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三日後に婚約破棄します
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三年ぶりに現れた幼馴染、ウェイドは困っていた。
「帝国諸侯である貴方がどうしたのです?」
「ミランダ、実は……僕、サルビアというお嬢様から結婚してくれとしつこく追い回されているんだ」
膝から崩れ落ち、金の髪を揺らすウェイドは辛そうだった。久しぶりに再会できたと思えば、そんな事になっていたなんて。
「精神的に参っているのですね」
「ああ、僕には他に好きな人がいるんだ」
「好きな人……ですか」
それってもしかして。
――でも、わたくしにも他に好きな人がいる。その人は皇子であり、丁度想いを伝えに行こうと思った前にウェイドが現れた。
幼馴染である彼を放ってはおけなかった。ウェイドは、確かに優しくてその地位も高いけれど、恋愛対象ではなかった。
「頼む、ミランダ! 僕と一時的でもいいから婚約を結んでくれないかい」
「ウェイドの頼みですからね。条件付きでよろしければ」
「本当かい!? で、その条件とは?」
「ええ、そうですね……それでは『三日後に婚約破棄』で如何でしょうか。つまり、三日以内に彼女を諦めさせるのです」
「分かった。それだけ時間があれば十分。諦めさせてみせるよ」
立ち上がるウェイドは元気になった。
少しは希望を見出せたようで、わたくしも少し安堵した。後は、サルビアが諦めるかどうか。
一日目。
当面の間、ウェイドのお屋敷にお邪魔する事になり、わたくしは彼と婚約を継続。それらしい振る舞いをしていた。
お屋敷の外にはサルビアの姿。
強引にも押し入ってきて、ウェイドの方へ向かって来る。けれど、彼はわたくしの体を手繰り寄せるとぎゅっと抱いた。このシーンを見せつければ、きっとサルビアは諦める。
「…………嘘」
目を見開き、サルビアは驚いていた。
そして、踵を返し帰っていく。
「おぉ、これは効いたかもしれない。ありがとう、ミランダ」
「どうでしょうか、この程度で諦める彼女とは思えませんが」
「妙に彼女の肩を持つね?」
「だって、今までずっと貴方を追っていたのでしょう。ならば尚更、強硬手段に出てくる可能性も」
「……そうだな。あと二日あるし、最後まで気を緩めずにいこう」
二日目。
わたくしは、ウェイドの書斎に入り婚約者として振舞った。外にはサルビアの姿。やっぱり、こっちを監視している。
「今日もいらっしゃいますね、ウェイド」
「ああ……本当にしつこい女だ。ミランダ、悪いんだけどキスをさせてくれ。見せつければ今度こそ諦めるだろ」
「……では、キスのフリで」
「なんだノリが悪いな、ミランダ。いいじゃないか、キスくらい」
「三日後には婚約破棄する関係ですし」
「いやいや、この件が片付いたらこのまま結婚しようよ」
「…………どうして、そんな事を仰るのです。条件付きだから助けているのですよ?」
「そんな固い事を言うなよ。幼馴染じゃないか。ミランダだって僕が好きなんだろ……ほら」
腕を掴まれ、強引に唇を重ね合わせてこようとするウェイド。わたくしは、びっくりして顔をそらす。
「嫌です……」
「嫌って何だよ。……分かった、もういい。あと一日頼むぞ」
三日目、最終日。
今日でこの仮初の婚約生活も終わり。
昨日以来、サルビアも姿を現していないし、ウェイドも少し様子がおかしい。わたくしは早く終わって帰りたいと望むばかりだった。
けれど。
「やあ、ミランダ」
「ウェイド、もう三日目です。約束の期限はもう間もなく……お昼には婚約破棄させて戴きますよ」
「いやいや。そうはいかないよ」
「はい?」
「僕とミランダは結婚するんだから」
「……なんですって?」
彼は何を言っているの……?
意味が分からない。
「もういいじゃないか、サルビアは諦めたし。ならさ、僕と一緒にやっていこうよ」
「さ、触らないで下さい!」
「……っ! ミランダ、何故だ。僕が好きじゃないのか」
「今回のこれは困っているウェイドを助けるつもりで婚約を交わしてあげただけです! 本当に結婚をするつもりはないですし、そんな気もありません」
「そうか。じゃあ、君を監禁する」
「え……その縄で何をするつもりですか」
彼はわたくしを縛ろうとして接近してきた。身の危険を感じて部屋を出ようとするけれど、ウェイドが阻む。
「僕のモノになれ、ミランダ」
「い、嫌です。もうこんな事は止めて下さい。わたくし、ウェイドの事が本当に嫌いになってしまいますよ」
「構わないさ。僕はミランダが欲しいんだ。君と一緒になりたい……身も心もね」
そうか、ウェイドはこの為にもわたくしと一時的に婚約を交わしたんだ。邪魔なサルビアを排除して、その後……わたくしを自分のモノにしようと計画していたと。
「最低ですよ、ウェイド」
「やっと気づいたのか! もう遅いぞ、ミランダ。君を地下に閉じ込めてやる。一生、僕の女ってわけさ。毎日毎日、愛してやる! 体の隅々までな!」
「……酷い。気持ち悪いです」
逃げようにも扉は一か所だけで、ウェイドが阻む。その手には縄。近づけばわたくしは監禁されてしまう。どうすれば……。
結局抵抗する事も叶わず、わたくしは縄で強引に縛られていく。……もう、このまま監禁されるしかないの?
絶望的状況に打つ手なしかと思われた――その時。
「がはあああああああああ……ッ!!」
ゴトッっと……ウェイドの体が床に転がった。彼はのた打ち回り、腹部を押さえていた。……え、いつの間にか包丁で刺されてる。
いえ、サルビアが背後から刺したのね。彼女の姿が背後にあった。
「ウェイド、死ねッ!!」
「サ……サルビア!! お……お、まえ……かはッ」
「よくも……よくも他の女に手を出したわね!! あんたを殺して私も死ぬわ!!」
ザクザクと刺されていくウェイド。その度に大量の血を流し、程なくして彼は絶命。サルビアも自身の腹部を包丁で刺し、自害。
「……なんてこと」
・
・
・
その後、事件は国が処理。
縛られていたわたくしは被害者のひとりと認定され、自由の身に。そして直ぐに想い人であるシビル皇子と婚約を交わした。
「ミランダ、あんな事件があった後で辛いかもしれないけど、俺と幸せになろう」
「はい。きっと乗り越えて見せます」
こうしてあの三日間は終わり、わたくしは皇子と幸せになった――。
「帝国諸侯である貴方がどうしたのです?」
「ミランダ、実は……僕、サルビアというお嬢様から結婚してくれとしつこく追い回されているんだ」
膝から崩れ落ち、金の髪を揺らすウェイドは辛そうだった。久しぶりに再会できたと思えば、そんな事になっていたなんて。
「精神的に参っているのですね」
「ああ、僕には他に好きな人がいるんだ」
「好きな人……ですか」
それってもしかして。
――でも、わたくしにも他に好きな人がいる。その人は皇子であり、丁度想いを伝えに行こうと思った前にウェイドが現れた。
幼馴染である彼を放ってはおけなかった。ウェイドは、確かに優しくてその地位も高いけれど、恋愛対象ではなかった。
「頼む、ミランダ! 僕と一時的でもいいから婚約を結んでくれないかい」
「ウェイドの頼みですからね。条件付きでよろしければ」
「本当かい!? で、その条件とは?」
「ええ、そうですね……それでは『三日後に婚約破棄』で如何でしょうか。つまり、三日以内に彼女を諦めさせるのです」
「分かった。それだけ時間があれば十分。諦めさせてみせるよ」
立ち上がるウェイドは元気になった。
少しは希望を見出せたようで、わたくしも少し安堵した。後は、サルビアが諦めるかどうか。
一日目。
当面の間、ウェイドのお屋敷にお邪魔する事になり、わたくしは彼と婚約を継続。それらしい振る舞いをしていた。
お屋敷の外にはサルビアの姿。
強引にも押し入ってきて、ウェイドの方へ向かって来る。けれど、彼はわたくしの体を手繰り寄せるとぎゅっと抱いた。このシーンを見せつければ、きっとサルビアは諦める。
「…………嘘」
目を見開き、サルビアは驚いていた。
そして、踵を返し帰っていく。
「おぉ、これは効いたかもしれない。ありがとう、ミランダ」
「どうでしょうか、この程度で諦める彼女とは思えませんが」
「妙に彼女の肩を持つね?」
「だって、今までずっと貴方を追っていたのでしょう。ならば尚更、強硬手段に出てくる可能性も」
「……そうだな。あと二日あるし、最後まで気を緩めずにいこう」
二日目。
わたくしは、ウェイドの書斎に入り婚約者として振舞った。外にはサルビアの姿。やっぱり、こっちを監視している。
「今日もいらっしゃいますね、ウェイド」
「ああ……本当にしつこい女だ。ミランダ、悪いんだけどキスをさせてくれ。見せつければ今度こそ諦めるだろ」
「……では、キスのフリで」
「なんだノリが悪いな、ミランダ。いいじゃないか、キスくらい」
「三日後には婚約破棄する関係ですし」
「いやいや、この件が片付いたらこのまま結婚しようよ」
「…………どうして、そんな事を仰るのです。条件付きだから助けているのですよ?」
「そんな固い事を言うなよ。幼馴染じゃないか。ミランダだって僕が好きなんだろ……ほら」
腕を掴まれ、強引に唇を重ね合わせてこようとするウェイド。わたくしは、びっくりして顔をそらす。
「嫌です……」
「嫌って何だよ。……分かった、もういい。あと一日頼むぞ」
三日目、最終日。
今日でこの仮初の婚約生活も終わり。
昨日以来、サルビアも姿を現していないし、ウェイドも少し様子がおかしい。わたくしは早く終わって帰りたいと望むばかりだった。
けれど。
「やあ、ミランダ」
「ウェイド、もう三日目です。約束の期限はもう間もなく……お昼には婚約破棄させて戴きますよ」
「いやいや。そうはいかないよ」
「はい?」
「僕とミランダは結婚するんだから」
「……なんですって?」
彼は何を言っているの……?
意味が分からない。
「もういいじゃないか、サルビアは諦めたし。ならさ、僕と一緒にやっていこうよ」
「さ、触らないで下さい!」
「……っ! ミランダ、何故だ。僕が好きじゃないのか」
「今回のこれは困っているウェイドを助けるつもりで婚約を交わしてあげただけです! 本当に結婚をするつもりはないですし、そんな気もありません」
「そうか。じゃあ、君を監禁する」
「え……その縄で何をするつもりですか」
彼はわたくしを縛ろうとして接近してきた。身の危険を感じて部屋を出ようとするけれど、ウェイドが阻む。
「僕のモノになれ、ミランダ」
「い、嫌です。もうこんな事は止めて下さい。わたくし、ウェイドの事が本当に嫌いになってしまいますよ」
「構わないさ。僕はミランダが欲しいんだ。君と一緒になりたい……身も心もね」
そうか、ウェイドはこの為にもわたくしと一時的に婚約を交わしたんだ。邪魔なサルビアを排除して、その後……わたくしを自分のモノにしようと計画していたと。
「最低ですよ、ウェイド」
「やっと気づいたのか! もう遅いぞ、ミランダ。君を地下に閉じ込めてやる。一生、僕の女ってわけさ。毎日毎日、愛してやる! 体の隅々までな!」
「……酷い。気持ち悪いです」
逃げようにも扉は一か所だけで、ウェイドが阻む。その手には縄。近づけばわたくしは監禁されてしまう。どうすれば……。
結局抵抗する事も叶わず、わたくしは縄で強引に縛られていく。……もう、このまま監禁されるしかないの?
絶望的状況に打つ手なしかと思われた――その時。
「がはあああああああああ……ッ!!」
ゴトッっと……ウェイドの体が床に転がった。彼はのた打ち回り、腹部を押さえていた。……え、いつの間にか包丁で刺されてる。
いえ、サルビアが背後から刺したのね。彼女の姿が背後にあった。
「ウェイド、死ねッ!!」
「サ……サルビア!! お……お、まえ……かはッ」
「よくも……よくも他の女に手を出したわね!! あんたを殺して私も死ぬわ!!」
ザクザクと刺されていくウェイド。その度に大量の血を流し、程なくして彼は絶命。サルビアも自身の腹部を包丁で刺し、自害。
「……なんてこと」
・
・
・
その後、事件は国が処理。
縛られていたわたくしは被害者のひとりと認定され、自由の身に。そして直ぐに想い人であるシビル皇子と婚約を交わした。
「ミランダ、あんな事件があった後で辛いかもしれないけど、俺と幸せになろう」
「はい。きっと乗り越えて見せます」
こうしてあの三日間は終わり、わたくしは皇子と幸せになった――。
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