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しおりを挟む「天先輩っ!」
103教室の前には、既に天先輩がいた。その他にも友好な関係と思われる『サポーター』とその新旧生徒会役員が6組居て、まだ全員は集まっていなかった。
「秋弥。周りの反応はどうだった?」
「驚いてたけど、肯定的に受け止められてたって感じだと思います。朝陽先輩たちも、きっと天先輩には感謝してます。特に郁夜先輩は……。まぁ、3人には1カ月音信不通だったことについてはけっこうネチネチ言われちゃったんですけど」
「じゃあ、秋弥のお友達からはある程度好感度を持ってもらえたのかな。一番交際の邪魔をしてきそうなのはあの2人だしね」
「そんなこと……ないとは言い切れないですね。でも、俺が「天先輩とは好きで居るんです」ってのを主張したら大丈夫だとは思いますよ」
「主張してくれるんだ?」
「まぁ、場合によっては……」
周りにも人がいるというのに、甘めな雰囲気を出されて困る。あの部屋以外でもこんなに距離が近いことに、どぎまぎしてしまう自分がいた。
一通り自分をからかって満足したのか、ひとつ息をこぼしては天先輩が仕事の顔に戻る。
「さて。予想していた通り、無理やり契約してた者たちほど集まりが遅いね。迎えを送っているから来ないってことはないと思うけど。今来ている人たちには先に入っていてもらおうか。秋弥はどうする?」
「俺は……可能なら、兄ちゃんが来るまでここで待ってたい」
「ん、わかった」
天先輩の一声で、既に集まっていた者たちの『サポーター』だけが教室へと入る。
15分くらいが経過した頃だろうか。
ぽつぽつと教室から出てくる人たちを確認したその時、静まっていた廊下に怒号が響いた。
「おい天! 俺たちに何の断りもなく何してんだ!!」
「……やっと来たね」
声のする方から現れたのは、兄ちゃんと真先輩……そして、『サポーター』制度を悪用していることが見てとれるペアたちだった。
「ルールがないからこそおかしなことになっていた制度を、常識の範囲内でルール化しただけのことだよ。合意のない契約は違法なんて、どんなものでも大体そうでしょう?」
「だからって、生徒会会議くらいにはかけるべきだろ!!」
「違反している人間が内部にいるのに、有意義な会議ができるの? 俺が持ってきた内容より甘くなるだけで終わる未来しか見えないよ。一般生徒からの反感も出ていない現状、当事者である真の意見にほとんど意味はない」
怒鳴る真先輩は怖くて、怒りを向けられていない自分でも体が震える。なのに天先輩はうろたえることなく淡々と正論をぶつけていて、そんなところもかっこいいなと思った。
「外が騒がしいと思ったら勢ぞろいじゃーん。はいはい、元になるかもしれない保護者たちは隣の教室で待っててね。『サポーター』のみんなはこっち~」
この場に似つかわしくない声が響いて、『サポーター』と役員たちが離れ離れになる。この状況でこれだけ明るく振る舞える要先輩を見て、なるほど天先輩が信頼するのも納得がいくなと感じた。
兄の隣をキープしながら、教室へと入る。
兄の表情はまだ硬いままで、俺に対しても無反応だった。
「あら~、『サポーター』生活が板についちゃってる子たちばっかりだね。さっきの幸せそうな空気とは大違い。安心して、ここには監視の目は入らない。盗聴器も使えないように細工がされているから、ここでなら息をついていいよ。もちろん、君たちが嫌って言えばこれからも息つき放題だけどね」
そう要先輩が言うと、ようやく緊張の糸が切れる。ただ前だけを見つめていたみんなが顔を見合わし、ぼそぼそとしゃべる声も聞こえてきた。
それは兄も同じなようで。
「あき、や……?」
「そう。そうだよ兄ちゃん!!」
周りのことなんて気にせず、がばりと立ち上がって兄ちゃんにハグをした。
「やっと、やっとこの地獄から……良かった……」
こんなに弱り切った兄は初めてで、なんとか癒してあげたいと腕に力を込める。しんみりしていると、現実を思い出させるように明るい声が響いた。
「いや~~感動的だね! でも必要事項を記入するまでは君たちは『サポーター』のままだからね。ちゃっちゃか書いて、本当の意味で解放されちゃおう!」
そう言って、要先輩が1枚の紙を配る。ここに居る人たちを、救う紙を。
「会長も言ってたけど、君たちが本心を書くことで怖い思いをすることは決してない。責任をもって、会長や会長の信者たちが君たちのことを守るよ。だから、安心して今思っていることをそのまま書いて」
かりかりとシャープペンが走る音がする。
それに混ざって、すすり泣くような声も聞こえた。
「はーい、全員書けたね。どれどれ……うん。『サポーター』継続を希望しない人は、今この瞬間から自由! 急に1人の生活に戻るっていうのは不安かもしれないけど、もう好きに生活していいから。部屋とか補講とか、生活に戻るための諸々の手続きはここにまとめてあるから、気が向いた時にやってねん」
喜びを全面に出して叫ぶ人。静かに涙を流す人。
形は様々だけれど、ここに居るみんなが、会長の提案に救われていた。
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