条件は死なないこと

雪椿

文字の大きさ
上 下
8 / 11

7

しおりを挟む
 聞こえてくるのは、周囲のざわめきと抗議をするように響く低いうめき声。

 私は、その声に呼ばれるように中心に近付いて行った。目に見えたのは、血で体を赤黒くした塊。どこに顔があるのかもよくわからないほど、汚れていた。けれど、うめき声だけは絶えず響いていた。

 私の治癒の術でぎりぎり治せる。この子を見た時そう直感した。救えるものならば救いたい。苦しむすべての人は救えなくても、目に映るものは救いたい。だから決めた。ここからは時間との勝負。大勢の人の前で治癒の力があることは、公表はできない。私が危険にさらされるからだ。まずは、この子を引き取って、宿に帰ってから治療を行う。それしか方法はなかった。
 周囲の人間の中でこの商館の者を探した。幸いすぐに見つかりこの子を引き取りたい旨を話す。周囲からは、あきれられたが、商館関係者は、商売である。すぐ別室に通され商談に入った。この子は、薬で何とか回復させること。この子が完全に治ったとしても、返還を求めないこと。あの子の命が尽きないうちに少しでもお金に変えたい商館の思惑もあり、商談はすぐにまとまった。私は、応急処置として、薬を飲ませてからアランにお願いしてこの子を宿まで運んでもらうことにした。アランは、黙って私のお願いに付き合ってくれた。

 宿に戻ってすぐ、結界を張ったうえで、治療を施した。かなりぎりぎりのタイミングではあったが、何とか間に合ったようだ。
しおりを挟む

処理中です...