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未来の為に

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「では、俺は引き続き情報を集めに参ります」

 席を立つシランは、部屋を後にする。

「分かった。なにかあったら、すぐに知らせてくれ」
「ありがとうございます、ルシウス様」

 彼が去ってから、ルシウスはわたしに微笑んだ。

「さあ、僕達も行こうか」
「……はい。まずは彼の動機を探りに」
「そうだな。君を殺したがっていたから、きっと何か裏があるはずなんだ。まずはそこを突き止める」

 わたしもそれに関しては知りたかった。
 なぜ、ヴァンはわたしに殺意を向けたのか。あの前日までは平穏で、幸せで、愛し合っていたのに……なのに。
 彼は急に変わってしまった。
 悪魔に取りつかれてしまったかのように。

 いや、元々悪魔だったんだ。
 ずっと素顔を隠していたんだ。

「分かりました。街へ向かいましょう」
「ああ、決まりだ。けど、ただ行くだけではヤツに勝てない」
「どうするのですか?」

「リリス、君に変装してもらう」
「へ、変装ですか」
「実は、ウチのメイドは優秀でね。君を別人にしてもらう。その方がリリスにとっても好都合だろう? ほら、ヴァンが君が生きてるって知ったら、また狙ってくるかもしれないからね」

 それもそうね。
 わたしは死んでいることにしておこう。

 さっそくそのメイドの元へ向かった。

 一階にある小さな部屋。
 そこへ入ると見覚えのあるメイドがいた。
 応接室の場所を教えてくれたメイドだ。

「いらっしゃいませ、リリス様」
「貴女がわたしの姿を変えてくれるのね」
「はい、リリス様だと分からぬよう別人にいたします。どうぞ、椅子に」

 腰を掛け、メイドは直ぐに取り掛かってくれた。
 赤毛のウィッグや普段はつけないアクセサリー類。特殊なメイクを施し、服装も変えた。

 気づけば、わたしは華麗な令嬢に変身していた。

 本当に別人になってしまった。

 鏡に映っている自分の姿が信じられなかった。これがわたし?

「凄い……」
「これでもうリリス様だとは誰も思いません」
「自分でも疑ってる。貴女、凄いスキルを持っているのね」
「ルシウス様のお母様の補助をしている内に身に着いたもので、たいしたことは……」

 それにしても驚くべきクオリティだ。
 彼女は変装の達人になれると思った。

「おぉ、リリス。……君は本当にリリスなのかい?」
「は、はい。お恥ずかしいのですが、リリスです」

 わたしの変わりように驚くルシウスは、とても気にってくれたのか満足気だった。もしかして、わたしってもう少しオシャレした方がいいのかな。
 そうよね、ずっと田舎令嬢だったから……。
 あんまり知識とかもなかった。

 でも、こうして反応してもらえるのなら、もっと自分の磨いていこうかなって感じた。

「まるでポーチュラカ辺境伯夫人の肖像のようだ」
「えっと……それは?」
「世界一美しいと呼ばれている肖像画だよ」
「まあ……嬉しいですっ」

「リリス、君はもっと美しくなれる。この戦いが終わったら、必要なものを何でも買ってあげるからね」
「ルシウス様は本当にお優しいのですね」
「母を守ってくれたお礼さ」

 そうは言っているけど、ルシウス様はわたしを大切に思ってくれている。ここまでしてくれるのだから、期待は裏切れない。がんばろう。

 その為にもヴァンを破滅させなければ。

 わたしとルシウス様の未来の為に。
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