イスティア

屑籠

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第一章

1

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 俺の名前は、オーガ。日本人としての名前は、大島和人。
 on-line next innocent、通称ONI(オネイ)と言うVRMMORPGと呼ばれるゲームをしていた。
 ある日、オーガはゲームの不具合か、よくある?(あっちゃ困る?まぁ、気にするな)トリップと言う物を体験した。

「……えぇー?マジでこれ?」

 うわー、と思いつつオーガはステータスコマンドを表示させた。
 頭の中で、ステータスオンと念じれば出るタイプのそれは、前のゲームとシステム自体は変わらない形だ。
 ただし、所持金がゼロ円になっていたことは非常に悲しかったし、何よりもつらかった。どうしろっちゅうねん。世の中金だぞっ!
 ストレージの中身はそれほど変わらず、この世界で使用できない物もあるのか、それは?になっていた。
 レベルもリセットされ、一からだし、まぁ基礎能力値については前のレベルのまま受け継がれた感じだから結局のところ得したかな?ぐらいにしか思ってなかった。

 ****************************

 名前:オーガ
 ジョブ:魔法剣士
 sub:錬金術師
 レベル:1

 体力:5500/5500
 魔力:155000/155000
 腕力:1950
 精神:2100
 俊敏:1080
 防御:1500
 運:1500

 ***************************

 レベル1となるとこんな感じだ。
 前のONIでもそんなに育ててなかったし、引きこもってポーションや毒消し、毒、痺れ薬などの研究や装備品の量産をしてたから、生産のレベルはそれなりに有ってもジョブは前のレベルもそんなに高くないし、こんなものだろう。レベル?確か50ぐらいだった気がするけど……。
 ……えっ?何?おかしい?いやいや、こんなもんだろ?廃人ではないぞ。ちゃんと仕事してからプレイだからな。
 ちなみに、魔力については、魔力を上げるためにスキルポイントを注ぎ込んだ経験があるからだ。まぁ、人間極振りも好きは好きだよな。
 俊敏でさえ、千を超えるとそれなりに早い。自分がついて行けなくなる可能性があるために、千ちょっとで抑えてある。VR酔いなんてシャレにならない。
 それと、認識阻害マントと見た目普通な剣と杖を常に装備。念のために、白い顔の上半分を覆う仮面も常備だけど。
 魔法も剣術も行けるってわけだ。
 まぁ、主に今は剣術を育ててはいたんだけどな。
 この世界にはスキルと言う概念が無いのか、表示されてはいなかったけど、漸く剣術もレベル五になった所だったと言うのに。
 はぁ、ともう一度ため息を吐きつつ、オーガは森の中を探索し始めた。
 何かの役に立つかと思って、鑑定眼を使い、仕えそうな草や木、木の実などを集めながら進む。
 途中、魔物と出会ったけどレベル一だって難なく倒せた。解体の魔法を使ってからストレージに素材を放り込んでいく。
 このあたりの魔物は、レベルが低いのだろうと気にはしてなかったが。
 ただ、どれだけ倒そうともレベルの上がる様子が一向にない。
 どうなってるんだ?と首を傾げつつ更に川を下った。
 暫くすると、何やら人の叫び声がしてくる。
 どうやら当たりを引いたようだ。
 あるわけないと思うが、脱げないようにとフードを深く被り、声のする方へと駆けていく。
 フードは、脱げにくい様に加工してあるから、突風でも吹かない限りはオーガの頭から落ちる心配はない。まぁ、落ちたところで仮面をしているため、全く問題もないが。

「助けはいるか?」

 少し離れた場所から交戦中の魔物と人を見つけて声をかける。女二人に男一人のパーティーみたいだ。
 舌打ちとともに、頼む!という声が聞こえ、ニヤリと笑った。
 オーガは、敵へと向かい杖を振り下ろす。その動作だけで、魔法が発動した。
 所詮、無詠唱魔法と言うものだ。
 まぁ、無詠唱とはいえ動作は必要になるけどな。

 ギャアアアアアアッ

 と言う叫び声を上げて、魔物だけが燃え上がった。

『聖なる炎(セイントフィア)』

 悪しき者のみを焼き滅ぼす、対魔物用の第五位の火と光の混合魔法。
 ま、それなりに制約が多いけど。PKには向かないしね。
 敵のHP消失と共に炎が消え、辺りに敵がいないことを確認すると、オーガは戦闘をしていた彼らの前に姿を表した。
 まぁ、オーガの姿は真っ黒いフードを被った不審者だが。

「他に敵は居ないようだな」
「先ほどの声の……助かった。魔導師、だろうか?」
「あぁ……」

 魔導師、と言うことになるだろう。この格好とフードからだと。
 本来のジョブは魔法剣士だが剣も下げているようには見えないしな。

「助けてくれてありがとう。私は、エルザ。こっちは、ルーク。そっちの魔導師はアリア。この三人でパーティーを組んでるの。貴方は?」

 オーガ、と言えば三人組に緊張が走る。

「オーガ、ですか?」
「オーガが自分でオーガなんて名乗るか普通。そもそも、オーガはオーガ種と言う種族であって名前ではない。この顔が、醜いとその名をつけられただけだ。俺は人間だ」
「見せられないほど醜いのか?」

 あぁ、と言えばとても可哀想なものを見る目で見られた。
 これでも、現実世界よりはマシな方だ。
 オーガの顔はどうにも平凡よりは不細工の部類に入るらしく、見れなくはないが、不細工。らしい。これを言われ続けると萎える。
 しかも、ONIは殆ど容姿が変えられないから、このフード作成をする事は当然と言える。

「それで、助けてもらったお礼だが……」
「その事だが、少し頼みがある」

 頼み?と代表で話していた男、ルークが言う。
 オーガと比べて、大層な美形である。

「実を言えば、自分は迷子でね。良ければ近くの街まで連れて行ってくれないか?」
「迷子?」

 とても信じられない、と言う顔をされた。

「俺はこの辺の生まれじゃないんでね。始めて来た場所で、迷ってしまったんだ」
「成る程。でしたら、案内します、ここから近い街だとフルフラの街が一番近いですね」

 フルフラ、知らない名前の街だ。ここは、一体どこなんだろうか?
 そう思いながら、街の外壁の近くまで来てはっとする。
 オーガの所持金は今、ゼロである。
 これって、街に入れないパターンじゃないか。
 あれだけの魔法を見せて、野盗に襲われたなんて通じるはずもない。
 どうするよ?

「あー、この街って入るのに金かかるよな?」
「えっと、もしかして……」
「済まないが、この国の金を持ってない」

 先ほどよりさらに驚いたような顔をされた。
 まぁ、仕方のない事だろう。
 オーガの鞄の中にあるもので何か代用できないだろうか。

「……ルーク、この人」
「いや、でも……」

 と言う会話まで聞こえてくる。まぁ、仕方がないよな、怪しいやつだし。
 まぁ、本当に怪しいやつっていうのは、この場にいないで人に気づかれたら消えていなくなるだろう。
 オーガは違うと、心の中で自分は違う、俺は良心的だ、と一般論と照らし合わせて頷く。
 とりあえず、美形さん……ルークが頑張ってくれたおかげで、門までは連れてきてもらえた。
 認識阻害をしても良かったけど、この門が普通じゃなくてきっと魔力感知みたいなことが出来るから最悪問答無用で牢獄行きだろう。それは避けたい。
 まぁ、魔法と道具を駆使すれば逃げ切る事はたやすいけれど……。
 ルーク達と別れ、守衛室に詳しい話をする為に連れて行かれる。
 衛兵さんに話をすると、困ったような顔をされた。

「君、どこの田舎の生まれなの」
「はぁ、すみません。街がこんなにお金がかかるもんだとは思ってなくて」

 実際、森の中に落ちたんだけどな。ここどこよって感じだし、所持金は消えるし。
 最悪で、もう作り話もど田舎から出て来たって設定だわ。

「何か、身分を証明できるようなものは持ってないの?」

 身分を証明できるもの?

 と首を傾げ、ストレージを漁る。
 おっ、向こうで作ったギルド会員カードがある……これしか身分を証明できそうなものはないし……出してみるか!

「これじゃ、ダメですかね」
「(今、どっから出した?)ちょっと見せてもらうぞ……ギルドカード持ってるなら先に言えよ!態々こんな場所まで来なくても、衛兵にこれを出せば良かっただろ!」

 馬鹿、とギルドカードが投げ返されて顔面に当たった。
 べちん、と言う音はしたけどそんなに痛くない。仮面とフード様様。
 つうか、このギルドカード使えるのか、じゃあここもゲームの中?でも、やっぱりログアウトボタンは見当たらない。
 そもそも、ルーク達は身分証の話なんか一つもしてなかったぞ。
 オーガは余程不審者に見られていたらしい。

 無事に街の中に入れたオーガは、守衛室の衛兵さんから聞いた冒険者ギルドへと行ってみることにした。因みに、名前と種族の件は本当だと信じられたらしく、本当に可哀想な物を見る目で見られた。その目、見飽きた気に入らない。なんだか、異様に衛兵さんが優しく、フレンドリーになったんだが……色々と納得いかない。
 はぁ、と取り敢えず腑に落ちない気持ちを抱えながら、認識阻害を使用して姿を余り人に見せないようにしながら聞いた通り、大きな通りをまっすぐ南に進み、そこから噴水のある広場を西に真っ直ぐに行く。この姿で絡まれるのは嫌だしな。見た目不審者なのはわかってる。
 何かあれば、オーガの事はあの衛兵……ニールさんが保証してくれるらしいけどな。
 すると、見えてくる要塞みたいな建物。どうやら、それが冒険者ギルドらしい。
 冒険者っぽい装備の男女が出たり入ったりしている。
 見る限りでは、新人のパーティーらしい。
 ……そこで小さく舌打ちをする。
 初々しい、男女のパーティー。美男美女。
 見てるだけで、腹がたつ。リア充爆発しろ……なんて思ってる場合じゃないか。
 と、オーガはその男女の側をすり抜けて冒険者ギルドの中へと入る。
 キョロキョロと辺りを見回して、ギルドの受付っぽい場所で受付嬢に声をかけた。

「ここが、冒険者ギルドだと聞いたんだが」
「えっ!!?」

 受付嬢が驚いてオーガを見ているのに対して、あぁと気がつく。
 認識阻害を発動したままだった。
 それを解けば、驚いたような顔をした周りの視線がオーガに集まってくる。
 とてもその視線が煩わしい。

「えっと、はい。ここが冒険者ギルドフルフラ支部です。ご依頼ですか?」
「いや、買い取りをお願いしたいんだが」

 それを言えば、明らかにホッとしたような顔をされた。
 そこまで怪しいか、とオーガはため息を小さく吐く。

(だからと言って、俺が素顔でいればそれはそれで何かを言うくせに……世間って言う奴は)
「買い取りですね、それでしたら三つ隣の受付へどうぞ」
「三つ隣ね、ありがと」

 オーガはそのまま三つ隣の受付へと顔を出す。
 その受付は男性だった。買い取り専門だからかもしれないけども。

「おう、買い取りか?」

 職人気質でいい人そうな、買い取り専門員。
 所々に血が付いているのは、それって魔物の血ですよね?

「あぁ、魔物数体の素材と後は薬草類だな」
「分かった。依頼品か?」

 その問いに俺は小さく首を横に振る。

「いや、この街に来たのは今日が初めてだ。ただ事情があって、所持金を無くしてしまってな」
「そうか。それは災難だったな。それで、ギルドカード持ってんなら、素材と一緒に出してくれ」

 そうあっさりと流されて、言われた通りにオーガは素材と一緒にギルドカードもカウンターの上に置いた。まぁ、いちいち聞いてられないよな。この巨大なギルドで。
 それなりに結構量があったが、置けるだけ置いて買い取りをお願いする。

「お前、異空間収納が出来るのか!?」
「いく……何だって?」

 オーガは、首を傾げる。
 が、多分周りにはオーガが何か仕草をしたかわからないだろう。
 その怪しげなフードゆえに。

「異空間収納、何で使ってるアンタが知らない?……とは言っても、魔法師みたいだしな。不思議ではないのか」
「あん?俺のはストレージに入れてるだけだけど……」

 ONIのシステム上、ストレージに素材は入れておける。
 魔力総量に対して広さが決まっており、確か魔力100だと10枠、素材は一素材99個まで保管できる。大きさは関係なく、1枠は1枠。99個以上あれば2枠使われる。そんな仕様だ。
 因みに、ある時極振りをしたオーガの魔力総量を考えると、今ストレージの容量は15500枠となる。
 その中に入れておけば、時間経過はなく、食べ物も腐ったりはしない。
 これで驚いていると言うことは、この世界にはストレージっていう概念が無いのか?
 代わりに、異空間収納、と言う魔法があるのか。なるほどなるほど。
 まぁ、ONIのストレージと似たようなものだろう。

「ストレージ?」
「うーん……多分、アンタの言ってる異空間収納?と似たようなものだと思う」
「そうか。じゃあ、査定してくるから待ってろ。それから、俺はアンタじゃねぇ。リカルドって名前がある。今度からはそう呼べ」
「わかった、よろしく頼むよ、リカルド」

 どうやら、買い取り専門員のリカルドに気に入られたらしい。
 だからと言って、あの性格だと買い取り金額を融通してくれるわけもないと思うけど、状態が良ければ色をつけてくれそうではあるが。
 親しくなって置いて損はないだろう。
 待っていろ、というリカルドの言葉に従い、オーガはギルド内で待ってることにする。
 が、手持ち無沙汰もあれなので、適当に依頼の貼ってある掲示板をみる。
 掲示板の依頼書は全く知らない言葉のはずなのに、何故だかスラスラと読める。
 ハッとして、己の前のスキルを思い出した。
 言語理解、言語管理、言語習得、つまりは知らない言語を理解し、習得し、そして言語ごとに管理しておくと云うスキルだ。
 言語管理が使えれば、辞書的な事が脳内でできると云うわけでもある。この世界で表示されなくなったスキル欄だが、消えたと言う訳ではなさそうなのでよかったよかった。表示されないだけで使えるみたいだし。
 ONIも色々と国と種族があり、それを覚えない限りは他国へと冒険に出ることもままならなかった、ちょっとした鬼畜仕様だった。
 まぁ、言語理解なら図書館で手に入ったし、多種の本を読んで入れば管理も手に入った。
 あと、習得に関しては少しお金を払ってNPCで他国生まれの人に聞き、覚えた。
 そのお陰か、とあの時の金銭も無駄ではなかったのだと、何となく心をほっこりさせながら、俺は再び掲示板へと意識を戻す。
 しかし、あれだな。時間が時間のためか、ギルド自体は空いてるし、依頼も常時貼り付け的な薬草や近くに出ると云うホーンラッドの討伐ぐらいしか上がってない。
 そのランクを見て、あれ?と首を傾げた。

(そう言えば、今俺ランクなんだっけ?)

 しばらく引きこもって、薬草や玉鋼相手に格闘していたオーガにとって冒険者ギルドとは久しぶりの場所だし、そもそも自分の工房が手に入ってからは、素材すら手に入れたら自分で使っていたから、よく顔を出していたとすれば生産者ギルドぐらいだったか。あとは要らなくなった素材を売りに行くぐらい。
 そこでも、あまりギルドカードを気にしたこともなかったしな。大量に作りすぎたポーションをたまに卸していただけだし。

「おーい、オーガ。査定終わったぞ」

 少し大きなリカルドの声がする。
 査定が終わったらしい、意外に早かったな、と思いつつ買い取りカウンターへと顔を出す。

「しっかし、すごい名前だな。オーガなんて」
「……それだけ醜く見えたんだろうよ。それより」
「あぁ、買い取りだが、どれも綺麗な状態だったからな。全部買い取りできる」

 リカルドのその言葉に、内心首を傾げながらうなずく。
 うーん、綺麗な状態とはどう言う事なんだろうか?全部、解体魔法で解体して、持ってきただけだから別段綺麗も綺麗じゃ無いも無いとおもんだけども……。

「ラッキードッグの毛皮、牙×2、それぞれ銀貨8枚と大銀貨1枚、それが合わせて三体分で、合計大銀貨5枚と銀貨4枚。
 フォレストウルフの毛皮と牙×2、それぞれ銀貨5枚と銀貨4枚、それが合わせて十五体分だから、合計金貨1枚に大銀貨3枚と銀貨5枚。
 後はホーンラッドの肉が、一匹銅貨5枚。それが二十匹だから、銀貨一枚。
 ルディエラ草が銅貨3枚、それが10枚一束で4セット、銀貨1枚と大銅貨2枚。
 ムムリエ草が銅貨6枚、それが10枚一束で1セット、大銅貨6枚。
 合計で、金貨1枚大銀貨9枚、銀貨1枚大銅貨8枚だ」

 確認してくれ、と言われてオーガは金貨から順番に確認していく。
 確かにあるのを確認して、面倒なのでストレージにしまう。そうすると、ステータス画面に現在の残高が表示された。ご丁寧に金貨銀貨銅貨と種類別で。まだ手に入れたことは無いが、白金貨や鉄貨、石貨などもあるらしい。
 なんとなく、この世界に来てからステータス画面が退化したり進化したりしている気がする。
 なんでなんだろう?
 ちなみに、あとこの世界で取れた素材についてはラッキードッグの素材が五体分と、フォレストウルフの素材が三十体分。後は、薬草は数えたくないだけ取ってるし、木材もその辺にあった石ころでさえ何かに使えるかもと持って来ていた。
 ホーンラッドの肉もまだ、数匹分残っている。全部売ってしまっても良かったが、いざという時の食料がホーンラッドでもいいから取っておきたいと思った。あまり美味しくはないが、時間をかけて丁寧に調理するとそれなりに食べれる。
 一度起きて、もう一度起きないとは限らないのがこの世界の習わしだろう。
 二度目のトリップが無いとも限らないからな。

「初日で、すごい収入だな。まぁ、一端なら仕方がないか」
「一端?」
「うん?あぁ、お前さん、Cランクだろう?Cランクを一端の冒険者って言ってんだよ」

 返って来たカードを見て、なるほど、と頷く。Dランクまでは頑張れば割とスイスイ上がるからな。
 Cランククエストがこなせて、一端と言われるのも納得できた。
 冒険者ギルドのランクの場所が確かにCランクとなっている。
 昇級試験を、そう言えば受けていたなぁ、と思い出した。
 その時は商人の護衛任務だったんだが、この認識阻害マントに使っている素材を持つ相手が出てきてラッキーだったのを思い出したから。
 極彩色カメレオン、とても割りのいい仕事だったと言えよう。そのお陰で、作ったこのマントには認識阻害が付いたし。それに加えて、オーガのエンチャントがとてつもない量が付いている。
 代表的なのは、自動修復、だろうか?耐久が、減らない。

「そう言えば、Cランクだったな」
「忘れてたのか?色々と変な奴だな?」
「あぁ、まぁ……あまりランクとかに興味無いからな」

 ランクが上がれば、それなりに制約も生じてくる。
 オーガは自由でいたいのだ。そのためには、ランクをあげる事は好ましいことでもないから。
 生産して、魔物を狩って、生産して、資源を集めて、生産できればそれでいい。
 戦闘よりも生産が好きで、どのゲームでも生産のためにと色々と頑張って来たのだ。
 まぁ、ぶっちゃけ、この魔力極振りにした時も生産のために必要だったから、としか言えないわけで。……まぁ、ストレージの枠が無ければ、素材の持ち運びにも制限ができる。それが煩わしかっただけなんだけどな。

「そうか、珍しい奴だな」
「うん?まぁ、ギルドに登録しているのも、ある意味目的があってのことだしな。そうじゃなかったら、冒険者ギルドには登録してないよ」
「目的?」
「情報だよ。モンスターの情報を知るなら、冒険者ギルドが一番だろう?」

 商業ギルドでも職人ギルドでも生産ギルドでも、それは叶わない。
 モンスターのことを知るには、餅は餅屋ではないけれども、冒険者ギルドが一番なのだ。
 珍しい素材を持つモンスターの情報とかね。

「へぇ?」

 リカルドの目が、少しだけ鈍く光る。が、気にしてはいられないだろう。
 モンスターの情報を得るためにはね。そもそも、モンスターの情報が本当に欲しいわけじゃなくて、その先にある素材が欲しいからモンスターの情報が欲しいのだ。

「んじゃ、そろそろ行くわ……そう言えば、この辺りで値段がお手頃の宿屋ってある?」
「それなら“銀の大鍋亭”に行くといい。噴水の通りを東へとまっすぐ進み、二つ目の路地を右に曲がると大鍋の看板が出てるからわかるだろう。安宿よりは高いが、お前さんの稼ぎなら見合うだろう。俺の名前を出せ、少しはサービスしてくれるだろうよ」
「おっ、良いのか?助かる。ありがとう、リカルド」

 オーガはリカルドに片手を上げて挨拶をすると、冒険者ギルドを出た。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 side:リカルド

 今日ここへ、素材を売りに来た魔術師はとても、小ざっぱりしていた青年だった。
 ただ、顔が仮面で覆われていて、とても不審者に見える。
 よく、街の守衛に捕まらなかったな(一度捕まってる)、と考えて応対をしていると、ギルドカードを持っていた。
 その事に不思議な安堵を抱きつつ、その渡されたギルドカードを魔道具に通して見る。
 そのギルドカードは、外装は新しいモノの、現在では作り方を誰も覚えていないと言う伝説級の代物だった。
 昔のギルドカードには無い機能が、今のギルドカードには付いている。だが、昔のギルドカードにはあって今のギルドカードには無い機能も付いていた。
 例えば、今のギルドカードには冒険者ギルドであれば、冒険者ギルドのギルドカードと言う一つのカードは一種類のギルドしか使えない。が、昔は、全てが同じカードで管理できていた。
 昔のカードは、その代わりに冒険者の情報量が極端に少ない。今のギルドカードは、出身地から倒した魔物の情報まで逐一記録されていくと言うのに、昔のギルドカードにはそれは無い。
 大体、確か昔のギルドカードを持っているのは、各首都のギルドマスターぐらいではないだろうか?
 まぁ、ギルドカードには違いないし、今の魔道具でもちゃんと確認ができる。
 見た目は今も昔も変わらないから、衛兵も通したのだろう。
 ただ、問題なのはこれをどこで手に入れたかと言う事で。
 ド田舎やほかの国のギルドにはまだ昔のギルドカードを作る魔道具が残っていると言うのか。
 ちなみに、今も昔も防犯が仕掛けてあるので、他人のギルドカードを使うことは出来ない。
 本人に許可されれば、ある一定の部分までは利用できるが。
 例えば、父親の仕留めて来た魔物を娘がもってくるときに一緒に父親のギルドカードを持ってくる、とか。
 それぐらいなら、父親の許可が有るから利用できる。
 流石に、本人でもないのにギルドクエストを受けることは出来ない。
 Eランクの採取クエストでさえも。
 魔道具も異常反応は示してはいない。考えていてもらちが明かないので、とりあえず持ち込みの素材の買取を進める事にした。

「……相当歩いて来たのか、それとも魔物を引き寄せる体質なのか。まぁ、どちらにしろ……量が多いな」

 はぁ、とため息を吐きながら査定に入る。
 とりあえず、簡単な薬草類を片付けて、次に魔物の部位の査定……と終わらせて、どうにか換金も終わった。

「初日で、すごい収入だな。まぁ、一端なら仕方がないか」
「一端?」

 オーガと言うその青年が、一端と聞いて首を傾げることに少し疑問を覚える。

「うん?あぁ、お前さん、Cランクだろう?Cランクを一端の冒険者って言ってんだよ」

 カードを返せば、なるほど、と頷いた。

「そう言えば、Cランクだったな」
「忘れてたのか?色々と変な奴だな?」

 まるで忘れていたと言わんばかりのその返答に、俺は驚く。
 普通、冒険者はCランクになれば誇るものだし、そもそも自分のランクを忘れることをしない。

「あぁ、まぁ……あまりランクとかに興味無いからな」

 本当にオーガの様子は興味なさげ、と言うより面倒そうで面白い奴だと感じた。

「そうか、珍しい奴だな」
「うん?まぁ、ギルドに登録しているのも、ある意味目的があってのことだしな。そうじゃなかったら、冒険者ギルドには登録してないよ」
「目的?」

 この見た目やる気なし男の目的とは何だろうか?国家の転覆、とか悪いモノではなさそうだが。

「情報だよ。モンスターの情報を知るなら、冒険者ギルドが一番だろう?」
「へぇ?」(モンスターの情報、ね。それを知ってどうするつもりなんだ?)

 そこまで強そうには見えないが、やはりCランクに上がるだけの実力はあると言う事か。

「んじゃ、そろそろ行くわ……そう言えば、この辺りで値段がお手頃の宿屋ってある?」
「それなら“銀の大鍋亭”に行くといい。噴水の通りを東へとまっすぐ進み、二つ目の路地を右に曲がると大鍋の看板が出てるからわかるだろう。安宿よりは高いが、お前さんの稼ぎなら見合うだろう。俺の名前を出せ、少しはサービスしてくれるだろうよ」
「おっ、良いのか?助かる。ありがとう、リカルド」

 監視と言う名目も兼ねて、”銀の大鍋邸”を紹介した。俺の伯父が営んでいる店だが、銀の宿屋なのでランクは中間だ。
 一端の冒険者なら、銀等級の宿で寝泊まりした所であまり懐は痛むまい。
 宿屋には、金銀銅と等級外の宿屋が存在する。等級外は本当に寝泊まりが出来るだけの宿屋で、あまり治安もよくはない。
 稼ぎが少ないランクの冒険者などはそこで寝泊まりする事も。
 銅等級の宿屋は、安い。安いが、銀や金に比べると狭いし隣の声さえ聞こえてくる。
 Dランク並みの稼ぎになればこの辺が妥当だ。
 銀等級になると、個室が少し広くなる。それと同時に建物もしっかりとして、隣の声もあまり聞こえてはこない。
 シーツも、銅等級に比べるといいモノになっている。平民で宿泊するとなれば銀等級は高級にもなる。
 そして、金等級。この等級は、大きな町やギルド支部のある街には一件必ず立っている。かく言うこのフルフラの街にも。ちなみにあの宿屋の主人は好きではない。時々、依頼に来るけどな。
 貴族や王族ご用達であり、部屋の広さも調度品の良さも銀等級とは比べ物にはならない。その分、料金もべらぼうに高いわけだが。
 一般人も金を出せば宿泊できないことは無い。が、一泊のためにひと財産捨てるようなものだ。

「まぁ、何にせよ……変な奴じゃないと良いけどな」

 はぁ、とため息を吐いた。
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攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

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