前前世は大聖女、前世は地球人、今世は隠居女 〜元聖女は平穏を望む〜

隠居生活はじめます。

17.お土産をどうぞ

「セイラ～セイラ～」

「はっ！」

「大丈夫ぅ？」

「あ、うん…大丈夫…多分。」

   Sランクの魔道具を作成してしまった私は、一瞬意識が何処かへ飛びかけたがエナベルの呑気な声で呼び戻された。改めて、綺月君に渡した魔道具を見る。

   うん、作っちゃったものは仕方ない。設定を変えるか…

「綺月くん」

「は、はい？」

「さっき、魔道具士セイランって私のことをみんなに話してって言ったよね？」

「はい」

「それ無しで！」

「えっ！？」

   驚く綺月くんを置いて、私は横にいるエナベルに許可を取る。

「とりあえず、神獣であるエナベルの昔の旧友のジジィって事にしといていい？」

「いいわよぉ～。自称賢者のセイランねぇ～」

「自称賢者って…賢者じゃないわよ。魔道具士は確かに自称だけど……」

「まぁまぁ、何か聞かれたらジジィだから答えてくれな～いって言っとくよォ」

「お願いね！綺月くんもそれで大丈夫？？」

「え？あ、はい、セイランさんとは物忘れが激しいジジィのエナベルさんの旧友って事…って皆に言えばいいんです…よね、、」

「うんうん、自分で言うのもなんだけど…ジジィって…確かに精神年齢的にはババァだけどさ……」

   自分が言い出した言葉に傷つく私に、綺月くんは横で「セイラさんは、綺麗で優しいお姉さんですよっ！」と励ましてくれた。
   あぁ、弟子が優しい…。それに比べて…エナベル！！なんで腹抱えて笑うの！！もうご飯食べさせてあげないわよ！！
    私は、心の中で毒づいた。



「じゃあ、落ち着いたらまた来てね。綺月くん」

「はい！それと…これありがとうございます！」

「うふふ、どういたしまして！みんなで食べてね」

「はい！」

   龍姿になったエナベルの恨めしそうな視線を無視し、私はお米、味噌を詰めた大きな鞄を可愛い弟子の綺月くんに渡した。

「セイラぁ～」

「笑った罰よ」

「酷いよォ～」

「あははは、、えっと…エナベルさんも一緒に食べませんか？」

「わぁ、本当？食べる食べる～」

「綺月くん、その量だけだと一瞬でエナベルが完食するわよ？」
   
「……すみません。やっぱり分けることはできません。」

「そんなぁ、、セイラ～～」

   駄々を捏ねてご飯をねだるエナベルを無視し、私は綺月くんに気になったことを聞いた。

「エナベルに連れてこられた時、気絶してたよね？もしかして…綺月くん高所恐怖症？」

「あ………はい。恥ずかしいですけど、俺、高いところ苦手で…」

「そうだったのね…」

   私は苦笑いで答える綺月くんの頭を撫でながら、ある魔法をかけた。一瞬、私の手が光ったことに不思議がる綺月くんに教える。

「精神安定の魔法よ。楽になると思うわ」

「ありがとうございます！！」

「どういたしまして、根本的な高所恐怖症は治せないと思うけど……幾分かマシだと思うわ。気をつけて帰ってね？」

「はい！」

「行ってらっしゃい綺月くん」

「！行ってきます！セイラさん！！」

   こうして、私は弟子を見送った。エナベルは帰り際も私に何かを訴える視線を向けてきたが無視した。



   綺月くんとエナベルが帰った後、私は創造で歴史書を出した。エナベルから聞いた話だと聖女セイラが生きていた時代と今では能力が低下している。

「……私が消えたあとからこの世界に何が起こったのかしら……」

   私がまだ生きていた時代は、魔法はもちろんスキル能力も皆高かった。けれど、、、

「私が消えてから…低下した？」

   私が消えた後の歴史書を見ると魔法もスキル能力も極端にレベルが下がっていた。

「400年の間に…一体何が……」

   私はそこから歴史書を読み込み、ある歴史に目を止めた。

「竜人王アルゼの大量虐殺……黒の鱗に突然変異した竜神王が他国侵略を開始。他国は、連合を組み団結し見事侵略を防いだ…犠牲者4万人…」

   竜人王アルゼは、ルナちゃんが言っていた邪神に取り込まれ邪竜となった者だ。きっと、この戦いで邪神は力を持つものを殺したのだ。それに、邪神が彼を狙ったのは私の次に強く油断出来ない人物だったからだろう。

「アルゼ……きっと助けますから…どうかご無事で…」

   400年前の想い人に私は心の底から無事を祈った。


 
   竜人王とは歴史上、大聖女を語る上で必ず出てくる人物だ。かの竜人王アルゼは金の鱗に翠の瞳をもち、薄桃色の髪にアクアマリンの瞳を持つ大聖女セイラの傍らに寄り添っていたという。
   だが、大聖女セイラが邪神を打ち倒し姿を消して以来、行方知れずとなった。皆は口を揃え『大聖女様の死が悲しく、1人になりたいのだろう』と言い、彼を探さなかった。けれど、それが間違いだったのだと気づいた時には、竜人王アルゼは邪神に取り込まれ、全てが手遅れだった。
   邪竜となったアルゼは人を殺し、世界を混沌へと誘う存在へとなったのだ。

   人は、嘆き苦しみ、亡き大聖女セイラに助けを求めるも大聖女セイラはこの世に存在しない。そんな時、教会が異界から勇者を召喚した。これを知った邪竜は、更なる力を得るために雲隠れし、決戦の日を待つ。

   かつての美しい黄金色の鱗は禍々しい色へ、澄んだ翠の瞳は人の血の色へと変貌した竜人王アルゼは、邪神に取り込まれ心を蝕まれた今も誰かを探している…。

   
『セイラ………』