亡霊はレクイエムを歌う

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   男は、気がついたらこの世界にいた。男が初めて見た世界は、人の屍が折り重なる赤い世界。

   男は己が何者か知らない。だが、男と出会う者は皆『死神』と呼んだ。

   男はある日、光を見た。その光に近ずけば光は死ぬ。だからこそ、男は影から光を見守った。
   けれど、その光は男が目を離した隙に消えた。男は光を探した。そして...絶望して死を望む光を見つけた。






   死神という男の瞳は、深い闇色をしていた。その闇色を見たアリスティアは、懐かしい気持ちになった。だからだろう、安らぎは得られなくともこの闇のそばにいられれば良いとアリスティアは思ってしまった。

「...たとえ安らぎが得られなくとも、私は死を望みます。でも、1つお願いがあります。」

『なんだ?』

「貴方様のそばにいさせてください。貴方様は、孤独と仰りました。ならばせめて私のお願いを聞いてくださるお礼に、貴方様の孤独を癒したいのです。」

『......良いのか?』

「はい、何故か貴方様の瞳を見ているととても懐かしい気持ちがするのです。それに貴方様を1人にしたくない...と思ってしまう。不思議ですね、初めてお会いしたのに...」

『......』

「死神様?」

『ケーレスだ。』

「!」

   死神が自らの名を明かすと、マントを被っていた姿から闇色の髪と瞳の青年へと変わる。その変化にアリスティアが驚いていると死神は再び問いかける。

『我は、人を死えと追いやる者。それでもそばにいてくれるのか? アリスティア』

「はい、貴方様と...ケーレス様と共に...」

   アリスティアの言葉に死神は、頷き、アリスティアの頬を撫で唇を落とした。
   死神の唇がアリスティアの唇から離れると、アリスティアは意識が朦朧とし始めた。それに抗おうとしても体から力が抜けていく。

『安心しろ。少し眠るだけだ。』

   死神に優しく頭を撫でられ、とうとうアリスティアの意識は闇の中へと落ちた。


    翌日、アリスティアは冷たい死体となって発見された。アリスティアの死に王は、悲しみ、その悲しみを癒すかのようにまた他国を攻め滅ぼそうとするのだが、己の息子である王子に毒殺されその命の幕を閉じたのだった。
   王を殺した王子は、新王となり、賢王として国民から称えられた。そして、いつしか国民からは哀れなモルガナ国の姫の存在は忘れられた。王が即位し、3年後。アリスティアの死体を自国である帝国の王族専用墓地からアリスティアの故郷モルガナ国の王族専用墓地へと移動させた。何故、王がアリスティアの死体を故郷へと帰したのかは分からないが、ただ王は静かにアリスティアの安らぎを祈っていた事は分かった。

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