15 / 60
出掛ける神様⑤
しおりを挟む「良かったじゃん、晴人!そのTシャツ前から欲しかったんでしょ?しかも1等だよ?普通に買えば20,000円もするのに、それが3,000円で手に入ったんだよ?ラッキーじゃん!」
そう言う美鈴ちゃんだが、おそらく事態は察知しているだろう。晴人くんはあくまで美鈴ちゃんのために限定キャップを狙ってくじに挑戦してくれた。
しかし、それは叶わなかった。その上、叶わなかっただけならまだしも、あろうことか自分が欲しいやつを当ててしまった。普通なら喜ぶべきことだが、恋人の手前、こんなに恥ずかしい事はない。
なぜ?なぜ透視がハズレた?ここが下界だから?アウェーだから?ホームで戦うよりもアウェーで戦った方が負ける可能性が高いように、神の力にも「地の利」があるのか?それとも、単なる衰えなのか?そういえば、その時はあまり気にしてなかったが、透視の際少し視界がぼやけていたような……。
ふと、台の上に残っているくじを見た。あれ?「7」のくじが残ってる?晴人くんは「1」を引いたのか?
……いやいや、「7」に見えるこの残ってるくじの番号は「1」だ。数字がマジックの手書きで雑だから「1」が「7」に見えたんだ。晴人くんは間違いなく「7」を引いている。そもそも申告の際に「7」って言ってるしね。
……あ。なるほど……。数字の「1」が「7」に見えたのか……。
限定キャップが当たる5つの番号のうち、「7」に見えたのは実際には「1」だった。だから、限定キャップが当たる数字は「7」「18」「24」「29」「42」ではなく、「1」「18」「24」「29」「42」であり、一方の限定Tシャツの当たり番号が「7」だったのである。俺は限定キャップの当たり番号の一つである「1」を間違いなく透視しているのに、その雑な手書きの「1」を「7」と見間違えてしまった。つまり「7」を「1」だとみなして透視を行っていたのだ。
それでもくじが番号順に並んでさえいれば、順番的にすぐ本物の「7」も透視してそれが限定Tシャツの当たり番号だと気付くことができるため、数字の見間違いにも気付くことができたはず。
しかし、今や多くの人が引いたくじは番号関係なく台の上に無造作に並び、しかも不幸なことに「7」は全ての番号の一番最後に位置していた。結果として「7」を透視する前に5つの当たり番号を見つけてしまった故に、「7」は透視するまでもないと結論付けてしまったのである。
くじに記載してある数字は全て店員がマジックで手書きしたものなので、たしかによく見ると「1」の左にはねている部分が少し長く、見ようによっては「7」に見えなくもない。
それに、透視をした後に晴人くんに話しかけようと思っていたから、透視は少し離れたところから行っていた。だから近くで見なければ判別が微妙な「1」と「7」がぼやけてしまい、結果として「1」と「7」を見間違えてしまった。
つまり、透視をハズしてしまった一番の原因は「老眼」だった。
「ご、ごめんね晴人くん……。3等じゃなくて、1等を当ててしまって……」
普通に考えればこの謝罪はおかしい。普通は3等よりも1等の方が価値が高いのだから。
しかし、今の晴人くんにとって3等の限定キャップは、1等の限定Tシャツよりも遥かに価値が高いものである。それは希少性や金銭的価値などの問題ではなかった。美鈴ちゃんに喜んでもらいたい。良い所を見せたい。その一心で、本気で3等を狙いに行った。それを、俺が台無しにしてしまったのだ。
「晴人、キャップのことは気にしないで!ほら!このTシャツ絶対晴人に似合うよ!良かったじゃん!」
「もういいよ。帰ろう」
その短い語句には明らかに怒りが混じっていた。その表情からは、俺に対する怒りや失望が入り混じった感情を読み取ることができた。
「神山さん、もう家から出て行ってくれ。もう顔を見るのも嫌だ」
初めて晴人くんから名字で呼んでもらえた気がする。
しかし、それが友好的なものではなく、十分に皮肉が込められていることは明らかだった。それに、静かな口調で言われると余計に重く感じる。いっそのこと大声で怒鳴られたほうがマシである。
天界でもそうだが、信頼というものは、何事においても非常に重要である。情に流されるタイプではない俺でさえ、一応天界においては信頼を構築することには気を遣っていた。それは教育を担当した新神の神楽に対してもだった。
信頼を構築するのは難しいし時間がかかるものだが、崩れるのは一瞬。しかも、構築にかかった労力など関係なく簡単に崩れるものだから恐ろしい。
俺はこの瞬間、一人の人間からの信頼を失った。いくら晴人くんに好かれてなかったとはいえ、一度信頼させておいてそれを裏切ってしまったのだ。しかも大切な人の前で。この罪は大きい。たとえ晴人くん以外の鳥居家が許してくれても、もうここにお世話になることは出来ないだろう。いや、「元」神様としての矜持が許さない。
「神山さん、気にすることはないですよ。時間が経てば晴人も許してくれると思います。なにより、晴人が欲しかった1等のTシャツが当たったんです!普通なら喜ぶべきことですよ!」
凪沙ちゃんはそう言ってくれるが、俺には晴人くんの気持ちは痛いほど分かる。男同士にしか分からない、大切な人を前にして良い所を見せられなかった気持ちが。
「凪沙ちゃん、ありがとう。でも俺は晴人くんに申し訳ないことしたよ。もう顔も見たくないだろうし、近々出ていこうかと思う」
「そんな……」
鳥居家には散々お世話になった。このご恩はいつか返さなくてはならないだろう。いつか天界に戻る前に、なにかお返し出来たらいいな。あ、でもその前に「あの約束」を果たさなきゃ……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる