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神様と猫⑦
しおりを挟む晴人くんが外に探しに行こうとしていたので、俺はそれを慌てて止めに行った。
「晴人くん、君はここにいなさい。代わりに僕が行ってくるから」
「50過ぎのおっさんに何が出来るんだよ。神山さんこそ、外に出てもすぐに帰ってくるハメになるぞ!」
「だ、大丈夫……。伊達に50数年生きてないからね。猫が行きそうな場所は目星が付いている。なーに、すぐに戻ってきても、その時はすき焼きもきっと連れて帰るよ」
目星なんて付いていなかった。なにしろ、すき焼きの視界は真っ暗だったからだ。当てもないのに晴人くんを外に出すわけにはいかない。
また、もしも最悪のケースを想定する場合、もう少し時間が経ってからではないと断定が出来ない。その時間稼ぎとして探しに行く「フリ」をするのだ。
あと一つ、俺は晴人くんの前で失態を犯したことがある。以前、凪沙ちゃんたちと一緒に出掛けた際のあの失態だ。結果として晴人くんとの距離は少しだけ縮めることが出来だが、その罪滅ぼしも少しはしておきたい。
「すぐに戻ってくるから、晴人くんたちは家の中に待機しておいて。でも、1時間経っても帰ってこなかったら心配してくれると嬉しい……」
「本当に大丈夫ですか?神山さん……」
「大丈夫大丈夫。では、いざゆかん」
外は全然大丈夫ではなかった。風が強すぎる。雪で視界が悪すぎる。死ぬぞまじで。
とりあえず、一応外に出たんだから猫が身を隠しそうな所を探しとくか。車の下、家の物陰、空き箱の中……。いないな。そもそも、身を隠したところでこの寒さにやられるだろう。外に出ていたらたぶん身が持たない。うーん、どうしようか。
俺もそろそろ寒さにやられそうだ。最後にもう一回だけ、「探索」を使っとこう。物陰に隠れて風雪を避ければ、1分位は集中できる。逆に1分が限界だ。
目を瞑る。寒さで逆に神経が研ぎ澄まされ、すき焼きのイメージが鮮明に出来る。視界の切り替えもスムーズだ。
相変わらず真っ暗から変わらないな……ん?少しだけ明るい部分があるぞ……?まだ完全には切り替わってなさそうだが、真っ暗闇の一部分だけ少しだけ明るいのが分かる。本当に少しずつ明るさが増していくぞ……。完全に自分の視界がすき焼きの視界に変わった感覚がある。あと10秒間か……。
視界がどんどん明るくなる。次第に真っ暗闇と多少の光しか見えなかった視界に、世界が広がってくる。……あれあれ?なんか見覚えがあるぞ……?あと少しで「探索」の能力が終了する。最後に見た光景は……。
凪沙ちゃんのビックリしたような顔だった。
__家の中に戻ると、凪沙ちゃんが今にも泣き出しそうな顔ですき焼きを抱きしめていた。その周りには安堵したようなお父さんとお母さんの顔と、やれやれといった様子の晴人くんの顔があった。
「あ、神山さん!すき焼き……、すき焼きいましたよぉー!本当に良かった……!神山さんも泣くくらい嬉しいんですね……!わかりますよ!」
たぶんこれはさっきまで外にいた寒さと、短時間で2回目の「探索」を行ったことが原因で出ている涙だろう。結局、「探索」で見えたあの暗闇は何だったのだろう……?
「すき焼きったら、おそらく押し入れの死角になる所で寝ていたみたいなんです。もちろん押入れの中も見たのですが、まさかそんな所で寝てるなんて……。私たちの探している声でも起きないなんて、よっぽどそこが寝心地良かったんでしょうね!」
寝てたから視界が「真っ暗」だったのか……。そしてだんだん暗闇に光が灯ってきたのは、すき焼きが起きて押し入れから出るタイミング。最後は凪沙ちゃんの顔を見ていたのか。
「探索」、やっぱり使えねーなおい。
すき焼きは凪沙ちゃんに遊んでもらいたくてスリスリしている。すき焼きは凪沙ちゃんのこと好きだなぁ。思えば施設で初めてあった時からこんな感じだったっけ。
あ、そういえば、大事なことを聞くのを忘れてたな
「そういえば凪沙ちゃん。聞くタイミング逃してたけど、野生動物の保護施設に行ったのはこの前が初めてだったんだよね?でも凪沙ちゃんは、「目を付けている猫がいる」って言ってた。会ったこともないはずなのに、なんでその子に目を付けていたんだい?」
「あぁ。それは、この子は私が以前車に轢かれそうになったのを助けたことがあるんです。あの時は私もこの子もトラックに轢かれそうになったんですが、間一髪、トラックが軌道を変えてくれて助かったんです……。いま命があるのが不思議なくらい、怖い体験だったんですよ……」
凪沙ちゃんのその発言がやけに身体に引っかかる。あれ?それどこかで見たような……?
……そうだ。天界で新神教育をしていた時、下界で起こったあの「事件」。あれ、凪沙ちゃんとすき焼きだったのか……?だとすれば、何という偶然だろうか……。
「けれど、不思議なんですよ。この街では野生動物の保護化が進んだおかげで、数年前から野良犬や野良猫を見かけることが無くなったんです。それにも関わらず、この子は野良猫としてそこにいたんですから……」
凪沙ちゃんが続けたこの発言が、さらに俺の身体の節々に引っかかる感じがしてならなかった。
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