黒の聖女、白の聖女に復讐したい

夜桜

文字の大きさ
1 / 1

◆婚約破棄

「――分かったか、エイト。俺はもうお前の妹のノインと関係を持ってる! 婚約破棄だ!!」

「言ってしまいましたね、伯爵」
「それがなんだ。もうエイト、お前に用はない。白の聖女だか、なんだか知らんが……ぬッ!? ぐ……」

 伯爵は首を押さえ、突然苦しみだした。

 呪いが発動したんだ。

 黒の聖女であるわたしには特殊な能力があった。

 言霊ことだまとか呪詛じゅその類だ。

 言葉で相手を絶望に叩き落とすという強力な魔法。その力は大魔法にすら匹敵すると呼ばれている。

 今回の場合『婚約破棄』がそのキーワードになっていた。他にもあるけど。


「伯爵、この世界には言ってはならない言葉があるのですよ」
「キ、キサマ……なにを、した」

 苦しみ悶える伯爵は、充血した目でわたしを追う。

「よりによって白の聖女である妹に浮気するだなんて……最低のゴミクズですね」
「や、やめろ! 俺を殺す気か!!」

「いいえ、わたしが殺すのではないのです。あなたが自ら命を絶つだけの話。わたしは何もしておりません」

「ふ……ふざけるな!! エイト、お前の力がこうさせているのだろう……グッ! 魔法を解け!」

「わたしを捨てるということは、己の命を捨てると同義。わたしは言ったはずですよ、一生を共にすると」

「…………く、くそぉ」


 バタッと床に倒れて意識を失う伯爵。
 憐れで最低な男。

 少なくとも、わたしは彼を愛していたのに。
 彼の愛は醒めていた。
 色褪せてしまって、枯れてさえいた。

 とても残念。

 でもいい、彼は言ってはならない言葉で罪を償った。


 ◆


 妹のノインがいるという別の屋敷・・・・へ向かった。


 ここは侯爵家。
 アインスという貴族が構えているお屋敷だ。

 中へ踏み入れ、広間へ入ると……


 そこにはノインとアインスが抱き合っていた。


 そう、やっぱりね。


「……ノイン、あなた……伯爵すら眼中になかったのね」
「お、お姉様!? どうして!」

「いえ、伯爵はキープあるいはストック対象だったってわけか」

 慌てて離れるノインは、ズカズカと乱暴にこちらへ。

「ちょっと、お姉様! 無断で入ってきてなんて言い草よ!! あたしとアインスは本気よ。浮気なんてこれっぽっちも」

「嘘をおっしゃい。わたしから伯爵を奪い、貴女は別の男と幸せになろうとしていた。そういうことでしょう」

 この光景が物語っていた。
 もう妹に言い逃れはできない。

「なによ、いつもお姉様ばかりいい男が寄ってきて……ズルいじゃない。所詮、黒の聖女のくせに! この穢れた聖女が!!」

「……また言ってはならないことを。死ぬわよ」

「はあ? なに言ってるの。お姉様には魔法らしい魔法なんてないじゃない。今まで見せたことあった? 白の聖女であるあたしは違うわ。この通り、炎とか氷を生み出せるの」

 ――しかし、その瞬間は訪れた。

 余裕の表情を見せていたノインは、悲痛を浮かべ胸を押さえた。


「どうした、ノイン」
「く、くるしい……なぜか胸が苦しいの」

「でしょうね」
「!? お、お姉様……なにをしたの!!」

「……“穢れた聖女”それは禁句だった。それも最大のね」

「まって……まってよ、お姉様!! あたしを殺す気!? ていうか、なんの魔法よ!!」

 わたしは妹にすら自分の力を黙っていた。
 この言霊の力は、発動してしまえば恐ろしすぎるからだ。

 相手は禁止ワードをつぶやくだけで――死ぬ。


「さようなら、ノイン」
「そ、そんな………うぅ」

 バタッと倒れるノイン。
 辛そうに表情を浮かべ、ずっと苦しみに耐えていた。

 ……わたしから幸せを奪うから、そうなる。

 妹を見下していると、アインスがやって来た。


「やったのか、エイト」


 口元を押さえ、苦しむノインを憐れむアインス。
 わたしと彼は幼馴染だった。

 もともとアインスが好きだったけど、伯爵を紹介してくれた。わたしは直ぐに伯爵に恋して婚約した。でも、妹との関係が赤裸々になっていくにつれ、心が穏やかではなくなっていた。

 だから、一ヶ月ほどアインスに相談に乗って貰っていた。

 結果、アインスにも協力してもらい、妹を懲らしめることになった。


「いいえ、まだです。彼女には苦しんで死んでもらいます」
「そうか。これでようやくか。僕はずっとノインからストーカーされていた。僕はノインと恋人になんてなりたくなかったのに……けど、エイトを守る為と思って耐えてきた」

 そう、アインスも被害者だった。
 ノインからずっと付き纏われ、包丁で脅されたこともあったとか。

 二人の関係は、ノインが一方的に作り上げた偽りのもの。

 アインスは、ずっと苦しんでいたみたい。
 だから今回のノインへの復讐は、わたしとアインスの意見が一致した上でだった。


「はい、アインス様。これでもうノインは……」


 気づけばノインは眠るように息を引き取っていた。


「……あとは僕に任せてくれ」
「分かりました」

「それと……エイト。よかったら僕と一緒にならないか」
「アインス様。よろしいのですか? わたしは……その」
「言わなくていい。その言葉は命を絶ってしまう」

「わたしなんかを愛してくれるのですか」
「僕はずっと独身を貫こうと思っていたんだけど、気が変わった。エイト、君が好きになってしまっていたよ」

「まあ、嬉しい。わたしもアインス様となら……」


 手を優しく握ってくれるアインス。

 言葉はもういらない。

 唇と唇を重ね合わせ、思いだけ交わし合った。
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の妹は復讐を誓う

影茸
恋愛
王子との婚約を冤罪によって破棄され、何もかも失った少女メイア・ストラード。 そしてその妹、アリアは絶望に嘆き悲しむ姉の姿を見て婚約を破棄した王子に復讐を誓う。

聖女が帰らなかったので婚約は破棄された

こうやさい
恋愛
 殿下はわたくしとの婚約を破棄して聖女と結婚なさるそうです。  いや『聖女は帰らなかったけど婚約は破棄された』の時に、聖女が帰らない婚約破棄の場合はふつー違うよなと考えた話。けどこれもなんかずれてる気が。  直接的に関係はないです。  プロフィール少し編集しました。 URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/678728800

聖女の復讐~私、本当にいいのか確認しましたよね?こうなったのは全て、王太子殿下の自業自得ですよ?~

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女と呼ばれた少女は、愛する人を失った。聖女と呼ばれた少女は、その原因となった王太子に復讐を誓う。 復讐の果てに少女は何を得るのか……。 この物語は、愛する人を失った少女の復讐の物語。 全10話 ※小説家になろう様で掲載していた短編作品を加筆修正した連載版になります。

あなたが婚約破棄したいと言うから、聖女を代替わりしたんですよ?思い通りにならなくて残念でしたね

相馬香子
恋愛
わたくし、シャーミィは婚約者である第一王子のラクンボ様に、婚約破棄を要求されました。 新たに公爵令嬢のロデクシーナ様を婚約者に迎えたいそうです。 あなたのことは大嫌いだから構いませんが、わたくしこの国の聖女ですよ?聖女は王族に嫁ぐというこの国の慣例があるので、婚約破棄をするには聖女の代替わりが必要ですが? は?もたもたせずにとっととやれと? ・・・もげろ!

【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪

鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。 「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」 だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。 濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが… 「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」

【R15】婚約破棄イベントを無事終えたのに「婚約破棄はなかったことにしてくれ」と言われました

あんころもちです
恋愛
やり直しした人生で無事破滅フラグを回避し婚約破棄を終えた元悪役令嬢 しかし婚約破棄後、元婚約者が部屋を尋ねに来た。

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

過去の青き聖女、未来の白き令嬢

手嶋ゆき
恋愛
私は聖女で、その結婚相手は王子様だと前から決まっていた。聖女を国につなぎ止めるだけの結婚。そして、聖女の力はいずれ王国にとって不要になる。 一方、外見も内面も私が勝てないような公爵家の「白き令嬢」が王子に近づいていた。