35 / 60
神様とこの街③
しおりを挟む
「神村……さん?」
「まぁ、覚えていないのも無理はないだろう。君と私は天界でもあまり接点が無かったからね」
天界? ということはこの方は俺と同じ「元」神様か?
「私は飲むのが好きでね、天界の飲み屋はほとんど制覇したものだよ。君も一度飲みに誘ったんだが、なんだったっけか、その時は確か残業があるとか言って断られた記憶がある」
……、思い出した! 俺が新神教育を担当した神楽が入神してきた日に退神していた方だ! 部下に慕われていたのかどえらい花束貰ってたのを思い出す。あの神村さんがなぜここに?
「どうやら、思い出してきたって感じかな。なぜここにいるんだ、とも思っているね?」
神村さんはじっとこっちを見ていた。なるほど。神の能力の一つ「潜入」を使って思考を読み取っているのか。これは間違いなく「元」神様だ。
「思い出すのが遅くなってしまい、申し訳ありません。最近よく居酒屋に来ていただいているのに、全く気付くことが出来ませんでした」
「それも無理はないだろう。私も下界に来てすっかり「人間」になってしまってね。下界に染まった、というべきかな。神山くんは、私が見る感じまだ下界には染まりきれていないようだ」
「そうですね。実は、自分で望んで下界に降りてきたわけではないんです。だからいずれは天界に戻りたいと思っています」
「それも十分承知している。私は天界で君に何が起こったのかを知っているのでね」
「え? なぜ知っているのですか?」
「それはね……」
「神山さーん! 勘解由小路さーん! おまたせしましたー!」
「おや、凪沙ちゃんが戻ってきたようなので話は後でね。凪沙ちゃんには一応、勘解由小路と名乗っているので、他の人の前ではそれに合わせてくれないか?」
「分かりました神……、じゃなくて、勘解由小路さん」
なぜもっと分かりやすい名字にしなかったのだろう? 勘解由小路て。確か漢字5文字の名字じゃなかったか? 左衛門三郎くらい分かりにくい名字だな。習字の小筆で書きづらいだろうな。
「凪沙ちゃんと神山くんが良いなら、私もご一緒しても良いかな? 」
「良いですよ! ね? 神山さん!」
「構わないです。一緒に行きましょう、勘解由小路さん」
かくして、若い女性と「元」神様のおじさん二人という奇妙な一行が出来上がった。
神鳴山は標高がそんなに高くないため、駐車場のあるところから山頂までさほど時間はかからない。それでも山頂から一望出来る街の景色は絶景であるため、登山客や観光客に人気だという。
「今日は天気も良いから登山客で賑わってますねー!」
「凪沙ちゃんたちは、今日は何を目的に来たんだい?」
「学校の課題で風景画を描くことになりまして。それで、私の生まれ育った街の風景を描こうと考え、街が一望できてかつ一番綺麗に見える神鳴山の山頂へ行こうと思ったんです」
「それは素敵なことだ。凪沙ちゃんはこの街が好きなんだね!」
「はい! せっかくなら絵だけでなく、記憶にも心にも残しておきたいんです。一人で来るのはちょっと寂しいかなと思って、神山さんに付いてきてもらいました! 神山さんにも絵を描いてもらうんですよー」
そうだった、忘れてた。そういえば俺も絵を描かないといけなかったんだ……。
「神山くんも絵を描くのか! 二人ともどんな出来になるか楽しみだね!」
「勘解由小路さんは今日はどんな目的で?」
「私はただの登山だよ。歳を重ねてからも体力が落ちないように、山歩きを日課にしていてね。しかし、「居酒屋・花串」の料理と酒が美味くて最近は太り気味だけどね」
「いつもありがとうございます! ご贔屓にしていただいて嬉しいですが、身体にも十分お気を付けくださいね」
「ありがとう。凪沙ちゃんは本当に優しいね」
やっぱりこの子は良い子だな。おじさん二人がいても嫌な顔しないし、なんなら身体の心配してくれるんだもん。おじさんたち、泣いちゃうよ。
「あ、着きましたね! 人が多いですが、空いているところを探して景色の見える場所を確保しましょう」
周りを見ると、写真を取っている人もいれば、自分たちと同じように景色を描くために画材を持っている人もいる。あまり長居すると迷惑なので、時間を設けて場所を取るのがルールのようだ。
「ではここらへんにしましょう。これが神山さんの分の画材です。神村さんはどうされますか?」
「私は少し休憩したら下山するよ。今日は貴重な時間をご一緒してしまって申し訳なかったね」
「いえいえ、とんでもないです。帰りも気をつけてお帰り下さいね!」
神村さんは凪沙ちゃんに一礼すると俺の元へ近付き、耳元で囁いた。
「また近いうちに話そう。君も色々と知りたいことがあるだろうからね」
「分かりました。本日はありがとうございました。また花串でお待ちしています」
「最後に一つだけ。私はさっき、君に「下界に染まりきれていない」と言った。だから君は天界に未練があって、いずれは戻りたいと思っているのだろう。しかし、私から見る君は下界に「染まりきれていない」だけであって、少しずつではあるが確実に染まってきてはいると感じる。君が気付いていないだけで、実は下界、とりわけこの街を気に入り始めているのではないだろうか?」
この街を気に入り始めている、か。強く否定できない自分が不思議に思え、思わず苦笑の表情を浮かべてしまった。
「まぁ、覚えていないのも無理はないだろう。君と私は天界でもあまり接点が無かったからね」
天界? ということはこの方は俺と同じ「元」神様か?
「私は飲むのが好きでね、天界の飲み屋はほとんど制覇したものだよ。君も一度飲みに誘ったんだが、なんだったっけか、その時は確か残業があるとか言って断られた記憶がある」
……、思い出した! 俺が新神教育を担当した神楽が入神してきた日に退神していた方だ! 部下に慕われていたのかどえらい花束貰ってたのを思い出す。あの神村さんがなぜここに?
「どうやら、思い出してきたって感じかな。なぜここにいるんだ、とも思っているね?」
神村さんはじっとこっちを見ていた。なるほど。神の能力の一つ「潜入」を使って思考を読み取っているのか。これは間違いなく「元」神様だ。
「思い出すのが遅くなってしまい、申し訳ありません。最近よく居酒屋に来ていただいているのに、全く気付くことが出来ませんでした」
「それも無理はないだろう。私も下界に来てすっかり「人間」になってしまってね。下界に染まった、というべきかな。神山くんは、私が見る感じまだ下界には染まりきれていないようだ」
「そうですね。実は、自分で望んで下界に降りてきたわけではないんです。だからいずれは天界に戻りたいと思っています」
「それも十分承知している。私は天界で君に何が起こったのかを知っているのでね」
「え? なぜ知っているのですか?」
「それはね……」
「神山さーん! 勘解由小路さーん! おまたせしましたー!」
「おや、凪沙ちゃんが戻ってきたようなので話は後でね。凪沙ちゃんには一応、勘解由小路と名乗っているので、他の人の前ではそれに合わせてくれないか?」
「分かりました神……、じゃなくて、勘解由小路さん」
なぜもっと分かりやすい名字にしなかったのだろう? 勘解由小路て。確か漢字5文字の名字じゃなかったか? 左衛門三郎くらい分かりにくい名字だな。習字の小筆で書きづらいだろうな。
「凪沙ちゃんと神山くんが良いなら、私もご一緒しても良いかな? 」
「良いですよ! ね? 神山さん!」
「構わないです。一緒に行きましょう、勘解由小路さん」
かくして、若い女性と「元」神様のおじさん二人という奇妙な一行が出来上がった。
神鳴山は標高がそんなに高くないため、駐車場のあるところから山頂までさほど時間はかからない。それでも山頂から一望出来る街の景色は絶景であるため、登山客や観光客に人気だという。
「今日は天気も良いから登山客で賑わってますねー!」
「凪沙ちゃんたちは、今日は何を目的に来たんだい?」
「学校の課題で風景画を描くことになりまして。それで、私の生まれ育った街の風景を描こうと考え、街が一望できてかつ一番綺麗に見える神鳴山の山頂へ行こうと思ったんです」
「それは素敵なことだ。凪沙ちゃんはこの街が好きなんだね!」
「はい! せっかくなら絵だけでなく、記憶にも心にも残しておきたいんです。一人で来るのはちょっと寂しいかなと思って、神山さんに付いてきてもらいました! 神山さんにも絵を描いてもらうんですよー」
そうだった、忘れてた。そういえば俺も絵を描かないといけなかったんだ……。
「神山くんも絵を描くのか! 二人ともどんな出来になるか楽しみだね!」
「勘解由小路さんは今日はどんな目的で?」
「私はただの登山だよ。歳を重ねてからも体力が落ちないように、山歩きを日課にしていてね。しかし、「居酒屋・花串」の料理と酒が美味くて最近は太り気味だけどね」
「いつもありがとうございます! ご贔屓にしていただいて嬉しいですが、身体にも十分お気を付けくださいね」
「ありがとう。凪沙ちゃんは本当に優しいね」
やっぱりこの子は良い子だな。おじさん二人がいても嫌な顔しないし、なんなら身体の心配してくれるんだもん。おじさんたち、泣いちゃうよ。
「あ、着きましたね! 人が多いですが、空いているところを探して景色の見える場所を確保しましょう」
周りを見ると、写真を取っている人もいれば、自分たちと同じように景色を描くために画材を持っている人もいる。あまり長居すると迷惑なので、時間を設けて場所を取るのがルールのようだ。
「ではここらへんにしましょう。これが神山さんの分の画材です。神村さんはどうされますか?」
「私は少し休憩したら下山するよ。今日は貴重な時間をご一緒してしまって申し訳なかったね」
「いえいえ、とんでもないです。帰りも気をつけてお帰り下さいね!」
神村さんは凪沙ちゃんに一礼すると俺の元へ近付き、耳元で囁いた。
「また近いうちに話そう。君も色々と知りたいことがあるだろうからね」
「分かりました。本日はありがとうございました。また花串でお待ちしています」
「最後に一つだけ。私はさっき、君に「下界に染まりきれていない」と言った。だから君は天界に未練があって、いずれは戻りたいと思っているのだろう。しかし、私から見る君は下界に「染まりきれていない」だけであって、少しずつではあるが確実に染まってきてはいると感じる。君が気付いていないだけで、実は下界、とりわけこの街を気に入り始めているのではないだろうか?」
この街を気に入り始めている、か。強く否定できない自分が不思議に思え、思わず苦笑の表情を浮かべてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる