病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀

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第8章 食欲と挑戦の秋(2)

第58話 無事終了、と思いきや

「それにしてもここは面白い研究室だね。生み出しているものが他と質だけでなく概念すら違う。ここだけ別の世界といった感じだ。あの空を飛ぶ乗り物でまず驚かされたけれど、この中はもっと驚いたな。でも魔法杖以外は今のところあまり外に出していない感じだね。何故か聞かせてくれるかな」

 どうしようか、俺は迷う。この質問に答えるべきなのはきっと俺だ。
 でもどう答えるべきか、すぐには思いつかない。そういう歴史があったなんて当然言えるはずが無いし。

「思いついた方の意思を尊重して、ですわ」

 アキナ先輩が答えてくれた。

「その人はこの機械が世の中に与える様々な影響についてこう言っていました。これは人の代わりに仕事をしてくれる機械だ。これがあれば人の力の何倍もの事を行うことが出来る。でもその結果、人が労働するという事の価値が下がってしまう。結果お金があって機械と人に仕事をさせる事が出来る人と、働いても生活に余裕が無い人とを作ってしまう事になりかねないと。
 ただこれと似たものは海軍の方でも研究していると聞いています。ですのでそのうちこういった機械も色々出てくるかもしれませんわ」

 俺、アキナ先輩にそんな事を言ったっけ?確かスイッチを押すのが怖いと言っただけの筈だ。

 でもアキナ先輩が言っている事は正しい。大量に物を生産することが出来るようになる代わりに資本家と労働者の得る利益の差が激しくなる。まさに俺が危惧していた内容だ。
 俺の怖いという台詞を頼りに思考だけでその辺の論理を組み立てたのだろう。

「海軍の方で開発する分にはいいのかい」

「単なる個人の特別な思いつきで出来た物では無く、地道な研究の成果で出来たものならば、それはきっと時代の必然なのだろう。そう思っているようです」

 アキナ先輩この人、何故に俺の考えがわかるのだろう。思考を読んでいる訳では無いと思う。
 攻撃魔法系統と治療魔法系統は相性が悪いのだ。両方使える人はまずいない。

「まるで過ぎ去った歴史を外側から見ているような意見だな。でもそれが考案者の意思なら僕もそれを尊重しよう。ここはここの意思に任せたほうが研究成果を生みそうだしね」

 おお、何とうまい具合に納得して貰えたぞ。アキナ先輩に感謝だ。

「その代わりその可能性を最後に見せて欲しいかな。もしも僕達がその知識に追いついた時にどのような事が出来るのか。
 具体的にいうとその舟にちょっと乗せて欲しい。川の流れや潮の干満を全く気にせずとんでもない高速で走って行く舟の噂を聞いたことがあってさ。あれってその舟のことだろ、きっと」

 アキナ先輩が頷く。

「ええ、それくらいでしたら大丈夫ですわ。ミタキさん、すぐ動かせるかしら」

 水も石炭も補充してあるので問題ない。

6半時間10分もあれば大丈夫です」

「ではミタキさん、あとヨーコさん、シモンさん、同行をお願いしますわ。シャクさんとターカノさんもどうぞお乗りになって下さい」

 俺は蒸気ボート後部に乗り、ボイラーの操作を始める。

 ◇◇◇

 蒸気ボートでモトヤス運河からオッター川に出て、一度川を遡りまた下って、ウージナ港を回って、更にサルマタ運河を経由してモトヤス運河に戻り、研究院本部棟裏の船着き場で王子一行を降ろす。

「いや色々興味深い物を見せて貰った。今日は本当にありがとう」

 そういう王子一行と別れてボートを研究棟へ向ける。

「アキナ先輩とヨーコ先輩、有り難うございました」

「今回は主にアキナ先輩だな。私ではあそこまで説明は出来ない」

 確かにアキナ先輩のおかげで色々助かったな。俺もそう思う。

「でもアキナ先輩、蒸気機関について俺が考えていた事、よくわかりましたね。俺でもうまく説明できなくてどうしようかと思ったのに」

 アキナ先輩は微笑を浮かべた。

「理屈で考えてわかる事でしたら大体なんとかなるのですわ。ミタキ君が怖いと言った意味は何だろう。何故怖いと思うのだろう。それについてあの時は私も色々考えてみましたから。
 でも世の中には考えてもわからない事も色々あるのですわ。その方が私にとって重大事なのですけれどね」

「何ですか?」

 俺は特に何も考えずそう聞いてみる。

「例えば気になる男の子を私に夢中にさせるにはどうすればいいか。どうも私には寄ってくる男子ばかりで自分で誰かに寄っていくという経験が足りないのです。これでも努力してみているつもりなのですけれどね。毎日できるだけ近くにいるとか一緒に歩けるときは横を必ずキープするとか。
 それでも振り向いて貰えない時どうすればいいか。私に魅力が無いのでしょうか。だったらどうすれば魅力的に見えるのでしょうか。宜しければミタキ君、教えていただけませんか」

 あ、何か危険な香りがする。これはきっと素直に答えてはいけない問いだ。

「普通に考えて、アキナ先輩は充分魅力的だと思いますよ」

「一般論は必要ありません。特定の相手に通用しなければ意味が無いのですわ」

 退路のひとつが塞がれたような気がする。
 いやアキナ先輩は魅力的だと思う、実際に。ただ辺境伯令嬢という身分だしスマッシャーな過去もある。高嶺の花程度に見るのがちょうどいいかなと俺は思うのだ。

「似たような疑問は私も感じるな。私も努力しているのだが気づいて貰えないように感じるんだ。この場合はどうすればいいかな」

 これもまた危険な台詞だ。ヨーコ先輩も高値の花位がちょうどいい。付き合ったら身分とか立場とか嫉妬とかで各方面から攻撃を食らうだろうけれど。

「ミタキ君、答えない方がいいと思うよ。間違いなく罠だから。でも僕も個人的には答えて欲しい問いがあるんだけれどね」

 あ、危険な香りは更に高まった。シモンさんも可愛いけれどあくまで物作りの相棒なんだよな今は。

 確かに俺も彼女が欲しくないかと言えば欲しい。色々なコトとかしたくない訳じゃない。でもうちの皆さんはレベルが高すぎて彼女というにはちょいヘビーなのだ。
 ただ幸い俺の席は石炭庫とボイラーの間、舟が動いている間は近寄れない。こうなったら仕方ない。徹底的にごまかすぞ!

「私としては答えてほしいですわ」

「私もだな」

「僕もだよ」

 俺の返答はこれしかない。 

「ノーコメントでお願いします」

「割と重要な事なのよ」

「だから余計にノーコメントで」

 俺は気まずい思いをしたまま、舟が無事研究棟に着くまでの間、ただただ3人の追及に耐えるばかりだった。
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