誘い。

怠田

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誘い。

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 窓開けると、冷たい空気が流れ込む。
普段なら凍えてしまう様な寒さも、火照った体には調度良い。
 首筋を伝う汗の温度が徐々に下がっているのをひしひしと感じる。
さっきまでの熱が嘘かのように思える程、一瞬にして私の体を冷やしていく。
 こめかみで渦を巻いていた頭痛さえも、今はもうこんなにも大人しい。

 まるで、夜の優しさに触れたかの様な気分だ。
聖母をも連想させる柔らかい夜風が両頬を包み込み、そっと口付けを交わす。
たちまち、顔全体に爽快な快感がすり抜ける。
 冷たいはずなのに、包まれると何故か暖かい。
そんな神秘的な闇夜の魅力に、もうすっかり骨抜きにされてしまった。

 願わくば、この闇夜に溶け込みたい。
 こんな私でも、受け入れて貰えるのでは無いか、そんな錯覚にすら陥る程の包容力は正に魔性その物だ。
もちろん、そんな物幻想に過ぎないと分かってはいる。
 失恋の痛みに付け込まれただけの勘違いだとしても、この闇になら弱みを差し出しても構わない。

 当たり前の事だが、この夜に次はない。
1度きりしか訪れないこの瞬間を逃したらもう二度とこの夜に触れる事は出来ないだろう。
ひとつになれるとすれば今日、今この瞬間だけなのだ。
 それなら、私の答えは一つだけ。

 闇にそぐわない無粋な装飾品は脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿で闇の入口に手を伸ばす。
漆黒に惹かれ、手を引かれ、私は身を投じる。
闇に抱き締められたまま、私の身体は勢いよく落下する。
 窓ガラスに反射した自分の姿が月の光でよく見える。
そこには、恋に堕ちる女の姿がはっきりと映し出されていた。
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