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四人目、隻眼の夏候仁。
辺境の地に転入生
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夏の朝方、二人の男達が岩山の山頂にいた。
遠い西の空に、太陽の様な神々しい光が、膨張しゆっくりと登り、二度目の朝日を見た時、彼はまた悲しみ、苦しんでいた。
この物語はそんな彼、夏侯 仁が生きると、言い続ける物語。
西暦2518年、この星は死にかけていた。
以前の様な高度な文明は、一部の大都市の一部人達が独占していた。殆どの人達は自給自足の生活で細々と暮らしていた。
何百年前の大地震による地殻変動なのか、温暖化の海面上昇、人口増加に伴う食料難、もう何が原因か、今の彼らは知らない、度重なる戦争、内戦にこの星と人々は疲れきっていた。
そしてこの物語の主人公は、そんな星の片隅で何をしているのか。
旅をしていた。
いや、正確には歩いていた。
ただひたすらに歩いていた。
考えながら歩き、苦しみながら歩き、何が出来るかと、見渡しながら歩き、もうこのまま歩き続けるのかと恐れながら歩き、歩く事しか今の彼には出来なかった。
だが一年前、徐福という髭もじゃの怪僧に出会った。従者として、病に苦しむ村々を次々と救う手伝いをしていた。
その噂は広がりつつあった。今も次の病に苦しむ村に行く途中であった。
だが、夏候仁に笑顔はなく、日に日に無口になっていった。まだ彼はただ、今も歩いているだけだった。
夜。まだ次の村に着かない。大きな幹の元で野宿、僅かな食料で食事を済ませ、焚き火の横で夏候仁は眠り、
またあの夢を見てしまう。
「またここだ」
ザっと歩く度に、白い砂が草鞋と足の間に入ってくる。辺りは白い砂が広がり、空は黒く、地平線までその二色が続いてる。
夏候仁の目にはまたこの風景。
「月が青い。」
正確には、青色に白い模様が犇めき、少しずつ動いている。普段の満月より、遥かに大きく、夏候仁の片方だけの瞳は、その青い月に満たされた。
片方だけの瞳。彼は視力があるのは左目だけ、右目は眼帯をしている。彼の体には傷が無数あり、顔には左の額から右首筋まで、大きな傷が続いている、なのでいつもマントを羽織り、フードを被ってい
る。
ザっと誰かの足音、振り返る。そしていつも夢はここで覚めてしまう。
「仁、仁、起きろ。出発だ。」怪僧の徐福が荒々しく起こした。
夏候仁は黙ったまま、起き支度をした。
「今日は村に着くぞ。じゃなきゃもう食い物がないぞ。」
夏候仁は黙ったまま、考えていた。
(いつからあの夢を見出したんだろう。)
とある村。
「先生、先生。」少女が呼び止める
「ミッチャンどうしたの。」
と振り向く先生と呼ばれる女性。黒い髪に色白な肌、紺色のスカートが清潔さを感じさせる。歳は二十代前半ぐらい。
「あのね、あのね、お母さんがお母さんが」
泣き崩れ少女。
「大丈夫だよ、大丈夫きっと」
先生は座りこんだ少女の肩に手を回し励まそうとしたが
「嘘つき」
少女が叫んだ、そしてまた泣き崩れ出した。
「だってあの小屋に入ったんだよ、もう帰ってこないよ。もう会っちゃいけないんだよ」
泣き止んだ少女がぽつりと
「もうお母さんに会えないんだよ」
小さな村の真ん中。
誰もがこのミッチャンという少女を知っている。
赤ん坊の時から知っている。
勿論、お母さんも知っている。
母親がもう生きて帰ってこない事も知っている。
もうこの村では誰かが泣き叫ぶのは、よく見る当たり前の風景となった。
見てみぬ振りをしている村人。村人の家族も、ミッチャンの母親と同様、発病し、村の隅にある小屋に隔離されていた。
誰もが、泣き叫んでもどうにもならない事も、誰も助けてくれない事。励ましの言葉が無意味な事を知っていた。
屈む先生。少女と向き合い、目線を少女に合わせ、「ミッチャン、お母さんに会いに行こ。」
「えっ」驚く少女。
「それ駄目なんじゃ」逆に先生を止めようする少女。そして、心配はしていたが見てみぬ振りをしていた村の長老が近づいて来た。
「先生また何を言いなさる」
何人かの村人も集まりだした。
「その子に病がうつったらどうなさる」
「どこまで離れていれば、うつらないんですか」
先生も長老も皆、同じ悲しい目をしていた。
「ごめんなさい」
慌てて先生は長老に謝罪した。
誰もが病に関して、何もわからない事を誰もが知っていた。なぜ発病し、人に感染するのか、どうしたら治るのか、わからないまま病と戦っていた。
「でもせめて声だけでも、ミッチャンのお母さんに届けたいんです。どこからです?どの辺なら話しかけていいですか?何なら私がミッチャンの代わりに叫びます。声が届くまで」
明らかに困った顔の長老、何か言いかけようとした時。
「オレもオレも、父ちゃんと話をしたい」
「私もお姉ちゃんに話しかけたい」
集まって来ていた他の子供達。
「私も旦那と話がしたいよ」と、大人達までが小屋に隔離されていた肉親と話がしたいと言い出してきた。
皆、長老に嘆願している。腹を括った長老。
「今日だけ、今日だけだぞ。小屋の外から話しかけるだけだぞ。名前を言って話しかけるだけだ。よいな。」
皆、小屋の前に並び待機していた。
長老と先生が看護婦に今日の主旨を説明した。
何十にもマスクをした看護婦が
「患者さんの病状に、影響や負担があるかも知れないので三人まででお願いがします。」
看護婦がミッチャンの母親の所に行った。
小屋の中は患者で溢れんばかりだ。
母親は発病したばかりで、他の患者に比べると比較的顔色は良い方だった。
たがたまに酷く咳き込み、吐血を繰り返していた。何より、自分も発病してしまった動揺が隠しきれていない。
看護婦が「李さん、どうです?」
と尋ねても、顔を振り向き頷くだけだった。
「李さん、ちょっと歩けます?壁際までちょっと頑張って歩きません?」
母親は言われるがまま、壁際まで歩いた。
看護婦がちょっと大きめの声で
「お願いがします。」
母親はどうしたのか、という顔で看護婦を見た。
看護婦は口に手を当て、静かにのポーズをした、
「お母さん、お母さんわかる、ミツだよ。」
驚く母親「ミツだ。ミツの声」
「お母さん元気ですか」泣きそうな少女をの肩に手を置き先生が励ました。
「頑張ってミッチャン。」
「今日もうお母さんに会っちゃダメって言われて寂しかったです。」
「でもお母さんに頑張って病気、治してほしいから、ミツも頑張ります。」
言い終えた途端に少女から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「偉いよミッチャン。お母さんにとどいたよ。」先生も泣きながらミツを励ました。
その場にいた村人達も皆、泣いていた。
小屋の中でも皆、泣いていた。
あたかも自分に言われたと思い泣く人、自分の家族を思いだし泣く人。
ミツの母親も大粒の涙を流していた
「ゴメンね、ゴメンね、ミツごめんね」
咳き込みながら「必ず治すからね。」
看護婦も泣いていたが、
「李さん治しましょうね。もうお布団に」
母親が看護婦の腕を掴み、
「お願いがです。お願いがです。ミツに頑張るからと、治すから伝えてください。」
「はい、もちろん。」
ミツの母親に患者達が集まって来た。
励ます人、喜びを分かち合う人、
「看護婦さん。」と看護婦に患者が詰め寄った。
外ではまたミツが泣いていた。
「お母さんにミツの声、聞こえたかな。」
先生は屈みこみ、ミツと向き合い笑顔で
「もちろん。きっと聞こえたよ。」
周りは次は誰が言うか、ざわついていた。
バン。激しく小屋の戸が開いた。
看護婦が慌てて、大声で叫んだ。
「全員で、全員で 全員の家族に声を掛けて下さい。患者さん皆さんが希望しています。」
そして看護婦は皆の所に駆け寄ってきた。ミツの真正面に屈みこみ、両手でミツの肩を掴み、「お母さんにちゃんと届いたよ。お母さん病気、治すからねって頑張るからねって。ミッチャンも頑張ろうね。」
看護婦は泣きながら、母親の様子を伝えた。
看護婦の張さん。張ルイさん。
久々に彼女の涙を、そして本当の笑顔を見た。この村で医療知識が有るのはもう彼女しかいなかった。彼女も一人で病と戦っていたのだ、それだけにミツの言葉が患者以上に響いたのかもしれない。
久々に村に笑顔があった。
その中心で、先生もよく笑っていた。
そんな先生を、久々に穏やかな表情で見つめる男がいた。
夏候仁だった。
徐福と夏候仁はもう村に着いていた。
夏候仁にとっても、今の出来事で心に暖かい感情が伝わっていた。
だが一瞬でいつもの暗い表情に戻った。
いや、心に伝わって来た分、いつもより悲痛の表情になっていた。
たが村人達は違った。
二人を見つけると更に、さらに歓喜した。
「あの噂の坊さまでねーか。」
「やっと来てくださった。」
「この村も救われる。」
あっという間に二人の周りは人集りとなった。
村長が「ワシの家で旅の疲れをとりなされ。」「皆、宴会の準備を。」
村人に促されながら、二人は村長宅へ歩き始めた。
そして、夏候仁にいつものイベントが始まった。
村人「和尚さま、お荷物持ちます。」
「ありがとう助かるわ。」待ってたとばかりすぐ渡す徐福。
村人「お連れの方も」
「俺は大丈夫だ。」と下を向きながら歩く夏候仁。
「いや、いや、持たせて下さい。長旅お疲れでしょう。」
村人は半ば無理やり、夏候仁の荷物を担ごうとしだが、あまりの重さに前の目に転けてしまった。慌てて、数人の村人で夏候仁の荷物を運んだ。
いつも通りの展開だった。
次はコート。
女性の村人が「暑くないですか?コート預かりますよ。」
「いや、大丈夫。」夏候仁は女性の方を見ずに返答し、歩き続けた。
先ほどからの夏候仁の態度に、少しイラつく村人が出だした。
「フードの取ったらハゲがバレるんだよ。」
「もう、そんな事言わないの。」女性はからかう男性に注意し、再度、夏候仁に話しかけた。
「ホントに暑くないですか?コート持ちましょうか?遠慮しないでくださいね。」
今度は食いぎみ「大丈夫だといってるだろ。」
流石に村人達の空気が変わった。
これもいつもの事。
若い村人が一言。正論を夏候仁に叩きつけた。
「確かに俺等はあんたらにお願いをした身だ。だがヨッチャンの親切に対して、その態度は酷くないか、それと顔ぐらい見せて挨拶ぐらいはしてくれてもいいんでないか。」
夏候仁は動かなかった。
いつでもどこでもこうなってしまう。
そしていつも、徐福が助け舟を出してくれていた「こいつは変人」とか「心の治療中」だとか言って、だがこの村ではちょっと違った、ほんのちょっと、ほんの一言が聞こえた。あの人の。
「ヨッチャン悪くないよ。優しいよ。でも人には色々あるから色んな生き方あるし、いきなりこんな人数に囲まれたら緊張する人もいるし。」と先生が双方にフォローしてる最中。
夏候仁はたったこれだけ言葉でふと思ってしまった。
(さっきの『先生』か、優しそうな顔だったな。優しそうな声だし、もしかしたら、この人なら俺を受け入れてくれるだろうか。)
そして、次の瞬間、現実に戻された。
突然、子供の目が合ってしまった。
男の子がしゃがんで、下を向いていたフード内の夏候仁の顔を見ていたのだ。
夏候仁は何もしていない。ただ見つめているだけ、でも子供は、怯えた様子で父親の元に走り帰った。
子供は父親の足にしがみついてる。
父親が子供に心配そうに、
「どうした?なんかあったかぁ。どうしたんだ。」
子供は何も言わずただ父親の足にしがみついてる。
さらに村人の視線が夏候仁に集まった。
誰かが「子供に何したぁあ」
「子供になんて言った。」
村人達が騒ぎ始めた。
夏候仁は思った
(いつもと同じ、あの人もこの顔を見ればあの子供と同じ怯えてしまう。)
夏候仁は固まっていた。
絶望に固まっていた、この体のせいで、どこに行っても、悲しみの雨は降り、苦しみの鎖に縛られ、誰も見てくれない、誰も聞いてくれない。誰も助けてくれないから。だから人に信じない、人に絶望で固められたから、人から絶望しか感じない。人が嫌いだと言い続けていた。
だから固めた筈なのに、先生のあんな一言で、淡い期待をした自分が許せなかった。
いつもの村に着いたら、必ず起こるイベント。
夏候仁の素顔は。
いつもは何があろうと見せようとはしなかったが、今日は何かが違っていたのか。
先生の影響なのか、いやもう、夏候仁自身が限界だったのか。
ちょっと違った。いつも、ひたすら黙り込むのだが、今日は顔を上げ、村人達に言葉を放った。
「俺は何もしていない。」
騒いでいた、村人達が静まった。
「俺は寒がりなだけなんだ。」
と言って村人の方向き、
マントを脱ぎ捨てた。
バッサとマントが地面に落ちた音がやけに響いた 、と感じてるのは夏候仁だけだったかもしれない。
この数秒、夏候仁の頭の中では、後悔と恐怖。過去の悲しい記憶、またいずれ来るであろう悲しい目線、酷い差別、当たり前の裏切り。
だが今は咄嗟に素直な気持ちを言葉にした。
「失礼な言動を取ってすいませんでした。」深々と頭を下げた。
そして頭を上げた夏候仁。
村人の真ん中に立っている。辺りを見渡した。久々に人の顔を直視した。久々に色んな人と目があった。
村人は夏候仁の容姿に驚いた。
銀色の無駄に艶のある背中まで伸びる髪。
右側の顔面を覆い隠す、黒い革製の眼帯。
左の額から右の下腹部まで、続く大きな傷。
他にも無数の傷が全身あり、長身の筋肉質の体型が相まって恐ろしくも見えた。
上半身は裸で、左胸だけの胸当てを装備し、両手首にリストバンド。厚手の短パンを履き、すね当てに旅用の草履だった。
顔の傷、身体中の傷、髪の長さに驚く人もいた。
皆、(この傷を隠していたのか)と思い始めていた。
だが村人の誰が気付いた。本当に隠していたモノ。
角だった。
「こいつ、鬼でねか!」
「ホントだ角がある。」
「こんな大きな鬼は聞いたことはねえ」
「不吉だ。不吉がやって来た。」
銀色に輝く髪から生える角はよく目立った。
村人達は一斉に後ろに下がった。
村人の円に、取り残されたのは、
夏候仁と徐福。
そしてもう一人。
先生だった。
夏候仁と先生。初めて目が合った。
夏候仁は戸惑っていた。先生の大きな瞳、白い透きとうた白い肌、こんな綺麗な人と対峙したのは初めてだったような気がしていた。そしてその人は自分の姿を見て動じていなかった。
そして夏候仁はさらにドキドキした。
先生が近づいて来たからだ。
先生は夏候仁の顔をじっと見て、
「あ、やっぱり汗かいてる。」
「マント暑かったでしょ。」
夏候仁は更に汗をかいてしまった。
「皆さん、待たれい。」
いきなり徐福が叫びだした。
「確かにこの者は鬼じゃ。だがワシは鬼じゃない、人間、そして坊主じゃ。」
「坊主に法力がある。その証拠にワシはこの鬼と旅ができておる。ワシの法力でコヤツの邪気を浄化し続けておるからじゃ。」
「邪気ある者も浄化し、救うのも仏の道、安心せい。この村はワシの法力をもって病から救いだして見せるゾ。」
「おおおぉ」と村人の歓声が上がった。
村人達が笑顔になった。
「宴会じゃぁ。」と村長がまた叫び、徐福と村長を先頭に村人達の列は動き出した。
いつも、村々で起こる「夏候仁の素顔は?」いつもより早く素顔がバレたが、いつも通り、徐福の演説で誤魔化せた。
あと一ついつもと違うのは、いつもは列の後で一人、黙々と歩く夏候仁だったが、今日は、先生と話をしながら列の後を歩いていた。
先生と何を話したか、ほとんど覚えていなかった。女性だから緊張したのは当たり前だが、初対面の人とこんなに話すのは久々だった。
村長の家に着く頃、少し人に慣れたのか、夏候仁から初めて質問した。
「先生はこの村の医者なんですか。」
先生は微笑んだ。
「違います。国語の教師です。」
「国語?」夏候仁が理解してないのを悟り、「学校の先生です。」と分かりやすく言い換えた。
「学校の先生、だから皆から先生って。」
夏候仁なりに、なんで先生って呼ばれるか分かり、ちょっと微笑んだ。
微笑んだ夏候仁を見て、
「あ、笑ったぁ。こう見えても教師なんです。新米ですが皆から先生って呼ばれます。」
先生は続けて「こんな小さな村なんで、教師は私一人。生徒も十二人なんです。」
先生は、何かを閃いた様で嬉しそうに夏候仁に提案した。
「今度、学校に遊びに来てください。さっき聞いた諸国の話を子供達にきかせたいんで。」
慌てる夏候仁。断る理由を懸命に探した。
「いや、俺なんかの話を聞いても、いやどんな風に話していいか、わからない。そもそも俺は学校行った事無いし。」
夏候仁の「学校行った事無いし。」
この言葉で、先生は更に、閃いたという顔をした。
「じゃ。授業受けます?」
「時間が空いてる時間でもいいんで。」
「あ、お名前聞くの忘れてました。」
夏候仁は迷った。
「お名前は。」
夏候仁は覚悟した。
「夏候仁です。」
「夏候君かぁ」
「あ、この村に転入生て初めてだ。」
先生はとても嬉しそうだった。
その先生の笑顔を見ながら夏候仁は言い聞かせていた。
(先生が笑っているのは、俺と話してるからじゃない、村の病が治る思ってるからだ)
先ほど殺した淡い期待、何度も殺しても沸き上がってくる。
そんな久々に嬉しい気持ちになった夏の夕暮れ。
だか夏候仁はまだ、村の砂利道をただ歩く事しか出来なかった。
遠い西の空に、太陽の様な神々しい光が、膨張しゆっくりと登り、二度目の朝日を見た時、彼はまた悲しみ、苦しんでいた。
この物語はそんな彼、夏侯 仁が生きると、言い続ける物語。
西暦2518年、この星は死にかけていた。
以前の様な高度な文明は、一部の大都市の一部人達が独占していた。殆どの人達は自給自足の生活で細々と暮らしていた。
何百年前の大地震による地殻変動なのか、温暖化の海面上昇、人口増加に伴う食料難、もう何が原因か、今の彼らは知らない、度重なる戦争、内戦にこの星と人々は疲れきっていた。
そしてこの物語の主人公は、そんな星の片隅で何をしているのか。
旅をしていた。
いや、正確には歩いていた。
ただひたすらに歩いていた。
考えながら歩き、苦しみながら歩き、何が出来るかと、見渡しながら歩き、もうこのまま歩き続けるのかと恐れながら歩き、歩く事しか今の彼には出来なかった。
だが一年前、徐福という髭もじゃの怪僧に出会った。従者として、病に苦しむ村々を次々と救う手伝いをしていた。
その噂は広がりつつあった。今も次の病に苦しむ村に行く途中であった。
だが、夏候仁に笑顔はなく、日に日に無口になっていった。まだ彼はただ、今も歩いているだけだった。
夜。まだ次の村に着かない。大きな幹の元で野宿、僅かな食料で食事を済ませ、焚き火の横で夏候仁は眠り、
またあの夢を見てしまう。
「またここだ」
ザっと歩く度に、白い砂が草鞋と足の間に入ってくる。辺りは白い砂が広がり、空は黒く、地平線までその二色が続いてる。
夏候仁の目にはまたこの風景。
「月が青い。」
正確には、青色に白い模様が犇めき、少しずつ動いている。普段の満月より、遥かに大きく、夏候仁の片方だけの瞳は、その青い月に満たされた。
片方だけの瞳。彼は視力があるのは左目だけ、右目は眼帯をしている。彼の体には傷が無数あり、顔には左の額から右首筋まで、大きな傷が続いている、なのでいつもマントを羽織り、フードを被ってい
る。
ザっと誰かの足音、振り返る。そしていつも夢はここで覚めてしまう。
「仁、仁、起きろ。出発だ。」怪僧の徐福が荒々しく起こした。
夏候仁は黙ったまま、起き支度をした。
「今日は村に着くぞ。じゃなきゃもう食い物がないぞ。」
夏候仁は黙ったまま、考えていた。
(いつからあの夢を見出したんだろう。)
とある村。
「先生、先生。」少女が呼び止める
「ミッチャンどうしたの。」
と振り向く先生と呼ばれる女性。黒い髪に色白な肌、紺色のスカートが清潔さを感じさせる。歳は二十代前半ぐらい。
「あのね、あのね、お母さんがお母さんが」
泣き崩れ少女。
「大丈夫だよ、大丈夫きっと」
先生は座りこんだ少女の肩に手を回し励まそうとしたが
「嘘つき」
少女が叫んだ、そしてまた泣き崩れ出した。
「だってあの小屋に入ったんだよ、もう帰ってこないよ。もう会っちゃいけないんだよ」
泣き止んだ少女がぽつりと
「もうお母さんに会えないんだよ」
小さな村の真ん中。
誰もがこのミッチャンという少女を知っている。
赤ん坊の時から知っている。
勿論、お母さんも知っている。
母親がもう生きて帰ってこない事も知っている。
もうこの村では誰かが泣き叫ぶのは、よく見る当たり前の風景となった。
見てみぬ振りをしている村人。村人の家族も、ミッチャンの母親と同様、発病し、村の隅にある小屋に隔離されていた。
誰もが、泣き叫んでもどうにもならない事も、誰も助けてくれない事。励ましの言葉が無意味な事を知っていた。
屈む先生。少女と向き合い、目線を少女に合わせ、「ミッチャン、お母さんに会いに行こ。」
「えっ」驚く少女。
「それ駄目なんじゃ」逆に先生を止めようする少女。そして、心配はしていたが見てみぬ振りをしていた村の長老が近づいて来た。
「先生また何を言いなさる」
何人かの村人も集まりだした。
「その子に病がうつったらどうなさる」
「どこまで離れていれば、うつらないんですか」
先生も長老も皆、同じ悲しい目をしていた。
「ごめんなさい」
慌てて先生は長老に謝罪した。
誰もが病に関して、何もわからない事を誰もが知っていた。なぜ発病し、人に感染するのか、どうしたら治るのか、わからないまま病と戦っていた。
「でもせめて声だけでも、ミッチャンのお母さんに届けたいんです。どこからです?どの辺なら話しかけていいですか?何なら私がミッチャンの代わりに叫びます。声が届くまで」
明らかに困った顔の長老、何か言いかけようとした時。
「オレもオレも、父ちゃんと話をしたい」
「私もお姉ちゃんに話しかけたい」
集まって来ていた他の子供達。
「私も旦那と話がしたいよ」と、大人達までが小屋に隔離されていた肉親と話がしたいと言い出してきた。
皆、長老に嘆願している。腹を括った長老。
「今日だけ、今日だけだぞ。小屋の外から話しかけるだけだぞ。名前を言って話しかけるだけだ。よいな。」
皆、小屋の前に並び待機していた。
長老と先生が看護婦に今日の主旨を説明した。
何十にもマスクをした看護婦が
「患者さんの病状に、影響や負担があるかも知れないので三人まででお願いがします。」
看護婦がミッチャンの母親の所に行った。
小屋の中は患者で溢れんばかりだ。
母親は発病したばかりで、他の患者に比べると比較的顔色は良い方だった。
たがたまに酷く咳き込み、吐血を繰り返していた。何より、自分も発病してしまった動揺が隠しきれていない。
看護婦が「李さん、どうです?」
と尋ねても、顔を振り向き頷くだけだった。
「李さん、ちょっと歩けます?壁際までちょっと頑張って歩きません?」
母親は言われるがまま、壁際まで歩いた。
看護婦がちょっと大きめの声で
「お願いがします。」
母親はどうしたのか、という顔で看護婦を見た。
看護婦は口に手を当て、静かにのポーズをした、
「お母さん、お母さんわかる、ミツだよ。」
驚く母親「ミツだ。ミツの声」
「お母さん元気ですか」泣きそうな少女をの肩に手を置き先生が励ました。
「頑張ってミッチャン。」
「今日もうお母さんに会っちゃダメって言われて寂しかったです。」
「でもお母さんに頑張って病気、治してほしいから、ミツも頑張ります。」
言い終えた途端に少女から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「偉いよミッチャン。お母さんにとどいたよ。」先生も泣きながらミツを励ました。
その場にいた村人達も皆、泣いていた。
小屋の中でも皆、泣いていた。
あたかも自分に言われたと思い泣く人、自分の家族を思いだし泣く人。
ミツの母親も大粒の涙を流していた
「ゴメンね、ゴメンね、ミツごめんね」
咳き込みながら「必ず治すからね。」
看護婦も泣いていたが、
「李さん治しましょうね。もうお布団に」
母親が看護婦の腕を掴み、
「お願いがです。お願いがです。ミツに頑張るからと、治すから伝えてください。」
「はい、もちろん。」
ミツの母親に患者達が集まって来た。
励ます人、喜びを分かち合う人、
「看護婦さん。」と看護婦に患者が詰め寄った。
外ではまたミツが泣いていた。
「お母さんにミツの声、聞こえたかな。」
先生は屈みこみ、ミツと向き合い笑顔で
「もちろん。きっと聞こえたよ。」
周りは次は誰が言うか、ざわついていた。
バン。激しく小屋の戸が開いた。
看護婦が慌てて、大声で叫んだ。
「全員で、全員で 全員の家族に声を掛けて下さい。患者さん皆さんが希望しています。」
そして看護婦は皆の所に駆け寄ってきた。ミツの真正面に屈みこみ、両手でミツの肩を掴み、「お母さんにちゃんと届いたよ。お母さん病気、治すからねって頑張るからねって。ミッチャンも頑張ろうね。」
看護婦は泣きながら、母親の様子を伝えた。
看護婦の張さん。張ルイさん。
久々に彼女の涙を、そして本当の笑顔を見た。この村で医療知識が有るのはもう彼女しかいなかった。彼女も一人で病と戦っていたのだ、それだけにミツの言葉が患者以上に響いたのかもしれない。
久々に村に笑顔があった。
その中心で、先生もよく笑っていた。
そんな先生を、久々に穏やかな表情で見つめる男がいた。
夏候仁だった。
徐福と夏候仁はもう村に着いていた。
夏候仁にとっても、今の出来事で心に暖かい感情が伝わっていた。
だが一瞬でいつもの暗い表情に戻った。
いや、心に伝わって来た分、いつもより悲痛の表情になっていた。
たが村人達は違った。
二人を見つけると更に、さらに歓喜した。
「あの噂の坊さまでねーか。」
「やっと来てくださった。」
「この村も救われる。」
あっという間に二人の周りは人集りとなった。
村長が「ワシの家で旅の疲れをとりなされ。」「皆、宴会の準備を。」
村人に促されながら、二人は村長宅へ歩き始めた。
そして、夏候仁にいつものイベントが始まった。
村人「和尚さま、お荷物持ちます。」
「ありがとう助かるわ。」待ってたとばかりすぐ渡す徐福。
村人「お連れの方も」
「俺は大丈夫だ。」と下を向きながら歩く夏候仁。
「いや、いや、持たせて下さい。長旅お疲れでしょう。」
村人は半ば無理やり、夏候仁の荷物を担ごうとしだが、あまりの重さに前の目に転けてしまった。慌てて、数人の村人で夏候仁の荷物を運んだ。
いつも通りの展開だった。
次はコート。
女性の村人が「暑くないですか?コート預かりますよ。」
「いや、大丈夫。」夏候仁は女性の方を見ずに返答し、歩き続けた。
先ほどからの夏候仁の態度に、少しイラつく村人が出だした。
「フードの取ったらハゲがバレるんだよ。」
「もう、そんな事言わないの。」女性はからかう男性に注意し、再度、夏候仁に話しかけた。
「ホントに暑くないですか?コート持ちましょうか?遠慮しないでくださいね。」
今度は食いぎみ「大丈夫だといってるだろ。」
流石に村人達の空気が変わった。
これもいつもの事。
若い村人が一言。正論を夏候仁に叩きつけた。
「確かに俺等はあんたらにお願いをした身だ。だがヨッチャンの親切に対して、その態度は酷くないか、それと顔ぐらい見せて挨拶ぐらいはしてくれてもいいんでないか。」
夏候仁は動かなかった。
いつでもどこでもこうなってしまう。
そしていつも、徐福が助け舟を出してくれていた「こいつは変人」とか「心の治療中」だとか言って、だがこの村ではちょっと違った、ほんのちょっと、ほんの一言が聞こえた。あの人の。
「ヨッチャン悪くないよ。優しいよ。でも人には色々あるから色んな生き方あるし、いきなりこんな人数に囲まれたら緊張する人もいるし。」と先生が双方にフォローしてる最中。
夏候仁はたったこれだけ言葉でふと思ってしまった。
(さっきの『先生』か、優しそうな顔だったな。優しそうな声だし、もしかしたら、この人なら俺を受け入れてくれるだろうか。)
そして、次の瞬間、現実に戻された。
突然、子供の目が合ってしまった。
男の子がしゃがんで、下を向いていたフード内の夏候仁の顔を見ていたのだ。
夏候仁は何もしていない。ただ見つめているだけ、でも子供は、怯えた様子で父親の元に走り帰った。
子供は父親の足にしがみついてる。
父親が子供に心配そうに、
「どうした?なんかあったかぁ。どうしたんだ。」
子供は何も言わずただ父親の足にしがみついてる。
さらに村人の視線が夏候仁に集まった。
誰かが「子供に何したぁあ」
「子供になんて言った。」
村人達が騒ぎ始めた。
夏候仁は思った
(いつもと同じ、あの人もこの顔を見ればあの子供と同じ怯えてしまう。)
夏候仁は固まっていた。
絶望に固まっていた、この体のせいで、どこに行っても、悲しみの雨は降り、苦しみの鎖に縛られ、誰も見てくれない、誰も聞いてくれない。誰も助けてくれないから。だから人に信じない、人に絶望で固められたから、人から絶望しか感じない。人が嫌いだと言い続けていた。
だから固めた筈なのに、先生のあんな一言で、淡い期待をした自分が許せなかった。
いつもの村に着いたら、必ず起こるイベント。
夏候仁の素顔は。
いつもは何があろうと見せようとはしなかったが、今日は何かが違っていたのか。
先生の影響なのか、いやもう、夏候仁自身が限界だったのか。
ちょっと違った。いつも、ひたすら黙り込むのだが、今日は顔を上げ、村人達に言葉を放った。
「俺は何もしていない。」
騒いでいた、村人達が静まった。
「俺は寒がりなだけなんだ。」
と言って村人の方向き、
マントを脱ぎ捨てた。
バッサとマントが地面に落ちた音がやけに響いた 、と感じてるのは夏候仁だけだったかもしれない。
この数秒、夏候仁の頭の中では、後悔と恐怖。過去の悲しい記憶、またいずれ来るであろう悲しい目線、酷い差別、当たり前の裏切り。
だが今は咄嗟に素直な気持ちを言葉にした。
「失礼な言動を取ってすいませんでした。」深々と頭を下げた。
そして頭を上げた夏候仁。
村人の真ん中に立っている。辺りを見渡した。久々に人の顔を直視した。久々に色んな人と目があった。
村人は夏候仁の容姿に驚いた。
銀色の無駄に艶のある背中まで伸びる髪。
右側の顔面を覆い隠す、黒い革製の眼帯。
左の額から右の下腹部まで、続く大きな傷。
他にも無数の傷が全身あり、長身の筋肉質の体型が相まって恐ろしくも見えた。
上半身は裸で、左胸だけの胸当てを装備し、両手首にリストバンド。厚手の短パンを履き、すね当てに旅用の草履だった。
顔の傷、身体中の傷、髪の長さに驚く人もいた。
皆、(この傷を隠していたのか)と思い始めていた。
だが村人の誰が気付いた。本当に隠していたモノ。
角だった。
「こいつ、鬼でねか!」
「ホントだ角がある。」
「こんな大きな鬼は聞いたことはねえ」
「不吉だ。不吉がやって来た。」
銀色に輝く髪から生える角はよく目立った。
村人達は一斉に後ろに下がった。
村人の円に、取り残されたのは、
夏候仁と徐福。
そしてもう一人。
先生だった。
夏候仁と先生。初めて目が合った。
夏候仁は戸惑っていた。先生の大きな瞳、白い透きとうた白い肌、こんな綺麗な人と対峙したのは初めてだったような気がしていた。そしてその人は自分の姿を見て動じていなかった。
そして夏候仁はさらにドキドキした。
先生が近づいて来たからだ。
先生は夏候仁の顔をじっと見て、
「あ、やっぱり汗かいてる。」
「マント暑かったでしょ。」
夏候仁は更に汗をかいてしまった。
「皆さん、待たれい。」
いきなり徐福が叫びだした。
「確かにこの者は鬼じゃ。だがワシは鬼じゃない、人間、そして坊主じゃ。」
「坊主に法力がある。その証拠にワシはこの鬼と旅ができておる。ワシの法力でコヤツの邪気を浄化し続けておるからじゃ。」
「邪気ある者も浄化し、救うのも仏の道、安心せい。この村はワシの法力をもって病から救いだして見せるゾ。」
「おおおぉ」と村人の歓声が上がった。
村人達が笑顔になった。
「宴会じゃぁ。」と村長がまた叫び、徐福と村長を先頭に村人達の列は動き出した。
いつも、村々で起こる「夏候仁の素顔は?」いつもより早く素顔がバレたが、いつも通り、徐福の演説で誤魔化せた。
あと一ついつもと違うのは、いつもは列の後で一人、黙々と歩く夏候仁だったが、今日は、先生と話をしながら列の後を歩いていた。
先生と何を話したか、ほとんど覚えていなかった。女性だから緊張したのは当たり前だが、初対面の人とこんなに話すのは久々だった。
村長の家に着く頃、少し人に慣れたのか、夏候仁から初めて質問した。
「先生はこの村の医者なんですか。」
先生は微笑んだ。
「違います。国語の教師です。」
「国語?」夏候仁が理解してないのを悟り、「学校の先生です。」と分かりやすく言い換えた。
「学校の先生、だから皆から先生って。」
夏候仁なりに、なんで先生って呼ばれるか分かり、ちょっと微笑んだ。
微笑んだ夏候仁を見て、
「あ、笑ったぁ。こう見えても教師なんです。新米ですが皆から先生って呼ばれます。」
先生は続けて「こんな小さな村なんで、教師は私一人。生徒も十二人なんです。」
先生は、何かを閃いた様で嬉しそうに夏候仁に提案した。
「今度、学校に遊びに来てください。さっき聞いた諸国の話を子供達にきかせたいんで。」
慌てる夏候仁。断る理由を懸命に探した。
「いや、俺なんかの話を聞いても、いやどんな風に話していいか、わからない。そもそも俺は学校行った事無いし。」
夏候仁の「学校行った事無いし。」
この言葉で、先生は更に、閃いたという顔をした。
「じゃ。授業受けます?」
「時間が空いてる時間でもいいんで。」
「あ、お名前聞くの忘れてました。」
夏候仁は迷った。
「お名前は。」
夏候仁は覚悟した。
「夏候仁です。」
「夏候君かぁ」
「あ、この村に転入生て初めてだ。」
先生はとても嬉しそうだった。
その先生の笑顔を見ながら夏候仁は言い聞かせていた。
(先生が笑っているのは、俺と話してるからじゃない、村の病が治る思ってるからだ)
先ほど殺した淡い期待、何度も殺しても沸き上がってくる。
そんな久々に嬉しい気持ちになった夏の夕暮れ。
だか夏候仁はまだ、村の砂利道をただ歩く事しか出来なかった。
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