君を変える愛

沙羅

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なんで、どうして。どうして僕がオメガになったんだ。理由がまったく分からない。そうだ、他の事例を調べてみたら原因がわかるかも……。そう思い、後天性オメガについて検索してみることにした。すると、気になる記事にヒットする。

周りに強いアルファが長い間居続けることによって、そのアルファのフェロモンの影響で、オメガ性が発現することがある……?

こうなること自体が稀だが、後天性オメガになった事例のほぼ全てがこのケースに当てはまるらしい。でも、僕の周りにアルファなんていないはずだ。
確かに涼という小学生からの親友ならいないこともないが……。 確かに彼は頭も良いし、運動神経も抜群だし、友達も多いし。アルファだと言われても疑わないような人物ではある。しかし、彼は自分でベータだと公言している。僕が「お前ほんとはアルファなんじゃねーの」って茶化したときだって「ありがと、でも僕は正真正銘のベータだよ。去年血液検査したばっかりだしね」って答えていた。

でも、それ以外に思い当たる節がない。
あまり友達のいない僕が長い時間を共に過ごしている人間なんて、家族か涼くらいしかいないのだ。

サイトを眺めていると、『ベータの友人が実はアルファでオメガにされました』という記事が目に入る。虚構にまみれたインターネットだ、そんなことが実際に起こるわけがない。釣りの可能性は十分にある。そう思いながらも、僕の手は思わずその記事をクリックしていた。

『みなさん、後天性オメガをご存知でしょうか。僕はそんなの都市伝説だと思っていました。でも、自分の身に起きたことでそれ実在する現象だと知ったのです。後天性オメガになる条件は、長い間アルファと一緒にいて、そしてアルファがベータに執着にも似た愛情を抱いた場合です。僕の親友であるAとは、小学校からの付き合いでした』

そこからは昔話が長々と続いており、読み飛ばしてしまった。しかし、その中にとても興味深いというか、恐ろしい一段落を見つけた。

『そして僕が初めての発情期を迎えた時、運悪くもAが隣にいました。彼は「大丈夫? 僕の家の方が近いし寄っていったほうがいい」と僕に言います。僕はAをベータだと信じていたし、Aは僕を騙すような奴ではないと思っていました。しかし、Aの家に着いた途端、Aは豹変しました。何を言われたかはっきりと覚えていませんが「やっとオメガになってくれたんだね。よかったぁ。僕ね、今すごく嬉しいんだよ。これで番になれる、僕たちは子供だって産めるんだから」みたいなことを言われ、そしてそのまま、いわゆる性行為へと発展しました。あなたも周りのアルファかもしれない人には注意してください』



そのあとの記事は怖くて、とても読めそうになかった。まだそうと決まったわけじゃない。涼が、アルファだと決まったわけじゃない。なのに、僕の身体はそれが真実だと本能的に知っているかのように、震えを止めることが出来なかった。

とにかく、早く確認をしなければ。携帯を取り出し、涼に電話をかける。涼はすぐに電話に気付いてくれた。

「ゆーちゃん? 珍しいね、電話なんて」
「もしもし。ちょっとお前に聞きたいことがあるんだけど」
「そうなの? 奇遇だなぁ。僕もゆーちゃんに聞きたいことがあったんだよね。そうだ、電話もなんだから今から家に来ない? 僕が聞きたいことって勉強関連だし、電話じゃ分かりづらいだろうから」

その言葉に少し考える。自分がオメガだと告げられ、あんな記事を読む前だったら喜んでついていっただろう。しかし今の涼は、僕をオメガにしたかもしれないという容疑がかかっている。それは分かってる。分かっているのだが……。

「わかった。あと10分後くらいに行くから」

僕はいつも通り、反射的にそう答えていた。自分がオメガだということを認めたわけではないが、最悪の場合に備えて医者からもらった発情期を抑える薬を飲んでおく。これで家を出ても大丈夫だろう。あとは、涼を問いただすだけだ。
そう、思っていた。その頃僕は知らなかったのだ。アルファのもつ人脈の広さも、涼が僕に抱いていた気持ちも。
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