ベルリンの惨事 第1部

マノン

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第1章 廻浬転生編

第2話

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 言われるがままにベルリン郊外の宿で2日程過ごしたカイヤは、帝国騎士団ベルリン支部入団試験を受けに歴史的建造物っぽい建物に足を運んだ。
「うわぁ、教科書でよく見たやつだぁ。」と元体育教師・カイヤは呟く。
 建物に中に入ると、同じかそれより下くらいの男性が沢山いた。その中で1人異色を放っている人物がいた。
 自分もかなり浮いてる方なので、カイヤは勇気を出して話しかけてみることにした。
「あの…、君、女の子?」と聞くとその少女は警戒したように、
「何か悪いですか?」と質問を質問で返した。
「なんで?」現代っ子カイヤはよく分からず首を捻る。
「貴方も私が騎士団を受けに来たことに反対するんですか?」自分よりも下とみえる少女は嫌悪感を剥き出しにしたまま言い放った。
「え?それってどういうこと?」
「だから…貴方も私がおかしいって言いたいんでしょう!?」少女は怒りの籠った瞳をカイヤに向ける。
「いや、俺はそんなこと言ってな…」
「皆そう。お前は女なんだから家でじっとしてればいいだとか、せっかく良家に生まれたんだから、侯爵家と結婚できるなんてこれ以上幸せなことはない筈だとか…。
 ドレスは嫌いじゃない、私は何も乗馬服を着たいなんて言ってるんじゃない、男じゃなくて女が好きだって言ってるんじゃない、ただ…体を動かすのが好きなだけ。だから、騎士団に入りたいだけなのに…。」少女はハッとした顔で俯いた。
「ごめんなさい、初対面…しかも男性にこんな砕けた言葉を…。」
「いや、いいよそのくらい。」カイヤは合点した。
 今は1700年代、ジェンダーレスなんて欠片もない時代だ。これこそ差別なのだなと内心呟く。
「でも…何だそんな事か。それくらい、この騎士団でトップになって家族とか見返せばいいじゃん。」カイヤは改めて建物の内装を眺めながら言った。
「え?…そんなこと?女が騎士団に行くんですよ?普通ならおかしいでしょう?」少女は呆気にとられる。
「まぁ、普通ならおかしいと言われても…俺は元々普通じゃないんでね。
 しかも俺、ドイツ初めて来たんだけど、俺の国じゃ男だからとか女だからとか言ったら首が飛んじゃうからね。そんなこと思ったこともなかったな。」特に俺達教育者はね、と心の中で付け足す。
「…ドイツの人じゃなかったんですか。…確かに、顔立ちとかはたまに宮廷に来る東方の商人の方達に似ている気が…。もしかして、東洋の島国から来たんですか?」
「あぁ、まあそんなとこ。というか敬語やめて。俺の方が年上だけど入団したら同期になるわけだし。」東方の島国といったら日本しかないのだが、なんせ時代が違う。カイヤは適当にお茶を濁しておいた。
「え…でも…。」少女は困惑する。
「うんざりしてたんでしょ?それならまずは自分から変わらないと何も変わらないよ。」
「…はい。」少女は微笑んだ。
「それならまず自己紹介でもするか、これから長い付き合いになりそうだし。
 俺はカイヤ・ジァゾット。ここに来たばっかでわからないことが多いけど、宜しく。」
「…ジ…ジァゾットって…。」少女は顔を強ばらせた。
 カイヤはこの反応から、この苗字面倒だな変えよかななどと考えていた。
「まーまーまー、あんま気にしないで。…気を取り直して、君は?」
「ミランダ・マクシー。こんなこと言われたの初めて。これから仲良くしましょ。」2人は握手を交わした。
「そういえば…何歳なの?…あ、いややっぱいいや!」カイヤは言い終わってからセクハラかもしれないと気づき慌てて取り繕った。
「…?17だよ。」それをミランダは不思議そうに首を傾げた。
「17!?10歳も下なの?マジかよ…。」カイヤはいつか社会的に抹消されそうな恐怖感を覚えた。
 その恐怖感を抱いたまま、ようやく始まった入団試験は、体育教師のカイヤにとって楽勝でしか無かった。ミランダも楽々合格したようだ。
 これからの生活、少しは楽しくなりそうだとカイヤは感じた。
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