結婚詐欺

夜桜

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◆結婚しないなら命はない

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 アレクシスを探すと、彼はちょうど入浴中だった。
 鍛え上げられた肉体を自慢するように優雅に入っていた。

「ちょ、エレノア! なぜお風呂に!」
「……こ、これは失礼を。ですが、緊急事態につき来てほしいのです」
「緊急事態? いや、だが今の僕は裸だぞ」
「そんなことより、エドガー家の使いが来られているのですよ」
「なんだって……!? それは急がねば」

 腰にタオルを巻くアレクシスは、そのまま風呂を出た。
 急いでいるから仕方ない。

 玄関まで向かうと、そこには執事のような若い男性が立っていた。あれがエドガー家の使いなのね。


「はじめまして。私はエドガー家の執事……トライデントと申し――ぬわッ!? ハダカのヘンタイ! な、なんというカッコウを!」


 トレイデントという執事は、アレクシスの姿に驚いていた。
 というよりは顔を赤くしていた。……え、なんでそんな反応? もしかしてアッチの人なのかな。

 どうせなら着替えさせておけばよかったと後悔していると、アレクシスはキリッとした表情で執事を見つめた。


「トライデント……君か」
「ア、アレクシス様でしたか。ご無礼をお許しください」
「いや、こんな裸の姿なのだ。ヘンタイと間違われても仕方ない」

 そうは言っても、とても自慢気ね。
 見惚れてしまうほどの腹筋。肉体美。
 やっぱり聖騎士ってスゴイのね。

「本題になりますが、エサ様より言伝を預かっております」
「……っ」

 エサと聞いてアレクシスは青ざめた。
 さっきまでの威勢はどこへいったのやら。

「それで、なんと?」

 わたしが代わりに聞いた。
 すると、トライデントはとんでもないことを口にした。


「アレクシス、私と結婚しないのならエレノアの命はない。彼女との離婚は一年後でもいいので、エドガー家へ来なさい。そうすれば、エレノアの命くらいは助けてあげましょう――とのことです」


 やっぱり、エサがわたしの命を狙っているのね。
 さっきの刺客もそういうことなんだ。

 頭を押さえていると、アレクシスも溜息を吐いた。


「ふざけるな。僕はエレノアと結婚した。それ以上でもそれ以下でもない。彼女を守ると決めた。男の言葉に二言はない」


 カッコよく言ったけど……ハダカで台無しね。
 でもいいや。
 アレクシスは、なんだかんだ言っても守ってくれる。
 それだけ信じられれば十分。


「そうですか。では、その言葉をエサ様にお伝えいたします」
「ああ、好きにしろ。だがな、トライデント」
「……?」

「僕は必ずエレノアを守る!」

「さっき聞きました」
「大切なことなので二回言ったんだ」


 真面目な顔をして何言っているんだか!
 けれど、嘘でも本当でも思いは伝わったはず。

 これからエサからの嫌がらせが増えるかもしれないけど、アレクシスがきっと守ってくれる。

 でも、わたしだって、ただ黙っているわけではない。
 もちろん、反撃もする。

 我が家の為にも、この結婚生活をなんとしてでも続けなければいけないのだから。
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