万能ドッペルゲンガーに転生したらしい俺はエルフに拾われる〜エルフと共に旅をしながらドッペルゲンガーとしての仕事を行い、最強へと至る〜

ネリムZ

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アンデッドの国

絶対と絶対の矛盾目標

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「にしてもゼラお姉さん⋯⋯その見た目もしかして私?」

「あーうん。そうだよ。嫌だった?」

「ううん。そもそもゼラお姉さんの真の見た目知らないし」

「だよね。ありがと」

 屋根の上に三人して座り、リーシアは俺の膝の上に乗っていた。
 服も皮膚なので体温が直に分かる⋯⋯全く生気の感じない冷たい肌。
 一体今までどんな人生を送っていたのか分からない。分かりたくもなかった。

 俺に名前をくれて、子供達と一緒に受け入れてくれた。
 あの時の感情は今でも忘れた事はない。
 嬉しいから。

「貴女がゼラお姉さんのお仲間さん?」

「うん。ヒスイ・メイ・スカイって言うの。ヒスイって呼んで」

「うん。私はリーシア、よろしくお願いします」

 笑顔を向けるリーシア。
 その口は肉が避けて数本抜けた歯に虫歯を見せていた。醜い見た目だと言われても仕方ない姿。
 俺はリーシアに会えて嬉しい気持ちでいっぱいだ。
 ヒスイも見た目で卑下する事はなかった。

「そう言えば、他の皆は?」

「皆居るよ。ほら」

 リーシアが指刺す方向を見ると子供のようなゾンビがボールで遊んでいた。

 ゾンビは本来、知性が無くて町中に居たゾンビのように徘徊するだけの魔物だ。
 あそこまで和やかに遊ぶゾンビは初めて見た。
 孤児院の子供達だけ知性が高い理由がいまいち分からない。リーシアのお陰かな?

 子供だからって言う理由はまずない。
 それだったら街中の子供のゾンビも知性がある筈だ。
 ⋯⋯と、言うか。
 リーシア達がゾンビでこの場所に居るなら、この国に何が起こったのか知っているのでは無いか?

 ⋯⋯だけど、俺は聞けなかった。
 ヒスイとリーシアが話しているのを見守りながら考える。
 リーシアにこの国の現状を聞いたら、この惨劇にリーシア達が関わっている事を確信しているようだったから。
 子供は育つ環境で価値観などが変わってしまう。

 もしも人をゾンビに変える事に躊躇いのない人間⋯⋯ゾンビになったら彼女は世界的に敵になる。
 そうなると冒険者や国の兵士が彼女を討伐しに来る可能性がある。
 知性のあるアンデッドは上位種なので当然高ランクの面々か集まる筈だ。
 知性があるとしても彼女は子供だ。強い大人には負けてしまう。

 俺はどうしたら良いんだろう。
 リーシアが生きているか怪い状況だが、また会えたのは嬉しい。
 だけど俺はエドの獣王公認でこの国の調査に来ている。
 この国の事情や真実を知って伝える義務がある。

「⋯⋯ゼラお姉さんどうしたんですか?」

「え? いやちょっと考え事」

「そうですか?」

 リーシアにはおかしな点がそこそこ存在する。
 大きな点を挙げるとしたら、他の子供達が居ると言っておきながら会わせようとしない事だ。
 膝の上に乗っているのもリーダー気質、大人ぶっていたリーシアが取る行動では無い。
 多分、俺が立ち上がるのを防ぐ為に乗っている。

 別に嫌では無い。寧ろ嬉しい。
 リーシアの知性が生前よりも高まっている。
 なぜなら、俺の見た目がリーシアの大人バージョンだと一目で見破ったからだ。
 色々と俺も話したい。色々と聞きたい。
 だけど、そこに踏み入れたら俺の中の『何か』が崩れてしまう気がして、踏み出せなかった。

 きっと彼女に聞いたら全てが分かるだろう。
 だが、そうなると確実に彼女は俺達の⋯⋯嫌だ。
 そんなのは嫌だ。認めてなるものか。
 認めたくないんだ。
 俺の中でリーシアは孤児院の子供達のリーダーで、育ててくれた先生の為に危険を犯す一面がある子供なんだ。

「ゼラお姉さん。これからどうするの? ずっとここにいるの?」

「いや、それは⋯⋯」

「あはは。無理だよね。と言うか、それは私が無理。⋯⋯私、ゼラお姉さんやヒスイお姉さんに会えて嬉しかったです。お二人とも、逃げてください」

 リーシアは俺が思っていた以上に大人だった。
 彼女の片目しかない瞳からは決意の炎が灯っていた。
 戦う意思が、その瞳に宿っていた。

「お二人が気づいている様にこの国は既にアンデッドだらけです。なので、逃げて、助けを求めてください。なるべく沢山の聖職者を。アンデッドは聖属性に弱いですから」

 ゲームでも当たり前、この世界でも常識。
 浄化などの綺麗にする感じや聖なる感じの魔法はアンデッド特攻がある。
 ゾンビの弱点は主に火と聖である。
 後はエンチャントされた武器とか。

「⋯⋯でも、その場合」

 ヒスイが言おうとした言葉に俺は反応を示した。
 ヒスイには向けたくなかった殺意を、無意識に向けてしまった。
 ヒスイが言おうとした事には確実にリーシアを『ゾンビ』として受け入れる必要があるからだ。

「ごめんなさい」

「ごめん、ヒスイ」

 流石にヒスイも分かったのか、言葉を呑んだ。
 俺に気を使わせてしまった。
 守ると決めた相手に殺意を一瞬でも向けてしまった自分に怒りが湧く。
 なんでこんなにも自分はクズなのかと。

《ザザザ────ザザザ》

「うんうん。間違ってないよ。私はゾンビだよ。だからゼラお姉さん。ヒスイお姉さん。私を私達を殺せる人を呼んで」

「⋯⋯嫌だ」

 唯一絞り出せた言葉がそれだった。
 俺の我儘の一言だった。
 精神年齢が普通の大人の社会人だった俺の醜い我儘。
 前世の同僚が見たら卒倒するレベルの俺の発言。

「違うよ。私は死ぬんじゃない。元々死んでるし⋯⋯私達を天に送るんだよ。私達をこの煉獄の苦しみから解放して欲しいの。⋯⋯ゾンビの体ってね、無くなる事無く肉が腐り、崩れる痛みを感じてるの。痛いんだ。段々と神経が潰れて痛みを感じなくなってるけどさ」

「⋯⋯⋯⋯」

「なぁヒスイ、蘇生魔法って知らないか?」

 辛い顔をして黙り込んだヒスイに無理難題を聞いてみた。

「ありますが、私では使えません。第一、既にゾンビとして新たな『生』を受けてしまったので、不可能です。魔なる存在が神聖魔法の死者蘇生リジェネクトを受けると浄化されます」

「⋯⋯ちくしょう」

「私達を楽にすると思ってさ、助けを呼んで。逃げてください」

 もしもそれが最善策なら俺だってそうしたい。
 リーシアが望むならそうしてやりたい。
 だけど、リーシアは嘘を言っている。
 アンデッドのゾンビになろうが王妃との出会いによって、王妃以上の観察眼を持った俺には通用しない。

 俺は強くリーシアを抱き締めた。

「ゼラお姉さん。嬉しいよ。でも、無理だよ。だって私。この国を全滅させたのに手を貸しちゃったから。私は地獄行きだよ。でも、迷わないでね。絶対に止めたちゃダメだよ? お二人とも、早く逃げてください」

「嫌だ。絶対に嫌だ。またリーシアを失うのも、リーシアが傷つくのも、絶対に嫌だ。それに地獄行きなら俺も変わらない」

「でも、どうしようもないんですよ。私は自分の命を自分では断てない。だから誰かにやって貰う必要がある。お二人はお優しいから無理です。だから他の場所から強者を呼んでください! この国をこう変えてしまったアイツは化け物です」

 リーシアの焼け跡が広なっていく。
 俺の体に触れて、あの惨状を思い出すかの様に広がって行く。
 止めてくれ。止まってくれ。
 もう、リーシアにあの苦しみを、痛みを与えないでくれ。

《条件───スキル──獲得───失敗》

「絶対に助ける。君を」

「嬉しいです。でも、それは絶対に無理です」
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