オネェに迫られて困ってます!

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   真っ直ぐ獲物を見据える彼

   背筋を伸ばして弓を引く彼

   弓を引く力強い腕を持つ彼

   彼が好きだった。

   祖母がエルフだったのに弓が不得意な私をバカにしないで、仲間にしてくれた彼

   特殊な目をしているせいで、気味悪がれた私の瞳を綺麗と言ってくれた彼

   彼に告白しようと思っていた……でも、私は間に合わなかった。








   3日間のダンジョン探索から戻り、酒場に集まったフィリーラ達に彼は嬉しそうに言った。

「スザンナと結婚しようと思ってるんだ!」

「……ぇ」

   弓使いのラキッドは、顔を真っ赤に染めたスザンナの腰を抱いて傍に近づけた。ラキッドとスザンナは嬉しそうに顔を赤く染めて微笑みあっている。

   そんな幸せに笑い合う2人を見ているのが辛くて、フィリーラは俯いた。

   胸が苦しかった。私はラキッドが好きだった。スザンナよりも私が先に出会って、彼を好きなった。なのに、何故ラキッドの隣は私ではなくてスザンナなのだろうか…。今日、やっと3年温めたこの気持ちを彼に打ち明けようと勇気を出したのに、遅かったの……?

   フィリーラの様子に気づかないラキッドとスザンナは、嬉しそうに色々と話しているが彼女の耳には届かない。

「で、どう思う?」

「フィリーラ?」

   黙って俯いていたフィリーラは、呼ばれてハッと顔を上げた。そんなフィリーラにラキッドとスザンナは不思議そうな顔をしているが気にせずに話を続ける。

「1階が共有スペースのキッチンとダイニング、2階にフィリーラとアルフレッドの部屋、んで3階が俺とスザンナが住むのはどう思う?」

「……ぇ」

   ラキッドは何の話をしているのだろうか?

「えっと、2人は結婚するのよね?なんで家の話になっているの?」

「フィリーラ聞いてなかったのか?ほら、俺たちパーティーだからそろそろパーティー共有の家持ってもいいかな?って。それと俺とスザンナは結婚するしタイミング的に良いと思ってさ!」

   ラキッドは嬉しそうにそういうが、フィリーラにとっては良くない事だ。なぜ、好きな人が他の人と想いあっている場面を毎日見ないといけないのだ。

   失恋と配慮のない提案にフィリーラは少しイラッとしてラキッドに言った。

「なんでパーティーの家を夫婦と同じ家にしないといけないの?結婚するならすればいいわ。パーティー共有の家を買うのも構わないわ。でも、夫婦が住む家とパーティーの家を共有するのは無理。その話を進めるなら私はこのパーティーから抜けるわ」

    言い切ったフィリーラは席から立ち上がって部屋に戻ろうとしたが、ラキッドがフィリーラの手首を掴んで止めた。

「ちょっ!フィリーラ!!」

「なに?文句でもある??」

「あるに決まってるだろっ!!なんだよその言い方!せっかく俺は良いと思って話したのに…それに俺たちはパーティーだから、そばにいた方がいいと思って提案したんだ!!」

   ラキッドはパーティーの為を思ってというが、彼はパーティー内で1番金使いが荒い。現状、宿と食事代、防具等はパーティー資金で払っているから無一文は避けられているが、彼は稼いだお金をすぐに使ってしまう。だから、こそ家を買う金が彼個人が持っているとは考えられない。ラキッドの横にいるスザンナも美容にかなりお金をかけている。ラキッド程では無いが彼女も金使いが荒い方だ。

   フィリーラは、呆れてラキッドの手を手首から外した。

「とりあえず、私はこのパーティー抜けるから。私抜きで話し合って。」

   そう言い切って、フィリーラは背を向けたがまた手首を掴まれた。

「ちょっと!ラキッ……ど、、え?」

「んもぉ、フィーちゃん待ってよぉ~」

   フィリーラの手首を掴んだのは、ラキッドではなくもう1人のパーティーメンバーのアルフレッドだった。アルフレッドは、フィリーラにニコリと笑顔を向けると席を立った。

「私もぉ、このパーティー抜けるわぁ。じゃあね、ラキッド、スザンナ、お幸せにぃ~。あ、そうそうギルドにはパーティー解散申請とくわねぇ~。資金の方は、計算して一人一人見合った額で振り分けて後日わたすわ。じゃ、行きましょぉフィーちゃん」

「え?あ、、う、うん?」

   アルフレッドの言葉にびっくりして思考が停止したフィリーラをグイグイ引っ張って酒場の出口へ向かって歩く。後ろからラキッド達が何か言っているが、アルフレッドの行動にフィリーラは戸惑っていた。

   
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