最愛の番になる話

屑籠

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 オメガでも、気の合う友達ができた。礼人は特に、クラスも近かったしお互いによく話すようになった。
 そんな彼が、助けを求めてきたから、だから彼を連れて逃げた。彼の力になりたかった。
 結果、相手のアルファには怒られて、友達も救うことが出来なかった。
 実家に、連れて行かれて父に怒られ、母には泣かれた。
 何も、悪い事はしてないと思っていた。
 
「あれは、アルファオメガの駆け引きだ。何も知らないベータが、引っ掻き回していいものではない。そんなこともわからないのであれば、アルファオメガに二度と関わるな。転校して、アルファもオメガもいないような学校に通え」
 
 父はそう言った。俺は、俺の全てを否定された気がした。
 わかりました、とそう呟いて部屋に戻る。もういっそ、部屋から一歩も出ないことこそが正解なのではないかとも思い始めた。
 そうすれば、両親に会うことも、兄弟に会うこともない。彼らもまた、アルファオメガなのだから。
 自分とは違う存在なのだから。
 そこの学校も寮があり、家から離れたところにある。だから大人しく準備をして言われたとおりに家を出た。

「そこの駅でいいです。ベータの俺が、運転手付きの車に乗って登校何ておかしいでしょ?」
「しかし、旦那様に……」
「大丈夫、尚寿さん……父は俺に何て興味ありませんから」
「ですが」
「何か言われたら、俺のわがままだって言っていいよ。実際、そうなんだし」
「……本当に、大丈夫ですか?」
「もちろん。だから、ね?」

 はぁ、と溜息を吐いた運転手はそれでも駅の近くで俺を下ろすと、必ず学校に向かってくださいね、と言って心配そうに二、三度こちらを確認してから帰って行った。
 それを確認してから駅のロッカーの中に学校の荷物やら携帯やらを全部入れて、着替えと財布だけ持ってカギを閉めた。あの運転手には申し訳ないけど、俺は学校に向かうつもりははなっからなかった。
 財布の中には現金だけ。カードも、保険証も無い。
 ロッカーのカギはどうしようかな、と考えて少し悩む。
 どこかのゴミ箱にでも捨てようか、それとも遺失物としてどこかで届けようか。
 まぁ、それもおいおい考えるとしよう。
 さて、どこに向かおうかな、と電車の路線図を見上げていると、唐突に後ろから肩を組まれた。

「いーけないんだー、学生がこんなところでおさぼりなんてー」
「っっっ!!!」

 びっくりして、腕をほどくように振り返ると、大学生風の年上の男がいた。
 こんな雑踏の中、自分に興味のある人なんているわけないと思っていたから驚く。

「見たところ、君高校生?」
「……あの、俺行くところあるんで」
「えぇー? おサボりの定番なら、行くところなんてゲーセンかカラオケかその辺じゃないの?」

 適当に切符を買ってこの場を離れようと思い、切符売り場へと向かう。
 が、その腕を掴まれた。

「どうせ行く場所無いなら、お兄さんに付き合ってくれない?」
「は?」
 
 レッツゴー! と人の話も聞かず、彼は歩き出す。

「あ、僕はね啓生。啓ちゃんって呼んでも良いよ」
「いや、呼ばないですし、俺本当にあなたと行くつもりは無くて」
「良いからいいから」

 良くないっていう俺の言葉は飲み込まれて消えた。
 すごく強引なこの人、何なんだろうと観察しているうちに、まずはとこじゃれたご飯どころに連れてこられた。
 
「お昼も近いし、ご飯食べよ?」
「いや、あの、でも」
「ここ、安くておいしい穴場なんだ」

 そうして扉を開くと、中からいらっしゃいませー、と中からは気のいい声が聞こえてくる。
 
「こんにちはー、二人なんだけど席空いてる?」
「大丈夫です。こちらへどうぞ」
 
 二人掛けの席に案内されると、彼と向かい合わせに座る。
 流されるまま座ると、食べられないものとかある? と彼は言って注文してしまう。
 
「それで、おサボりくんは」
「あの、それやめてください。俺、別にサボってなんかいません」
「あ、そうなの? でも、僕は君の名前知らないしな~」

 こんな得体の知らない人に名前を教えるのもどうかと思うけれど、おサボりくんと呼ばれ続けるのも嫌だ。
 どうしたらいいのか、凡庸な俺は考えるだけ無駄かもしれないと思い始める。

「で、おサボりくんは」
「咲也です。おサボりくんじゃありません」
「んー、そっか。じゃあ咲ちゃん」
「はぁ!?」

 にこにことしている彼は、それで、と話の続きを気にした風もなく始める。

「この後、用事あるの?」
「……あなたに話す必要は無いと思います」

 そうは言っても坂牧の家から離れたかったのは事実だけれど、どこに向かうのか、それは全く考えていなかった。

「んー、でも暇だよね?」
「どうして俺に構いたがるんですか? 知らない子供なんてほっとけばいいじゃないですか」
「どうしてだろうね? でもさー、放っておけなかったんだよねぇ」

 あんな雑踏の中から、どうして自分なんかと思う。だって、他にも立ち止まっていた人などは大勢いた。
 それなのに、どうして俺? と自分の運の悪さを呪いたくなった。
 そうして、いるうちに注文したものが運ばれてきて、いったんご飯を食べることになった。
 彼の言う通り、値段の割にとてもおいしく感じられた。あの学園の学食はとても美味しかったけれど、それと同じくらい。
 まぁ、坂牧の家で食べる食事に味を感じられなかった、というのも大きいのかもしれない。
 あれは、俺の舌がストレスでバグっていたのか、それとも使用人たちの嫌がらせなのか。
 今となっては、どうでもいいことだけれども。

「あの、ごちそうさまでした」

 気が付いたら、会計は彼がしてくれていて、俺は一線も支払っていない。
 払う、と言ったけれどいいよ、と笑って受け取ってくれなかった。
 
「さて、次はどこに行こうか」

 そうして、逃がさないようにか彼は俺の腕をつかんで離さない。

「うーん、そうだな。どこか楽しめるところ……やっぱりゲーセンでも行く?」
「……俺、そう言ったお店、入ったことないです」
「え、そうなの? もったいない。なら、今から行こう!」

 よし来たっ! と彼は俺の手を引っ張り、ゲームセンターの中へと足を踏み入れていく。
 初めて来た、というのは本当で、あの坂牧の家の狭い世界では行くことは無かったし、全寮制の学校に通っていたら、ますます足は遠のいていた。
 普通の、一般家庭のベータと知り合いになっていれば、きっと足を踏み入れる機会もあっただろう。

「定番と言ったらやっぱり、クレーンゲームかな?」

 手を引かれて、そのクレーンゲームとやらの前まで来た。
 ボタン操作を教えられたけど、なかなかどうして難しいものだった。それが癖になるともいえるけれど。
 おしい、とかいろいろ言いながら、笑った彼を見て俺も結構笑った気がする。
 こういうお店って、楽しいものだったんだなって、本当にもったいないことをしていた気になる。

「やったっ!」
「よかったね」

 やっと取れたキーホルダー一個。それがとてもうれしい。自分で何かを成し遂げられたことが。
 

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