イスティア

屑籠

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第一章

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 ダンジョンで使えそうな道具は、そもそもオーガも持っている。
 というか、ダンジョンで使うものを売る側だったので、大抵はあるといって過言ではないだろう。
 そう、無いのは食料ぐらいなものだろう。アレン達だってそれなりの準備はできているだろうし。

「よし、準備もできたし、潜るか」

 久しぶりのダンジョンに、オーガはらしくもなく少し浮かれているようだ。
 まぁ、ダンジョンといえば、モンスター、そして素材の宝庫だ。
 オーガにとっては宝の山、いや宝の穴というのは間違いない。
 ここ掘れわんわん、ぐらいな感じだろう。
 基本、一人で潜って一人で採取していたオーガには、人の普通、というものがどういう状態か、わかっては居ないのだが。
 まずは、魔木林のダンジョンへと潜ることにする。
 王都の割とすぐ近くにダンジョンはあり、王都を囲むように数十種類のダンジョンが展開していた。
 洞窟状になっているダンジョンに潜ると、何故か前に入っていった冒険者も見えず、天を見れば、空とそして太陽が広がっている。

「……ダンジョン?」
「このダンジョンは、別名迷いの森とも呼ばれていてな」
「……前に入っていった奴らは?」
「別の部屋に飛ばされてるよ」
「……これが普通なのか?」
「あぁ。このダンジョンは少し特殊なんだ」

 と、アレンは苦笑いする。
 このダンジョン、木を伐採してもしてもしてもしても、次に入るときには元通りになっている。
 その中にトレントも紛れているために、少し危険はあるのだが、それでもやっぱり他のダンジョンと比べ、不思議なダンジョンらしい。

「まぁいいか。それで、ここにあるのは切っていいんだろう?」
「あぁ。別の空間では、木こりも冒険者を雇ってこのダンジョンに入っているくらいだ。問題はない」
「……それはそれで環境には優しいのかもな」

 表の、森林や山は、人が手を加えているのは少しだけらしい。
 森がきれいに健やかに育つよう、不要な木を伐採したり、という作業をしている。
 それ以外で、木材などが必要になればこのダンジョンに潜るらしい。
 ダンジョンというのは一種の魔法空間。その中のことは外とはかかわりがない。
 まあ、それは王都の周辺のみらしいが。

「んじゃ、切るか」

 オーガは久しぶりに、杖を持ちトントン、とドアをノックするように杖を振った。

【風の刃】

 オーガの魔法が展開し、突風が吹いたかと思うと、目の前の木が軒並み倒れている。
 そのことに、唖然としてリカルドとアレンはオーガを見て、それからため息を吐いた。

「こいつはこう言う奴だったな」
「あぁ……とりあえず、俺らは此奴がやらかさない様に見張っておくとするか」

 俺、またなんかやらかしたか?とオーガは首をかしげるが、二人は何も言ってこないし、まぁいいかと流す。
 オーガは、見える範囲に手をかざし、切り倒した木材を収納する。
 ストレージは、まだ一つの枠もたまってはいない。
 けれども、トレントがいたらしく、魔木という素材も手に入っていた。

「おっ、ラッキーだな」
「なんか有ったのか?」
「トレントを倒したらしい。魔木が手に入った」

 珍しく浮かれた顔をしているオーガに、そろって、驚いた顔を向ける二人。
 オーガのそういった雰囲気というか、わくわくしているところを見るのは、初めてのことだ。
 常に、どうすっかな?と考えているオーガは、つまらなさそうな雰囲気を漂わせているから。
 珍しいことこの上ない。

「なんだその顔は」
「いや……お前でも純粋に喜んだりするんだな」
「……俺のこと、なんだと思ってるんだ?」

 オーガがあきれた視線をリカルドに向けるが、リカルドは肩をすくめるだけ。
 アレンもリカルドに同意らしく、オーガとしては何となく納得がいかないような気もするが、今はダンジョンの中なのだから、と息を吐いて気持ちを切り替える。

「俺たちの出番は無さそうだな」
「あぁ。まぁ、オーガの案内役としては、適役なんじゃないか?」
「……放っておいたら、だれかれ構わず喧嘩売りそうだしな」
「おい、聞こえてるぞ」

 風の刃で気を切り倒していくオーガへ、聞こえるように、と言うわけでもないが普通に話していたリカルドとアレン。
 いや、聞こえてもいいと思って話していたのかもしれない。

「俺だって、だれかれ構わず喧嘩売ったりなんかしねぇよ」
「偉い奴に限って、お前は喧嘩を売るように話すだろ?」
「ただ、普通に話してるだけだろうが」
「いつもどこか喧嘩腰なんだよな……」

 まぁ、そんなことよりとまだ木材は足りないと、もう一段下の階に行くことに。
 オーガのストレージの中では、一枠はもうすでに満杯になるまで木材が占めているが、まだ足りない、とオーガは言う。
 あの豪邸と言っても過言ではない屋敷の改築アンド増減築には、木材が大量に必要になる。もちろん、石材も。
 木材を採取し、取りすぎた、と言うことはないのだ。
 下の階に行き、オーガは再び同じように魔法で伐採を開始する。
 すると、とある木に行き当たり、オーガの放った風の刃は、ぱぁんっ、と音を立てて霧散した。

「……巨大トレント?いや、進化したトレントメイジか」

 メイジ、と言ってもトレントが魔法を使うわけではない。
 ただ、稀に魔法の効かないトレントがいる。
 それが、トレントメイジと呼ばれる魔木だった。
 ぱんっ、と弾けて、その木に傷一つついていないというのは、そういうこと。

「なんだと?トレントメイジは、Bランクモンスターだぞ!?」
「このダンジョンには出るはずもないモンスターだ……」

 くそっ、とつぶやくリカルドとアレンに、オーガはふぅ、とため息を吐いて二人の後ろへと回った。

「あ?おい、オーガ?」
「俺は今日、コイツを抜くつもりはない。ということで、がんばれ」

 コイツ、と腰から下げている獲物を揺らし、にやりと口元をゆがめ、オーガは笑う。どこか悪者みたいな気がする笑みだ。
 本来、素材を気にしないのであれば、トレントメイジにも通用する魔法は使える。そもそも、トレントメイジは第5位魔法以下を無効化するのであって、全く効かないということもないことぐらい、この場にいる誰もが知っている。
 ただ、第六位以上の魔法は、詠唱が長いことも、魔力を十分に練らなければいけないこともあり、戦闘には不向きだということもある。
 使えないわけではない。使えるが、面倒というそんな代物。
 ちなみに、第十位魔法については、伝説級の代物となっており、このイスティアの住民で使える人は一人もいない、という。
 第十位の魔法を使えたのは、この世界でももう何千年も前の話。

「おいおい、マジかよ」
「やるしかないだろうな」

 ため息を吐いた二人。
 だが、いいよ、とリカルドをアレンが押しとどめる。

「これは、トレントメイジでよかった、と言うべきか」

 困ったように笑いながら、アレンはそっと腰の獲物を抜いた。

「悪く思うなよ……」

 ぐっと、身体強化の魔法をかけ、アレンがトレントメイジへと飛んでいく。
 普通のトレントだろう、妨害が入ったが、アレンはそれを軽々とよけ、オーガたちとはトレントメイジを挟み、反対側まで行ったところで、一閃をした。
 竜人だから、だろう。太く、硬いトレントメイジの幹をもろともせず、切り倒す。
 それに思わず、オーガはおおー、と手を叩く。
 Sランクのだけあって、Bランクモンスターはやはり余裕らしい。

「強かったんだな、アレンって」
「お前なぁ……」
「ワイバーンには手こずってただろ?」
「ワイバーンは……腐っても竜種の一端だからな……」

 なるほど、攻撃し辛いのか、とオーガは納得する。
 それに、空も飛ぶから面倒だと。
 空を飛ぶトカゲと同じなのになぁ、とぼんやりワイバーンの姿を思い出し、そうして、はっとした。

「ワイバーン、まだ卸してねぇぞ」
「オーガ……」

 いい意味でも、ダンジョンとすれば悪い意味かもしれないけれど、気が抜ける発言だったようだ。
 どうすっかな、と考えているオーガを見て、やはり二人はため息を吐くのだった。
 ある程度、魔木林で伐採を終え、一度ダンジョンを出てから昼食をとる。
 ちなみに、オーガは料理などからっきしなので、唯一銀の大鍋亭で鍛えられたというリカルドだけが料理ができた。
 アレンの料理は独特で、食べれないことはないが、何と言うか、美味しいとも言いづらい物だ。

「……サンドイッチが食べたくなるな」

 ぽつり、とオーガは青空の下、パンとスープの入った器を持ってつぶやいた。
 完全に気分はピクニックである。そういう柄か?と言われれば、オーガはなわけと笑うだろうが。

「さんど、いっち?」
「あぁ……何でもない」

 その言葉が無いだけで、探せばあるのかもしれないが、とりあえず今は煩わせたくなくて、オーガは首を横に振った。
 パンに何かを挟んで売る、などはたぶん出店を探してみればあるだろう。
 なぜ、ここでサンドイッチが出るのか、という問いだったのなら、食べたくなったから、と答えるだろうが。

「オーガは何処までの魔法なら使えるんだ?」
「どこまで、とは?」
「例えば、第八位魔法とか」

 あぁ、なるほど、とオーガはうなずく。
 そして、どこまでだっけ?と考え、うーん、と悩む。

「一通りすべて扱えるようにはなってたはず、だが……光と闇は第十位まで使えるな」

 オーガのその一言に、ぽかん、とした二人の顔がオーガへと向けられた。
 普通、光と闇は正反対の属性として相性が良くない。その二つを第十位まで使える魔法使いはそうそう居ない。
 あとそれから、とオーガは考え出すが、もういい、と止められてしまう。

「そうか?んで?なんでそんなこと聞くんだ?」
「お前の魔法が規格外のことは気が付いているか?」

 あぁ、とオーガはリカルドたちの反応を見て、この世界では常識的ではないことを理解している。
 理解はしていても、できるできないは別物と考えてるオーガは、少し首をかしげてしまう。

「お前の戦力が、大体どこまでなのか把握しておきたくてな」

 つまりは、オーガの使う規格外が何処までなのか把握しておきたかったということだ。
 それがまさか、光と闇の第十位を使えるとは思ってもみなかったわけだが。

「ふぅん?まぁでも、あんな魔法、実戦で使おうとは思わねぇよ。馬鹿でかい魔力と詠唱必須だし、実戦で使い物になるかよ」

 パーティメンバーで、魔法職が後ろから守られながら詠唱するならば別として、単独で詠唱破棄できない魔法など、使い道は限られる。
 それならいっそ、使わないほうが勝率も上がってくるし。

「なら、詠唱破棄で無難なところでは、どこまで使えるんだ?」
「大体、七位、八位ぐらいだな。九位もしようと思えばできるだろうが、格段に威力が落ちる。それこそ、九位の魔法のはずなのに、威力が八位分しかなかったりとな」

 魔法の詠唱とは、ただただ唱えているだけのモノ、ではない。
 そこには様々な意味や、魔法陣の成り立ち、それから自分の魔力と引き換えに願いをかなえてくれ、といった感じの祝詞まで含まれる。
 第十位は、大体がこの世界の神様みたいな存在に対して、祈る言葉、願う言葉が組み込まれているため、詠唱破棄などすれば、中途半端に繋がったり、まったく無視されたりして失敗するのが目に見えている。
 だからと言って、心の中で唱えればいいとかそういう次元はもう過ぎてしまっている所だ。決して、大きくはなくていい。声に魔力を乗せて、世界に言い聞かせるように、詠唱しなければ意味がない。
 第十位の魔法は、基本的にはだからダンジョンなどでは使えない。レイドボス、などONIの世界のイベントボスであれば別だったが。
 魔法というのは、その位が上がるにつれて、威力は上がるが、やはり制限も増えるということだ。

「それでも、十分化け物だ……」
「化け物……俺のいた世界では、上位の魔法使い、魔術師になれば普通のことだったぞ」

 化け物呼ばわりされ、少し苦笑したオーガ。
 ONIとこの世界では、こうも魔法、魔術の発展が違うのか、と内心ため息を吐いている。

「それより、さっさと次の迷宮に潜るぞ」
「あぁ。魔鉱石の迷宮だな」

 よし、と立ち上がったアレンに対し、リカルドは仕方がないな、と言うようにゆったりと立ち上がったのだ。
 魔鉱石の迷宮と、魔木林の迷宮は、大体徒歩で一時間ぐらいの距離がある。
 今日は洞窟内で泊りだな、と全員の頭をよぎった。
 そのための準備はしてあるから大丈夫だが。

「あっ、そこの薬草。根っこ事欲しい」
「は?あぁ、これか」

 ん?と気が付いたオーガがリカルドに声をかける。
 リカルドは通り過ぎようとした場所に目を向け、ルディエラ草をバッグに入れてあったナイフで土ごと切り取って採取していた。
 徒歩での移動はこうして、必要なものを集められるからいい、とオーガは内心とてもほくほくしている。
 薬草の栽培が成功すれば、外に採取に出なくてもよくなるからだし。
 基本、引きこもりおうち大好き人間のオーガは、自分の家で自給自足ができ、家から一歩も出なくていいというのであれば、多少の面倒はいとわない。
 一時間と少し時間をかけ、迷宮を移動したオーガたち。
 その目の前には、いかにも、という感じの岩でできた洞窟があった。
 ランプをつけて、よし、と洞窟の中へ入る。
 そこは、光が要らないと思えるほどの魔石で明るく光っていた。

「うわ……っ」

 オーガは迷宮の中に入った途端、くらっ、と倒れそうになり、思わずたたらを踏んだ。

「っ、おい、大丈夫か?」
「……っ、あぁ……なんだ、ここ……」

 真っ青な顔になったオーガに、アレンとリカルドは顔を見合わせて焦る。

「おい、とりあえず迷宮を出るぞ」
「いや……いい……このまま、すすむぞ」

 支えてくれていたアレンの腕を押し返し、オーガは一歩、足を踏み出した。
 が、まだその足はふらついてしまっている。

「うっぷ……」

 さぁ、とアレンたちが顔を青くすると、オーガの手を引いて迷宮の入り口まで駆け戻る。
 迷宮から出ると、オーガは安心したのか、地面にへたり込んでしまった。
 はぁはぁという息を整えると、アレンがオーガに問う。

「さっきの、何だったんだ?」
「……魔力酔いだ」

 魔力酔い?とアレンが首を傾げ、オーガが途切れ途切れに説明する。
 魔力酔いとは、魔力濃度が著しく高かい場所にいるか、もしくは魔法薬を使いすぎた時に起こる症状だ。
 今回の場合は、薬を飲んだわけでもなし、全社の迷宮内の魔力濃度が高まっているという証拠だ。
(魔力濃度の上昇……なるほど……)

「スタンピード、か……」
「スタンピードだって!?」

 オーガのつぶやいた言葉に、アレンもリカルドも驚き詰め寄った。

「……教会に行ったとき、聞いた」
「それって、女神イスティアからか?」
「……女神?」

 違うのか?と首を傾げるリカルドに、オーガはいや?と首を横に振った。
(あいつらに、性別なんてあるのか?)
 ん?と内心疑問に思いながら、表には出さなかった。

「なんで、アレンは平気なんだ?」
「竜人種には、あまり魔法が通用しない。それは、竜が魔法の支配者であるからだと言われているな」

 詳しいことはさっぱりだ、とアレンは肩をすくめた。
 ふむ?とオーガは考えるが、まぁ、いいか、と考えを放棄する。

「悪いが、アレンとリカルドで潜ってきてくれ」

 オーガは言うと、バッグに魔法薬を詰め、リカルドへと渡した。仕方がないな、という二人は再び迷宮の中へと入っていった。
 迷宮で一泊するつもりだったが、そうも言ってられなくなったので、アレンたちは早めに戻ってくると言い残す。
 二人を見送り、はぁ、とため息を吐いたオーガ。

「俺は、何者なんだ?なぁ、イスティア」

 慌ただしい毎日に、忘れてしまえるものなら忘れてしまいたい。
 いとし子、とイスティアは自分を呼んだ。
 あの説明に、違和感はなかったはず、なのに、どこか引っかかる。
 まるで、オーガが何かを忘れているような、そんな感覚。
 空を見上げ、存在に問うても答えなど返ってこないのはわかっている。
 けれども、問わずにはいられなかった。
 普通の、ゲームのように魔力酔いをする体。いとし子、とは一体何なのか。
 なぞは残るばかりだ、とため息を吐く。周りに結界を貼って、目を閉じた。
 しばらくすると、眠ってしまっていたらしく体をゆすり起されてアレンたちが帰ってきたのを知る。

「危ないだろ、こんな所で寝てたら」
「……帰るか」
「話を聞け!」

 だからお前は、と説教をしだすアレンにオーガは顔をしかめる。
 どれだけアレンがカッコよくて、年上でも、これでは幼い子を持つ保護者にしか見えない。
 実際、この世界にオーガは落ちてきて、まだ数か月と経っていない。
 まだ、この世界の幼子たちのほうがオーガより知ってることは多いかもしれない。
 それゆえに、アレンも、そしてリカルドも、オーガのことを心配しているのだ。

「ーーっ、はぁ。帰ったら、まずギルドに立ち寄るぞ」
「ギルド?」

 まったく、と言いたいことをすべて言って、アレンは息を吐き、帰るぞと王都に向けて歩き出した。
 ギルドになぜ?と疑問を投げかけながら、オーガはアレンたちについていく。
 眠っていたからか、体調はだいぶ回復したようだ。

「さっき言ってたスタンピードの件も一緒に少し調べたんだ。報告に行く。下手をすれば、王都が崩壊しかねない」
「……そんなにひどい被害になりそうなのか?」
「あぁ。まだ、すぐにではないだろう。魔力濃度が計測してみれば、異常な数値を出していた。この結果をもとに、他の迷宮でも魔力濃度の測定をするだろう。魔木林も危なくなるかもしれない」

 アレンがまじめな顔をして、そういうということは本当に危ないのだろう、とオーガはうん、と一つ頷く。
 まだ、たぶん魔力濃度の上昇した迷宮は少ないだろう、という話だったので、まだ時間はあるらしい。
 それなら、迷宮はギルドに任せるか、とオーガは息を吐く。
 店を頑丈に作るかな、と脳内設計を見直したが、結界もあるし大丈夫だろう、とそのまま計画通り進めることに決めた。
 アレンたちが持ち帰った石材は、予定の半分ぐらいで、地下室を作ってしまえば消えるぐらいの量しかなく、もう数回潜ることになりそうだ、とそれを見つめた。

「ちなみに、魔鉱石の迷宮では何が出るんだ?」
「普通にゴーレムとか、リビングアーマーとかだな」
「……リビングアーマー出るのか」

 魔鉱石のダンジョンに、リビングアーマー……と、オーガは微妙な気分になった。確かに
 彼らの外装は、鉄や鋼で出来ているとはいえ……リビングアーマーはゴースト、つまり心霊系の迷宮へ出るべきであって、こんな迷宮に出るなよ、と言うのがオーガの心情である。
 帰って、ギルドの買い取りへと顔を出せば、リビングアーマーの剣や鎧がアレンたちからギルドに提出された。
 その後ろで、オーガははぁ、とため息を吐く。
 そして、受付へと戻ってきたアレンはそっと、魔力濃度の測定器を受け付けのお姉さんへと差し出した。

「アレンさん、これは?」
「魔鉱石の迷宮で図った数値だ。明らかにおかしいよな?」

 じっと、その測定器を見た受付嬢は少々お待ちください、と測定器をもって奥へと歩いていく。
 長くなりそうだなぁ、と窓の外に見える夜空へ、やはりため息を吐いたオーガだった。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 side:リカルド

 アレンが、オーガを追いかけて宿屋を出て行った。
 多分、二人とも協会へ向かうのだろう。
 残っている荷物を整理して、俺は宿屋を後にした。
 オーガが言うには、王城でお届け物をした後、土地をもらえるらしく、そこで生活する基盤を整えるという。
 それに際し、俺もオーガと同じCランクまでランクを上げなければならないらしい。
 アレンと、同じクエストを受けることができないから。
 久しぶりの王都の冒険者ギルド本部の扉を見上げる。
 ずきっ、と傷は治り、痛みを感じないはずなのに、古傷が痛んだようにうずいた。
 はぁ、とため息を吐き、気持ちを切り替えるようにかぶりを振る。
 うじうじしていても仕方がない、と意を決して本部の扉を開いた。
 本部は、いつも通りの忙しさを保っていて、それで人も田舎に比べると、時間にしては人がいっぱいいる。
 久しぶりのそんな本部の変わらない雰囲気に、そっと方に入っていた力を抜いた。

「……あれ?」

 そっと、新人のようにギルド内部を見回して俺は、ふとSランク冒険者の書かれた掲示板へと目を向けた。
 前に見た時より、ひとり足りない。
 ふと、見ていけば、無口でそれでいて全身装備のいつも甲冑を付けている、そんな人だったが。

「……なぁ、リドネルはどうしたんだ?」
「リドネルさんですか?リドネルさんなら、ある日疲れた、と言って冒険者を辞められてしまいました」
「疲れた?あの、リドネルが?」
「はい。最近は、貴族の指名依頼も増えてきていましたので、対人関係にお疲れのようでした」

 なるほど、ありがとう、と言って俺はカウンターを離れた。
 Sランク冒険者へと指名依頼をするについて、最低限の金額が掲示板のSランク紹介の下には書いてある。
 それが一番安かったのは、リドネルだ。
 ちなみに、竜人種、と言うことで、アレンの金額はとんでもないことになっている。
 それこそ、国家予算を優に超えるほど。だから、アレンに指名依頼が入ってくることはまずない。
 そもそも、竜人種が自分の認めていない者の命令に従うはずもなく、という話か。
 アレンは実は、冒険者らしい冒険者なのかもしれない。
 とても、自由人だ。

「リドネルが、ね……」

 実は、リドネルには、一度助けられたことがある。
 だからこそ、気になってしまう。
 恋や愛とかではなく、これは尊敬に近い。人族で、最短とも言えるルートでSランクまで上り詰めた彼。
 敬愛、かもしれない。
 それほどまでに、慕っていた。一方的に、だが。彼に何かあったときは、絶対に力になって見せるとも誓っていた。
 アレンに知られれば、面倒なことになりそうだが、そう言った恋愛感情ではないことをどう説明すればいいのか。考えるだけで、憂鬱になる。なるべく隠しておこうと心に決めた。
 その時点で、少しはアレンに絆されていたのかもしれない。
 今のところ、オーガ関連で相談できるのもアレンしかいないし……。
 はぁ、といろいろ考えて深くため息を吐いた。
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