないが、⋯⋯違和感あるな?」

「双子とは違いわたしは偽物です。優秀なお方からは偽物だとバレるようです」

「そ、そうか。⋯⋯それじゃ最後に」

 そう獣王が言うと、笑顔で王妃は離れた。娘のリオさんもそそくさと離れた。
 ヒスイと俺は意味が分からずに居ると、獣王が一度目を閉じて、一気に開く。
 そして、俺にだけ覇気が放たれる。
 うさぎが使ったような重圧を感じる。体が上手く動かせない。
 ヒスイが疑問を強める。

 俺は一度深呼吸して、同じ様に威圧を飛ばす。
 俺にはオオカミの群れのボスのスキル【ボスの威厳】がある。
 相手の圧に怯えて敵に怖気付く事はない。
 更には、獣王のスキル【王の風格】【獣王】により、さらに強く成っている。この二つは予測だけど。
 もしかしたら、他のスキルの影響もあるかもしれない。

「く、くははははは!」

「え? え?」

「ゼラニウムと言ったか? 気に入った! まさか獣王であるこの俺に平然と威圧を返すとは、大した者よ!」

 気に入られたようだ。⋯⋯俺にだけ飛ばしたって事は、ヒスイの底は既に見えてしまっているのかもしれない。

「それじゃ、よろしく頼むぞ」

「はい。サービスご利用ありがとうございます」

 俺と獣王が握手を交わす前に、ヒスイが止めた。

「あの、これって、ゼラさんが、命の危険に会う可能性が、ありますよね」

「ヒスイ、それは当たり前だ。影武者ってのはそんなモノだ。心配してくれるのはありがたいが、ここで仕事を放棄する訳にはいかない。これには、信頼が重要だろ?」

「ですが⋯⋯その国の危険性は⋯⋯」

「大丈夫。ヒスイと俺の功績を忘れたか?」

「そう、ですね。止めてすみません」

「いやええ。仲間との相談は重要だ。改めて頼もう。ゼラニウム、ヒスイ」

「勿論です」

「最後に、どうやって変身したか教えてくれないか?」

「企業秘密です」

 そして、俺達は別れた。
 宿に戻る途中で王妃が前に来た。

「今日から内密に来てください。ある程度の基礎をお教えしまう」

「ありがとうございます」

 見た目は真似出来ても、動きは真似出来ない。
 しっかり学ばなくては。⋯⋯そう言えば、この交渉にはヒスイも付いて来るのだろうか?
 その場合はどうやるのか⋯⋯まぁ六日後だから今は良いか。

「⋯⋯あの、なんですか?」

「いえ。珍しいモノでして。それでは」

 そんな事を言って王妃は離れて言った。本当に、底が分からないな。
 何かを見透かしたような瞳に俺は疑問を隠せないでいた。

 宿に戻る。
 ベットにそうそうとダイブするヒスイ。

「緊張しました。全然取引出来ませんでしたぁ」

「まだ二回目だし、そんなもんだろ。⋯⋯ブランシュ、嫌だったらヒスイはここに残って居ても大丈夫だぞ?」

「それは主失格ですよ。付いて行きます。ゼラさんは王女の動きや態度をしっかり学んでくださいね」

「当たり前だ。それが仕事だからな」

「はい」

 そんな明るい会話を交わしていると、ドアがノックされる。
 そろそろヒスイを寝かしたいのだが、出ない訳にもいかない。
 開けると、そこには黒いマントを羽織って、フードで顔を隠した獣人が立っていた。
 身長や立方的に⋯⋯リオさんか。

「どのようなご要件で?」

「身柄を隠す為に、ヒスイ殿と行動を共にする様に言われております」

「まじか~」

「マジです」

 そして、ヒスイは気まづい中で寝れず、朝はフラフラだった。
 対象にリオさんは爆睡だった。⋯⋯仲良くしてくれよ。
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