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1章
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その日は朝から雨が降っていて、時折雷もなっていた。
城のある一室の前を行ったり来たりを繰り返す男性。
彼は、この国の国王である。
彼の妻、つまり王妃の陣痛が始まり跡取りとなる予定の子が生まれる間際にある為だった。
稲妻が走り、今までよりかなり大きな雷が落ちる。
それを待っていたかのように、部屋の中から泣き声がする。
どうやら生まれたようだ。
勢いよく扉を開ける。
「産まれたか!」
既に医師に抱かれている赤ん坊を見ながら言う。
「性別は、男でございます」
そこへ、専属の占い師がやって来る。
王は占い師に尋ねる。
適正はあるのか?と
適正というのは王の適正で、この国では黒龍の力を宿して産まれたものを王とする掟があった。
「この力は・・・過去最高かも知れませんぞ」
と占い師。
「こいつが王になれば・・・世界は我が国のものだ・・・フハハハハ!!」
笑い声が、城中に響き渡る。
それから3年後の事だった。
「セイユ」と名付けられた彼はすくすくと成長した。
周りの子供たちと変わらないように。
ただ、ひとつ違うところをあげるなら。
それは、地下に幽閉されている事だろう。
彼が監禁されている理由は主に二つあった。
一つ目は王の後継者を真の王の器にするために、世の中の無駄な情報を耳に入れないため。
もう一つは、彼が人を殺めなければ黒龍の力をコントロール出来ないという理由からだ。
実際に、彼は3歳にして既に5人を手にかけていた。
彼に殺されたものは奴隷や家出をした少女だったりした。
何も殺したくて殺している訳では無い。
殺さなければ頭は痛むし、喉の乾きが止まらなかったり、体の節々が異常なまでの痛みに襲われる。
黒龍が生贄を飲み込むことで、体の不調は嘘のように無くなるのだった。
彼の前に現れた少女は、最初は事情がわからずこちらに向けて微笑む。その笑顔が痛々しい。
セイユは、嫌だと思っているが黒龍をまだコントロールできる力はなく、彼女の腕を食いちぎる。
彼女は床に落ちる手を見てようやく何が行われるか分かったようだった。
恐怖に満ちた顔で後ろに下がる。
その足元は濡れていた。恐らく失禁したのだろう。
彼女は許しを求め何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も謝罪をする。
けれど・・・こうなってしまった黒龍はもう止められない。
彼女を散々いたぶって楽しんでいる。
そうして最後には飲み込んでしまう。
こんな日々が永遠に続くのかと思われた。
セイユは、10歳になっていた。
黒龍の力は未だにほとんど制御出来ず、生贄を殺す毎日だった。
もう沢山だ、彼女達はものじゃない。生きている人間なんだ!
そう思いながらも、自分では制御できない黒龍の力。
彼が殺した人数は、100人を超えていた。
いつまで殺せばいいのか・・・彼は謝りながら人を殺す日々を送り続けていた。
そんな日に出会ったのが彼女、「優子」であった。
彼女は奴隷と奴隷の間に生まれ、彼女自身も6歳ながら奴隷であった。
彼女を産んですぐに母親は亡くなり、父親も戦争によって亡くなってしまった。
そのため、天涯孤独の身である。
つまりここで死んでも誰も悲しまない。
そう思い送られたのだった。
この頃になると、セイユは奴隷の歩んできた人生をすべて聞いてから殺していた。
そのため、優子のことももちろん聞いた。
同情からか、彼は彼女を手にかけることが出来なかった。
それなのに、黒龍は暴走しない。
それに体の不調もない。
彼女といるとコントロールがいつもより効くことが分かった。
それから、彼は殺すことよりもコントロールすることを中心に考えるようになった。
地下の中で1年・・・2年・・・3年経過した。
その頃になると、彼はもう奴隷を手にかけなくても何とかコントロール出来るようになっていた。
そして5年たった時、完全にコントロールできるようになっていた。
これも彼の努力と、優子の手伝いもあってだろう。
そんな日々の中で、セイユは優子に好意を持っていた。それは優子も・・・
そんな中、現在の王。
つまりセイユの父が流行り病に倒れてしまう。
こうした流れを受けて、セイユが王を継承した。
彼のたっての希望で、優子をメイドとして地下室からの脱出を果たした。
彼が15歳、彼女が11歳の時であった。
彼は優れた頭脳を持っていたため、前代の王より支持を集めた。
しかし、これを影で支えていたメイドがいたということはあまり知られていない。
彼らは、王とメイドという立場を超えて仲睦まじく日々を過ごした。
そして2人の好意はさらに大きくなっていた。
セイユは、いずれ彼女を自分の妻としようと思っていた。
しかし、彼はまだ知らなかった。
既に婚約する相手が決まっていることを・・・
セイユは、22歳になっていた。
彼の支持率は過去最高の84%に登り、最高の王
とまで呼ばれるようになった。
一方、優子は18歳。
メイド達をまとめる立場のメイドリーダーとして国王を支えていた。
そんなある日、執事が写真を持って入ってきた。
「王の結婚相手でございます。」
それは、軍事力の強いB国の王女だった。
いわゆる政略結婚だ。
「もし断ったら?」
「即刻戦争・・・でしょうな」
あの国は戦争で負けたことがないのが自慢らしい。
そんな国と戦争になるとほぼ勝ち目はない。
結婚するしかないのか・・・
セイユは、気がついたら優子を部屋に呼び寄せていた。
「結婚・・・することになった。」
優子は驚いていたが、笑顔だった。
「おめでとうございます。」
気がつくと彼は彼女を抱きしめていた。
「セイユ様・・・」
「もう少しだけこうさせてくれ・・・」
2ヶ月後、彼とB国の王女は盛大な結婚式を挙げた。
王女は、この時代の言葉で表すならヤンデレ、というヤツだった。
メイド達と話すのはもちろん、執事と話すのにも嫉妬し、国同士の会合には必ずと言っていいほど同席していた。
彼女曰く、昔男に浮気されたことがあり、
それがトラウマとなっているらしい。
風呂とトイレ以外はずっと近くにいた。
結婚しても、セイユの優子への気持ちは消えることは無かった。
そのため、度々その事を女王に突っ込まれた。
彼が幸せそうに彼女と話しているのを見ては、嫉妬していた。
ある時、女王が優子を部屋に呼んだ。
「これ以上私のセイユに話しかけないで!」
私のセイユ、という言葉を聞いて
彼女の胸は何故かチクリとした。
「私から話しかけたわけでは・・・」
その言葉を遮るように、
「次話してるのを見たらクビにするわ!」
と言われてしまう。
優子はそれ以降セイユを避けるようになった。
しかし、そんな事情を知らない彼に話しかけられてしまう。
それをたまたま見られていて、彼女はクビになってしまった。
彼女は、行く宛もなく彷徨いC国へとたどり着いた。
そこは、人口の8割が女性の国。
彼女はそこで騎士団に入りその国の姫の護衛となる。
一方その頃、優子がいなくなったことに気がついたセイユは女王に問い詰める。
するとあっさりとクビにしたことを白状した。
これに激怒したセイユは女王と宣戦布告状をB国へと送り付けた。
そして、戦争が始まった。
B国が圧倒的に有利かと思われたが、セイユの国が極秘に開発していた新兵器によって苦戦を強いられる。
戦争が始まって3ヶ月後、城を包囲したセイユの国の兵が王族を捕虜として連れ帰った。
こうして、無敵を誇ったB国は崩壊した。
こうして城に連れてこられた王族を、
セイユは黒龍の力で飲み込んでしまう。
これを境に、彼は変わってしまった。
以前の様な民衆に寄り添った政治ではなく、
自分本位な政治を始めたのである。
それに逆らった政治家を次々と力で飲み込んだ。
いつしか、逆らうものは消されると言う時代の流れが出来てしまい
間違っていると分かっていたが、誰も口を出せなかった。
優子は、彼の変貌に驚き、そして悲しんだ。
もう彼とは会う機会はないだろう、そう思っていた。
だが、これも運命のイタズラなのか。
彼らは、数年後。
また再開することになった。
それはセイユが26歳、優子が22歳の時であった。
王族同士のパーティにたまたま出席したセイユが見つけたのは、あの頃と変わらぬ優子の姿だった。
今すぐに声をかけたい。
あの時なぜ自分の元を去ったのか知りたい。
しかし、他国との会談もあり
思った以上に時間がかかってしまった。
やっと彼女に会える。
そう思い会場を見ると、他国の男性と笑いながら話す彼女の姿を見て、彼の中の何かが弾けた。
半ば誘拐のような形で優子を会場の隅に誘い込んだ。
「なんで俺の元を離れたんだ」
「女王様にセイユ様と仲良くしたからと言われて・・・」
「そうか・・・だがもうあいつはいないんだ。
俺の妻になってくれ」
いきなりのプロポーズであったが、彼女は冷静だった。
「すみませんが・・・それには答えられません」
以外だった。てっきり同じ気持ちだと思っていた彼にとっては裏切られたような気分だったであろう。
「何故だ!?何が不満なんだ!?」
思わず大声をあげる。周りがなんだなんだと見てくるが気にもとめずに迫る。
彼女はそんな彼に怯まずこう言い返した。
「私は、今の仕事にやりがいと責任を持っているのです。なので、辞めるわけにはいきません・・・」
彼は下くちびるを噛んだ。
なぜ俺の思いが伝わってくれないんだ。
自分の思い通りに行かないことに苛立ちを感じていた。
そして彼は吐き捨てるようにこう言い残し会場をあとにした。
「どんな手段を使ってでもお前を俺の物にしてみせる」
彼女は、黙って彼をしばらく見ていたが
やがて自身の主である女王の元に戻った。
それから少しして、突然仕事をクビになった。
不祥事を起こした訳でもなく、突然に。
そんな彼女を待っていたのは、残虐な王と化した
かつて自分が一番愛した人だった。
まるでそのことを知っていたかのように、城の前に馬車が来ていた。
そのひと月後に、盛大な結婚式が行われた。
参加者は約10万人にも及ぶ、とてもとても豪勢な結婚式であった。
「優子・・・今俺はとても幸せだ・・・」
珍しく頬を緩ませるセイユ。
しかし、それに対応するように暗い顔をする優子。
そんな中結婚式が淡々と行われていく。
とある小国のテーブルで、その国の首脳達が小声で話し合っていた。
「何でこんな結婚式ごときにうちの国が・・・」
「なんであんな馬の骨と・・・」
彼らは、遠く離れたこの国までの旅費を自分たちで持たなければならない事に不満を抱いていたらしい。
愚痴るように呟いていた。
それは、式が進み酒を飲むにつれ増えて言った。
ついに、首脳の1人がこう言い放った。
「奴隷出身と結婚するなんてこの国の王は狂っているな!ハハハ!」
その声は、普通の会話より明らかに大きかった。
だが、この式の最中に誰も聞く者はいない。
そう思っていた。
次の瞬間に、彼は床に伏せていた。
いや、無理やり伏せさせられたのだ。
「今、なんて言った?」
そこに立っていたのは、この式の主催者。
そう、国王セイユである。
「もういっぺん言って貰おうか?」
彼は虫、あるいはゴミでも見るような目で首脳を見下ろした。
SPが走ってやってくるが、相手が相手なので何も出来ずに狼狽えていた。
ようやくもう1人の首相が立ち上がり彼に辞めるように促した。
しかし、彼はもう1人の謝罪も促した。
断れば確実に戦争になる。
こんな大国と戦争をすれば確実に負ける。
そう判断して、2人ともやむなく土下座をしたのであった。
新郎が抜け出したことにより、式は一時中断されていた。
ザワつく会場。
そんな雰囲気を察してか、セイユは急いで元の席に戻った。
優子は、改めて彼に聞いてみた。
―先程彼らの言っていたことを
「そんなことを気にしているのか?」
と鼻で笑うセイユ。
しかし自分が奴隷出身と言うのはまぎれもない事実なのだ。
彼女は、うつむいたままであった。
セイユは、そんな彼女を慰めるかのように、頭を撫でていた。
ビクッ、と、体が反応する。
「・・・嫌か?」
「いえ・・・そういう訳では」
「なら続けるぞ?」
こうされると落ち着く・・・
そう言えば、昔はよく撫でてくれたな。
傍若無人な彼は好きにはなれないが、こういう優しさが嫌いになれない所でもある。
彼女は、どちらが本当の彼なのか分からなくなっていた。
結婚式が無事終わり・・・と思われた時に、突然一番大きな扉が開かれた。
「王!大変です!」
そこへ飛び込んできたのは、会場の護衛をしていた騎士団の隊長であった。
「どうした、下らん用だったらぶち殺すぞ」
淡々とそんなことを言う当たり、やはり恐ろしい。
「隣国が、突然宣戦布告を・・・!」
「何・・・!?隣国は以前滅ぼしたはずだが?」
そう。
私を追い出した王女を憎み彼は自分の力を最大限に利用して、隣国を滅ぼしたのだった。
「それが、その国の残党が敵討ちだと・・・!」
「そうか・・・なら俺が出る。」
そう言うとこちらに
「少しだけ待っていてくれ」と、
耳打ちをし、自身の戦闘服に着替え出ていってしまった。
おそらく、あの力を使うのだろう。
彼女には、彼のその力が怖くて、彼の見せる優しさに惹かれ・・・悩んでいた。
彼は2時間もせずに戻ってきて、結婚式が再開された。
「あの力を・・・?」
「あぁ、一瞬だった。」
彼は、昔のように人の命を奪うことに躊躇いを持っていなかった。
むしろ、楽しんでさえいるように見えた。
何がそこまで彼を変えたのか。
彼女は、それが知りたかった。
彼女が正式に王女になって二週間ほどすぎたある日、図書館にいた彼女はとある手紙を見つける。
この手紙が、彼女達の運命を変えることをまだ彼女は知らない。
その手紙は、前の王が書いた手紙だった。
死ぬ間際に書いたのだろうか、単に字が汚いのだろうか。震えて、かすれた字は
やっと読める程度のものだった。
手紙の内容としてはこうだった。
「黒龍の力はとても偉大で
とても強大であるが、
時として使用者の精神を蝕むことがある。
もし、性格が180°変わったりしたら、間違いなく黒龍のせいである。
黒龍の力は封印することが出来る。
それを出来る人物は―」
ここまで読んだところで、セイユに手紙を取られてしまった。
「なんだこれは?」
王の残した手紙だということを説明した。
「黒龍の力を封印か・・・下らん」
そう言うと手紙を破ってしまった。
「俺はこの力で世界を手中に収めてみせる」
「それは・・・武力でなければいけないのでしょうか」
「もちろんだ。力こそ正義である。」
彼はそう言って立ち去ってしまった。
彼女は、過去を思い出していた。
過去の彼は、世界征服という夢自体は変わらないものの、決して武力による支配を望んではいなかった。
変わったのは、全王女を追い出した時。
その頃から彼は武力に、力にとらわれるようになった気がする。
私が好きになったのはそんな彼ではなかった。
強さの中にある優しさに惹かれた。
けれど、今の彼を嫌いにもなれない。
そんな葛藤の中で、私が行き着いた先は
国営の占い所であった。
ここの星占いは7割という高確率で当たると噂で、この国の近臣だけではなく
他国からも人が殺到する所だった。
重いドアを開ける。
時間外ということで人は誰もいなかった。
「・・・こんな時間に誰だい?」
こちらの死角から声をかけられ、
思わずビクッとなったが自己紹介をする。
「私は優子というものです」
そう言いながら移動し、声の主の正面へと向かう。
「おや、この間やってきた女王と同じ名前じゃないか・・・」
そこに居た老婆はぎょろりとした目でこちらを見ていた。
「珍しいこともあるもんだね」
どうやら私の正体がバレた訳ではないようだ。
「・・・で?なんのようだい?」
「黒龍の力・・・というものをご存知ですか?」
老婆は若干驚いた顔をしていた。
「黒龍の力・・・それは王が持つと言われている力のことだね」
黒龍の力は宮廷内でしか知る者はいないとされている。
それを知っているということはやはり彼女は本物だろう。
「そうです!」
「その力がどうしたって?」
「それを封印できる人物を知りたいんです」
老婆は突然立ち上がり、辺りをウロウロしながら何かを呟き出した。
そして、
「思い出したよ」
とハッキリこう言った。
「本当ですか!?」
「本当だよ」
それは、次のような内容だった。
この国からはるか2500km離れたところにある国。
その国は白の国と呼ばれていて、この国とは真逆の、白の龍という力を持っている王が支配するという。
その力があれば、黒の龍の負のチカラを完全に打ち消すことができるそうだ。
「ただ・・・」
老婆はため息をつき、
「これはあくまで古代の文献だからね」
信ぴょう性には少し難がある様である。
それでも・・・私は彼を救いたい。
「その国にはどうすれば行けますか?」
「朝イチの船に乗るんだ、3日もあれば行けるよ」
3日も・・・
それにはこっそり城を抜け出さなくてはならない。
その夜はどうやって抜け出そうか考えてあまり眠れなかった。
妙案が思いついたのはその朝だった。
「・・・それで少しの間城を離れると?」
「申し訳ありません・・・」
「いや、それなら仕方ない。護衛をつけるよ」
「ありがとうございます」
私が思いついた案とは、昔仕えていた女王の元に少しの間戻るというものだった。
私が女王になったこともあり、これはスムーズに進んだ。
幸い、例の白の国は元の女王の国からはさほど離れていない。
問題は護衛をどうやってまくか・・・
そんなことを考えながら朝イチの船に乗り込んだ。
船は、朝イチの便の為か私たちの他には2,3人程しか乗り合わせていなかった。
これから私が行うことは国家に対する反逆・・・
もしバレたら即刻処刑となるだろう。
そのことを考え身震いした。
船はゆっくりと、目的地へと進んでいく。
途中二度ほど港に寄って薪や水を詰む。
2日目も特に何もなく過ぎていった。
問題が起きたのは3日目、もう目的地に着くかという所であった。
突然、爆音と共に船が大きく傾いた。
にわかにざわめき出す船内。
窓の外を覗くと
黒い旗にドクロの旗。
海賊だ。
彼らが商船を襲うことは良くあるが、こんな小柄な船まで襲う事例は聴いたことがない。
船は何とか砲撃をかわしながら港を目指す。
港が見えた。これで助かる!
そう思った次の瞬間、1発の鉛玉が直撃し船は大きく傾いた。
あぁ、もうダメかもしれない。
今の衝撃で護衛の1人が気絶し、もう1人が腕にキズを負った。
次の瞬間。
海賊旗に風穴が空いた。
そして次々に打ち込まれる鉛玉。
海賊船はたまらず引き返そうとするがもう遅い、そのうち1発がメインマストを直撃して船は昏く深い水底へと誘われていった。
この砲撃はどこから・・・?
船は何とか港へと着岸したが、その数時間後には沈んでいった。
港にあったのは最新式の砲台。
以前私がいた頃には無かったハイテクなものだ。
「助かりました・・・ありがとうございます」
そこに立っていた兵士に礼を言う。
「いえ、当然のことです」
そう言って敬礼する彼。
「失礼ですが、黒の国の女王様でしょうか?」
奥から声をかけてきたのは敬礼している彼より高い階級であろう小太りの軍人であった。
「はい・・・そうですが」
「こちらの車にお乗り下さい」
車に乗り、城を目指す。
30分ほど車に揺られ、ウトウトしていると目的の場所についた。
「ここからは私が案内いたします」
執事に案内され女王の元へと向かう。
5分ほど歩き、王女の元へたどり着いた。
ドアを開けると、見知らぬ男性と談笑する王女の姿があった。
「ユウコ!久しぶりね!」
「はい、本当に・・・」
男性にも声をかけられる。
「あなたが・・・噂は伺っております」
彼はなんと、私の旅の目的の白の国の王、ファイフだという。
なぜこの国にいたのか、それは近々王女と結婚するかららしい。
何にせよ、運は味方してくれている。
幸い護衛役の2人は怪我の治療ということで近くの病院にいるため、話を聞かれることもないだろう。
私は全てを説明した。
彼が数年前から取り憑かれていること。
それを退治して欲しいこと
そして・・・
彼を愛していることも。
王は黙って話を聞き、時折うなづいたりしていた。
「そのような理由でしたら、私の白の龍の力を使うのに値します」
「それじゃあ・・・!」
「えぇ、あなたの国へ向かいます」
「すみません、わがままを聞いていただいて・・・」
「昔彼女がかなりお世話になったそうなので、その恩返しです」
「ちょっと!?かなりワガママだったみたいじゃない!」
「実際そうでしたけどね」
「ユウコ!?」
「「あはははは!」」
あぁ、こんなに心の底から笑ったのは久しぶりだ。
黒の龍の力がなくなった彼となら、こんなに笑い合えるのだろうか?
おそらく、出来るだろう。
そんな未来を心待ちにしながら、私は久しぶりに深い眠りに落ちた。
この国で2日ほど過ごし、護衛の2人の怪我もかなり治った。
なので、いよいよ作戦を決行へと移す時期となった。
海賊に破壊された船は、代理便が定刻どうりに運航している。
朝イチの便に乗り、自身の国へと帰る。
護衛の2人には、彼は優秀な騎士なのでスカウトしたことになっている。
ゆらりゆらりと船に揺られながら、1週間ぶりに郷土の地に降り立った。
城に戻り、帰ってきたことを告げる。
彼―セイユは笑っていた。
機嫌がいいのだろう。彼をスカウトしたという嘘も全く気にとめていない。
そして、私たちの作戦の最終段階が始まろうとしていた。
内容としてはこうだ。
3日後に王が騎士団の演習を見に来る。
その時に手合わせを願い、白の龍の力で黒の龍を倒す、というものだ。
彼の勝気な性格のことだ。
必ず勝負を受けるだろう。
そして、決戦の時を迎えた。
思った通り彼は手合わせに食いついてきた。
「お前が挑んできたんだ、手加減はなしだ」
「えぇ、本気でお願いします」
いきなり黒の龍の力を全開で切りかかるセイユ。
しかしそれを受け止めるファイフ。
白の龍の力はまだ使っていない。
つまり彼の実力だ。これ程とは・・・
「挑んでくるだけはあるみたいだな」
力任せに剣を振るうセイユ。
それを受け流すファイフ。
力と技のぶつかりあいは均衡しているように見えたが、やはり黒の龍の力を使っているセイユに分があった。
「・・・スイッチオン!」
そして彼は、遂に白の龍の力を使ったのであった。
破壊、支配を行動理念においている黒の龍とは反対に
癒しや自由をもたらすと言われる白の龍。
しかし、白と黒が混ざり合うことは決してない。どちらかに染まるまで切り合うだけだ。
「その力は・・・」
どうやらセイユも気づいたらしい。
剣がぶつかり合う度にお互いの龍のオーラが消えていく。
お互いに、既に体力は限界である。
もはや彼らの体を支えているのは気力だけだ。
スキなど見せずに切り合うふたり。
「「うおおおおおお!!」」
しかし、一瞬セイユの動きがとまったのを彼の剣は見逃さない。
剣を振り下ろす。黒の龍は、セイユに抑え込まれているようにも見えた。
白が黒を塗りつぶす。こうして、彼の龍は消えた。
「俺は今まで何を・・・?」
セイユが元に戻った。
この時をどれほど待ちわびたことか・・・!
ここまでの流れを説明した。
彼は深く反省し、国民に対しての圧政を一切やめた。
彼の支持率は98%を超え、歴代最高と呼ばれた。
そして1ヶ月―
今日はファイフと女王の結婚式だ。
あの後セイユはファイフと意気投合し、一番の友好国となっていた。
「どうだセイユ!似合ってるだろ?」
「あぁ似合ってる。馬子にも衣装だな」
「似合ってるだけでいいっての!」
こうして笑い合える日々が来るのを本当に心待ちにしていた。
ニコニコしながらファイフと話すセイユを眺めながら、私は幸せを噛み締めていた。
数年後―
2人の間には子供が出来ていた。
出産を間近に控え、彼にはある不安があった。
生まれてくる息子にも、黒の龍の力が宿るのではないかと。
昔占い師に聞いた時には、その可能性は高いと聞いた。
と、そこへ出産の噂を聞きつけたファイフ夫妻がやって来ていた。
もし息子に力が宿っていたとしても彼の力があれば。
そんなことを考えながら、椅子に座っていた。
そして2時間後、泣き声が響き渡り
将来神の化身と呼ばれる天才が誕生したのであった。
城のある一室の前を行ったり来たりを繰り返す男性。
彼は、この国の国王である。
彼の妻、つまり王妃の陣痛が始まり跡取りとなる予定の子が生まれる間際にある為だった。
稲妻が走り、今までよりかなり大きな雷が落ちる。
それを待っていたかのように、部屋の中から泣き声がする。
どうやら生まれたようだ。
勢いよく扉を開ける。
「産まれたか!」
既に医師に抱かれている赤ん坊を見ながら言う。
「性別は、男でございます」
そこへ、専属の占い師がやって来る。
王は占い師に尋ねる。
適正はあるのか?と
適正というのは王の適正で、この国では黒龍の力を宿して産まれたものを王とする掟があった。
「この力は・・・過去最高かも知れませんぞ」
と占い師。
「こいつが王になれば・・・世界は我が国のものだ・・・フハハハハ!!」
笑い声が、城中に響き渡る。
それから3年後の事だった。
「セイユ」と名付けられた彼はすくすくと成長した。
周りの子供たちと変わらないように。
ただ、ひとつ違うところをあげるなら。
それは、地下に幽閉されている事だろう。
彼が監禁されている理由は主に二つあった。
一つ目は王の後継者を真の王の器にするために、世の中の無駄な情報を耳に入れないため。
もう一つは、彼が人を殺めなければ黒龍の力をコントロール出来ないという理由からだ。
実際に、彼は3歳にして既に5人を手にかけていた。
彼に殺されたものは奴隷や家出をした少女だったりした。
何も殺したくて殺している訳では無い。
殺さなければ頭は痛むし、喉の乾きが止まらなかったり、体の節々が異常なまでの痛みに襲われる。
黒龍が生贄を飲み込むことで、体の不調は嘘のように無くなるのだった。
彼の前に現れた少女は、最初は事情がわからずこちらに向けて微笑む。その笑顔が痛々しい。
セイユは、嫌だと思っているが黒龍をまだコントロールできる力はなく、彼女の腕を食いちぎる。
彼女は床に落ちる手を見てようやく何が行われるか分かったようだった。
恐怖に満ちた顔で後ろに下がる。
その足元は濡れていた。恐らく失禁したのだろう。
彼女は許しを求め何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も謝罪をする。
けれど・・・こうなってしまった黒龍はもう止められない。
彼女を散々いたぶって楽しんでいる。
そうして最後には飲み込んでしまう。
こんな日々が永遠に続くのかと思われた。
セイユは、10歳になっていた。
黒龍の力は未だにほとんど制御出来ず、生贄を殺す毎日だった。
もう沢山だ、彼女達はものじゃない。生きている人間なんだ!
そう思いながらも、自分では制御できない黒龍の力。
彼が殺した人数は、100人を超えていた。
いつまで殺せばいいのか・・・彼は謝りながら人を殺す日々を送り続けていた。
そんな日に出会ったのが彼女、「優子」であった。
彼女は奴隷と奴隷の間に生まれ、彼女自身も6歳ながら奴隷であった。
彼女を産んですぐに母親は亡くなり、父親も戦争によって亡くなってしまった。
そのため、天涯孤独の身である。
つまりここで死んでも誰も悲しまない。
そう思い送られたのだった。
この頃になると、セイユは奴隷の歩んできた人生をすべて聞いてから殺していた。
そのため、優子のことももちろん聞いた。
同情からか、彼は彼女を手にかけることが出来なかった。
それなのに、黒龍は暴走しない。
それに体の不調もない。
彼女といるとコントロールがいつもより効くことが分かった。
それから、彼は殺すことよりもコントロールすることを中心に考えるようになった。
地下の中で1年・・・2年・・・3年経過した。
その頃になると、彼はもう奴隷を手にかけなくても何とかコントロール出来るようになっていた。
そして5年たった時、完全にコントロールできるようになっていた。
これも彼の努力と、優子の手伝いもあってだろう。
そんな日々の中で、セイユは優子に好意を持っていた。それは優子も・・・
そんな中、現在の王。
つまりセイユの父が流行り病に倒れてしまう。
こうした流れを受けて、セイユが王を継承した。
彼のたっての希望で、優子をメイドとして地下室からの脱出を果たした。
彼が15歳、彼女が11歳の時であった。
彼は優れた頭脳を持っていたため、前代の王より支持を集めた。
しかし、これを影で支えていたメイドがいたということはあまり知られていない。
彼らは、王とメイドという立場を超えて仲睦まじく日々を過ごした。
そして2人の好意はさらに大きくなっていた。
セイユは、いずれ彼女を自分の妻としようと思っていた。
しかし、彼はまだ知らなかった。
既に婚約する相手が決まっていることを・・・
セイユは、22歳になっていた。
彼の支持率は過去最高の84%に登り、最高の王
とまで呼ばれるようになった。
一方、優子は18歳。
メイド達をまとめる立場のメイドリーダーとして国王を支えていた。
そんなある日、執事が写真を持って入ってきた。
「王の結婚相手でございます。」
それは、軍事力の強いB国の王女だった。
いわゆる政略結婚だ。
「もし断ったら?」
「即刻戦争・・・でしょうな」
あの国は戦争で負けたことがないのが自慢らしい。
そんな国と戦争になるとほぼ勝ち目はない。
結婚するしかないのか・・・
セイユは、気がついたら優子を部屋に呼び寄せていた。
「結婚・・・することになった。」
優子は驚いていたが、笑顔だった。
「おめでとうございます。」
気がつくと彼は彼女を抱きしめていた。
「セイユ様・・・」
「もう少しだけこうさせてくれ・・・」
2ヶ月後、彼とB国の王女は盛大な結婚式を挙げた。
王女は、この時代の言葉で表すならヤンデレ、というヤツだった。
メイド達と話すのはもちろん、執事と話すのにも嫉妬し、国同士の会合には必ずと言っていいほど同席していた。
彼女曰く、昔男に浮気されたことがあり、
それがトラウマとなっているらしい。
風呂とトイレ以外はずっと近くにいた。
結婚しても、セイユの優子への気持ちは消えることは無かった。
そのため、度々その事を女王に突っ込まれた。
彼が幸せそうに彼女と話しているのを見ては、嫉妬していた。
ある時、女王が優子を部屋に呼んだ。
「これ以上私のセイユに話しかけないで!」
私のセイユ、という言葉を聞いて
彼女の胸は何故かチクリとした。
「私から話しかけたわけでは・・・」
その言葉を遮るように、
「次話してるのを見たらクビにするわ!」
と言われてしまう。
優子はそれ以降セイユを避けるようになった。
しかし、そんな事情を知らない彼に話しかけられてしまう。
それをたまたま見られていて、彼女はクビになってしまった。
彼女は、行く宛もなく彷徨いC国へとたどり着いた。
そこは、人口の8割が女性の国。
彼女はそこで騎士団に入りその国の姫の護衛となる。
一方その頃、優子がいなくなったことに気がついたセイユは女王に問い詰める。
するとあっさりとクビにしたことを白状した。
これに激怒したセイユは女王と宣戦布告状をB国へと送り付けた。
そして、戦争が始まった。
B国が圧倒的に有利かと思われたが、セイユの国が極秘に開発していた新兵器によって苦戦を強いられる。
戦争が始まって3ヶ月後、城を包囲したセイユの国の兵が王族を捕虜として連れ帰った。
こうして、無敵を誇ったB国は崩壊した。
こうして城に連れてこられた王族を、
セイユは黒龍の力で飲み込んでしまう。
これを境に、彼は変わってしまった。
以前の様な民衆に寄り添った政治ではなく、
自分本位な政治を始めたのである。
それに逆らった政治家を次々と力で飲み込んだ。
いつしか、逆らうものは消されると言う時代の流れが出来てしまい
間違っていると分かっていたが、誰も口を出せなかった。
優子は、彼の変貌に驚き、そして悲しんだ。
もう彼とは会う機会はないだろう、そう思っていた。
だが、これも運命のイタズラなのか。
彼らは、数年後。
また再開することになった。
それはセイユが26歳、優子が22歳の時であった。
王族同士のパーティにたまたま出席したセイユが見つけたのは、あの頃と変わらぬ優子の姿だった。
今すぐに声をかけたい。
あの時なぜ自分の元を去ったのか知りたい。
しかし、他国との会談もあり
思った以上に時間がかかってしまった。
やっと彼女に会える。
そう思い会場を見ると、他国の男性と笑いながら話す彼女の姿を見て、彼の中の何かが弾けた。
半ば誘拐のような形で優子を会場の隅に誘い込んだ。
「なんで俺の元を離れたんだ」
「女王様にセイユ様と仲良くしたからと言われて・・・」
「そうか・・・だがもうあいつはいないんだ。
俺の妻になってくれ」
いきなりのプロポーズであったが、彼女は冷静だった。
「すみませんが・・・それには答えられません」
以外だった。てっきり同じ気持ちだと思っていた彼にとっては裏切られたような気分だったであろう。
「何故だ!?何が不満なんだ!?」
思わず大声をあげる。周りがなんだなんだと見てくるが気にもとめずに迫る。
彼女はそんな彼に怯まずこう言い返した。
「私は、今の仕事にやりがいと責任を持っているのです。なので、辞めるわけにはいきません・・・」
彼は下くちびるを噛んだ。
なぜ俺の思いが伝わってくれないんだ。
自分の思い通りに行かないことに苛立ちを感じていた。
そして彼は吐き捨てるようにこう言い残し会場をあとにした。
「どんな手段を使ってでもお前を俺の物にしてみせる」
彼女は、黙って彼をしばらく見ていたが
やがて自身の主である女王の元に戻った。
それから少しして、突然仕事をクビになった。
不祥事を起こした訳でもなく、突然に。
そんな彼女を待っていたのは、残虐な王と化した
かつて自分が一番愛した人だった。
まるでそのことを知っていたかのように、城の前に馬車が来ていた。
そのひと月後に、盛大な結婚式が行われた。
参加者は約10万人にも及ぶ、とてもとても豪勢な結婚式であった。
「優子・・・今俺はとても幸せだ・・・」
珍しく頬を緩ませるセイユ。
しかし、それに対応するように暗い顔をする優子。
そんな中結婚式が淡々と行われていく。
とある小国のテーブルで、その国の首脳達が小声で話し合っていた。
「何でこんな結婚式ごときにうちの国が・・・」
「なんであんな馬の骨と・・・」
彼らは、遠く離れたこの国までの旅費を自分たちで持たなければならない事に不満を抱いていたらしい。
愚痴るように呟いていた。
それは、式が進み酒を飲むにつれ増えて言った。
ついに、首脳の1人がこう言い放った。
「奴隷出身と結婚するなんてこの国の王は狂っているな!ハハハ!」
その声は、普通の会話より明らかに大きかった。
だが、この式の最中に誰も聞く者はいない。
そう思っていた。
次の瞬間に、彼は床に伏せていた。
いや、無理やり伏せさせられたのだ。
「今、なんて言った?」
そこに立っていたのは、この式の主催者。
そう、国王セイユである。
「もういっぺん言って貰おうか?」
彼は虫、あるいはゴミでも見るような目で首脳を見下ろした。
SPが走ってやってくるが、相手が相手なので何も出来ずに狼狽えていた。
ようやくもう1人の首相が立ち上がり彼に辞めるように促した。
しかし、彼はもう1人の謝罪も促した。
断れば確実に戦争になる。
こんな大国と戦争をすれば確実に負ける。
そう判断して、2人ともやむなく土下座をしたのであった。
新郎が抜け出したことにより、式は一時中断されていた。
ザワつく会場。
そんな雰囲気を察してか、セイユは急いで元の席に戻った。
優子は、改めて彼に聞いてみた。
―先程彼らの言っていたことを
「そんなことを気にしているのか?」
と鼻で笑うセイユ。
しかし自分が奴隷出身と言うのはまぎれもない事実なのだ。
彼女は、うつむいたままであった。
セイユは、そんな彼女を慰めるかのように、頭を撫でていた。
ビクッ、と、体が反応する。
「・・・嫌か?」
「いえ・・・そういう訳では」
「なら続けるぞ?」
こうされると落ち着く・・・
そう言えば、昔はよく撫でてくれたな。
傍若無人な彼は好きにはなれないが、こういう優しさが嫌いになれない所でもある。
彼女は、どちらが本当の彼なのか分からなくなっていた。
結婚式が無事終わり・・・と思われた時に、突然一番大きな扉が開かれた。
「王!大変です!」
そこへ飛び込んできたのは、会場の護衛をしていた騎士団の隊長であった。
「どうした、下らん用だったらぶち殺すぞ」
淡々とそんなことを言う当たり、やはり恐ろしい。
「隣国が、突然宣戦布告を・・・!」
「何・・・!?隣国は以前滅ぼしたはずだが?」
そう。
私を追い出した王女を憎み彼は自分の力を最大限に利用して、隣国を滅ぼしたのだった。
「それが、その国の残党が敵討ちだと・・・!」
「そうか・・・なら俺が出る。」
そう言うとこちらに
「少しだけ待っていてくれ」と、
耳打ちをし、自身の戦闘服に着替え出ていってしまった。
おそらく、あの力を使うのだろう。
彼女には、彼のその力が怖くて、彼の見せる優しさに惹かれ・・・悩んでいた。
彼は2時間もせずに戻ってきて、結婚式が再開された。
「あの力を・・・?」
「あぁ、一瞬だった。」
彼は、昔のように人の命を奪うことに躊躇いを持っていなかった。
むしろ、楽しんでさえいるように見えた。
何がそこまで彼を変えたのか。
彼女は、それが知りたかった。
彼女が正式に王女になって二週間ほどすぎたある日、図書館にいた彼女はとある手紙を見つける。
この手紙が、彼女達の運命を変えることをまだ彼女は知らない。
その手紙は、前の王が書いた手紙だった。
死ぬ間際に書いたのだろうか、単に字が汚いのだろうか。震えて、かすれた字は
やっと読める程度のものだった。
手紙の内容としてはこうだった。
「黒龍の力はとても偉大で
とても強大であるが、
時として使用者の精神を蝕むことがある。
もし、性格が180°変わったりしたら、間違いなく黒龍のせいである。
黒龍の力は封印することが出来る。
それを出来る人物は―」
ここまで読んだところで、セイユに手紙を取られてしまった。
「なんだこれは?」
王の残した手紙だということを説明した。
「黒龍の力を封印か・・・下らん」
そう言うと手紙を破ってしまった。
「俺はこの力で世界を手中に収めてみせる」
「それは・・・武力でなければいけないのでしょうか」
「もちろんだ。力こそ正義である。」
彼はそう言って立ち去ってしまった。
彼女は、過去を思い出していた。
過去の彼は、世界征服という夢自体は変わらないものの、決して武力による支配を望んではいなかった。
変わったのは、全王女を追い出した時。
その頃から彼は武力に、力にとらわれるようになった気がする。
私が好きになったのはそんな彼ではなかった。
強さの中にある優しさに惹かれた。
けれど、今の彼を嫌いにもなれない。
そんな葛藤の中で、私が行き着いた先は
国営の占い所であった。
ここの星占いは7割という高確率で当たると噂で、この国の近臣だけではなく
他国からも人が殺到する所だった。
重いドアを開ける。
時間外ということで人は誰もいなかった。
「・・・こんな時間に誰だい?」
こちらの死角から声をかけられ、
思わずビクッとなったが自己紹介をする。
「私は優子というものです」
そう言いながら移動し、声の主の正面へと向かう。
「おや、この間やってきた女王と同じ名前じゃないか・・・」
そこに居た老婆はぎょろりとした目でこちらを見ていた。
「珍しいこともあるもんだね」
どうやら私の正体がバレた訳ではないようだ。
「・・・で?なんのようだい?」
「黒龍の力・・・というものをご存知ですか?」
老婆は若干驚いた顔をしていた。
「黒龍の力・・・それは王が持つと言われている力のことだね」
黒龍の力は宮廷内でしか知る者はいないとされている。
それを知っているということはやはり彼女は本物だろう。
「そうです!」
「その力がどうしたって?」
「それを封印できる人物を知りたいんです」
老婆は突然立ち上がり、辺りをウロウロしながら何かを呟き出した。
そして、
「思い出したよ」
とハッキリこう言った。
「本当ですか!?」
「本当だよ」
それは、次のような内容だった。
この国からはるか2500km離れたところにある国。
その国は白の国と呼ばれていて、この国とは真逆の、白の龍という力を持っている王が支配するという。
その力があれば、黒の龍の負のチカラを完全に打ち消すことができるそうだ。
「ただ・・・」
老婆はため息をつき、
「これはあくまで古代の文献だからね」
信ぴょう性には少し難がある様である。
それでも・・・私は彼を救いたい。
「その国にはどうすれば行けますか?」
「朝イチの船に乗るんだ、3日もあれば行けるよ」
3日も・・・
それにはこっそり城を抜け出さなくてはならない。
その夜はどうやって抜け出そうか考えてあまり眠れなかった。
妙案が思いついたのはその朝だった。
「・・・それで少しの間城を離れると?」
「申し訳ありません・・・」
「いや、それなら仕方ない。護衛をつけるよ」
「ありがとうございます」
私が思いついた案とは、昔仕えていた女王の元に少しの間戻るというものだった。
私が女王になったこともあり、これはスムーズに進んだ。
幸い、例の白の国は元の女王の国からはさほど離れていない。
問題は護衛をどうやってまくか・・・
そんなことを考えながら朝イチの船に乗り込んだ。
船は、朝イチの便の為か私たちの他には2,3人程しか乗り合わせていなかった。
これから私が行うことは国家に対する反逆・・・
もしバレたら即刻処刑となるだろう。
そのことを考え身震いした。
船はゆっくりと、目的地へと進んでいく。
途中二度ほど港に寄って薪や水を詰む。
2日目も特に何もなく過ぎていった。
問題が起きたのは3日目、もう目的地に着くかという所であった。
突然、爆音と共に船が大きく傾いた。
にわかにざわめき出す船内。
窓の外を覗くと
黒い旗にドクロの旗。
海賊だ。
彼らが商船を襲うことは良くあるが、こんな小柄な船まで襲う事例は聴いたことがない。
船は何とか砲撃をかわしながら港を目指す。
港が見えた。これで助かる!
そう思った次の瞬間、1発の鉛玉が直撃し船は大きく傾いた。
あぁ、もうダメかもしれない。
今の衝撃で護衛の1人が気絶し、もう1人が腕にキズを負った。
次の瞬間。
海賊旗に風穴が空いた。
そして次々に打ち込まれる鉛玉。
海賊船はたまらず引き返そうとするがもう遅い、そのうち1発がメインマストを直撃して船は昏く深い水底へと誘われていった。
この砲撃はどこから・・・?
船は何とか港へと着岸したが、その数時間後には沈んでいった。
港にあったのは最新式の砲台。
以前私がいた頃には無かったハイテクなものだ。
「助かりました・・・ありがとうございます」
そこに立っていた兵士に礼を言う。
「いえ、当然のことです」
そう言って敬礼する彼。
「失礼ですが、黒の国の女王様でしょうか?」
奥から声をかけてきたのは敬礼している彼より高い階級であろう小太りの軍人であった。
「はい・・・そうですが」
「こちらの車にお乗り下さい」
車に乗り、城を目指す。
30分ほど車に揺られ、ウトウトしていると目的の場所についた。
「ここからは私が案内いたします」
執事に案内され女王の元へと向かう。
5分ほど歩き、王女の元へたどり着いた。
ドアを開けると、見知らぬ男性と談笑する王女の姿があった。
「ユウコ!久しぶりね!」
「はい、本当に・・・」
男性にも声をかけられる。
「あなたが・・・噂は伺っております」
彼はなんと、私の旅の目的の白の国の王、ファイフだという。
なぜこの国にいたのか、それは近々王女と結婚するかららしい。
何にせよ、運は味方してくれている。
幸い護衛役の2人は怪我の治療ということで近くの病院にいるため、話を聞かれることもないだろう。
私は全てを説明した。
彼が数年前から取り憑かれていること。
それを退治して欲しいこと
そして・・・
彼を愛していることも。
王は黙って話を聞き、時折うなづいたりしていた。
「そのような理由でしたら、私の白の龍の力を使うのに値します」
「それじゃあ・・・!」
「えぇ、あなたの国へ向かいます」
「すみません、わがままを聞いていただいて・・・」
「昔彼女がかなりお世話になったそうなので、その恩返しです」
「ちょっと!?かなりワガママだったみたいじゃない!」
「実際そうでしたけどね」
「ユウコ!?」
「「あはははは!」」
あぁ、こんなに心の底から笑ったのは久しぶりだ。
黒の龍の力がなくなった彼となら、こんなに笑い合えるのだろうか?
おそらく、出来るだろう。
そんな未来を心待ちにしながら、私は久しぶりに深い眠りに落ちた。
この国で2日ほど過ごし、護衛の2人の怪我もかなり治った。
なので、いよいよ作戦を決行へと移す時期となった。
海賊に破壊された船は、代理便が定刻どうりに運航している。
朝イチの便に乗り、自身の国へと帰る。
護衛の2人には、彼は優秀な騎士なのでスカウトしたことになっている。
ゆらりゆらりと船に揺られながら、1週間ぶりに郷土の地に降り立った。
城に戻り、帰ってきたことを告げる。
彼―セイユは笑っていた。
機嫌がいいのだろう。彼をスカウトしたという嘘も全く気にとめていない。
そして、私たちの作戦の最終段階が始まろうとしていた。
内容としてはこうだ。
3日後に王が騎士団の演習を見に来る。
その時に手合わせを願い、白の龍の力で黒の龍を倒す、というものだ。
彼の勝気な性格のことだ。
必ず勝負を受けるだろう。
そして、決戦の時を迎えた。
思った通り彼は手合わせに食いついてきた。
「お前が挑んできたんだ、手加減はなしだ」
「えぇ、本気でお願いします」
いきなり黒の龍の力を全開で切りかかるセイユ。
しかしそれを受け止めるファイフ。
白の龍の力はまだ使っていない。
つまり彼の実力だ。これ程とは・・・
「挑んでくるだけはあるみたいだな」
力任せに剣を振るうセイユ。
それを受け流すファイフ。
力と技のぶつかりあいは均衡しているように見えたが、やはり黒の龍の力を使っているセイユに分があった。
「・・・スイッチオン!」
そして彼は、遂に白の龍の力を使ったのであった。
破壊、支配を行動理念においている黒の龍とは反対に
癒しや自由をもたらすと言われる白の龍。
しかし、白と黒が混ざり合うことは決してない。どちらかに染まるまで切り合うだけだ。
「その力は・・・」
どうやらセイユも気づいたらしい。
剣がぶつかり合う度にお互いの龍のオーラが消えていく。
お互いに、既に体力は限界である。
もはや彼らの体を支えているのは気力だけだ。
スキなど見せずに切り合うふたり。
「「うおおおおおお!!」」
しかし、一瞬セイユの動きがとまったのを彼の剣は見逃さない。
剣を振り下ろす。黒の龍は、セイユに抑え込まれているようにも見えた。
白が黒を塗りつぶす。こうして、彼の龍は消えた。
「俺は今まで何を・・・?」
セイユが元に戻った。
この時をどれほど待ちわびたことか・・・!
ここまでの流れを説明した。
彼は深く反省し、国民に対しての圧政を一切やめた。
彼の支持率は98%を超え、歴代最高と呼ばれた。
そして1ヶ月―
今日はファイフと女王の結婚式だ。
あの後セイユはファイフと意気投合し、一番の友好国となっていた。
「どうだセイユ!似合ってるだろ?」
「あぁ似合ってる。馬子にも衣装だな」
「似合ってるだけでいいっての!」
こうして笑い合える日々が来るのを本当に心待ちにしていた。
ニコニコしながらファイフと話すセイユを眺めながら、私は幸せを噛み締めていた。
数年後―
2人の間には子供が出来ていた。
出産を間近に控え、彼にはある不安があった。
生まれてくる息子にも、黒の龍の力が宿るのではないかと。
昔占い師に聞いた時には、その可能性は高いと聞いた。
と、そこへ出産の噂を聞きつけたファイフ夫妻がやって来ていた。
もし息子に力が宿っていたとしても彼の力があれば。
そんなことを考えながら、椅子に座っていた。
そして2時間後、泣き声が響き渡り
将来神の化身と呼ばれる天才が誕生したのであった。
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