兄をたずねて魔の学園

沙羅

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あの日から、天先輩の態度が変わった気がする。
説明する時間を割いてまで仕事を手伝わせてくれるようになったのに加えて、一緒に食卓を囲むようにもなった。食事はほとんど天先輩がつくってくれるわけだけど、先輩の指示通りに切ったりするくらいは手伝わせてもらっている。

一緒にいる時間が長くなって、会話も増えて。
少しは近づけたんじゃないかなんて、浮かれていた。

……そんな時だった。

「お前、会長の『サポーター』か?」
天先輩と少し距離は縮まっても、それは部屋の中だけだった。普段通り自由に過ごしている俺は、会長の『サポーター』として奇異の目を向けられることも多い。他の『サポーター』は基本的に生徒会役員にべったりで、あまり見る機会がないからというのも視線を向けさせる理由の一端を担っていた。

「そう、ですけど……」
それでも、こうやって直接声をかけてくる人は多くはない。今までだと、どうやって会長に取り入ったんだと聞いてくる人たちであったり、会長の普段の様子を事細かに質問してくる人たちであったりと、熱烈すぎるファンという印象が強かった。

しかし、今日声をかけてきた人にはそんな様子は見えない。興奮しているというよりは嫌に冷静で、何を考えているのか分からなかった。

「ちょっと来い」
こちらの答えを聞く前に、手首が掴まれて引っ張られる。倒れるのを避けるために足を動かせば、辿り着いた先は人気のない教室だった。

いや。普段は人気がないはずなのに、その教室の中には5人ほど人がいた。
おそらくは、この男の仲間の。

……これはちょっと、やばい状況なのではないだろうか。

「悪いようにはしねぇよ。俺たちは会長に恨みがあるだけだからな」
それを聞いて、この人たちの正体に思い当たる。
会長が言っていた、この学園にあるという勢力図。生徒会派、日和見派、そしてこの人たちはおそらく、反生徒会派の人たちなのだろう。

「会長に、何の恨みがあるっていうんですか」

「あぁ? やりたい放題で調子に乗ってる“会長サマ”に苛つかねぇはずがねぇだろ。それともなんだ? お前、自分から喜んで『サポーター』やってんのか?」
「そしたらとんだ淫乱だなぁ。噂じゃ『サポーター』と生徒会役員は一緒に寝てるんだろ? 体のいいペットにさせられて可哀想に」

可哀想なのは、会長の方だと思う。会長自身は俺の誘いで手を出したことはあっても、自分から手を出してきたことはない。ましてや、むしろ暴走する自分を止めてくれた側だ。
それなのに、こんなくだらない噂で馬鹿にされて、悪者にされるなんて。

「……ちゃんと見てもないくせに」

会長は、実はまともなんだと思う。冷徹にも見えるけれど俺の意志を無視はしないし、人は信じないけどそれだって、こういうことに巻き込まれないためには必要なスキルだ。

「なんか言ったか? まぁいい。お前にはちょっと囚われのお姫様役をやってほしくてな。大人しく縛られて、会長を泣いて呼んでくれたらいいからさ。協力してくれる?」

疑問形のようで、多勢に無勢すぎてほぼ確認みたいなものだ。ここで抵抗をしたところで、いい結果には結びつかないだろう。そう理解しているのに、この人たちの言うことを聞きたくないと本能が叫ぶ。

「……誰が。誰が協力なんかするかよ!」

こんな姑息な手段を使わずに、俺みたいに真正面から天先輩にぶつかってみろ。
朝陽先輩や郁夜先輩みたいに、正攻法で生徒会の面々と戦ってみろ。

こんな卑怯者なんかに、好きにさせてたまるもんか。

殴り合いになったら負けるしかないけれど、逃げることならできる。俺だって会長のことを嫌いだろうと信じていた彼らは、俺が逃げ出すとは考えていなかったようだ。幸いにも、俺よりも扉側にいる人間はいない。

いける、逃げられる。

人を呼んで、目論見を潰してやろう。

手首を振り解いて扉に駆け出す。扉に手がかかって横にスライドしようとしたその時、背中に強い衝撃が走った。
「うあっ!?」
飛び道具の存在はさすがに考慮していなくて、バランスを崩して倒れ込む。起き上がろうとしたその時には、もう男たちに囲まれていた。

「演技にしてやろうと思ってたのに。本当に泣いて呼ぶことになるなぁ」
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