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夢を追いかけて、「先生みたいな先生になる」という夢を追いかけ続けて、漸く僕はその入り口に立った。
その感謝と……ずっと胸に秘めてきた気持ちを伝えるために、今僕はここに居る。
やっと僕は、大人になれたから。
「先生、僕頑張りました。ずっと先生に伝えたいことがあって。だからここまで、頑張れました」
僕は今、スーツ姿で先生の過ごす学校に居る。
もう一度「先生」と呼ぶために。
今度は生徒じゃなく、教育実習生として。
「僕は先生のおかげで夢を見つけて、先生のおかげで曲がった性格からも抜け出せたんです。全部全部、僕が今ここにあるのは、6割以上が先生のおかげです。本当に、ありがとうございました」
深く頭を下げて一呼吸置いたあと、ここからが本番だと目配せをする。
大きく息を吸い込んで、本題へと入った。
「それから……ずっとずっと、先生が担任だった頃から、先生のことが好きでした。……今も、ずっと」
自分でも分かるほどに震える声。こんなことを言われれば先生は困ると分かっているから怖い。
けれど、止める気はなかった。5年以上冷めなかった気持ちを、もうこれ以上押し殺したくない。
「……知ってるよ」
先生の声が聞こえて顔を上げると、先生は笑っていた。
「やっと、言ってくれたな」
その自信満々な返事が先生らしすぎて笑えて、笑うと同時に、目の端から涙が零れた。
だって苦しかった。言わなかったのは自分だけれど、ずっと気持ちを押し殺すのは苦しかったんだ。
先生は、そんな僕の頭を撫でてくれた。
僕が泣き止むまで、ポンポンって優しく。
僕らは男同士で。二十歳以上の年の差がある上に、先生は既婚者で。
これ以上進めないのは、気持ちを伝えた後も変わらない。でも、それでいい。
先生は先生だから。ずっと僕の理想の、大人でいてほしいから。
「僕が結婚できなかったら、先生のせいですからね」
そんな捨て台詞を零して、一礼して空き教室を出ようとした。……その時だった。
「湊。俺も、好きだよ」
背中に感じた体温。大人の男の人の……初めて嗅いだ、先生の香り。ずるい、このタイミングで名前を呼ぶのもその行動も。全てが狡い。
抱き締められていると分かって、胸がぎゅっと痛んだ。離れたくない、離れたくない。
「何、してるんですか」
それでもその手を解いて、先生に向き直る。何か仕返しをしようとネクタイにそっと口付けて、今度こそ扉の向こうへと一歩踏み出した。
振られてないし振ってもいない。両片想いだと知りながら、僕の初恋は続いていく。
僕の夢の先に、ずっと先生の背中は見える。
人より少し、賢かった。
ーーならばそれを未来の大人たちへと投資しよう。
人より少し、両親の喧嘩が多い家庭だった。
ーーならばその痛みを知っている僕が、同じ苦しみを持つ子の助けになろう。
そう考えられるようになったのは、先生のおかげだから。
憧れは「好き」へ。「好き」は憧れへ。
自分に納得のいく未来が描けたそのあとに、天に昇ったそのあとに、自信満々の顔で、今度は「愛してる」を伝えに行くんだ。
現世で結ばれるのは無理だと、『いい子』の自分は知ってしまっているから。
その感謝と……ずっと胸に秘めてきた気持ちを伝えるために、今僕はここに居る。
やっと僕は、大人になれたから。
「先生、僕頑張りました。ずっと先生に伝えたいことがあって。だからここまで、頑張れました」
僕は今、スーツ姿で先生の過ごす学校に居る。
もう一度「先生」と呼ぶために。
今度は生徒じゃなく、教育実習生として。
「僕は先生のおかげで夢を見つけて、先生のおかげで曲がった性格からも抜け出せたんです。全部全部、僕が今ここにあるのは、6割以上が先生のおかげです。本当に、ありがとうございました」
深く頭を下げて一呼吸置いたあと、ここからが本番だと目配せをする。
大きく息を吸い込んで、本題へと入った。
「それから……ずっとずっと、先生が担任だった頃から、先生のことが好きでした。……今も、ずっと」
自分でも分かるほどに震える声。こんなことを言われれば先生は困ると分かっているから怖い。
けれど、止める気はなかった。5年以上冷めなかった気持ちを、もうこれ以上押し殺したくない。
「……知ってるよ」
先生の声が聞こえて顔を上げると、先生は笑っていた。
「やっと、言ってくれたな」
その自信満々な返事が先生らしすぎて笑えて、笑うと同時に、目の端から涙が零れた。
だって苦しかった。言わなかったのは自分だけれど、ずっと気持ちを押し殺すのは苦しかったんだ。
先生は、そんな僕の頭を撫でてくれた。
僕が泣き止むまで、ポンポンって優しく。
僕らは男同士で。二十歳以上の年の差がある上に、先生は既婚者で。
これ以上進めないのは、気持ちを伝えた後も変わらない。でも、それでいい。
先生は先生だから。ずっと僕の理想の、大人でいてほしいから。
「僕が結婚できなかったら、先生のせいですからね」
そんな捨て台詞を零して、一礼して空き教室を出ようとした。……その時だった。
「湊。俺も、好きだよ」
背中に感じた体温。大人の男の人の……初めて嗅いだ、先生の香り。ずるい、このタイミングで名前を呼ぶのもその行動も。全てが狡い。
抱き締められていると分かって、胸がぎゅっと痛んだ。離れたくない、離れたくない。
「何、してるんですか」
それでもその手を解いて、先生に向き直る。何か仕返しをしようとネクタイにそっと口付けて、今度こそ扉の向こうへと一歩踏み出した。
振られてないし振ってもいない。両片想いだと知りながら、僕の初恋は続いていく。
僕の夢の先に、ずっと先生の背中は見える。
人より少し、賢かった。
ーーならばそれを未来の大人たちへと投資しよう。
人より少し、両親の喧嘩が多い家庭だった。
ーーならばその痛みを知っている僕が、同じ苦しみを持つ子の助けになろう。
そう考えられるようになったのは、先生のおかげだから。
憧れは「好き」へ。「好き」は憧れへ。
自分に納得のいく未来が描けたそのあとに、天に昇ったそのあとに、自信満々の顔で、今度は「愛してる」を伝えに行くんだ。
現世で結ばれるのは無理だと、『いい子』の自分は知ってしまっているから。
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