TS転生悪役令嬢ですが、フラグを壊しすぎて別のフラグが立ってしまいました

於田縫紀

文字の大きさ
89 / 92
エピローグ? 疫病神は見逃さない

第89話 我が逃走

 誰だろう。
 この部屋の主でない事は明らかだ。
 サクラエ教官はこの部屋へはノックせずに入ってくる。

「はい。サクラエ教官は不在ですが、どちら様でしょうか」

 すこし鼻声になってしまっただろうか。
 そう思って、そして慌てて清拭魔法を顔にかける。
 誰であろうと、今の顔を見せる訳にはいかない。

「私ですわ。アンブロシア様」

 声で誰かすぐにわかった。
 しかし何故、マリアンネ様が此処に。教官がいないのを知っている筈なのに。

 更に私の魔力感知がもう1人の反応を、扉の向こうに捉えている。
 誰かはすぐわかった。
 でも、何故。よりにもよって、何故……

 もう一度清拭魔法で顔をきれいにして、それから声をかける。

「どうぞ」

 扉が開く。

「失礼致しますわ」

 入ってきたのは2人。
 マリアンネ様と、リリアだ。
 マリアンネ様は扉を閉め、ゆっくり私のところまで歩いてきて、そして口を開く。

「アンブロシア様、逃走準備は順調でしょうか?」

 おい待て!
 何で逃走するって知っているんだ。
 しかもそれをリリアを連れてきて言うか!

 そんな混乱と同時に、何故かやっぱりという気もした。
 この2人、マリアンネ様とリリアにはわかってしまいそうな気がしていたのだ。
 アンブロシアと実はよく似ているマリアンネ様と、私と一番仲が良いリリアには。

 あえてそう意識しなかった。
 いや意識しようとしなかっただけだ。
 だからこうなってしまった今、私は正直に全てを認める。

「順調ではありませんわ。持って行きたいものが多すぎて。ですがもう潮時なのでしょう。ですから準備が終わらなくとも、今日の夕までには出るつもりです」

「やはりそうなのですね」

「それでリリアとマリアンネ様は、どうしてご一緒に」

 この2人に気づかれても仕方ないとは思う。
 それでもこの2人が一緒にやってくる事態は想像していなかった。

「お姉様が行ってしまいそうなのは何となくわかったんです。でも誰にも相談できなくて。それでももし相談するならと思って、マリアンネ様にお願い致しました」

「私は一人でも此処へ来るつもりでしたし、ちょうど良かったのですわ。それにアンブロシア様もリリア様に言いたい事がおありでしょうから」

 完全にマリアンネ様に私の状況を読まれている。
 そう思って思い出した。
 この2人こそがメインで私をあの戦場へ迎えに来てくれたのだという事を。

 戦力的に1人で行けないと絶望しているリリアにマリアンネ様が声をかけて。
 そしてリリアがいつものパーティを集めてくれたのだった。
 私を助け出す為に。私が動けなくなっていたあの戦場に。

 その辺の状況は途中で聞いて知っている。
 ここでもう一度お礼を言っておこう。

「昨日はあんな戦場まで助けに来て頂き、本当にありがとうございました。マリアンネ様とリリアがいなかったら、今頃はまだ戦場か、下手すればやられていたかもしれないですわ。今は頭を下げることしか出来ませんが、この件は必ず……」

「いえ、私こそお姉様に色々教えて頂きましたわ。ですのでお礼などいりません。ただ……」

 リリアの目から涙が零れてくる。

「私はお姉様と一緒に行く事が出来ません。私はやはりイワルミア王国の、マーレスタ伯爵家の人間なんです。それでも本当はお姉様と一緒にいたい、それでも……」

 そんなリリアを私は抱きしめる。

「リリアと別れるのは私も辛いですわ。でもこれで会えなくなる訳ではありません。それにこの大陸のどこからでも私は此処へ戻ってくる事が出来ます。昨日使ったあの魔法で。ですからまた折りをみてはリリアに会いに来ますわ。リリアの事が大好きなのは変わりませんから」

 ああ、やっとリリアに言えた。
 そう思って気づいた。
 私は女の子が好きなだけじゃなくて、リリアが好きだったんだと。

 ナージャともプレイしたしリュネットやナタリアもいただきたいと思った。
 でもそれでもそれ以上にリリアが好きだったんだと。

 どれくらいリリアを抱きしめていただろう。
 誰かさんの視線を感じて、そして私は気づく。
 そう言えばこの部屋にはマリアンネ様もいたんだった。

「さて、それでは準備をお手伝い致しましょう。見たところ論文を書写していたようですわね。3人でやればかなり早く出来ると思いますけれど、いかがでしょうか?」

 おっとマリアンネ様、それは大変に助かる。
 ただでさえ間に合わなくて困っていたのだ。
 それに今の微妙になりかけた空気を誤魔化すにもちょうどいい。

「お願いしますわ」

「では私とリリアに指示お願い致しますわ」

 書写作業を再開する。

 ◇◇◇

 午後3の鐘が鳴った。
 書写作業もちょうどキリがいい感じだ。
 時間的にもそろそろ頃合いだろう。名残惜しいけれど、仕方ない。

「それではそろそろ、これらをまとめて、そして出発しようと思いますわ。本日は本当にありがとうございました」

 2人に頭を下げる。

 リリアとマリアンネ様がなにやら目配せした。
 嫌な予感。これは絶対何かあるな。
 マリアンネ様が口を開く。

「さて。実は私もこの件で、この国にお借りした借りを幾分かお返しできたと思います。ですからこれからは自由にやらせていただくつもりですわ」

 その気持ちは大変よくわかる。だから私は頷く。

「しかも実家がこのたびの件で官位官職を全て外される模様です。ですので実家にとっても私は必要なくなりますわ。私は実家にとっては政略結婚用の道具でしたけれど、そんな事も考えていられない状況になるかと思いますの。それに今回の功労者であるという事で私を頼ってこられても困りますわ」

 確かにもっともだ。そう思ってふと気づく。
 まさか、この台詞の意図するところとは……

「さて、アンブロシア様、いえ、これからは皆様と同じようにアンと呼びましょうか。アンは魔法使いとして非常に優秀です。攻撃魔法から治癒回復に至るまで、ほぼ全ての種類の魔法をそつなく使う事が出来ます。更に魔性アルコーンを倒したように、攻撃魔法が本来効かない敵に対する魔法も使えます。魔力も普通の冒険者の数倍でしょう。そういう意味では間違いなく優秀です。
 ただひとつの欠点はその魔法に対するそつの無さ。言い方を変えれば飛び抜けたものが無い点でしょうか。リュネットのような聖魔法特化の能力や、リリアや殿下、私のような攻撃に特化した魔法を持たない点。違いますでしょうか」

 私は頷く。

「確かにその通りですわ。今回もそれで攻めあぐねて、皆さんにお助けして頂いた次第です」

「ですからアンブロシア様にとって一番苦手なのは、強い敵ではなく圧倒的多数の雑魚敵。違いますでしょうか」

 確かにまったくその通りだ。私は頷く。

「さて、私はアンブロシア様、いえアンに対してほとんど勝っているところはありません。魔力はほぼ半分程度ですし、使用可能な魔法もアンより少ない。その代わり一対多に対応出来る攻撃魔法を血族遺伝で多数持っています。地属性のものばかりですけれど、大抵の雑魚敵にはそれなりの力を発揮すると思いますわ」

 これも確かにその通りだ。
 しかし待ってくれ。そうなるとこの話の結論は……

「更に言うと、まもなく実家が没落します。私は実家に頼られる事になる可能性が高いでしょう。ですが今までの事を考えると正直それは嬉しいとは思いません。その辺のお気持ちはアンにもわかって頂けますよね」

 ああ、間違いない。つまりこれは……

「そういう訳で、私もアンの脱出行に一緒に付き合わせていただきたく思います。これでも邪魔にはならないと思いますわ。2人パーティで迷宮ダンジョンを攻略した経験もありますし。装備も一通り揃えてあります。アンも単独でいるよりパーティを組んだ方が何かと便利でしょう。違いますでしょうか」

 ああ、やっぱりこう来てしまったか。
 しかし確かにその通りなのだ。

 冒険者ギルドはよほどの冒険者でない限り、単独行を勧めない。
 だから単独で依頼を受けようとすれば、ほぼ間違いなく他の冒険者とセットにされる。
 しかしパーティを組んでいれば話が変わる。
 人数2人という最小編成でもだ。

 更に言うと、先程マリアンネ様が言っていた私の欠点も事実だ。
 私はほぼすべての属性の魔法を使える代わり、飛び抜けた魔法を持たない。

 手順込み魔法で作り出したものとサクラエ教官に教わった遠隔移動魔法ワープ以外は平凡な魔法ばかりだ。
 そういう意味では多数相手の攻撃特化魔法を持つマリアンネ様がいれば確かに心強い。

 理論的にマリアンネ様の台詞は間違っていない。
 私は追い詰められた。

「ついでに言うと、私は特に何処か行きたいというのはありませんわ。ただ気ままに世界のあちこちを見て回りたいだけですの。ここ十数年、王都オーツェルグと実家のあるイルツァーレ侯爵領以外には行った事がありません。ですからこれからは違う世界をみてみたいですわ」

 その気持ちは大変良くわかる。お前は私か……
 認めよう。私の負けだ。

「わかりましたわ、マリアンネ様。これから宜しくお願いします」

「以降はマリでいいですわ。アニーもそう呼んでおりますので」

 そう言って頭を下げたマリアンネ様、いやマリは更に続ける。

「あと私事で申し訳ないのですが、旅に出た後も出来れば週に一度、忙しい時でも週に一度はオーツェルグ近郊へ戻って宜しいでしょうか。アニーに近況報告等をしたいのですわ」

 理解した。十分理解した。
 つまり私もその時リリアに会いに行けという訳だな。

「わかりましたわ。週に一度は戻って参りましょう」

 もうよくわかった。マリとリリア、どうやら綿密に作戦を練っていたようだ。
 私の完敗だ。もう仕方ない。
 それでも悪い気はしない。むしろこれで良かった気がする。
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。