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廃病院の噂
しおりを挟むその病院の名をA総合病院という。本来なら跡継ぎがいたのだが、医療ミスを起こし、更にそれを隠蔽しようとした為、服役。
それにショックを受けた両親はなんと練炭自殺を図った…という、当時は結構話題になった事件だ。
だが、現在ではそれらの事件は風化し、奇妙な噂が残るのみ。
それは件(くだん)の医療ミスで亡くなった患者の幽霊が出る、というものだ。遭遇したものに取り憑き、自分の手術痕と同じ場所に痛みを発生させる。呪われたが最期、助からない…という、よくある都市伝説的な話である。
ちなみに、その患者の亡くなった原因は虫垂の破裂による、敗血症である。苦しみながら、亡くなったという…。
開腹した時には手遅れであり、そのまま閉じた、という。その最初の診断をしたのが跡取りだったのだ。
さて、ここに良い塩梅に酒の入った大学生が四人いる。
組み合わせは男二人に女二人。
男はFとY。女はKとUだった。四人は今どき珍しく色恋沙汰のない組み合わせで、仲良く大学生活を謳歌していた。
言い出したのはYだ。
「なぁなぁ、まだ夜も早いしさ。A病院に行ってみねぇ?」
確かにまだ夜の九時を少し回ったばかりだった。
彼らは調子に乗っていた。アルコールの効力で気が大きくなっていたのだ。
女子二人は「えー?」と言ったが満更でもなさそうだ。Fも「良いぜ!行こうぜ」と言った為、四人でてくてく歩いてきたのだ(車はあとで代行を呼ぼう、という事になった)。
着いたA総合病院で彼らがまずやったのは、スマホでの動画撮影である。
言い出したのは、またしてもYだった。
「みんなで盛り上がろうぜ!」という酔っ払い特有の謎理論でナイトモードにして、撮影。
「えー、我々四人は、幽霊が出る、と噂のあるA総合病院に来ています!これから潜入します!果たして、幽霊と邂逅出来るでしょうか!?」
※※※※
彼らの行為は『不法侵入』に当たるのだが、誰も酔っていて突っ込まなかった。
危なっかしい足取りで歩んでいく。
荒廃した建物の光源はスマホのライトと外から差し込む電柱の灯だけだった。
「では、まずは、手術室ですねー」と陽気にY。扉は横に引いたら、開いた。
中は手術台と無影灯があるのみ。それらも静かに埃を被っている。
「何もいませんねー」とY。女子二人がそれを聞いてケラケラ笑う。
「何がいるのよー」はU。
「むしろいて欲しいわー」とK。
一通りぐるりを撮影して、手術室を後にした。
「次にやってきたのが、ここ…」とYが意味深にプレートを掌で指し示す。
「問題の患者が亡くなった病室です」
入りましょう、とガチャリと扉を開けて、入る。
埃の降り積もった特有のむわりとした空気があるだけで、やはり何もいないし、起こらない。
四人は段々つまらなくなってきていた。
「帰ろー」
「ねー?」は女子二人。
「オレも帰りてぇなー」とF。
Yも「帰るか」と首肯した。
と。ギー、バタン…。という音がどこかで聞こえた。
全員が顔を見合わせた。
「いまの、って?」
「風かなんかだろ?」
「早く帰ろうぜ」
「帰ろう…」とそれぞれが微かに怯えながらも、元、来た道を引き返した。
帰りはみな、何故か静かだった。シンとした空気は、澱んではいないが、動いていない感じだ。
奇妙な音に気付いたのは殿(しんがり)のKだ。
「ねぇ…何かさ、足音、みたいなの、聞こえない?」
Uにしがみつく。
「聞こえないよ。暑い」とUはにベもない。
が。ペタペタペタ…リノウリムの床を湿った裸足で歩くような音が、確かに四人の耳に届いた。
―ねぇ、あなたたちの、イノチ、ちょうだい…?
そんな声が聞こえた。
子供の―女児の声に聞こえた―。
四人はパニックに陥ったものの、どうにか、出口に辿り着いた。
酔いはすっかり冷め、へなへなとその場に崩れ落ちた。
「幻聴か?」とF。
「四人全員が?」とK。
「K、怖いから、やめて…」とU。
Yだけが「早く帰ろう」、と言った。
※※※※
後日、四人で集まり、あの時の動画を観た。
…………。
四人の沈黙。
「これって…」とK。
「マズくない?」とU。
「マズイよな…」とF。
Yだけが、きょとんとした顔で「何が?」と聞いた。
三人は驚愕した。
口々にこれが見えないのか?と問うた。
Yは何が何やらわからない様子。
その動画には…手術室を後にしたあと…歳の頃、13、4歳の少女にしがみつかれているYの姿があった。ちょうどおんぶしているような感じだ。
三人は慌てて(Yは未だきょとんとしていた)、とりあえず、近くの寺に飛び込んだ。
住職は見る見る青くなり「私のような者では手に負えない」と、隣町の寺院を紹介された。
Fの運転で隣町の寺院へYを送った。もちろん全員一緒にだ。
四人はお説教を喰らい、Yは上半身裸にされ、<清め>を受けた。
それは粗塩で肩から腰までをぐいぐい擦られるもので、かなり痛かったが、「我慢しろ」と釘を刺されたので、泣き言を言わずに耐えた。
一晩泊まるように、と命じられ、残る三人は寺院をあとにした。
※※※※
早い判断が奏効したのか、幸い、Yの身には、何も起きなかった。健康そのものだった。だが、撮影していたFのスマホは取り上げられた。何度祓っても、動画から少女が消えなかったのだ。
Fはスマホを変える事にした。
真新しいスマホの動画ファイルに、あの少女の姿はない。安心した。
四人の間でA総合病院の事が話題にのぼる事は二度となかった。
だが、みな、胸の中では思っていた『あの少女はなんだったんだろう…』
やはり、忌避される場所には理由があるのだ…。
皆さんも安易に近づかない方がいいですよ…。
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